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予告していた通りにハロウィンでリゾディアを。むしろリゾ→ディア?
うちのリゾットが不遇に見えるのは多分気のせいだと思います。

 

 

 

 

「なんだ、吸血鬼のコスプレか?」
 出会い頭に早々、ゆったりとソファに座っていたボスは俺に向かって言った。なんのことだと思い、しばし逡巡して、今日がハロウィンだということを思い出す。だからって、それはない。こっちは素だ。いつも通りだ。黒を貴重にした服も、赤い目も。
「嫌味か、露出狂のくせに」
 一年中肌をさらしている男に言われたくもない。コスプレみたいな服を着ている奴に。
 俺の言葉に、ボスはやれやれというふうに鼻を鳴らした。そして無言で立ち上がり、どこかへ行ってしまう。後を追ってもうざがられるだけだろうし、どうせすぐに戻ってくるだろうと俺は先ほどまでボスが座っていたソファへ腰をかけた。
 それから予想した通り、ボスはすぐに戻ってきた。両手に一つずつ、透明な袋にラッピングされたクッキーを持って。その二つを目の前に差し出される。
「・・・くれるのか」
「ハロウィンだからな」
 珍しいこともあるものだ。この守銭奴男が物をくれるなんて。
 見た感じ、手作りのようだった。ほとんど一日中家にいるボスは、当然時間も多く余っていて、どうやら彼は暇になると家事に走るタイプらしかった。なので俺は彼が料理上手だということをよく知っている。ケーキやクッキーなどのデザートや菓子系も例外ではない。
「ただし」
 俺が手を伸ばしかけると、制止をかけるように彼は言った。口端をつり上げ、ずいぶんと楽しそうに笑う。なんだか凄く嫌な予感がするんだが。
「やるのはどちらか一つだ。自分で選ぶといい」
 彼の意図がわからず、俺は説明を求めるようにしてボスを見る。一つとはどういうことか。つまり、どちらも味が違うということか。だがボスの口から出た言葉は、俺の予想の斜め上を行っていた。
「ちなみに一つは私が作ったもので、もう一つはトリッシュが作ったものだ」
 伸ばしかけていた手を瞬時に引っ込める。なんというロシアンルーレット。ボスが作ったものを選び損ねれば、間違いなく地獄が見れるような気がした。
 彼の娘は料理が下手だ。壊滅的に下手だ。どこをどうやったらそんな味になるのかと問いたくなるほどだ。料理の腕だけは父親に似て欲しかったと、心底から思っていた。ボスが言うには、自分のチームの者に配ろうとわざわざ作っていたらしい。非常に女の子らしくてよろしいが、少しは自分の料理の腕を自覚してもらいたい。心の中でトリッシュのチームの者に合掌をした。
「さぁ選べ。遠慮はいらん」
 むしろ全力で遠慮をさせて欲しい。きっとボスはこうやって俺で遊ぶために、わざわざ自分もクッキーを作ったのだろう。上司が部下で遊ぶな。万が一にでも死んだらどうしてくれるんだ。
 覚悟を決めなくてはいけない。彼はなにがなんでも、どちらかを俺に選ばせようとするだろう。ならばなるべく早く決断をしなくてはいけない。最悪、俺が選ばなかった場合、無理やり口の中に突っ込んでくるということもありえる。彼は気が長い方ではないのだから。
 任務中と同じくらい、もしくはそれ以上に神経を集中させて二つのクッキーを見比べる。トリッシュの作ったものは味がどれだけ酷くても、見た目だけは完璧なのが腹立たしい。見ただけで判断をするというのは、ほぼ不可能だ。
「ボス」
「なんだ」
「ヒント、お願いします」
 思わず敬語になってしまう。だがこれは本当にヒントがないと駄目だ。
「暗殺には直感力や運というものも必要になってくるんじゃないのか?常に最前線で暗殺をしていたお前なら大丈夫だ」
 無責任なことを言ってくれる。直感力はともかく、運というものが俺にはあまりないということくらい、自覚している。なのでできるだけ彼から情報を引き出したい。
「優秀な部下が死んでもいいのか」
「自分で優秀とか言うな。というか、貴様はトリッシュの料理をなんだと思っている」
「バイオ兵器」
 蹴られた。だったらなんでお前は娘の作ったクッキーでこんな悪質な悪戯をしているのだと問いたい。
 だが自分のために、ここは素直に謝っておいた。ここで臍を曲げられてヒントがもらえなかったら困る。本当に困る。任務中に死ぬのはかまわないが、食中毒で死ぬのはごめんだ。
「まぁ可愛い部下のためだからな。ヒントはやらんでもない」
 白々しい。可愛いだなんて、思ったこともないくせに。だがもちろん、口に出しては言わない。ただヒントを待つ。
「私の作った方のクッキーには、貴様に対する愛情がたっぷり詰まっている、とでも言っておこう」
 ふふん、と鼻で笑いながら、臆面もなく似合わない台詞をさらりという。
 ヒントでもなんでもないうえにハードルをはね上げやがった…!
 内心で叫び声を上げる。自分の頬の筋肉が引きつるのがわかった。愛情だなんて、あからさますぎる嘘だ。こんな金銭欲と性欲と娘への愛でできているような男が、少なくとも俺に愛情なんて向けるはずがない。よくて自分のペットに向けるような愛だ。自分で言っていて悲しくはなるが、事実だから仕方がない。
 だがしかし、これで絶対に外すことができなくなった。好きな相手にそんなことを言われてしまったら、男として外せない。おそらくボスはそこまで計算してでの発言なのだろう。むかつく。
「どっちにする?私はどっちでもいいんだぞ」
 いつもより声が楽しそうだ。完全にこの状況を楽しんでいる。俺は5分ほど悩み、考えた結果、結局直感で行くことにした。こちらから見て左のクッキーを指差す。
「そっちだ」
 その瞬間、ボスはここ一年見てきた中で一番いい笑顔を見せた。それはもう見とれてしまうほどの。……死んだかもな、俺。


 それから二日間、俺は嘔吐と熱に悩まされた。
 トリッシュ、いったいなにを入れたらこんなことになるんだ。
 ベッドで寝ている間、クッキーに入れられている材料を検討してみたが、結局答えは出なかった。そして怖くて、作った本人にも聞こうとは思わなかった。
「ここまで生命の危機を感じたのは、今まで生きてきてはじめてだったぞ」
「よかったな、貴重な体験ができて」
 クッキーを食べてから三日目、俺はボスにそうもらした。ベッドの横に椅子を置いて本を読んでいた彼は、顔をあげて口端をつり上げる。この三日間、苦しんでいる俺を見て彼はご機嫌だった。看病をするわけでもないくせに、ずっと俺の傍を離れずにこちらを観察していたのだから、本当に趣味が悪い。
「あんたの娘だろ。それなのになぜあんなに料理の腕が壊滅的なんだ。本当に血は繋がっているのか?」
「・・・なにか言ったか?」
「・・・いや、別に」
 スタンドを構えながらすごまれる。
「料理の腕は母親似なんだ。ドナテラの料理も酷かったからな」
 昔のことを思い出しているのか、わずかに彼の顔が青ざめた。
「なんだ、あんたの恋人は魔女かなんかだったのか?」
「貴様、さっきから私に喧嘩を売っているのか」
 再びスタンドを構える。だからそんなのだったらはじめからこんな悪質な悪戯をするなと言いたい。自分でとやかく言う分にはいいが、他人から言われるのが嫌なのだろうが。
「結局、ボスが作った方のクッキーはどうしたんだ?娘にやったのか?」
 まだ残していて、俺にくれないかと淡い期待をしながら聞いてみる。すると彼は真実を口にした。
「あぁ、そのことだがな、最初から私の作ったクッキーなど用意してなかった」
 ……は?
「お菓子をくれないと悪戯するぞ、と言われてもうざいからな、トリッシュが作ったのを少しもらっておいた」
 悪魔だ。悪魔がここにいる。
 ここに来てようやく、俺は彼の言っていた、どっちでもいい、という言葉の意味を正しく理解した。どっちを選んでも、同じだったというわけか。ピザの角に頭をぶつけて死ねばいいのに。
「この三日間、なかなか楽しかったぞ」
「ボス・・・とりあえず夜道を歩く時は注意しておけ」
「残念ながら、夜道なんて歩かない」
 あぁ、引きこもりだものな。
 いい加減転職をした方がいいのではないかと半ば本気で思いながら、俺は深いため息をついた。


END

 

 

 

ハッピーハロウィン?
リゾット頑張れ、超頑張れ。

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男と猫シリーズ三話目。
ここから一気にデレ分が増えてくる。
相変わらずうちのボスはリゾットの前では女王様です。










 どういうわけか、猫に居付かれてしまった。日がな一日、男の家でごろごろしていたり、ふらりといなくなったかと思えば、夜にはまた戻ってくる。そして眠る時は、当たり前のように男と同じベッドに潜りこんできて、体を丸めていた。時折自分の家だと言わんばかりに仰向けになり、腹を出してぐっすりと眠っているのが男にとってはとてつもなく腹立たしい。
 とはいえ、大抵は猫の姿のまま過ごしているし、特に仕事の邪魔をするわけではないため大目に見ていた。野良猫が住み着いたとでも思えばいい。事実、ただ一日を過ごすだけなら、喋るということ以外は普通の猫そのものだ。
「飲まないのか?」
 いれたてのコーヒーになかなか手をつけない男に、猫は問う。
「・・・貴様と一緒だ」
「あぁ、猫舌なのか。可愛いな」
「煩い」
 だいたい、こんな感じだった。男に同居猫と話し相手が一度にできたことになる。
 猫は男の前では大半を猫の姿で過ごす。そちらの方が動きやすいし、なにかと都合がいいのだ。あまり沸点の高くない男も、人間の姿でいるよりはこの姿の方が甘くなることを初めて体を重ねた日に知った。ニャーニャーと鳴きながら体を男の足に擦り寄せれば、機嫌の良い時はかまってくれるということも、最近知った。
「普通の猫は・・・いや、猫に限らず動物は、私には絶対に懐かない」
 というのは男の言葉。だからいくら相手が化け物でも、擦り寄ってこられると思うところがあるのだろう。
 猫の周りにも他の動物は近寄ってこない。敏感な生き物だから、男にしても猫にしても、自分達とは違う存在だというのが本能的にわかるらしかった。
 唯一、猫が男の前で人間の姿になる時、それは男を抱く時に他ならない。余程男の体が気に入ったのか、猫は頻繁に体を求めてくる。男は自分でセックスは好きだと自覚しているが、ここまで頻繁に求められると流石にうんざりとしてくる。
「またか、ケダモノめ」
 不機嫌半分、呆れ半分で男は言う。人間の姿になった猫は、今夜も男に覆い被さってきた。
 基本的に男は眠る時は全裸、もしくは上半身裸だ。しかしあまりにも猫が襲ってくるので、少しでも抑止効果になればと初めのうちはきちんと服を着て寝ていたが、最近ではそれも意味がないと悟っていつものスタイルに戻していた。それにどんなに激しく抵抗をしても、金縛りにあってしまうのでそれも無意味。結局、猫が満足するまで体と血を貪られる。
 悪食な畜生め。
 男は内心でそう罵った。
 裸の胸板をざらざらとした舌で舐められる。思わず、小さく声を上げた。この舌がいけない、と男は思う。人間にはないブラシ。味わったことのないような快楽が襲ってくる。どんなに猫に罵詈雑言を吐いても、結局は流されてしまう。
「今日は血はいいから、素直に感じていろ」
 唇に触れるだけのキスを落とされながら言われた。間違っても、その鋭い牙で深く噛みつかれながらされるのがひどく気持ちいいだなんて、言えない。喰われているような錯覚に陥って、どうしようもなく興奮する。
 人間は命の危険を感じると、子孫を残そうと無意識に勃起をするという。それは本能だからしょうがない。男は自分に言い聞かせる。
「あっ・・・」
 首筋を甘噛みされた。柔らかく猫の牙が男の肌を押す。しかし最初に宣言した通り、それが皮膚を突き破ってくることはなかった。まるで肌の柔らかさを楽しんでいるかのように、何度も猫は甘噛みを繰り返す。
 猫は最近、血をもらう用がなくても男を抱くようになった。どういうつもりだ、と男は思う。これではまるで、猫に性欲処理の相手にされているようで気分が悪い。
「貴様、どういうつもりだ?」
 銀色の髪を鷲掴みにすると、未だに首筋に顔をうずめている猫の顔を上げさせる。急に不機嫌になられて、少し驚いたようだった。
「なにがだ」
「私は貴様の性欲処理の相手になる気はない。溜っているのなら他をあたれ」
 猫の胸を押し戻しながら、退けと男は言う。そんな男を見下ろしながら、猫は彼が不機嫌になった理由がわかって安心した。理由もわからずに不機嫌になられることほど、質の悪いことはない。特にこの男は通常の人間よりも自尊心が強いから、なだめ方を間違えると更に機嫌を悪くしてしまう。
 要するに、誰かに使われるのが嫌なのだろう。自分が使う分には雀の涙程の抵抗もないくせに。ぎりぎり猫が血をもらうのを許していたのは、自分が養ってやってる、という感覚があったからなのかもしれない。
 どこまでも誰かより有利に立っていなければ気が済まない男。面倒くさい性格だが、猫は彼の美徳の一つだと思っている。孤高だからこそ、男は美しい。
「どちらかと言えば」
 猫は男の様子をうかがいながら、言葉を選ぶように言う。
「俺が性欲処理をしているというよりは、あんたの性欲処理のために抱いてるんだが」
「言い訳をするな。見苦しいぞ」
 男はまったく信じていない様子で猫を睨んだ。
「本当さ。そうじゃなきゃあんた、他の男のところに行くだろう」
 元々性に関しては淡白な方だと、猫は自負している。精力的になるのは、精々発情期の時くらいだ。
 嫌なのだ。この男が別の人間を抱く、もしくは抱かれるというのが。自分の食事をベタベタ触られて良い気分になる者なんていない。想像しただけで、ちりちりと毛が逆立つくらい苛々としてくる。だからそれを解消するだめに、猫は頻繁に男を抱く。精も魂使い果たさせて、他の人間のところに行かせないようにする。
「貴様、私を自分の所有物かなにかとでも思っているのか?」
「むしろ逆だ。俺があんたの物になってやろう。好きな時に、好きなだけ俺を使え。その代わり、他の人間のところには行くな。いくらでも俺が満足させてやるから」
「生意気な口をきく」
 そう言いながらも、男の口元は笑っていた。悪い気はしないのだろう。束縛されるのは嫌いだが、その逆は好きだから。
 体の相性は言うまでもなく抜群にいいし、猫がそういうのなら、飽きるまでは付き合ってやろう。
 男はそう思う。
「ならば、私が満足するようしっかりと奉仕するんだな」
 もう一度猫の銀髪を鷲掴みにすると、今度は自分の方へ引き寄せる。そして深く口付けをした。


「なぁあんた、名前は?」
 貫かれ、激しく揺さぶられていた男は、突然の問いに快楽のせいで飛びそうになる意識を引き戻しながら、濡れた瞳で猫の赤い瞳を見た。
 これだけ激しく動いているというのに、汗一つかいていないどころか、息もきれていない。化け物だ、と改めて思う。そんな化け物を手懐けていると思うと、気分がいい。
「な、んだ・・・?」
「名前。なんて呼べばいい」
 一旦動くのをやめると、再び尋ねる。名前を呼ぼうとして、ふと男の名を知らないと気が付いたのだ。一度気になったらどうしても聞いておきたくなった。別に今の状況が不便なわけではない。男を呼ぶだけなら、おい、とか、あんた、で十分だ。しかしただ二人称などで呼ぶよりも、名前で呼ぶのはずいぶんと違う意味があると感じる。
 男はしばらく黙って、浅く呼吸を繰り返しながら呼吸が整うのを待った。そして口を開く。
「そういうのは、そっちが先に名乗るのが礼儀なんじゃないのか」
 今の理性が揺るんでいる状態なら、簡単に明かしてくれると思ったのに。
 猫は予想よりも男の精神が強固だったため、わずかに眉根を寄せる。
「俺から人間に名前を聞くのは初めてなんだが」
「だから、なんだというのだ?」
 期待はしていなかったが、やはりなびかない。どうあっても、先に名前を明かすつもりはないようだ。
 できるものなら、すぐにでも名前を教えてやりたい。しかし猫にはそれができなかった。覚えていないのだ、自分の名前を。確かに400年前は、飼い主に呼ばれていた名前があったはずだ。だがどうしても、思い出せない。ここまで普通の猫だった時のことを思い出せないと、ムシ達に寄生された時に記憶まで喰われてしまったのではないかと思えてくる。
「・・・あんたが名前を教えてくれるまで、俺の名前は教えない」
 結局、猫は男にそう告げた。男はなにか言いたげな顔をしたが、やがて一言、
「好きにしろ」
 と言う。
 なんとか思い出せないものか、と思いがら、猫は律動を再開させた。


END










別にいやらしいのが書きたいんじゃなくて、なんかこうリゾディアってとてつもなく性的なカップルなんですよ。書いてると自然とそちらの方向に話が流れるんです。
できることならエロもいやらしいのも避けたいんです。いや、ほんとに。

以前書いた猫なリゾットの続きです。
そんなに長くはならないと思いますが、一応男と猫シリーズとでも銘打っておきます。
書いたのが昔すぎてどんな話にするか忘れてしm(ry)
ラストはどうするかギリギリ覚えているので、その記憶を頼りに書いていこうと思います。
一話目は↓から。
http://nandemonai000.blog.shinobi.jp/Entry/174/


 

 

 どこかで、見たことがあるような気がした。初めて見た時から、そう感じていた。だから最初は普通の猫のふりをして、男を観察していた。
 数百年ぶりに普通の猫のふりをしながら、生きてきた過去400年の記憶を探った。しかし一番古い記憶は、まだ普通の猫だった時の記憶は霞がかかっているようで、はっきりとしなかった。思い出すのは、ただだらだらと生を長らえてきたことだけ。
 自分は果たして、どんな飼い主に飼われていたのだろうか。男だったのか、それとも女だったのか。それすらも思い出せない。
 やがて猫は考えるだけ無駄だと、思考を一時中断させた。
「重い・・・」
 うめくような、寝惚けたような声で男が言う。やっと起きたか、と猫は眠っている男の胸の上に座りながら思った。
「案外、鈍いな」
 声を掛けると、男はまだ半分眠っているような瞳で猫を見る。そして一気に覚醒をしたように、目を大きく見開いた。
 なにか言いたげに口を開いて、また閉じる。驚きのあまりに言葉が出ないのか、それとも単純に言葉を探しているのかはわからない。
「・・・鈍くない」
 やがてそれだけを、不機嫌そうな声で返した。
 事実、男は鈍くないはずだった。むしろ他の人間よりも鋭い方だと自負している。知らないうちに背後に立たれるだとか、寝込みを襲われるなんてことは、今まで一度もなかった。この化け物が異常なのだ。そう内心で思う。
 睡眠を邪魔されて不機嫌そうな男とは裏腹に、猫は機嫌が良かった。上半身裸の男の胸を尻尾で幾度もゆるゆると撫でる。
 あの夜、男とわかれてから一度も食事をしていなかったから、ずいぶんと腹を空かしていた。一度この男の血の味を知ると、もう他の人間の血なんて飲めたものではない。元々、人間の血は好きではなかったのだ。ただ生きるために飲んでいたにすぎない。しかし今は、男の血を進んで飲みたいと思っていた。
 あの時の味を思い出し、空腹も手伝って猫の口内に唾液が溜まる。それを意図して嚥下し、すぐにでも男の首筋に噛みついてやりたいのを我慢しながら、猫は口を開いた。
「久しぶりだな」
 普段なら人間となんてほとんど話さない。餌と会話をしてもしょうがないから。口を開くのは、上手く二人きりになれる場所に行けるように誘い込むときだけ。だから本当なら、二人きりであるこの状況で会話は必要ないはずだった。男が眠っている時に、血をもらってもよかった。
 会話をする気になったのは、少なからずこの男に興味を持っているため。この自分と同類の、誰かの命を奪ってまで生きようとしている人間。ただ餌にするだけでは、勿体無いように思うのだ。
「もう来なくてよかったのにな」
 男が憎まれ口を叩いたので、猫はおかしくなって口端をわずかにつり上げて笑った。こらえきれなくて、喉を鳴らす。それを見て、男はますます不機嫌そうな顔をした。
「嘘だ」
 断言できる。男は自分が来るのを待っていた。そうでなければどうして用心深いこの男が、窓を少し開けたまま眠るだろうか。まるで、猫が入ってこれるように開けられた隙間。
「俺を待っていたのだろう?」
「自意識過剰な畜生だな」
「そういうお前は素直じゃないな。俺が来ないで寂しかったと言えばいいものを」
 からかってみた。実際は、彼もまた己と同類である猫に興味があっただけだと知っている。ただそれだけでも、待っていたという事実には変わりはないので、単純に嬉しいのだ。ここに来ることを自分だけが許されたような気になる。その嬉しさが転じて、からかってしまう。
 キッと男の目じりがつり上がったかと思うと、硬く握られた拳がとんできた。猫は人間の姿になると、瞬時に男の手首を掴んでしまう。猫の動体視力を持ってすれば、造作もないことだった。
 男は鋭く舌打ちをする。
「重い、退け」
 獣のような金色の瞳で睨みながら言う。そりゃあ姿だけなら成人男性にいつまでも胸の上に馬乗りになられていれば重いだろう。
 だが猫は男の言葉を無視してゆるりと笑うと、ざらざらとしたブラシのついた、人間とは違う舌で彼の指を舐めた。何度も何度も執拗に、それこそ愛撫をするように舐められて、男の背筋がざわざわとしてくる。それが不快感からくるものではなく、快楽からくるものと知っているから、男はもう一度舌打ちをしたくなった。
 化け物が、なにを考えている。
「おい、なにをしている、離せ」
 快楽を悟られないように、撫然とした声色で言う。しかし猫には気付かれているだろう。
「噛みつかれてただ痛いだけでは嫌だろう?代わりに気持よくしてやる」
「貴様に血をやるなんて言ってない」
「連れないことを言うな。もう空腹の限界なんだ。これ以上血を口にしなかったら、今度は俺が体の中にいるムシどもに喰われてしまう」
「勝手に喰われていろ」
 男に体を重ねるようにして横たわると、可愛いげのないことを言うその口を塞ぐ。舌を絡めながら裸の胸を撫でると、大袈裟なくらい体が揺れた。いくらなんでも、敏感すぎる。彼は慣れているのだろう、男相手に。
 そう思うと、なんだかわけのわからない奇妙な感覚が猫を襲った。胸の辺りがむかむかとする。男の性生活なんて、自分にはどうでもいいはずなのに。
 猫はむかむかとした気分のまま、舌を男の首筋に滑らせた。男性らしく筋ばっているが、肌は女のように滑らかだ。時々赤い跡を散らしながら、しばらくその肌を舌で、そして指先で堪能する。
 だがやがて、我慢できなくなったように、その肌に深く深く自らの牙を埋め込んだ。


 汗の臭いと精の臭い、そして血の臭いが部屋中に充満していた。体力を使い果たし、そのうえ大量に血を吸われてぐったりとしている男の代わりに猫は立ち上がると、部屋の窓を全開にして換気を試みる。すでに空は白み始めていて、澄んだ空気が心地良かった。
 恐ろしくよかった。驚くほど、猫と男の体の相性は抜群だった。今まで何度も人間を抱いているが、ここまで我を忘れて誰かを抱いたのは初めてだ。
 おかげで自制がきかず、予想以上に大量の血を吸ってしまった。男もかなりよがってはいたが、このままでは間違いなく文句を言われてしまう。最悪、殴られるでは済まないかもしれない。
 どうしようかと考えて、結局猫は元の姿に戻った。四足歩行で男がぐったりとしているベッドまで戻り、跳び乗る。
 人間の姿よりは、猫の姿の方が怒りは半減するかもしれない。猫は男が猫好きであることを祈った。
「調子はどうだ?」
 仰向けで首元を真っ赤に染め、蒼白い顔で瞳を閉じている男に尋ねる。彼が眠っているわけではないというのは、気配でわかった。
「死ね」
 第一声が、それ。やはりそうとう機嫌が悪いな、と猫は思う。
「済まなかった。流石に血を吸いすぎた」
 おかげでこちらは満足だが。
「でもあんたもずいぶんと気持ちよさそうだったから、よかったじゃないか」
 その言葉にパチッと男の瞳が開かれる。噛み殺さんばかりに、横目で睨まれた。
 元の姿に戻っていてよかったと思う。この調子では、人間の姿でいたら確実に殺されていた。
 なんとか男の機嫌を良くしようと、猫は彼の頬を舐める。先ほどとは違い性的なものではなく、労るようなものだった。
 それが功を奏したのか、やがて男は疲れたように深いため息を吐いた。そしてまた瞳を閉じる。
「もういい、寝る。今度は私が起きるまで起こすな」
「わかった」
 シャワーを浴びる気力もないらしい。余程疲れていたのか、すぐに寝息が聞こえはじめた。猫はその寝顔をジッと見つめる。
 やはり、自分はこの顔を知っている。しかしどこで見たのかが思い出せない。
 しばらく思い出そうとしていたが、結局思い出せないまま、猫は諦める。
 まぁそのうち思い出すだろう。
 そう思い、猫は男の横で丸くなり、一つ欠伸をすると瞳を閉じた。

 

END
 


ジョニィとスロー・ダンサーの1thレース前から1thレース直後ぐらいの話です。たぶん私はスロー・ダンサーに夢を見すぎていると思う。
あと、いまだにジョニィの口調がわかりません。







 人間が私に乗らなくなってどのくらい経っただとか、駄馬と呼ばれるようになってどれくらい経っただとか、売り渡されているうちに何度飼い主が代わっただとか、もうそんなことを考えるのはやめてしまった。考えてもしょうがないのだ。レースに出たくても、私に乗ってくれる人間はいない。年老いた私にはおそらくもう誰も乗ろうとはしないのだろう。そう思ってなにもかもを諦めていた時に出会ったのが、私の最後のマスターとなった少年だった。
 SBRレース前日に私を買った彼は、どうやら足が萎えているようで私に乗れる様子もなかった。周りの人間が言っていたが、どうやら昔は名の知れたジョッキーだったらしい。それを聞いて、彼も私と同じなのだと思った。昔の栄光をいつまでも忘れることができないでいる。また昔と同じ舞台に立ちたがっている。
「ねぇ、無理、でしょう?昔のように、馬を操るなんて。それどころか、私に乗れもしないじゃない」
 傷だらけになって地面に倒れている彼を見る。もう何時間も、彼は私に乗ろうと苦心していた。人間に馬の言葉が通じないというのはわかってる。それでもこんなにボロボロになっても私にすがり付いてくる彼を見ていられなかった。自分のように早く諦めてくれればいいと思う。できもしないことをしようとして、そのたびに昔を思い出して、そんなことで私も彼も傷付く必要はない。
「――――」
 ふと、先ほどから彼が小さくなにかを呟いているのに気が付いた。それはほとんど吐息のような微かな声で、馬の耳でさえ拾えないような小さなものだった。声を聞き取ろうと首をかがめて彼の口元に顔を近づける。そこまでして、ようやく彼の声が聞こえた。どうやら同じことを何度も繰り返しているようだった。
「回転に、希望が・・・」
 希望、なんて、まるで初めて耳にしたような言葉に聞こえた。そんな言葉、いったい彼のどこから生まれてくるのだろう。しかし確かに、彼の声は弱々しいものだったが、確信と希望が溢れていた。
 私は彼を勘違いしていたのかもしれない。彼は過去の栄光を求めていたわけではないのだ。それすらも超越するような希望を求め、そして追っている。足の萎えた彼に、追いつけるだろうか。きっと彼の進む道は、一人で進むにはとても険しいだろう。
 あぁでも、そうだった。彼の足は萎えていても、私の足がある。私が彼の足となれば、希望はつかめるかもしれない。私はもう一度、走れるかもしれない。彼がずっと先にある希望を見据えるのならば、私は彼の傍で彼を自分の希望にしながら走ろう。私は諦めていた最後の希望を、彼に託すことにしよう。
 しかしまずそのためには、彼が私に乗れなければいけない。もうそろそろレースの始まる時刻のはずだ。どうするのかと私はマスターを見る。すると彼は私の腹の横に垂れ下がっている鐙に自らの手を通した。血だらけになりながらも揺らぐことのない意思の秘められている眼でこちらを見上げる。
「スタート地点まで行ってくれ」
 それは引きずっていけ、ということなのだろうか。ただでさえ傷だらけだというのに。
「頼む、時間がないんだ」
 私がためらっていると、マスターはそう言った。仕方なく、私は彼の言うとおりに動き出す。スタート地点は詳しく走らないが、馬が多く集まっているその場所がそうなのだろう。
 ずるずると引きずられているマスターはとても軽い。本当に、大丈夫なのだろうか。マスターの体を心配しながら私はビーチに出る。当然だが、周りは若い馬ばかりだった。おそらく自分がこのレースの最年長の馬なのだろうなと思っていると、隣にいた馬に声をかけられる。
「おい、ずいぶんと年寄りな馬だな。ちゃんと走れんのか?」
 見れば、ゼッケンBの636の鬣を綺麗にまとめた雄の馬だった。好奇心を孕んだ瞳でこちらを見ている。
「いや、それ以前に飼い主が乗ってねぇじゃねぇか。それともそのまま引きずって走るつもりか?」
 マスターのことを言われ、思わずその馬を睨みつけた。
「うるさい、よ。坊やに心配されるほど、私は耄碌していない」
「坊やぁ!?」
 なにやらぎゃいぎゃいと喚いているが、私はそれを無視してマスターを見た。引きずられている時にできたのか、また新しい傷を見つけた。なんだか申し訳ない気持ちになって、首をかがめて彼の頬をなめる。
 もう時間がない。レースはすぐに始まってしまう。先ほどの馬が言ったとおり、マスターを引きずりながら走るわけにもいかない。私達の希望は、どうなってしまうのだろう。
 先ほどの馬の飼い主とマスターがなにやら言葉を交わしている。それが終わるやいなや、マスターが私に手を伸ばしてきた。私は彼の目を見る。
「もう一度、オレの顔をなめてくれ・・・オレの馬」
 オレの馬。そう言われてハッとする。どれくらいぶりだろうか。人間からそんなふうに言われるのは。今まで何度も売られて、忘れていた言葉だった。改めて実感する。私の今のマスターは、この少年なのだと。 言われたとおり、私はもう一度彼の顔をなめようとする。するとマスターは私の耳の裏辺りに腕を乗せた。何事かと思って顔を上げると、マスターの体が宙に浮かぶ。そのまま彼は一回転し、私の背中の鞍の上に乗った。いきなりだったのと、久しぶりに人間を背中に乗せたのとで驚いたが、慌ててぐっと足に力を込める。その瞬間、レースの開始を告げる花火が上がり、私は反射的に走り出した。マスターが私に乗れたことに驚いていたが、おそらく彼自身も驚いているだろう。その雰囲気がこちらによく伝わってくる。しかしそれも最初だけで、すぐに私達はレースに集中しだした。
 一緒に走ってみれば、なるほど確かにマスターは腕の良いジョッキーなのだということがよくわかった。どこで力を抑えればいいのか、逆にどこで力を出せはいいのかを熟知している。きちんとした場所でその時ベストな指示を出してくれれば、私もずいぶんと走りやすい。私達は昨日初めて出会ったとは思えないほど、息の合った走りをした。
 蹄が地面を蹴る音。様々な馬達の荒い呼吸。滴る汗と湧き上がる闘争心。そしてマスターの心地よい重さ。全身の筋肉が歓喜しているのがわかる。もう何年も、忘れていた感情だ。
「やっぱり、走るのは、楽しいね」
 思わず言葉がもれる。どのくらいこの楽しさを忘れていただろうか。今思えば、どうして昨日までの自分がこの楽しさを諦められていたのか不思議でしょうがない。やはり私の希望はマスターなのだ。そしてそれと同時に、私はマスターの希望のために走る。
「よくぞここまで走って来た、初老の馬よ」
 レースの終盤になって、マスターが私の頬を撫でながら語りかけてくる。私はそれに耳を傾けた。
「そろそろたまげさせてやろうぜ。ジャイロ・ツェペリを!」
「えぇ、マスター」
 一気にラストスパートをかける。後ろから来ている額に星型の毛を持つ馬も気にならない。私はただただ、子供のように走ることに夢中になった。
 結果から言えば、私達はこの1thレースで5位だった。もちろん、これは私の満足する順位ではない。ほんの少しの差で、いくらでもこの順位をくつがえせたはずだった。この悔しさもまた久しぶりで、私はこんなふうに思うのも懐かしいな、と思ってしまった。
 荒くなった呼吸を落ち着かせながらそんなことを考えていると、私に乗ったままのマスターが先ほどのように頬を撫でてくる。
「今回の順位はあまり気にするな。オレ達にはまだ次がある、まだ希望はあるんだ」
 私をいたわるような声色でマスターは言った。
「よく頑張った、礼を言うよ。ええと、名前なんていったっけ・・・そう、スロー・ダンサーだ」
 背中から体を乗り出して、マスターは私の目を見る。
「ありがとう、スローダンサー。オレにまた走れるのだという希望を与えてくれて。そしてこれからもよろしく頼む」
 その言葉を聞いて、私は泣きそうになった。私に希望を与えてくれたのはマスターの方だ。私を選んでくれてありがとう。もう一度、走る喜びを与えてくれてありがとう。そうマスターに伝えたいが、人間は馬の言葉がわからない。でも少しでも、私の気持ちがマスターに伝わってくれれば嬉しい。
 あれからマスターとジャイロという青年はこれから先のレースにコンビを組んで臨むという主旨の話をしていた。つまりレース前に私に声をかけてきたあの馬と一緒に走るというわけだ。
 マスターに手綱を引かれながら、私はあの馬と再会する。すると、彼は不思議そうな瞳をこちらに向けた。
「なんだ、お前泣いてんのか?」
「・・・泣いてない、よ。それよりも、明日から一緒に、走るみたい、だから、これからよろしくね」
 私が言うと、彼はますます不思議そうな顔をする。
「お前本当にレース前に会ったあのオジンか?」
「そうだけど、どうして?」
 彼は首をかしげて考えるような仕草を見せた。
「いや、なんか・・・ずいぶんと雰囲気違うな、と思ってよ」
 そうなんだろうか、自分では気が付かないが。でも確かに、考え方も変われば雰囲気も変わるだろう。そしてなにより、一度諦めていたものがまた手に入ったのだから。
「まぁ、こんなことを言っても、坊やには、まだわからない、よね」
「あ、クソッ。やっぱりお前だ。坊やって言うんじゃねぇよ、このオジン!」
 彼の言葉を適当に聞き流す。私の心は、もうすでに明日の2thレースのことでいっぱいだった。マスターと私なら、どんな希望でもつかめるような気がした。



END





こうしてスロー・ダンサーは永遠のデレ期へ。
初期ジョニィというか、ジャイロと組みはじめるまではジョニィの一人称って俺なんですよね。
なんで僕になったんだ。

ジョルディア祭に送りつけてしまったもの。
本当はギャグっぽいのを書こうとしたんですが、どう考えてもボスよりジョルノとトリッシュのほうが目立ってたんでやめました。Sコンビを絡ませるとそっちがメインになるから困る。
いずれ廃案になった方はきちんと書き上げてこちらに上げときます。

今回、暗い感じです。ボスが可哀想なことになっているので苦手な方はご注意を。微妙に暴力というか、流血表現あり。
最近はずっとリゾディアとかトリディアばっかりでボスを甘やかしてたんで、こういうのもたまにはいいんじゃないでしょうか。
若干、以前書いた監禁なジョル+トリ×ディアの続きっぽいですが、想像にお任せします。

 

 

 


 逃げられないようにアジトの地下に閉じ込めて、一番最初に手足の骨を折られた。本当に、なんのためらいもなく。そのあとすぐにスタンドで治されたが、あれは警告だったのだろう。逃げようとすれば、またすぐにでも手足の骨を折るぞ、という。逃げられないくらいガチガチに人の体を拘束しておいてよくやる、と男は思った。そこまでして自分を繋ぎとめておきたい理由はなんなのだろうか。それは知っているけど、理解はできない。あまりにも歪みすぎているから。
「僕はね、父親似なんですよ」
 男を自分の足の間に挟みながら、後ろから抱きかかえるようにして少年は唐突に言った。抑揚のない声に男は相手の真意が図れなくて、首を捻って少年の顔を振り返る。とても冷たい表情をしていた。普段から冷たい印象を受ける整った顔を更に冷え冷えとさせて、遠くを見据えるような目をしている。しかし男の視線に気が付いて、ニコリと笑った。
「僕の父親の話はしましたっけ?義父ではなく、本当の父親の方」
 尋ねながら少年は鼻先で男の桃色の髪を掻き分けてべろりとうなじを舐めた。それだけで少年によって暴力と快楽に慣らされた男の体は反応する。相手のそんな反応を楽しみながら、少年はうなじに歯を立てた。今はゆるく噛み付いているだけだが、時折本気で肉に歯を喰い込ませてくるので油断はできない。
 男の体には少年によってつけられた痣や傷がたくさんあった。殴られた痕や、火傷を負ったような痕、切り傷に刺し傷、それに噛み痕……おおよそ個人で人間に与えられるような傷痕が、男の体に凝縮されている。少年のスタンドは相手が死ななければ簡単に傷を治せてしまうので、暴力を振るう時は手加減というものを知らない。
 どんなに男が少年に従っても、結局は彼の気分次第だった。機嫌の良い時はこちらが戸惑うくらいに甘やかされ、優しく抱かれる。反対に機嫌の悪い時はどんなに許しを請うても、精神的にも肉体的にも追い詰められた。飴と鞭どころの話ではない。本当に、少年の気分次第なのだから。
 歪んでる、と思う。酷く酷く歪んでる。いったいなにがそんなに少年の心を歪ませたのだろうか。いつかちらりと聞いた、義父からの虐待のせいだろうか。それとも、もっと遺伝子レベルで関係しているのだろうか。
「貴様の父親など、知らん」
 少年のその父親というのに興味を持って、男は話しを促すように言った。そうですか、と少年は短く答える。
 しばらく無言があり、少年はなにが楽しいのかずっと男のうなじに歯を立てて遊んでいた。だがやがて、思い切り噛み付いてくる。こういう時、男はいつも不安になった。この少年は本気で自分の肉を喰い千切って飲み込んでしまうのではないか、と。
「いっ・・・!」
「僕の父はね、一人の男を愛していたんだそうです」
 滲む血を舐め取りながら、少年は言った。
「異常な執着心で、父は相手を追い詰めていきました」
 傷口を舌や歯で更に抉られる。鈍い痛みと、わずかばかりの快楽が体を駆け抜け、男は体を震わせた。
「でも結局、男は父を受け入れず、最終的に二人は殺し合いました。そして父は、愛する男を殺してしまったんです」
 長い髪を鷲掴みにされ、無理やり少年の方を向かされた。そして息を呑む。いったいどんな顔でそんな父親の悲恋を語っているのかと思えば、彼は笑っていた。とても楽しそうに。少年にとってたとえ父親でも、所詮は他人事なのだろう。ならばどうして自分にそんな話しをするのか、男にはわからない。
「似てると思いませんか。僕と父は」
「・・・なにが」
「僕はこんなにあなたを愛しているのに、それがあなたに伝わらない。しかも一度、殺し合っている」
 ゾッとした。顔に笑みを浮かべながら、人の自由を奪っているこの状況で、なんのためらいもなく愛と口にする少年が恐ろしい。おそらく少年は、自分が酷いことをしているという自覚がないのだ。だからこんな簡単に愛だのなんだのと口にできる。
 男は自分の顔が強張るのを感じた。それに気が付いたのか、それとももう用は済んだのか、少年は掴んでいた男の髪を解放した。男は少年から顔をそらす。できることなら、すぐにでもこの場から立ち去りたかった。これは今までに何度も、いや、常に思っていることだった。しかし今日ほど強くそう思ったのは初めてだ。自分も大概、普通の人間とは違う思考回路を持っていると自覚はしていたが、少年はそれを上回っている。しかも自覚をしていないのが厄介だ。未知のものに対する恐怖を覚える。
「さっきの話、まだ続きがあるんです」
 もう聞かなくていい、と男は思ったが、なにを言っても少年は自分のやりたいようにしかしないので、黙ったまま聞く。
「父はその殺してしまった男をどうしたと思いますか」
 グッと、先ほどのうなじの傷に爪を立てられた。いや、爪を立てるなんて生易しいものではない。抉っている。ぐちぐちと傷口を広げ、指を突っ込み、肉を抉っていた。自分の血が裸の背中をつたうのをリアルに感じる。
「・・・ぐっ!」
「男との戦いで、父の体も無事では済まされませんでした。首から下が完全に駄目になってしまったそうです。だから、もらったんですよ」
「なに・・・を?」
「殺した愛する男の体を。男の首を切断して、その体の切断面に自分の首を縫いつけた」
 信じられない思いで、男は少年の話を聞いた。話を聞いていると、首だけになっても父親は生きていたかのようだ。しかも自分の意思で、殺した男の体を乗っ取った、と。ありえない、と男は思った。この世にはスタンドというものが存在する。だから大抵のことは起こりうるだろう。しかし首だけになっても生きているということはあるだろうか。そんな人間、聞いたことがない。少年の父親は、本当に人間なのだろうか。
「自分の父親ながら、愚かな話です。殺してしまったら、元も子もないでしょうに」
 その声色は、どこか嘲りを含んでいた。
「僕と父は似ているけど、二の舞は踏まない。生きているあなたを手に入れる。絶対に、殺したりはしません」
 ようやく、少年は傷口を抉るのをやめた。一瞬でも、あの殺された男のように首を切断されるのではないかと思っていたため、男は酷く落胆する。そして少年の言葉に絶望した。いっそのこと殺してくれたら、どれだけ楽だろうか。
「舐めて」
 傷口を抉ったため、赤く染まっている指を口元に持ってこられる。男は一瞬躊躇したが、それでも舌を出してその指を舐めた。それから口に含む。自分の血の味が不快で、わずかに眉間に皺が寄った。しかしそれだけでは満足しなかったのか、少年は喉を突くほどの勢いで指を更に奥に入れてくる。むせそうになったが、なんとか耐えた。いつも咥えさせられている少年のものを考えれば、細い指ぐらいどうということはない。
「愛してますよ、ディアボロ」
 未だに血を流しているうなじに何度もキスを落としながら、少年は愛しげにそう繰り返す。男はそんな正気の沙汰とは到底思えない言葉を聞きたくなくて、ただ少年の指に奉仕することに集中した。

 

END

 

 

 

もう疲れ気味のボス。
うちのジョルノは電波具合と人の話を聞かないのとSっぷりはジョナサン似(うちのジョナサンは基本電波のS。でも受け)
でも病的なまでに誰か一人に異常に執着するのはディオ似です。
電波S×異常な執着心=ジョルノなんで、そう考えるとジョルノは凶悪すぎる。


いろんなところで猛暑ネタをやっているので私も便乗。
ジョルディアとリゾディアです。イタリアなんだから夏とかそんな暑くなるわけないだろ、ってツッコミは受け付けません。一番暑い時の平均気温が24度とかどれだけ過ごしやすいんですか。そりゃあボスも引きこもるよ(関係ない)
とりあえずジョルディアから。

 

 

 

 ジョルノの額にうっすらと汗がにじんでいた。それを指先で拭いながら、ディアボロの方に目を向ける。いつものあのやたらと露出度の高い服に、後ろで一つにまとめられた髪、そして口にはアイス。これだけ涼しそうな格好をしているのに、彼を見ていると暑苦しく感じるのはなぜだろうか。
「僕のアイスは?」
 その問いに、ディアボロは嫌そうな顔をジョルノに向ける。突然家に押しかけてきて、食べ物をねだるなんて図々しい奴だ。そう顔に書いてあった。しかしそんなものを気にするほどジョルノの神経はやわではないので黙殺する。
「自分で取って来い」
「ハーゲンダッツをもらっていいですか?」
「それはトリッシュのだからやめろ」
 存外切羽詰った声で返された。たぶんトリッシュのアイスを食べてしまったら、あとでディアボロが問答無用で仕置きされるのだろう。
「ていうか、ボス」
 やはり額の汗を拭いながら、ジョルノが改まった口調で言う。ディアボロもまた、額や首筋にうっすらと汗がにじんでいた。
「どうして冷房を入れないんですか?」
 ずっと気になっていたことだった。金持ちなんだから、家ではガンガンに冷房を付けているのだと勝手に思っていた。それなのに彼の家に涼みにきたら、窓を開け放って自然の風を入れていたのだから拍子抜けしてしまう。まさか今話題の地球温暖化を気にするような人物でもないだろうに。
 ジョルノの問いに、ディアボロは一瞬きょとんとした顔になった。まるで冷房という言葉をはじめて聞いたと言いたげな顔だ。それだけ、彼にとって冷房は無縁なものなのだろう。
「どうしてって、お前」
「えぇ」
「冷房なんて入れたら腹を冷やして壊すだろうが」
 女みたいなことを言われ、ジョルノの額にわずかに青筋が立つ。
 テメェ一回鏡の前で自分の姿見てみろや。
 ジョルノは内心でそう思った。
「・・・ボス」
「なんだ?」
「ちょっと歯ァ喰いしばれ」
 その直後、ディアボロは笑顔のジョルノに思い切り殴られた。暑さは人を短気にさせるらしい。
 この後有無を言わさずジョルノに冷房を付けられ、トリッシュのハーゲンダッツを食べられたディアボロは、腹を壊したまままたトリッシュに殴られたという。


END

 

 

トリッシュもボスと同じ理由で冷房苦手だよ。腹巻でもすればいいのにネ!
よく考えたらジョルノは一応吸血鬼とのハーフなんだから気温の変化とかに強そう。むしろそういうの感じなそう。ジョルノがどんどん人外になっていきますね。
次は同じネタでリゾディア

 

 


 自分はいったいなにをやっているのだろう、とリゾットは思った。珍しく家に呼び出されたと思ったら、そこには鬱陶しげに髪を後ろでまとめたディアボロがいた。そしてそんな彼から、なにも言わずにうちわを手渡された。扇げ、ということなのだろう。自分をではない。ディアボロを、だ。
「あんたは自分を扇がせるために暗殺チームを作ったのか?」
 ぱたぱたと彼を扇いでやりながらも、嫌味がもれる。しかし言葉にあまり覇気がないので、嫌味というよりも諦めの言葉にしか聞こえなかった。
「馬鹿とハサミは使いよう、という言葉があるだろう」
「誰が馬鹿だ、露出狂が」
 いくら逆らわないからと言って、彼は自分を使いすぎだ、とリゾットは常々思っていた。別に相手が上司だからディアボロの命令に逆らわないわけじゃない。ただなんとなく、甘やかしてしまうのだ。たぶんこんな雑用めいたことを命じるのは自分にだけだろうから、と思うと逆らえない。
「暑いんだったら娘でも連れて海にでも行ってくればいいだろう」
 彼が冷房に弱いということを知っているので、あえてそう勧めてみる。するとディアボロは首を振った。
「海は人が多いし、肌が焼けるから駄目だ」
 まぁ、そんな回答も予想済みだったが。
 リゾットはその言葉を呑み込みながらため息を付いた。それからは黙って、彼の気が済むまでうちわで扇いでやる。 
 その露出しているうなじに噛み付いてやりたいと思ったが、きっと暑いと怒られるだろうから、リゾットはぐっと我慢した。損な役回りだと思う。これだけしてやってるのに、触らせてすらもらえないなんて。
 いくら忠犬でも、ずっとお預けのままじゃあ怒るぞ。
 そう思ったが、リゾットはディアボロに待て、と言われればいつまでも待っていられる自信が無駄にあった。もうすっかり、女王様に調教され済みだ、と一人ごちる。
 この後すぐにディアボロは昼寝をはじめてしまったが、リゾットはいつまでも彼を扇いでやっていた。


END

 

 
お互いの信頼度がえらいことになってますね。その前にリゾットのMっぷりg(ry)

リゾットは噛み癖のある忠犬。でも擬獣化すると猫になる不思議。
思いっきりボスに噛み付いてるリゾットなリゾディア絵が見たいです。


作中に一切そんな表現はないけど一応リゾディアです。
そしてリゾットが猫なので苦手な方は注意。
ボス猫シリーズとは一切関係ありませんが、ボスが猫になるならリゾットもいいかな、と思って・・・。
ようするにパラレルです。

 

 


 パソコンのディスプレイに目を向けていると、ふと背後から誰かの視線を感じた。この部屋にいたのは男一人だけだったし、誰かを家に招いた記憶もない。それならまだしも誰かが部屋に侵入した気配も感じなかった。突然に視線だけがふってわいたような印象を受ける。
 ゆっくりと椅子を回転させて振り返った。しかし誰もいない。が、すぐに気が付いた。そのまま床に視線を落とせば、そこにはいつの間にか入ってきたのか薄汚れた灰色の猫がいた。男の一挙一動を見逃すまいというように、ジッと真赤な瞳で見つめている。
「どこから入った」
 まさか猫に人間の言葉がわかると思っていなかったし、別にそれほど知りたいとも思わなかったが、あまりにも猫の瞳が人間のように知性をたたえた色をしていたので、男は半信半疑で尋ねた。すると猫はフイと鼻先を動かす。その先を目で追うと、そこには開け放たれたままの窓があった。オレンジ色の空に、うっすらと青っぽい黒が見え隠れしている。もうすぐ夜がくる。
 一瞬男は猫が人の言葉を理解したのかと驚いたが、すぐに偶然だろうという結論に達した。なぜなら、ここは二階だ。いくら猫でも、窓から入ってくるのは無理だ。ならばやはり、一階のどこからか侵入してこの部屋にたどり着いたのだろう。
 男はそう思いながら、また椅子を回転させてパソコンと向き直った。放っておけばどこかへ行ってしまうだろう。男にとって、今は突然やってきた猫よりも、仕事を片付ける方が大切だった。


 あれから3時間ほど経って、作業が一段落した男はパソコンの電源を切ってから窓の外を見た。すっかり空は真黒になり、点々と星が出ている。立ち上がり、窓を閉めた。鍵までしっかりとかけてから振り返って部屋を見渡す。そして驚いた。出ていったとばかり思っていたあの薄汚れた灰色の猫は、まだこの部屋に居座っていた。しかもいつの間に移動したのか、我がもの顔で男のベッドを占領してうたた寝をしている。気持ちよさそうに、尻尾が時折動いていた。確実に汚れたであろうシーツのことを思って、げんなりする。
「帰らないのか、お前は」
 どう見ても野良猫らしい見てくれだが、それでも寝所にしている場所があるはずだ。そこに帰らないのかと問えば、猫はパチリと目を開ける。クァと口を大きく開きながらしなやかな体を伸ばした。それからベッドの上でお座りをして、男を見上げた。移動するような気配はない。男の口から小さくため息がもれた。
「私の家にいてもいいが、まずはその汚れた体をなんとかしろ」
 返事をするように、猫が一つ鳴く。男が部屋を出ると、猫はその後に続いた。
 やって来たのは浴室だった。男はシャワーで猫の体を濡らす。思っていたような抵抗はされなかった。猫はみな水が嫌いだと思っていた男は、いい子だ、と一つ猫の頭を撫でた。
 当然、ペット用のシャンプーなんて持っているわけがないので、普段自分が使っているボディソープで猫の体を洗ってやった。余程猫の皮膚が貧弱でない限り、炎症や湿疹を起こしたりすることはないだろう。
 体中をくまなく洗い、最後にシャワーでよく泡を洗い流す。全身から水を滴らせている猫の体を清潔なタオルで拭いてやった。その間、一切の抵抗らしい抵抗をされなかったので、案外動物を洗ってやるというのは楽なものだな、と男は思ったほどだ。
「私が出るまでそこを動くんじゃないぞ」
 まだ完全に乾ききってはいない猫を脱衣所に待たせ、今度は男がシャワーを浴びる。すりガラスの向こうでは、きちんとお座りをした猫が待っていた。それを見て、やはりこの猫は人間の言葉がわかるのではないかと思ってしまう。
 脱衣所に出ると、猫はこちらを見上げて鳴いた。男は自分の体を拭いてから、ズボンだけをはいてまだ湿っている猫を抱き上げる。片手にはドライヤーを持っていた。
 リビングに行き、ドライヤーのコードをコンセントにさしてからソファに座る。膝の上に猫を乗せ、ドライヤーを当てた。手梳を交えながら猫を乾かしていく。相変わらず猫は膝の上で大人しくしていた。
「なんだ、ずいぶんと見れるようになったじゃないか」
 満足そうに男が言う。完全に毛が乾ききった猫はあの薄汚れた灰色ではなく、美しい銀色をしていた。蛍光灯の下で毛の一本一本がキラキラと輝いている。赤という珍しい目の色をしているが、よく見れば美しい顔立ちをしていた。
 額を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。ゴロゴロと喉を低く鳴らしながら、自分から額を撫でている指に押し付けてくる。洗っても嫌がらなかったし、野良のくせにずいぶんと人なつっこい猫だと思った。もしかしたら以前は誰かに飼われていたのかもしれない。
 手遊びでもするみたいに飽きずにいつまでも撫でていると、猫が瞳を開いた。口を開き、男の指に噛みついてくる。思っていたよりもその力は強く、痛みが走った。噛まれた拍子に小さな傷を作ってしまったらしい。
 今まで大人しくしていたのに、いきなりどうしたのかと思い、男は怪訝そうな顔をした。猫はそれ以上指に牙を立ててくることはなかった。ただ、指をざらざらとした舌で舐めている。
「腹が減ったのか」
 名残惜しげに傷口を舐めると、猫は指を解放して肯定するように鳴いた。
 指を見れば血が滲んでいた。赤い雫が指をつたうのを、やはり赤い瞳でジッと猫は見つめていた。
 ペット用のシャンプーを持っていなかったのと同様、まさかキャットフードなんてものを持っているわけはなく、結局男は自分の食事の分から少しずつ猫に分け与えた。玉ねぎを与えなければ、まぁ死ぬことはないだろう。特に美味しそうに食べていたわけではないが、与えた分はきちんと全部食べたので、多少は気に入ってくれたのだと思う。食後に軽く温めて砂糖を少量だけ入れたミルクを出してやったら、毛を汚さずに器用に舌で掬って飲んでいた。
 いつまで経っても猫は家を出ていく気配はなかった。むしろ当たり前のようにくつろいでいる。まさかずっと居座るつもりだろうか。しかし猫という生き物は気まぐれだから、明日の朝にはいなくなっているかもしれない。男はそう思いながら、猫が寝転がったせいで汚れたシーツを取り換えた。汚れたそれを洗濯機の中に放りこんでからベッドの中に潜り込む。先ほどから男の後ろを付いて歩いていた猫も、昔からそうしていたように自然に潜り込んできた。
「・・・いい身分だな」
 呆れたように男が言う。しかしその表情は満更ではなさそうだった。猫にしては体温が低めなそれを抱きながら、男は瞼を閉じた。


 首筋に鋭い痛みを感じて男は目を覚ました。痛むところに手をあててどうなっているのかを確認しようとしたが、どういうわけか腕が動かない。それどころか、体中が動かなかった。仰向けのまま、ベッドに縫い留められているように感じる。金縛りだと思った。今まで30年以上生きてきてこんなことは初めてだったので、男はどうしたものかと考える。だがその思考をそらすように、自分の近くからピチャピチャと水気を含んだ音が聞こえていた。何事かと思い、男は視線だけを動かして自分の首元を見る。
「なっ・・・?」
 驚きで言葉が出なかった。月明かりに照らされてやけにはっきりと見えるあの猫が、首筋に顔をうずめていた。この水気を含んだ音と、首筋の痛み、そしてそこに顔をうずめている猫。先ほどのことがフラッシュバックした。急に指に噛みついてきて、傷口を舐めていた。まさか、と思う。まさかこの猫は自分の血を舐めているとでもいうのだろうか。男には見えないが、確かに首筋には噛まれたような傷ができていて、血を流し続けていた。
 男が絶句していると、気配を敏感に感じ取ったのか猫は顔をあげた。ミルクを舐めていた時のように、毛は一切汚れていない。
 赤と金の瞳が交差する。一つ、猫が舌舐めずりをしたかと思うと、わずかに目を細め、そして口の端をつり上げて人間のように笑った。
「気分はどうだ?といっても、いいはずはないがな」
 猫が、喋った。
「体は動かなくても口は動くだろう。なにか言ったらどうだ?」
「・・・これは夢か?」
 男の独白のような問いに、猫は喉をくつくつと鳴らして暗鬱に笑った。予想をしていた問いだったらしい。
「残念ながら現実だ。俺は今、確かにあんたの血をもらって飲んでいる」
「・・・あぁ、化け物なのか、お前は」
 強靭な精神力を持ち合わせていた男はそろそろ思考が追いついてきたようで、納得したように言った。なんて馬鹿なことをしたのだろうと思う。化け物を家に上げて、一緒に食事をしただなんて。なんとなく裏切られた気分になって、男はきつく猫を睨んだ。猫よりもずっと、獣のような光をたたえた瞳だった。
 普通の人間のように取り乱さずに、それどころかとって喰わんばかりに睨まれて、猫はわずかに驚いたような顔をする。今までどんな屈強な人間も、自分を見て脅えていたのに。すぐに驚きを内心に押し戻し、猫は持て余しているような尻尾を動かして男の頬を撫でた。
「人間の血肉を喰らって生きているものが化け物というのなら、俺はそうなんだろう」
 こうしている間にも、男の首からは血が流れ続けている。普段から白い男の肌が、更に蒼白くなっていた。
「たが、そういう意味ではあんただって俺と同類なんじゃないのか?」
「・・・なにを言っている」
「なんだ、違うのか?」
 おかしいな、と誰にでもなく言いながら猫はまた男の首筋に顔をうずめた。ざらざらとした舌で流れている血を舐めとる。忘れかけていた痛みがまた起こり、男は顔を歪めた。
 何度か喉を動かして嚥下してから猫は顔をあげる。その表情はひどく満足そうだった。
「あんた、直接的でも間接的でも、他人の命を奪って生きてないか?誰かの命を奪ってまで、生きたいとは思ってない?」
 いきなり確信を突かれて、男は息を呑む。確かに男の生き方は、他人からなにかを搾取していくようなものだった。それは物だったり金だったり、理性だったり、そして人生そのものだったり。
 男の反応で自分の考えが当たっていると知った猫は、また小さく笑った。
「そうだろうな。でなければ、あんたの血がこんなに美味いわけがない。何百年も生きているが、こんなのは初めてだ」
 こいつは今幾つだ、と男は思ったが、結局問わなかった。化け物なのだから、年齢なんて意味がないのだろう。
「同類だから、きっと『合う』んだろうな。馴染む、とでも言えばいいのか」
 俺の体の中には寄生しているものがいる、と猫は言った。イモムシのように細長いそれが無数にいて、そいつらが常に猫の血肉を奪っていっているらしい。だからそうさせないために、定期的に餌を与えないといけない。その餌が人間だった。
「ムシどもに寄生されてからもう400年になる。そいつらのせいで歳もとらなくなった」
 つまり最初は普通の猫だったとでも言いたいのだろうか。
「美味くもない人間を喰らわなきゃ生きていけないのは厄介だが、こいつらのおかげで俺は不思議な力を手に入れた。まぁギブアンドテイクだな。それに・・・」
 猫が身を乗り出して顔を近付けてくる。
「あんたみたいに美味い人間がいるというのもわかった」
 唇を舐められた。かすかに血の味がする。それが自分のものだと気が付いて、男は気分が悪くなった。
 400年間、人間を喰らって生きてきたという猫。そうまでして、生きたい理由はなんなのだろうか。
「どうしてそこまでして生きようとする?」
 本当に不思議に思って、男は尋ねた。すると猫は心底から不思議そうに男を見る。なにを言っているんだ、と言いたげな顔だった。だがすぐに考えるような仕草を見せて、そして薄く笑う。
「理由なんて単純だ。きっと、あんたと一緒」
「私と?」
「そう。結局のところ、死にたくないから生きるんだ」
 そうじゃなければ、どうして他の者の命を奪ってまで自分が生き残りたいと思うだろうか。シンプルで、一番強い本能があったからこそ、こんな生き方ができる。
「死にたくないから生きる、か。確かにそのとおりだな」
 おかしそうに、男は蒼白い顔で唇を歪めて笑った。猫の言っていることは、たぶん真実なのだろう。
「それで、貴様は私を殺すのか」
 またあの獣のような瞳で男は猫を睨んだ。動けず、目前に死が迫っているというのに、むしろ猫の方がとって喰われそうな雰囲気だった。
 それを見て、猫は背筋に冷たいものが走ったように感じた。恐怖ではない。やけにはっきりとした快感だった。こんな目で見られたのは初めてだった。人間はいつだって、猫に畏怖や絶望、そして嫌悪を孕んだ瞳を向けていた。しかしこの男は違う。
 気分が高揚した。まるで発情期を迎えたような感覚。こんな気分は400年ぶりだった。
 男をこのまま引き裂いて本能の赴くままに喰ってやりたい。しかし反面、もっとその金の瞳で自分を見て欲しいとも思う。どうしたものか、猫は考えた。
「・・・あんたは、まだ殺さない」
 ただ喰うだけならいつでもできる。そう結論付けた。
 意外そうに男の瞳が揺れる。だがまだどこか警戒をしているような雰囲気があった。
「一度に喰ってしまうのは勿体無い、だろう?幸い、血を少しもらう程度なら人間は死なない。しばらくは血だけをもらうことにする」
 猫は尻尾で男の首筋を撫でた。そこには猫が思い切り牙を立てて付けた傷がある。一際大きな痛みが二度あった。だがもうすでにベッドのシーツが真赤に染まるぐらい血を流していたので、感覚が鈍くなっていてあまり気にならない。
 猫がベッドから音も立てずに降りた。相変わらず、この猫のせいかは知らないが体が動かないので、男は視線を動かして姿を追うことしかできない。
 男の目の前で猫の姿に変化が訪れた。だんだんと、人間の姿に変わっていく。だがもうすでにそんなことでは男は驚かない。効率よく人間を誘き寄せるためならば、同じ人間の姿にだってなるだろう。
 猫は銀の髪と赤い目を持つ青年になった。確かにその姿なら、人を寄せ付けるのに具合いがよさそうだ。特に女。それほど、その顔は整っていた。
「化けるものだな」
 しばらく猫の顔を眺めていた男は言った。
「化け物だからな」
 楽しげに猫は返した。
 猫は窓の方に近付くと、鍵をといけて開け放った。一度男の方を振り向いて口を開く。
「また来る。その時はまた、ご馳走てくれよ」
 目を細めてゆるく笑うと、猫は窓から飛び下りた。この部屋は二階だというのに、なんのためらいもなく。男は死ねばいいのに、と思ったが、たぶんあの猫は二階の高さから飛び下りたぐらいでは死なないのだろう。そう思うと、舌打ちをしたくなった。
 猫の姿が見えなくなると、金縛りにあっていた男の体が動くようになる。上体だけを起こし、首筋に手をあてるともうすでに血が乾きかけていた。かなりの量が流れていたはずなのにと、傷口をよく指でなぞってみて男は気がつく。傷を塞ぐように、ホチキスのようなもので二つ留められていた。おそらく、猫が尻尾で撫でた時の痛みの正体がこれだろう。応急処置をしてやるからあとは自分でなんとかしろ、ということらしい。男は猫の言っていた不思議な力の片鱗を見た気がした。
 ベッドから立ち上がる。血を流しすぎたせいでめまいがした。しかしなんとか足を踏み出し、開け放たれたままの窓に近付くと外を覗き込んだ。当然、猫の姿はもうない。ただ蒼白い月が、同じく蒼白い男の顔を柔らかく照らす。
「またご馳走をしてくれ、だと?生意気な猫め」
 呟きながら、男は自分と同じように人間からあらゆるものを奪って生きている猫のことを思った。

 

END

 

 

なんかジョジョを知らない人が見たら創作だと間違われそうな内容ですね(…)
気が向いたらシリーズ化するかもしれません。したとしたらあんまり長くはならないと思いますが。


ボス猫シリーズです。イチャイチャのターン!
たぶんリゾットとボスが一番仲がいいのがこのシリーズなんだと思います。でもまだリゾットの片思いなんです。頑張れ、リゾット。
おまけはお母さんなホルマジオと子供なギアッチョです。









 今朝は静かだ。リゾットはそう思いながら重い瞼を開ける。一つの家に男が7人も住んでいるのだ。普段だってそれなりに騒がしいのに、ここ最近では誰の陰謀か猫の姿にされたディアボロもいる。猫を構いたい男達と、それをわずらわしがる猫。そりゃあ、いつにもまして騒がしくなるだろう。
 どうして今日はこんなに静かなのだろうと考えて、ふと思い出す。そういえば今日は自分以外はみな任務に出ているのだ。巨大な組織ともなれば敵も多くなる。暗殺チーム全員が一斉に任務に出るということも、まぁ珍しいことではない。それにしてもディアボロがここにいるのにちゃんと任務が回ってくるということは、今はいったい誰が組織を動かしているのだろう。もしかしたら、親衛隊の誰かかもしれない。ご苦労なことだ。
 他人事のように思いながらベッドから起き上がる。いつもなら自分にべったりなはずのディアボロが見つからないので、彼を探しにリビングに向かった。
「・・・戻ってるな」
 思惑通りにリビングにいた彼は、しかしリゾットの思っていたような姿ではなかった。いつの間にか、人間の姿に戻っている。ソファに座って新聞を広げながら読みふけっていた。
 最初に猫の姿にされて3日ぐらいは人間に戻ったり、また猫になったりと不安定だったが、最近は安定してきたのかずっと猫の姿のままだった。そしていつの間にかその光景が当たり前になっていたから、久しぶりに見た彼の人間の姿というのはどこか感慨深いものがある。
 寝起きでまだどこかぼんやりとした思考の中、リゾットは声もかけずにディアボロを眺めていた。だが視線に気が付いたのか、あちらの方からこちらに目を向けてくる。
「なにを突っ立っているんだ?」
 至極まっとうな問いだった。
「あんたに見とれていた」
「・・・寝ぼけているのか」
 呆れたように言う彼の言葉には答えずに、リゾットはディアボロに近づく。そして邪魔だと言わんばかりに彼の読んでいた新聞紙を取り上げて几帳面にたたむと、ソファの隅に放った。なにをするんだとディアボロが口を開いた瞬間リゾットは彼の足の間に体を入れ、ソファに片膝を付いて体重をかけると彼の顎を取って上を向かせた。そのまま開いた口にキスをする。ぬるりと舌を入れると、わずかに相手の体が強張ったが、すぐに力を抜いてきた。いきなりだったので抵抗されると思っていたが、案外素直だったので驚いた。どうやら彼も満更ではないようで、それをいいことに顔の角度を変えて更に深く口付ける。
「んっ・・・」
 ぴちゃぴちゃと水が跳ねるような音が不規則に聞こえた。呼吸が上手くできないのか、ディアボロの息が荒くなってきている。それでも解放しないでいると、飲み込めない唾液が口の端からつたった。顎を捉えている指でそれを拭ってやりながら、ガラになくがっついてるな、と思った。性に関しては淡白な方だし、そこまで欲求不満だったつもりもない。でも以前そうだったように、人間の姿をしてるディアボロを見ると無意識に欲情してしまう。
 こんなふうになんの抵抗もなく触らせてくれると勘違いしてしまいそうになる。彼も自分のことが好きなのではないかと。でもそうでないことをリゾットは知っている。彼が好きなのは自分の体と顔、そして忠誠心とスタンド能力だけだ。他の人間より気に入られている自信はあるが、それでも、お気に入り、程度の認識しかないだろう。
「酷いものだな・・・」
 顔を離しながら、ぼそりと呟いた。それは彼に対して言った言葉なのか、それとも彼のお気に入りということを利用してディアボロに触れている自分自身か、リゾットにはわからなかった。
「なんだ?」
 聞き取れなかったディアボロがリゾットの顔を覗きこんでくる。その金色の瞳を受け止める気分ではなくて、逃れるようにして彼の肩口に顔をうずめた。両腕で彼の体を抱きしめる。猫の時にその体を抱き上げることはあっても、人間の姿の彼を抱くのは久しぶりだった。
 やたらとスキンシップをしてくるリゾットに、ディアボロは好きなようにさせていた。いつもそこまで機嫌の悪い人物ではないが、ここまで機嫌が良いのも珍しい。おそらく久しぶりに人間の姿に戻れて気分が良いのだろう。
「どうしたんだ、今日は。やたらとくっついてくるな」
「やはり人間の姿のあんたがいいな、と思って」
 素直に言うと、わずかに彼が笑った気配がした。子供にするみたいに、頭をぽんぽんと撫でてくる。子供扱いはどうかと思ったが、彼も機嫌が良いし、嫌な感じもしなかったのでリゾットはそのままにさせておいた。
「朝食はどうする?特別に私が作ってやるが」
 それは魅力的な話だ。普段はリゾットや親衛隊に作らせたりしているが、実際は誰よりもディアボロの方が料理が上手だということを知っている。だがしかし、このまま彼にくっついていたいという気持ちもあった。
「あとででもいいか?」
「なんだ、まだ眠いのか?相変わらず寝汚い男だな」
「・・・まぁ、な」
 別にそういうわけではなかったが、他にどう返してみようもないので頷いておく。
「なら寝てくるといい」
 顔を上げてディアボロを見た。離れたくないからあとでと言ったのに。どうしようかと考えて、一旦ソファの上から膝を退けた。ソファの真ん中を陣取っていたディアボロを隅にやってから、ごろんとソファの上に仰向けになる。大きなソファではないので膝から先がはみ出て宙に投げ出されていたが、気にせずにリゾットは彼の腿の上に頭を乗せた。
 ディアボロは驚いたようにわずかに目を見開く。だがすぐに楽しそうに喉を鳴らして笑った。腕を動かして、手遊びでもするかのようにゆるゆるとリゾットの首筋や喉を撫でた。まるで猫を相手にするような手つきだった。くすぐったいのか気持ちいいのか、なんともいえない感覚だった。いつも自分はディアボロの喉を撫でてやっていたが、彼もこんな感覚だったのだろうかと思った。
 喉を撫でられるたびにまた眠気が襲ってくる。これなら一緒にいられるし、気持ちよく寝れそうだった。
「今日はお前が猫みたいだな」
 小さく寝息を立て始めたリゾットに、ディアボロは柔らかい声色で言った。たまにはこういうのんびりしたのも悪くはない、と思った。


おまけ

 さて、時を同じくしてドアをはさんでリビングの前。そこには共に任務を終えて帰ってきていたギアッチョとホルマジオがいた。二人とも気配を消しながら、少しばかりドアを開けて隙間からリビングの様子をうかがっている。どう考えたって、入りづらい。なにかピンク色のオーラのようなものがリゾットとディアボロから出ている。
「入れねぇって。なんとかしてくれよ、ホルマジオ」
「俺だってこんな空気の中に入っていく勇気ねぇよ」
「ならいっそのこと俺が行ってホワイトアルバムで二人を氷付けにするとか」
「それは下手したら二人に殺されかねないからやめとけ・・・」
 ホルマジオは小さくため息を吐く。別に同性愛者に偏見は持っていないが(メローネのセクハラで耐性付いてるし)、だからといっても場所を考えてイチャついて欲しい。気を使うのはこちらの方なのだから。
 大体からして、自分達が帰ってきたのにまるで気が付いていないふうの彼らがおかしい。ディアボロはどうなのかは知らないが、リゾットは人の気配に敏感なはずだ。なんだって今日に限って気が付かないのか。気が付いた上で無視をしているのか、それとも気を抜きすぎて本当に気が付いていないのかはわからないが。
「早くメローネとプロシュート帰ってこねぇかな」
 確か二人とも同じ任務だったはずだ。あの二人なら、この空気を気にせずドカドカとリビングに入っていけるだろう。だがギアッチョの願いも虚しく、ホルマジオは首をふる。
「あいつら、最低でも帰ってくるのは2日後だってよ」
「マジかよ・・・!腹減ったっつーの。早くメシ喰って休ませてくれよ」
 リビングを通らなければキッチンへは行けない。そしてリゾットは一度寝てしまったらなかなか起きないということは、暗殺チームの者なら誰でも知っている。
 どうするんだと、それほど気の長い方ではないギアッチョが苛々としながらホルマジオの胸倉を掴み上げた。
「外にメシ喰いに行くか」
 帰ってくる頃にはリゾットが起きていると願いながら、ホルマジオは言った。
「誰の金でだ?」
「・・・わかった、奢ってやる」
 胸倉を掴んでいた手が放される。先ほどまで眉間に皺を寄せていたギアッチョは、パッと明るい顔になった。こういうところを見ると、いくら暗殺者でもまだ10代だな、と思う。
「んじゃ、行くか」
 静かにドアを閉めながら、ギアッチョとホルマジオは帰ってきたばかりの家をあとにした。


END








こんなに甘えてるリゾットと寛容なボスを書いたのは初めてです。誰だこいつら。

ボスのかわりをつとめているのはティツァスクとカルネです。ボスに対してはともかく組織関係では真面目なティツァスク。
そして可哀想なカルネは毎日泣きそうになりながら連絡の取れないボスを探してます。
早く連絡を入れてあげて・・・!

なんだかんだで暗チで一番好きなのはマジオです。

リゾットが片思い気味なリゾディアです。
そろそろ私はリゾットをどんなキャラにしたいのかわからなくなってきました。
リゾットが変態です注意。暗チで変態なのはメローネで十分と思ってたのに(←…)
クールで紳士なリゾットを求めている方は読まない方がいいです。










 キングサイズのベッドに一人の男が眠っていた。広いベッドなのだから自分も入れて欲しいと思いつつ、リゾットは足音も気配も消して彼に近づく。
 ベッドに両手と片膝を乗せて体重をかけた。小さく軋んだ音を立てたが、彼が起きる気配はなかった。顔を覗き込めば、規則正しい寝息を立てながら深く眠っている。当然だ。ようやく空が明るくなりかけてきたころに彼の家へやってきたのだから。
 リゾットは肩までかぶっている薄手の布団をわずかにはいだ。男にしては白い肌が覗く。服は着ていないようだった。それに気が付いて、小さくため息を吐く。普段から服を着て寝ていろと言っているというのに。これではあまりにも無防備ではないか。誰かに襲われでもしたらどうするつもりなのだ。自分を棚にあげながら、リゾットは思う。
 指先でその白い肩をやんわりと撫でた。すべすべとしている。一瞬、メスで彼のこの白い肌を切り開くのを想像した。白い肌と赤い血。そして血の気の失った真っ青な顔で切り開かれる痛みに耐える表情。そこまで考えて、リゾットはありえない、とゆるく首を振った。この男はそう簡単に思い通りにいく人物ではない。そしてそこが彼の良いところではある。自分の思い通りに動き過ぎるというのも、面白味にかける。彼はそちらの方がお好みのようだが。
 だから彼は自分に冷たいのだろうかと、リゾットは首をかしげた。暗殺の任務はともかく、それ以外ではあまり彼の言うことを聞いていないように思える。
 しばらく彼の寝顔を眺めていた彼は、不意になにかを思い付いたように両手と片膝をベッドに乗せたまま、体を屈めた。口を開いて、むき出しになっているその白い肩に、噛みついた。
「・・・ッ!?」
 ビクンと大きく彼の体が震えた。反射的に起き上がろうとする。それをみこして、リゾットは彼の腹の上に馬乗りになった。彼の両手首を捕らえ、ベッドに縫い止める。
 なにが起こったのかわからないという顔で金色の瞳が大きく見開かれる。だがすぐに自分の上に乗っているリゾットを瞳で捕えて、睨み付けてきた。その口が開きかける。間違いなくそこから発せられるのは罵りか呪詛の言葉なので、リゾットは先に口を開いた。
「おはよう、いい朝だな」
「死ね!苦しんで死ね!」
 どちらにしても、返ってきたのは呪詛だった。だが一々そんなことなど気にしていたらこの男の相手などしていられない。リゾットはまったく意に介したふうはなく、言葉を続けた。
「服を着て寝ろといつも言っているだろう。それとも俺を誘っているのか?」
 相手がスタンドを発現させたので、リゾットもメタリカを発現させる。ピリピリとした雰囲気のまま、お互いに視線を反らさずに睨み合った。どちらもおし黙り、ただメタリカの不気味な鳴き声だけが低く響き渡る。
 やがて彼が諦めたように深いため息を吐いた。そしてスタンドを消したのを見て取って、リゾットもまたメタリカを消す。結局出番のなかったそれは、一度不満そうに一際大きく鳴いたが、すぐに見えなくなった。
「いい加減ストーカーと不法侵入で訴えるぞ」
「いったい誰にだ?まさかネアポリス最大の組織の頂点に立つあんたが、警察にか?」
 心底から不思議そうに尋ねると、怒りのせいか彼の瞳が揺れた。手首の拘束を解こうと抵抗をしてくる。リゾットはそれを精一杯の力で押さえつけた。結局、体勢的に不利ということもあって、いくらもがこうとも彼はリゾットの拘束を解くことができず疲れたように脱力した。
 それをいいことに、リゾットは体をかがめて彼の首筋に口付ける。するとくすぐったそうに体を揺らした。しかしリゾットは気にせずに、何度も何度も口付けながら、時折赤い跡を残していった。やがてそれだけでは飽きたらなくなったのか、喉元に噛みついた。傷はつかないものの、犬歯が皮膚に食い込み彼は背筋を震わせる。彼の口から小さく声がもれた。
「貴様、は・・・ぁっ、吸血鬼か・・・ッ」
 名残惜しげに最後に一つ赤い跡を残してから、リゾットは体をあげて彼の顔を見た。目元が赤くなっている。片方だけ手首を解放してやると、指先で目元を撫でた。
「昔からこの容姿のせいでそう言われてきたが、生憎血なんて吸ったことはない」
「なら噛みついてくるのはなんなんだ」
「肌が歯を押し戻してくる感覚が好きなだけだ、気にするな」
「・・・変態だな」
「あんたには負ける」
「どういうことだ」
 煩いとでも言いたげに、リゾットは目元を撫でていた指を彼の口の中へ入れた。それに軽く歯を立てながら、彼はこちらをきつく睨みつけてくる。今にも指を喰い千切られるのではないかと思うほどの、獣のような目だった。彼の数ある好きなところの中で、リゾットが特に好きなところだった。そして彼もまた、自分の赤い目が好きだということをリゾットは理解している。その証拠に、先ほどから彼は睨みながらもこちらの目から視線を反らさない。興奮でゾクゾクとした。
「舐めて」
 短く命令してみる。だが相手が誰かの命令を素直に聞くような人間ではないこともまたよく理解していた。不快そうに彼の顔が歪められたかと思うと、言葉を拒むように更に強く指に噛みついてくる。痛かったが、これでこそ彼だとリゾットは満足した。
 彼はこれでいい。誰かの言うことなんて聞かなくていい。独裁者であるのが、彼の一番美しい姿なのだ。
 ようやく彼の口から指を引き抜く。わずかに血が滲んでいた。それを見せ付けるようにして舐めると、彼はわずかに顔をこわばらせた。
「私はお前の体とやたらとお綺麗な顔は好きだが、そうやってべたべたしてくるのが嫌いだ」
「なんだ、褒めてくれているのか?」
「身のほどをわきまえろと言っている」
 顔はともかく体が好きだなんて正直だな、とリゾットは思った。しかし自身も顔を含めて彼の体は好きなので人のことは言えない。
「連れないな、こんなに好きなのに」
「人の家に不法侵入をして寝ているところを襲ってくるぐらいにか?そういうところがウザい」
 おかしくて、喉を鳴らして小さく笑った。
「でもあんた、なんだかんだで結構俺のことが好きだろう?」
「なにを根拠に言っている。自惚れるな」
「自惚れてなんかいない」
 ぐっと彼に顔を近付けた。互いの唇に吐息がかかる。金色の目を間近で覗き込むと、驚いたように見開かれた。
「なぜなら俺は生きている」
 彼が何者なのかを知っている。そして彼の正体を知ってしまった、または調べようとした人間が数多く殺されているのも知っている。だけど自分は生かされていた。たとえそれが彼の気まぐれだったとしても、自惚れたくなってしまう。
 幸い、超がつくほどの面食いである彼のお目がねにかなっているし、体の相性も抜群だ。今はまだ無理でも、時間をかけてゆっくりとおとせばいい。
「ウザい、身のほど知らず、変態、死ね」
 罵詈雑言を吐いてくるそれを止めるように、リゾットは彼の唇にキスをする。この直後、調子に乗るなとしたたかに頬を殴られたが、スタンドで殴られないだけましだと前向きに思った。



END








ボスは裸で寝てそうなイメージです(…)
前も言ったことあるかもしれないけどリゾットは噛むよ。酷い時は歯形を残すよ。

ところでボスの目の色は何色でしょうか。私の中では某同人誌の影響で金色なんですが。
金とか黄色い瞳は獣というか動物なイメージ。

父の日なトリディアとシュガ+リンです。早吉良は間に合いませんでした。期待していた方がいらっしゃったら本当にすみません・・・。
相変わらずシュガ+リンはパラレル設定です。パラレル設定については以前の記事を参考に。

 

 

 


トリッシュとディアボロの場合。

 真新しいエプロンを身につけて、料理のレシピ本とにらめっこをしながら忙しそうに動き回っているトリッシュを見て、ディアボロは先ほどから気が気ではなかった。いつもなら上げ膳据え膳が当たり前の彼女が、今日に限ってキッチンを占領している。なんでも今夜は自分が夕食を作るというのだ。正直、二重の意味で大丈夫だろうか、と思わずにはいられない。ディアボロはトリッシュが料理をしている姿なんて見たことがなかった。ちなみに上げ膳据え膳なのはただたんにディアボロが甘やかしているだけで、トリッシュがどうこうというわけではない。
「本当に手伝わなくて大丈夫なのか?」
 もう何度目になるかわからない質問をされたトリッシュの細い肩がヒクリと揺れた。かと思えば、振り向きざまにスパイス・ガールで手に持っていた包丁をこちらを心配そうに見ている父親に投げつけた。いきなりのことに驚いたディアボロは、反射的にキング・クリムゾンで時を飛ばしてしまう。だが結果的にそれがよかった。気が付いたら彼の背後の壁に刃を半分くらいまで埋めた包丁が突き刺さっていたのだから。もし時を飛ばしていなかったら、壁の変わりにディアボロの額に包丁が埋まっていたことだろう。そう思い、ディアボロは冷や汗を流しながら自分の反射神経に感謝した。伊達に何度も死んでいない。危ない直面にあうのは嫌というほど慣れている。
「何度も何度も同じ事を言わせないでちょうだい!あんたはただ座って料理ができるのを待ってればいいのよ」
 そう気の長い方ではないトリッシュは、軽く目じりをつり上げながらディアボロを睨む。先ほどは運良く難を逃れたとはいえ、二度目は確実に当ててくるだろう。そう思うと、もう黙っているしかない。
 無言で何度も首を上下に振るディアボロを見て、トリッシュは満足したように、よし、とつぶやいた。
 トリッシュはカツカツとヒールを鳴らしながら壁に突き刺さっている包丁のそばまで来ると、柄を握りしめて力一杯引っ張った。ミシ、という音が聞こえた後に包丁が抜ける。こういうシーンを見ると、スパイス・ガールでなくてトリッシュ自身でも壁に包丁を埋めるのは簡単なんじゃないだろうかとディアボロは思ってしまった。そんなこと、怖くて絶対に言えないが。
 トリッシュが自分の横を通ってキッチンに戻る時、ディアボロは顔を青ざめさせながら、壁に空いているであろう穴をどうやって塞ごうかと考えていた。
 またレシピ本とにらめっこをしながら、料理が再開される。口には出さないが、ディアボロはやはり心配でしょうがない。彼女が怪我をしないだろうかとか、そしてちゃんと人の食べられるものを作れるのだろうかとか。今のところ、料理に関してはなんらハプニングは起こっていないように見える。ほのかに漂ってくる匂いも普通にいい香りだ。だからといって、油断はできない。
 本当ならば口は出せなくとも彼女の近くで見守っていたいのだが、先ほどそうしようとしたらトリッシュに大人しく座っていろとボディブローを決められたので、それもできない。
「・・・大さじ一杯ってどれくらいなのかしら」
 不意に、ぼそりと声が聞こえた。慌ててトリッシュの方を見れば、彼女は眉間に皺を寄せて難しい顔をしながらレシピ本を睨んでいた。一気にディアボロの緊張が高まる。頼むから自分に聞いてくれ。心の中で何度もそう願った。しかし、現実は非情だ。
「まぁいいか」
 どぼどぼと、なにやら白い粒状のもの……ディアボロが思うにおそらく塩、が鍋の中に放り込まれていく。どうやら彼女は一杯の意味をはき違えているらしい。もちろん大さじ一杯といえば、専用の計量スプーン一すくい分、という意味で、大雑把にたくさん入れる、という意味ではないのだが。いや、それよりも塩が大さじ一杯の時点でまずおかしい。どこか見間違えているのではないだろうか。
 娘の行動を見て、ディアボロはドナテラを思い出す。彼女もまた、今の娘と同じことをしていた。できることならこういうところだけは自分に似て欲しかったと思う。自分なら、几帳面なぐらいきっちりと計るというのに。
「トリッシュ、一つ聞いてもいいか?」
 そろそろ沈黙しているのが辛くなってきたディアボロは、少しでも彼女の真意を知ろうと口を開く。
「なによ」
 少しぴりぴりとした声で、トリッシュは振り向かないまま言った。
「どうして急に、料理なんてしようと思ったんだ?今までずっと私がしていたんだ、無理はしなくていいんだぞ」
 ディアボロの言葉に、またトリッシュの肩がヒクリと揺れた。まさかまた怒らせてしまったのだろうかと、ディアボロは体を震わせる。飛んでくるであろう包丁に身構えたが、しかし予想に反して、いつまでもそれが飛んでくることはなかった。
 ゆっくりとトリッシュがこちらに振り返る。その顔は、心なしか赤くなっていた。
「あんた、今日がなんの日か知らないの?」
 唐突にそう言われ、ディアボロは頭を捻る。しかし答えは出なかった。そんな彼に、トリッシュはじれったそうに一点を指差す。ディアボロがその指の示す先に目を向けると、そこにはカレンダーがあった。今日の日付の所を見ると、なにやら赤いペンで囲ってある。よく見れば、そこには小さな字で、父の日、と書かれていた。
 その瞬間、ようやく今日がなんの日かを知り、そしてトリッシュがなんのために普段やりもしない料理を作っているのかを知って、ディアボロは感動のために言葉を失った。最愛の娘は自分のために、料理を作ってくれていたのだ。
 カレンダーから視線を外して、ディアボロはトリッシュを見る。すると、彼女はふいと目を逸らした。やはり、顔がわずかに赤い。
「いっつも家事をしてもらったり、ジョルノに押し付けられているとはいえ仕事をしてるんだから、今日ぐらいは親孝行したっていいでしょ」
 いい訳をするように、トリッシュは言った。それからすぐに料理に戻ってしまう。ディアボロは幸せすぎて嗚咽を漏らしてしまいそうになりながら、今度こそ大人しく料理ができるのを待った。心の中でドナテラに何度も、良い子を産んでくれてありがとう、と感謝を述べていた。たとえこの後、ディアボロの前に運ばれてきた料理が見た目は完璧でも、やはり料理の腕は母親似らしく塩の味しかしなくても、だ。
 次の日、せっかく娘が作ってくれたのだと根性と愛情で料理を完食したディアボロは、塩分過多で見事に体調を壊していた。だがトリッシュに看病してもらえたため、それはそれで幸せだったらしい。ただ、料理だけはなにがあろうとも絶対にもう作らせないと誓った。


END

 


シュガーとリンゴォの場合。

 テーブルをはさんで向かい合うようにして座らされたリンゴォは、テーブルの上に置かれている両手で持てるほどの大きさの空の桶と、立ってこちらを見下ろしているシュガーを交互に見た。自分がこうして座らされているということはなにかしらの用事があるのだろうが、その目的がわからない。彼女の行動はいつも唐突で、リンゴォの予測できないものばかりだった。なので無意識に身構えてしまう。
「シュガー、これは・・・」
「リンゴォは今日がなんの日かご存知ですか?」
 リンゴォの言葉を遮って、シュガーは尋ねた。
 なんの日、なのだろうか。リンゴォは記憶を探って考える。こうやって聞いてくるぐらいなのだから、なにか意味のある日のはずだ。シュガーの誕生日ではないし、自分の誕生日でもない。二人で作ったなにかしらの記念日でもなかったはずだ。
「すまない、俺にはなんのことだか・・・」
 真面目なリンゴォは、本当に申し訳なさそうに謝る。そんな彼を見て、シュガーはくすくすと喉を鳴らして笑った。
「いいんです、初めからあなたが知っているとは思ってませんでしたから」
「・・・・・・」
 相手が気分を害さなかったのはよかったが、果たしてこれでいいのだろうか。リンゴォはそう思ったが、悪びれもなく言われてなにも言い返せなくなる。結局、リンゴォは黙ったまま言葉の続きを待った。
「今日は世間では父の日と言って、父親に感謝を表す日なんだそうです」
「父親に感謝を・・・」
「えぇ。なのであたしの父親のかわりであるリンゴォに、プレゼントをしようと思って」
 シュガーの言葉に、リンゴォは深く感動してしまう。なにか見返りを期待してシュガーを預かっていたわけてばない。だがこうやってシュガー自らなにかプレゼントをくれるというのはとても嬉しいものだった。しかしそうなってくると、目の前に置かれている桶が気になってしまう。まさかこれがプレゼントだろうか。
 そう思っていると、シュガーはリンゴォに背を向けて部屋の隅に置いてある古くなった木箱のもとへ向かった。それはシュガーの玩具箱というか、宝物を入れているもので、決して他の人間には触らせてくれないものだった。箱の中を手探りで目的の物を探している。やがて見つかったのか、シュガーは手の中におさまるほどのそれを持って再びリンゴォの前に立った。
「人形か?」
 彼女の手におさまっていたのは、手作りらしい人形だった。決して可愛いとはいえないデザインだが、どこか愛嬌のある顔をしていた。おそらくシュガーがリンゴォにプレゼントをしようとよく見えない目で一生懸命に作ったのだろう。
「そうです。でもまだ完成ではありません」
「まだ?」
 リンゴォが見る分にはもう完成しているように見えるが、いったいなにが足りないのだろうか。そう思っていると、シュガーはいったん人形をテーブルの上に置いた。それから、先ほどからテーブルの上に乗っていた桶に両手を添えた。呼吸を整えるように小さく息を吐くと、神経を集中させるように両目を瞑る。すると、なにも入っていないはずの桶の底から透明な水が溢れ出てきた。見る見るうちにそれは桶を満たし、やがて入りきらなくなって添えていたシュガーの手とテーブルを濡らす。その段階になって、シュガーはようやく瞼を開けた。目の前で非現実的なことが起こっていたが、これが彼女のスタンド能力と知っていたので、リンゴォはなにも言わずにただ意図の読めない彼女の行動を見守る。
 シュガーは濡れた手を気にしないまま、再び人形を手に取った。それを水で満たされた桶の上にかざす。それを見て、まさか、とリンゴォは思った。
「この人形をこの水の中に入れて、高価なものに変えたら完成です」
「なっ、待てシュガー・・・」
 制止させようとリンゴォは手を伸ばしたが、すでに人形はシュガーの手から離れていた。ぽちゃんと音を立てて、人形が水の中に落ちる。こうなったらもう彼女のお決まりの質問が始まってしまう。そうなる前に、リンゴォは自分の手首に巻いている腕時計に手を伸ばした。その時計のつまみを回し、マンダムを発現させる。6秒間だけ、時間が巻き戻った。
「この人形をこの水の中に入れ・・・」
 シュガーがその台詞を言い終わる前に、リンゴォは彼女の手から人形を取る。その行動に、シュガーは目を丸くしてリンゴォの方を向いた。
「どうしたんですか?」
「人形は、このままでいい」
「え?でも、私のスタンドならもっと綺麗なものにできますよ」
「このままがいいんだ」
 純粋にシュガーが手作りしてくれたものがいい。そっちの方が、ずっと嬉しい。リンゴォがそう伝えると、シュガーは不思議そうに首をかしげた。
「そうなんですか?」
「あぁ」
「・・・リンゴォがそう言うのなら、いいんですけど」
 彼女自身はあまり納得していないようだったが、それでもそう言った。
「シュガー、ありがとう」
 大事そうにシュガーの作ってくれた人形を抱きながら、リンゴォは心の底から礼を言う。すると、シュガーはにこりと可愛らしい笑みを浮かべた。
「どういたしまして。そしてこちらこそ、いつもあたしを大事にしてくれてありがとうございます。これからもどうか、よろしくお願いしますわ」
「あぁ、もちろんだ」
 親しげにシュガーがリンゴォに抱き付く。その細い体をリンゴォはためらいがちに、しかししっかりと抱き返した。


END

 


料理が得意な男と料理が苦手な女の子の組み合わせが大好きです。というか主夫が好きです。
シュガ+リンはどこまでも仲良しさんだといい。


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女性
自己紹介:
1月14日生まれの新潟県民。

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最近はfkmt作品に手を出してます。
乙一作品と三原ミツカズ作品と藤田和日郎作品も好き。
節操なしの浮気性です。
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