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おっさんと人外を中心によろずっぽく。凄くフリーダム。
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高校生早人と吉良。
ちょっとずつ歩み寄る。

 

 

 


 キラヨシカゲ、という言葉が耳に入り、足を止めて反射的に振り返った。数歩離れた先で、三人の男性がなにやら話し合っている。みなすでに成人しているようだが、まだ歳若い。20代になったばかりぐらいだろう。一人は背も高く、顔の彫りも深い。さぞ女の子からもてることだろう。ヘアスタイルが物凄く、個性的ではあるが。もう一人は身長は平均よりも少し高いぐらい。絵に描いたような悪人顔をしている。でも雰囲気からはあまり悪い感じはしない。きっとその顔のせいで、人から敬遠されることもあるだろう。最後に、平均よりも身長が低い男。髪の色素が薄く、優しげな顔をしている。
 彼らがキラヨシカゲと言ったのは明らかだった。この三人以外に、僕の周りには人はいない。なぜキラヨシカゲの話をしているのだろうか。数年前に行方不明になった人物の噂話を今更しているとは到底思えない。それに、彼らはなにやら真剣に話し込んでいる。まさか、と思う。まさか、彼らはキラヨシカゲが殺人鬼だと知っていて、追っているのではないだろうか。その場合、彼らもまたスタンドという不思議な能力を持っている可能性が高い。
「あの、すみません」
 僕は彼らに声をかけた。三人分の目が、一斉にこちらを見る。僕が声をかけた理由を探っているようだった。
「吉良吉影のこと、知ってるんですか?」
 その名前を出すと、急に顔つきが変わった。雰囲気が張り詰める。やはり、と思った。彼らは、キラヨシカゲが殺人鬼だと知っている。そして、探しているのだ。
「そういうお前こそ、知ってんのか?」
 一番背の高い男が僕に尋ね返す。さて、どうしたものか。はっきり言ってしまえば、知っている。というか、表向き家族として一緒に暮らしている。それを言えば、彼らはすぐにでも僕の家へやってきて、キラヨシカゲを捕まえようとするだろう。そんな雰囲気だ。
 彼らはキラヨシカゲを捕まえて、どうするのだろうか。警察にこいつは殺人鬼だと言って渡したとしても、証拠がないから笑い話にしかならないだろう。なら殺すだろうか。証拠が残らないように、スタンドという能力で。しかし、目の前にいる彼らが誰かを殺すような人間には見えない。島流しかな、なんて、のん気にそんなことを考えてしまう。
「・・・今は、知らないんです。もう何年も会ってないので。ただ昔、まだ僕が小さい頃、遊んでもらってて」
 嘘を付いた。あからさまに、彼らは落胆したような顔をする。
「吉良吉影のこと、探してるんですよね。もし見つけたら、彼に言ってもらえませんか?『川尻早人が会いたがっていた』、と」
 自分の言葉があまりにも白々しすぎて、薄ら笑いが浮かびそうになる。それをこらえながら、僕は言った。僕の名前は明かしても大丈夫だろう。僕の考えがわかる超能力者でもない限り、川尻早人という名前からキラヨシカゲの居所を突き止められるわけがない。キラヨシカゲは今、川尻浩作の顔を持って生活しているのだから。
 じゃあこれで、と僕は会話を切り上げようとする。その時初めて、一番背の低い男がずっと僕の手を見ているのがわかった。どうやら彼らはキラヨシカゲが生粋の手フェチであることも知っているらしい。
「綺麗な手だね」
「ありがとうございます。昔、吉良吉影にもよく言われました」
 本当は、今も言われているけど。
 小さく彼らに手を振って、僕はこの場を後にした。


「今日、あんたを探してる人達に会ったよ」
 言うと、彼は眉をひそめる。昼間に会った男性達の身体的特徴を述べると、更に眉間の皺は深くなった。
「心当たりがありそうだね」
「ありすぎて困る。・・・そうか、あいつらまだ私を追ってたのか」
 後半は呟くように言った。どうやら、あの男性達と彼は面識があるようだ。無意識なのか右手で左の手を撫でている。昔、そこを怪我でもしたのだろうか。よく考えれば、僕は彼と何年も一緒に暮らしているというのに、彼の過去をまったく知らない。どんな両親がいたのかとか、どんな子供だったのかとか。何度か見たことのある、腕の内側にある煙草の火を押し付けられたような火傷の痕が、今の彼の殺人衝動に関係があるのかもしれないし、ないのかもしれない。彼の過去というのにあまり興味がなかったので、聞いたことはなかった。
「仗助達に、なにか言ったか?」
 一瞬誰だろう、と思って、すぐに今日出会ったあの三人のうちの誰かのことだと気が付く。
「言ってないよ。僕の名前は言ったけど、それぐらいは大丈夫だと思うし」
「だろうな。言ってたのなら、私はこうやって我が家に帰ってこれてない」
 我が家、という言葉に少し抵抗を覚えたが、僕は結局なにも言わなかった。その言葉が彼の口から自然と出てきたように見えたから。
 彼にとってこの家がどんな意味を持っているのか、そして僕と母がどんな意味を持っているのかを時折考える。ただの自分の素性を隠すための隠れ蓑だろうか。それとも、本当の家族のように思ってくれているのだろうか。やはり、聞いたことがないのでわからない。
「不可解なやつだ、お前は」
 突然言われて、僕は彼の方を見た。
「なんで?」
「普段から私を殺したいと言っているくせに、そんな素振りも見せない。それに、今回も仗助達に私のことを言わなかった」
「だって、敵の敵は味方だとは限らないじゃない」
 はぐらかすように言うと、彼はじっとこちらを見つめたまま視線を逸らさない。僕の意図を読み取ろうとしているようだった。だがやがてもう一度、不可解だ、と呟く。そして視線を逸らした。
 そうかも知れない、と思う。僕の行動は、彼にとって不可解だろう。でも僕にとっても、彼の行動は不可解なのだ。川尻浩作として生き、朝には会社に出勤して、遅くとも夜の7時には帰ってきて僕達と一緒に食事を取る。僕達を養うことに対して少しでも嫌な顔はしたことはないし、なにより彼は母を大事にしてくれている。あまり表立って態度には示さないが、雰囲気でわかる。だから母も、彼を愛しているのだ。自分が平穏に暮らすためとはいえ、まったくの他人である僕達にそこまでしてくれるのはなぜだろうか。
「あんたは家族が欲しかったの?」
 なんの脈絡もない言葉に、彼はもう一度視線をこちらに向ける。普段、僕と似てほとんどその表情は変えないが、今はわずかに驚いたような顔をしていた。そして僕も驚いた。この言葉は、声に出して言うつもりはなかったのに。
「ごめん、今の言葉忘れて」
「・・・そうなんだろうか」
「うん?」
 僕に問いかけているような口調でもあったし、自問しているような口調でもあった。
「私は普通に生きていたら、お前と会うこともなく、おそらく一生独身だっただろう」
「だろうね」
「しかし、ない物ねだりをしていたつもりもなかった」
「うん」
 彼にしては珍しく、要領を得ない喋り方だ。それでも僕は彼の言葉に耳を傾けた。
「本当は、どうだったんだろうか」
「家族が欲しかったかどうか、ということ?」
「昔、得られなかった、つつましいながらも、幸せな家庭」
 その言葉に子供の頃の彼を垣間見た気がしたが、口は挟まない。
「私はそれを求めていたのか?」
「・・・僕に聞かれても、わかるわけないじゃない」
「それもそう、だな」
 彼の過去がどうであれ、彼が今どう思っているかであれ、僕にはまったくわからない。でも、彼が僕達を心のどこかで大事にしてくれているということは、知っている。本人が自覚しているかどうかは別だけれど。
「ねぇ、吉良さん」
 滅多に呼ばない名前で呼んで、こちらに注意を向けさせる。案の定、彼は興味深そうにこちらを見た。僕は数年前に殺されてしまった実父に心の中で詫びながら、口を開く。
「あんたはどうしようもない殺人鬼だけど、でももうちょっと、僕はあんたとの家族ごっこに付き合ってもいいと思ってるんだ」
「・・・そうか」
 ほんの少しだけだけど、彼が微笑んだ気がした。

 


END

 

 


このパラレルワールドには一応仗助達はいるようです。今後出るかどうかは別として。
今更ですがこの時の吉良は私の中では40歳前後です。39歳~42歳ぐらいの間辺りでいいんじゃないかと思います(曖昧)
承太郎の例もあるので意外と4部本編よりも外見は若返ってるかもしれない。個人的にはちゃんと歳相応であってほしいけど。

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ボスと母親の話を書いたら、今度はトリッシュと母親の話も書かなくては。
というわけでトリッシュとトリッシュの母親の話です。
トリッシュの思うところ。

 

 

 

 

 素敵な人だったの、なんて、少女みたく顔を赤らめさせながら言う母に、はぁ、と生返事を返した。またはじまったな、と思う。私の母は、時折思い出したように、何年も前にいなくなった父の話をする。でも正直なところ、顔も見たことのない父の話をされても、私は戸惑うだけだ。どう考えたって、血が繋がってるということ意外は誰よりも他人なのだ。その男の腕に抱かれたこともなければ、顔も知らない。はたして、そんな男を父親と呼べるだろうか。まだ若かった母を孕ませた挙句、捨てた男。生きているのか、それとも死んでいるのかもわからないような男。
 母はまだ若かったというのに、誰よりも強く熱心に私を育ててくれた。そんな彼女を、私は誰よりも尊敬している。しかし、こうやって父の話をするのは、やめて欲しいと思う。
「すっごく綺麗な顔立ちをしててね、トリッシュと同じ髪の色をしてたわ」
 優しく髪を撫でられる。しかし彼女は今、私の髪を撫でているのではなく、記憶の中の男の髪を撫でているのだ。そんな時、なんとなくいらっとする。いつまでも帰ってこない男を追いかけている女々しい母にも、母を捨てた男にも。
「私に似ないで、この色の髪で本当に良かった」
「私は・・・母さんと同じ黒色がよかったけど」
 そうすれば、母は頻繁に父のことを思い出さずに済むのではないかと思う。
 会う人全てが、私の髪の色は綺麗だと褒める。そのたびに、母は嬉しそうな顔をする。しかし、私はこの髪の色が嫌いだった。知らない男と、目に見えないはずの繋がりを無理矢理見せられているようで。いっそのこと、全ての自分の痕跡を消してからいなくなればよかったものを。
 相手に不快を与えない程度にやんわりと私の髪を撫でている彼女の手を振り払ってから、今度は自分の髪を一房つまむ。本当に、鬱陶しい色だと思う。母が以前、父が髪を伸ばしていたと言っていたのを聞いてから、私は髪を伸ばしたことはない。少しでも父の面影を残しておきたくはなかった。なんて、そんな風に、どんな形であれ自分が父のことを気にしてしまっているのが余計に腹が立つ。髪をむしりとってしまいたい衝動に駆られたが、母の手前なのでやめておいた。
「トリッシュは、あの人のことが嫌いなの・・・?」
 私が苛々としている雰囲気を感じ取ったのか、どこか泣きそうな声で尋ねてくる。嫌い、なのだろうか。一度も会ったことのない人物が。いや、もしかしたら、会ったことがないからこそ嫌いなのかもしれない。会ってしまえば、なにかが吹っ切れるような気がした。会ったこともないのに、私の心をこんなにもかき乱すからこそ、腹が立つのだ。
「でも、母さんはまだ好きなんでしょう?その人のことが」
 母の言葉は否定せずに、逆に尋ね返す。すると、彼女はまた顔を赤らめさせた。まるっきり、恋をしている少女だ。
「そうね。私はまだあの人のことが好きなの。だから、あの人と血を分けたあなたを産んで、育てることができて、とても幸せよ。トリッシュ」
「・・・母さんには敵わないわ」
 彼女は、恋をしている少女であり、一人の母親なのだ。そんな女性に、産まれて数年しか経っていないような小娘が敵うはずがない。結局いつも、私は母の惚気話の聞き役になってしまう。
 母の口から語られる父というのは、どこからが事実で、どこからが脚色なのかがよくわからない。旅行中に運命的に出会って、恋に落ちて、数日間共に過ごした。かと思えば、すぐに戻るからと言ったきり姿を消して、その上彼の故郷が炎に包まれた。本当にそんな物語めいた出来事が起こるのだろうか。しかし、私が生まれているということは、どこかしらは事実なのだろう。母は父以外の男とは寝たことがないと言っているし、私から見ても彼女がそんな誰彼構わずに脚を開くような女には見えない。そんな話を娘にするのも、どうかとは思うのだが…。
「あの人、早く私の元へ戻ってこないかしら」
 呟くように、祈るように、母は言う。その言葉がどこまで本気なのか、私はいつも計りかねていた。本気で父が戻ってくると思っているのか、それともそう思いたいから、自分に言い聞かせているのか。気にはなったが、怖くて聞けなかった。きっとこの言葉は、最後の砦なのだ。父が存在ていると、生きているという希望を持ち続けることのできる言葉。
 いつまでも戻ってくることのない男を待ち続けている母が可哀想で、私は彼女を抱きしめる。少しでも、寂しさを埋めてあげることができればいい。でも、完全には埋まらないのだと知っている。母の寂しさを埋めることができるのは、父だけなのだ。あぁ、やっぱり、腹が立つ。とっとと戻ってきて、私の変わりに母さんを抱きしめてあげなさいよ、馬鹿。顔も知らない父に向かって、私は心の中で罵った。


 結局、母は父が戻ってくるのを一途に待ち続けながら、短い生涯を終えてしまった。彼女は最後まで、父に会いたいと言っていた。私は父を呪った。せめてきちんと別れを済ませていれば、母は父にこれほどまでに執着なんてしなかったのかもしれない。少しは傷付いたかもしれないけど、それでも別の男と結婚して、別の家庭を築いていたのかもしれない。少なくとも、これほど寂しい想いなんてしなくてよかったはずだ。
 やっぱり嫌いだ、と思う。母の人生を奪った男。私の心の平穏をかき乱す男。
 これから先、私は父に会うことはあるのだろうか。相手は、生きているのか死んでいるのかもわからない人間。しかし、もし生きているとしたら、出会わない確率は0ではない。この広い世界で、偶然に会うことがあるかもしれない。
 その時は絶対に、父さん、だなんて、呼んでやらない。いや、父親だなんて、認めない。だから相手も、私を娘だなんて認めなくていい。ただ一言、母の娘として、言ってやりたかった。どうして、母の元に戻ってこなかったのだと。どうして、できない約束などしたのだと。どうして、母の前に姿を現したのだと。それさえ言えれば、満足だ。
 ふと鏡が目に入り、私はしばらく自分の姿を見つめる。母が死ぬ少し前から、彼女は髪の色だけでなく、私の容姿も父に似てきたと喜んでいた。顔も知らない父を見つけるには、私が一番の手がかりだ。あと名前。母の口から何度か聞いていた名前があった。なんだったか…。
「・・・ディアボロ?」
 それが、父の名前だった。

 

END

 

 

トリッシュの母親の前ではボスは偽名を使ってたとかいったらダメです・・・。




こっそりこっそりリンクの方一件追加させていただきました。スタンド可愛いよ、マジ可愛いよ。
相変わらず無断ですみません。私はそろそろ本気でどうやったら冷静にコメントを残せるのかを考えた方がいいと思う。
チキンなんでコメントを残したくても残せません・・・。


相変わらずSBRは馬ばっかりですみません。次こそは人間書く。リンゴォかジョニジャイを、多分。
擬人化は私の中ではリヴリー以外にするのは邪道なので今回も馬の姿のままで。


スロー・ダンサーがどこかゆるゆるとした口調なのは仕様です。

 

 

 サードステージをゴールした直後、そのまま止まらずに走り続けていたS・Dの横にぴたりと白い影が寄り添う。一度ちらりとそちらの方を見てから、少し上がり気味の呼吸を落ち着けるように大きく鼻から息を吐いた。そして声をかけようとする。が、その前に、相手の方が口を開いた。どうやら、はじめからこちらに声をかけるつもりで近付いてきたようだ。
「さっきはしてやられた気分だ、スロー・ダンサー。いや、ファーストステージの時も、かな」
 S・Bは攻撃的ではなく、どちらかというと友好的な声色で言った。レースが云々ではなく、ただたんに会話をするきっかけが欲しかった、という感じだ。
「ちゃんと話すのは、はじめて、だね。君と、君のマスターの噂は、アメリカまで届いているよ、シルバー・バレット」
 イギリスには優秀な騎手と馬がいる、と。言うと、相手はどうも、とそっけないがどこか嬉しげに答えた。
「でも、さっきはそんな俺を抜いてゴールしたあんたも凄いじゃないか。正直、久しぶりに興奮したよ」
「ありがとう。でも、私が君を、超せたのは、マスターの実力と、ヴァルキリーが、君の注意を引いていてくれた、おかげだから」
「謙虚なことだな。しかし、そういうタイプは嫌いじゃないぜ」
 言いながら、S・Bは相手に接触しないぎりぎりまでS・Dに体を近付けようとする。しかしその瞬間、茶色い影が無理矢理2匹の間に割って入った。
「スロー・ダンサーに近付くんじゃねぇよ」
 睨むようにして、ヴァルキリーはS・Bを見る。
 彼の突然の行動に驚いたのは、乗っている人間達の方だった。馬同士の体が接触してしまえば、転倒してしまうことだってある。ジョニィとディエゴは慌てて、自分の馬をヴァルキリーから距離を置かせた。そして乗り手であるジャイロに文句を言う。気を付けろよ馬鹿だの、俺のせいじゃないだの、そんな会話がしばらく続いた。
 しかし馬達の方は、主人らのそんな会話は聞こえていない。機会をずっとうかがっていて、ようやくS・Dに声をかけられたというのに邪魔をされ、S・Bはヴァルキリーを睨み返す。
 最初はこの初老の馬が気になるなんてことはなかった。しかし、ファーストステージで顔に泥をかけられた時、初めて意識をした。自分になんてことをするのだという屈辱と、久しく感じていなかったレースに対する高揚感。それからはずっと、S・Dのことを目で追っていた。セカンドステージの後、少し近づくことができたが、結局なんやかんやあって…主人が落馬したり、その後でなんか変な生き物になっちゃったりで機会がつかめず、今まで声をかけるのが先送りになっていた。
「無粋なヤツだな。貴様の国では、他人の会話を邪魔するのはマナー違反じゃあないのか?」
「レースの最中にナンパをしてるようなヤツに言われたくねぇよ」
「ナンパをしてるってわかってるなら、余計に邪魔をするなよな」
 2匹の会話を聞きながら、S・Dは自分はナンパをされていたのかと、他人事のように思った。正直、自分の主人であるジョニィになにも害がないのなら、ナンパされようが口説かれようが、どうでもいいのだが。
「おい、そこを退け、田舎者」
「誰が退くか、バーカ。お前がどっか行けよ」
「転べ。転んでその鬱陶しい髪の主と一緒に怪我をしろ」
「てめぇが転べ。ジャイロは性格の鬱陶しいDioよりましだっての」
 ぎゃいぎゃいと続けざまにお互いを罵り合っている。よく疲れないものだ、とS・Dは思った。やはり若さだろうか。根本的な体力が、自分とは違うのだろうか。そう思いながら、横目で2匹を見た。罵り合ってはいるものの、悪意は感じられない。実は、仲がいいんじゃないかと思う。同い年だし、似たような性格だ。お互いがもうちょっと素直になれば、良い友達になると思うのだが。しかし言ったところで、2匹は否定するだろうから結局、S・Dは口を開かないまま、今度はジャイロとディエゴの方を見た。
 馬の言葉がわからない人間は、どうしてか興奮している己の愛馬に悪戦苦闘していた。今のヴァルキリーとS・Bには、落ち着くようにと言う主人の言葉が届いていない。やっぱり子供だね、とS・Dは思った。
 この2匹が主人の言うことを聞かず、変にペースを上げるのはジョニィにとっても不本意だろうから、ようやくS・Dは口を開く。
「坊や達、そのぐらいに、しておいたら、どうだい?君達のマスターも、ずいぶんと、困っている、ようだけど」
 ぴたりと、2匹の声が止む。そして、ほとんど同時にS・Dの方を見た。
「坊や・・・」
 呟くように、S・Bが言う。ヴァルキリーは普段からS・Dに子供扱いをされるのを不本意ながらも慣れているが、彼はそうでもないようだった。頭の中でその言葉を反芻しているかのように、しばらく沈黙する。
「まぁ・・・そういうのも、悪くはない・・・か」
 やがて、どこか満足げに呟いた。S・Dから子供扱いをされるというのは、嫌なことではないらしい。むしろ、今の彼はどこか幸せそうだ。おそらく彼の中では、子供扱い=相手に甘えてもいい、ということになっているのだろう。
 落ち着きを取り戻してきたS・Bの耳元で、ディエゴが何事かを囁いた。その言葉を理解して、彼は小さく頷く。
「スロー・ダンサー、どうやら主は別ルートを行くらしい。一緒に走れるのもここまでだ」
 名残惜しげに、S・Bは言った。
「そう。君も、頑張ってね。ゴール手前で、また、会おう」
「さっさとどっかに行っちまえ!馬鹿!」
「語彙が少ないな。貴様の方が馬鹿丸出しだぞ」
 最後にヴァルキリーに吐き捨てるように行ってから、S・Bは2匹から離れていく。ようやく、この場は静かになった。しかし最後の台詞によほど腹を立てたのか、ヴァルキリーは先ほどよりも更に興奮してしまっている。荒っぽく地面を蹴っているため、乗っているジャイロの体がガクンガクンと激しく上下に揺れた。ロデオか、なんて、ジョニィがそんな彼を見ながら慌てるでもなくマイペースに尋ねている。おそらくS・Dのマイペースさは、彼に似たのだろう。
「ほらほら、落ち着いて、坊や。興奮すると、余計、疲れるよ」
「坊やって言うな、オジン!」
 S・Dから子供扱いをされることを酷く嫌うヴァルキリーは、キッと相手を睨む。それを見て、ふむ、とS・Dは呟いた。
「シルバー・バレットの方が、可愛げがあって、私は好きだ」
「・・・・・・!」
 たったその一言で、急にヴァルキリーは大人しくなった。というか、意気消沈していた。目に見えて、脚の動きが悪くなっている。そんな彼を無視して、S・Dはヴァルキリーの前に出た。
「おいおいヴァルキリー、さっきからなんなんだよ。興奮したり、かと思えば急にテンション下がったり・・・」
「Dioの馬と相性が悪いんじゃないのか?僕の馬は、大丈夫みたいだけど」
 どんな会話のやり取りが行われていたのか知らない主人達だけが、ただただ首をかしげるばかりだった。

 


END

 


あとがき

甘えたいシルバー・バレットと、対等の立場でいたいヴァルキリー、そしてそんなことはどうでもいいスロー・ダンサーの図。
スロー・ダンサーはジョニィをまず第一に考えます。ジョニィ大好きだから。あとは割りとどうでもいいと思ってます。そういう点ではある意味スロー・ダンサーも酷い子。

次はゲッツ・アップですかね。書くとしたら。ゲッツ・アップは私の中ではメス。
公式で馬の年齢は出てるけど、性別って出てましたっけ?
スロー・ダンサーとヴァルキリー達の歳の差にキュンとする。


ボスとボスの母親の話。母親が軽く電波だったりボスがヤンデレだったりで大変精神的に悪い感じです。
母親と息子の愛ある(?)話。
ボスがボスじゃないですが、それでも許せる方はどうぞ。

 

 

 

 

 数年ぶりに見た息子は、刑務所から私をさらいそのまま口をふさいでコンクリートの下に埋めた。埋めたといっても、身動きが取れないぐらい、もしくは呼吸ができないほどではなく、どちらかというとコンクリートで上から蓋をした、という表現の方が正しいのかもしれない。少年の力でも、私の上を覆っているコンクリートは動いた。
 産まれてからすぐに他の人間に引き取られたため、私は息子の名前を知らない。しかしその少年の美しいピンク色の髪は見まごうことはなかったし、なにより直感的にわかった。彼が、自分の息子だということを。たぶん、血の繋がりのおかげだろう。
 コンクリートの下に私を埋めてからほとんど毎日、日に何度か息子は私に会いに来た。来るたびに彼は私の頬に小さく口付けをした。そのたびに彼を愛しいと思う自分は、果たして異常なのだろうか。誰かに確認したかったが、あいにく息子以外が私に会いに来ることはなかったたし、口をふさがれていたため彼自身に確認はできない。しかし、こう思うのは普通のことのように思えた。このコンクリートで囲まれた世界で、私はもはや息子以外になにも持っていなかった。自分の命ですら、彼の手の中にあるのだ。自分の唯一の持ち物に愛着が湧くのは、普通のことだ。そしてなにより、自分の血を分けた子供なのだから。
 本当は、息子の頬にも口付けをして挨拶を返してやりたいのだが、今の私は口をふさがれているし、もう何年も寝たきりの状態のため筋力が弱まり、体を起こすことすらできない。だから、私は精一杯の愛と慈しみを込めて息子を見た。目が合うと、まだ少年である彼は愛らしく笑った。
 いったいどうやって、彼は私の中に宿ったのだろうと考える。私が服役していた刑務所は女性しかいないし、そんな環境で私は投獄されてから2年後にこの子を産んだ。どう考えたって、計算が合わない。なにか、人の起こすことのできないような、特別な力が働いたのではないかと思う。たとえば、聖書中に出てくる聖母マリア。彼女はあのイエス・キリストを産んだ時、処女だったという。男と交わったことがないというのに、子供を産んだのだ。それは神様からイエス・キリストの命を授かったため。つまり、そういうことなんじゃないかと思う。私の産んだ子供は、神様から与えられた子供なのではないかと。そうじゃなければ、説明が付かない。息子はきっと、選ばれた人間なのだ。将来は必ず、なにかを成し遂げるに違いない。そう思うと、そんな子を産んだ自分を誇りに思ったし、よりいっそう息子を愛しく思った。
 私の元にくる時、息子は食事だったり、私が暇にならないようにと本を持ってくる。食事は私のわずかに開いた口の隙間からねじ込み、本は読み聞かせてくれた。日に日に成長していく姿や、可愛らしい少年の声から低く美しい声に変わっていくのがよくわかり、私は毎日彼が成長していく様を見ると幸せだった。
 そして時折、彼は食事や本の変わりに、私を殺すための道具を持ってきた。それはナイフだったり銃だったり、首を絞めるための縄だったり。あれこれ趣向を尽くした、人の命を奪うためのものだった。食事に毒を盛られたこともある。あの時は、本当に辛かった。体の震えと吐き気が止まらず、涙を流して苦しんだ。しかし、もうこれで死ぬのかと思ったところで、息子は私に解毒剤を飲ませた。その後で、何度も何度も泣きながらごめんなさいと呟いた。息子が声変わりをする前の出来事だった。
 彼が私を殺そうとしているのは、火を見るよりも明らかで、そのためだけに刑務所から私を連れ出したのだと考えるのも難しくはない。はじめはなぜ、息子が自分に対してそんなことをするのだろうと不思議に思ったが、それが必要なのだからするのであって、私は彼の好きなようにすればいいと考えた。息子のために死ねるのならば、母親としては最高のことだろう。
 ある日、息子はいつものようにやって来た。その頃には、息子はすでに声変わりを終えていて、見た目もずいぶんと大人びていた。それでもどこかまだ少年らしい面影をどこか残していたから、正確な年齢はわからないがおそらく10代半ばぐらいなのだろう。その手には茶色の麻縄が握られていた。
 彼はいつものように私の頬に口付けると、私の腹の上に馬乗りになった。見上げれば、酷く青ざめた顔をしている。どこか体の具合が悪いの?そう尋ねたかったが、やはり口がふさがれているのでそれはできなかった。だから精一杯、相手を心配しているような、気遣うような視線を向けた。それに気が付いた彼は、小さく笑おうとした。しかし顔が引きつってうまくいかないのか、酷く歪な笑みだ。やはり、どこか悪いのではないのだろうか。そう思っていると、息子は手に持っていた麻縄を私の首に回し、紐の両端を手に持つと、力一杯、私の首を絞め上げた。首の骨が折れてしまうのではないかと思うぐらいの力だった。
 いっそのこと、折れてしまえばいいのにと思う。そうすれば、私はすぐにでも死ねるだろう。息子はもう、私を殺さなければいけないという心労はなくなる。少しでも彼の人生に心配事や恐怖がなくなればいいと、私は日頃から願っていた。息子は選ばれた人間なのだから、自分の好きなことをして、そして何事も不自由なく生きていればいい。
 酸素が足りずに、目の前がちかちかと点滅していた。このままでいい。きっと、死はもうすぐそこまで来ている。あとは、彼がこのまま力を緩めないでくれていればいい。しかし結局のところ、またしても私が死ぬようなことはなかった。
 息子は急に首を絞める力を緩めると、両手で顔を覆う。嗚咽を漏らしながら、不規則に肩を揺らした。泣いているのだと気が付く。私のせいで、彼は泣いていた。あの時と同じだ。毒を盛られたときと、一緒。
「なぜ、殺せない」
 手にさえぎられて、くぐもった声で呻くように言う。
「たった一人の女を、何年も殺せないでいるなんて」
 息子の涙が彼の腕をつたい、そして私の頬に落ちた。
「母さん・・・」
 顔を覆っている手をどかすと、喘ぐような声で彼が言う。止め処なく涙が流れ落ちていた。
 どうしたらいいのかわからない、そんな顔をしている。悲しくなった。私のせいで、愛する息子が苦しんでいる。ためらうな、と言ってあげたかった。私はあなたのためなら死ぬのは怖くはないから、だからためらってはいけないと。それができないのなら、もう私の元には来てはいけない。完全に、忘れてしまえばいい。そうすれば、私はあなたを想いながら安らかに死ねることだろう。
 その言葉が伝えられずに、歯がゆかった。それどころか、今の私は息子を抱きしめることすらできない。抱きしめて、なにも不安に思うことはないのだと示してあげることができない。
 筋力が衰え、そして酸素が回らなくなって痺れている腕を必死に動かした。少し動かすことすら重労働だった。ゆっくりと時間をかけて、息子に手を伸ばす。腹の上に跨ったままでいる彼の涙を、指先で拭ってやった。少しでも、私の想いが伝わればいいと願いながら。
 私の行動に彼は驚いたような顔をする。そして涙を拭っている私の手に自分の手を重ねると、もうなにも言わずにただただ泣き続けた。
 その日から、息子は私を殺そうとはしなくなった。かといって、もう私の元にやってこなくなったわけではない。ただいつものように食事や本を持ってきて、私の頬に口付けた。どういうつもりなのか、私にはわからない。殺すのを諦めたのかもしれないし、機会をうかがっているのかもしれない。でも、もう私の前で泣くことはなくなったため、これでいいのだろうと思った。
 私には時間の感覚がなくなっていたため、今自分が何歳なんだとか、息子の正確な年齢だとかはわからない。それでも、彼の成長を見ながら、なんとなく漠然とはわかっていた。息子はもう少年と呼べる歳ではないだろう。誰が見ても立派な、美しく成長した青年だった。
 ある日、誰かが私の上を覆っているコンクリートを破壊している音が聞こえた。息子ではない。息子なら、コンクリートは破壊せずに蓋を取るようにして持ち上げる。ならば、今この場にいるのは誰だろうか。ここ数年間で、息子以外の人の気配を感じたのは初めてだった。
 やがてコンクリートが破壊され、私の肌を蛍光灯が照らす。見れば、そこにいたのは知らない男だった。私を見て、驚いたような顔をしている。かと思えば、その顔色は恐怖に変わった。失礼なものだと思う。人の顔を見て、そんなに怯えるなんて。文句を言ってやろうと思ったが言えないまま、結局男は逃げるようにしてこの場を去っていった。
 男が去ってから約一時間ほど後に、息子が私の元にやって来た。その姿を見てぎょっとする。両手が赤く染まっていた。体のいたるところにも、赤い斑点が飛び散っている。それが血だということに、すぐに気が付いた。長い時間、酸素に触れていたのか、その血はどこか黒ずんでいる。
 怪我でもしたのかと、心配そうな目で息子を見た。彼の顔色は悪い。私を殺そうとした時と、同じ顔色だ。
「育ての親は、こんなにも簡単に殺せるのにな」
 私の視線を感じたのか、彼はなんでもないというように首を左右に振ってから、小さく呟いた。それからこちらに近づいて、いつものように私を抱き上げるようにして上半身を起こさせると、頬に口付けをする。
「私の本性が、この村のみなに知れ渡ってしまった。もう、ここにはいられない」
 本性、とは、私をここに隠している、ということだろうか。それのなにが悪いのだと、私は疑問に思った。しかし、息子にとって重大なことなのだろう。また私のせいで彼に迷惑がかかったと思い、落ち込んだ。
「私のこれから先、やろうとしていることは、とても大きなことだ。その際に、私の過去を知っている者や、私自身を知っている者がいると、困る」
 私を抱き上げたまま、息子は私の口をふさいでいるそれを取り始めた。今までそんなそぶりなど一切見せなかったため、驚いた。
「あなたに生きていられるのも、困るんだ。私は今日、この村を出る。でも、あなたは・・・」
 その先は言わなかった。でも、なにが言いたいのかわかった。
 これでいいのだと思う。ずっと、息子が私に対してしようとしていたことなのだ。今までずっと、保留になっていただけ。だから私は後悔も恐怖もない。あるのはただ、息子に対する愛情だけだ。
「あなたの好きなように生きなさい・・・それが、私の唯一の願いだから」
 数年ぶりに声帯を震わせた。その声は、本当に自分の声なのか疑いたくなるほど、酷くひび割れたものだった。
 どうか、と神様に祈る。どうか、この子の生きる道が、祝福されていますようにと。この選ばれた子供が、幸福に暮らせますようにと。心の中で、何度も何度も神様に願った。
 腕を動かして、息子を抱きしめる。そして、はじめてその頬に口付けをした。これだけできれば、もう思い残すことはない。彼は私の行動が以外だったのか、驚いたような顔をした後、照れたように小さく笑った。人を一瞬にして魅了させるような、艶やかな笑みだった。
 息子は私をまた地面に寝かせると、あらかじめ用意しておいたのか、なにかの液体を私にふりかける。臭いで、それがガソリンだとわかった。それを部屋中に撒いている。なにもかも、燃やしてしまうつもりでいるのだということがわかった。私だけではない。息子のことを知っている、この村ごとを。
「お願い、最後に・・・名前を教えて」
 自分が息子の名前を知らなかったことを今更ながらに思い出して、慌てて尋ねる。彼はしばらく言うか言うまいか迷ったように沈黙したあと、口を開いた。
「ディアボロ、だ。母さん」
 その名を聞いて、私は祈る相手を間違っていたということに気が付いた。息子は神様の子ではなく、悪魔の子だったようだ。ならば、と私は祈る相手を悪魔に変え、聖書にあるように息子が鎖に繋がれ、自由を奪われて地に落とされないことを願った。
 ディアボロ、私の愛しい息子。たとえあなたの人生に立ちはだかるのが神のような強大な力を持つ者であっても、それらを滅ぼしつくして生きていって。私は死んでもなお、地獄の悪魔にそれを祈り続けるから。

 

END

 

 

正直、ジョルノの生命を生み出す能力って、神の力ですよね。

以前拍手で、ボスも母親に対して歪んではいるけど愛情を抱いていたのではないか、とかそんな感じのコメントをいただいて、私もそう考えていたので、じゃあもうこれは書くしかないな、と思って・・・。
結局ボスは、自分に一番近い所にいた女性(母親、恋人、娘)を殺せてないんですよね。


ボス猫話の続きです。





 目が覚めてまず真先に、閉じよう閉じようとする瞼を必死にこじ開けながら時計を確認する。午後7時過ぎだ。逆算すると、9時間近く眠っていたことになる。仕事明けとはいえ、よく寝たものだ。強張った首筋と肩をゴキゴキと鳴らしてほぐしながら、ディアボロはどうしているだろうかと考える。
 ベッドからおりようと床に足を付いた。はずだった。しかし、固いはずの床は、何故か柔らかくぐにゃりとしている。不思議に思い視線を下に向けると、そこには大量の剃刀と、顔を真青にさせて気を失っているメローネが倒れていた。
 一瞬敵襲かと身構えたが、すぐに考えを改める。どうやら、自分自身がやってしまったらしい。大方、メローネが寝ている俺に手を出そうとして、無意識にスタンドを発現させてしまったのだろう。無意識だからこそ、手加減というものができず、相手は鉄分不足で倒れてしまったらしい。
 とりあえず部屋に剃刀が散らばっていると危険なので、落ちているそれをすべて鉄分に戻してメローネの体内に戻す。しばらくすれば、自分で起き上がってくるだろう。そう思いながら、自室をあとにした。
「はよー、リーダー。ちょうどよかったな、飯できてるぜ」
 本日の食事当番であるホルマジオが、俺の顔を見るなり言う。彼は、メンバーの中で二番目に料理が上手い。意外だが、一番上手いのはメローネだった。おそらく、『作る』のが好きなのだろう。
「ディアボロはどうした?」
 尋ねると、彼は少し苦笑いをしながら親指で一点を指差す。目でその先を追うと、ソファに座っているイルーゾォの膝の上に上半身を乗せ、下半身をソファに預けてぐったりとしている猫がいた。本当に、『ぐったり』という形容以外が当てはまらない。そんな彼の横で、プロシュートとギアッチョが手に猫用の玩具を持っている。まだ遊び足りない、というのが、雰囲気で伝わってきた。それを見て、理解する。どうやら、ディアボロは二人に遊ばれすぎたらしい。なんだかんだで、一番ディアボロを気に入ったのはあの二人のようだった。メローネは別として。
「ディアボロ、こっちへ来い」
 俺が寝ている間にまた人間の姿に戻っていなかったことに安心しながら、名前を呼ぶ。すると、疲れたように垂れ下がっていた耳が、ぴんと立った。起き上がり、こちらを見る。明らかに、助かった、という顔をしていた。いったいどんなハードな遊びをしたんだろうかと、考えてしまう。
 彼は一旦、床の上におりると、こちらに向かって歩いてくる。自分の足で歩いていることに、少し感動した。朝は、あれだけ動物のように四本足で歩くのを嫌がっていたというのに。もしかしたら、そんなことがどうでもよくなるほど、早くプロシュートとギアッチョのそばから離れたかったのかもしれない。
 ディアボロは俺のもとまで来ると、俺の脚に尻尾を絡めながら体をこすり付けてきた。ずいぶんと、猫の姿が板についてきている。なんて言ったら、怒られるのだろうが。
 俺はしゃがんでから、彼と視線を合わせた。
「俺の部屋に行って休んでいろ。あとでまた行く」
 彼は頷くと、リビングから去っていった。それを確認してから、ホルマジオが用意した料理が並べられているキッチンに向かう。他のメンバーも、ぞろぞろと集まってきた。椅子に座り、一息つく。その瞬間、俺の部屋のほうからすさまじい声が聞こえてきた。
「ふぎゃああああぁぁぁぁ!!」
 喉から搾り出したような、甲高い声。というよりも、悲鳴。
 何事かと、プロシュート達が声のする方へ駆け出す。しかし俺はその現場を目撃しなくても、なにが起こったのか察しがついた。
「そういえば、俺の部屋にメローネがいたのを忘れていたな・・・」
 とりあえずメローネはプロシュートかギアッチョ辺りがなんとかするだろう。そう思い、俺は目の前に並べられている料理に手を伸ばした。

 

「最悪、だ!」
 風呂上りで体から湯気を立ち上らせている俺の横で、ディアボロが叫ぶ。俺が自室のベッドの上に腰掛けているため、彼もならってベッドの上で伏せの姿勢をとっていた。
 あのあと、俺の食事中にメローネ以外の全員がすぐに戻ってきた。ディアボロは、ホルマジオの腕の中で震えていた。おそらく、生理的嫌悪と怒りで。
 メローネがどのような制裁を受けたかは興味がなかったので、特に聞かなかった。しかし彼がキッチンにやってこないところを見ると、また俺の部屋で気を失っているのだろうか。部屋から出すのがめんどくさいな。そう考えたが、それは杞憂に終わった。あのあとすぐに、メローネが自らの足でキッチンにやってきたのだから。全身がずぶ濡れだったところを見ると、ギアッチョに氷付けにされたらしい。それでもピンピンとしながら食事を取っていたのだから、本当にタフだ。
 あれからディアボロは、俺について歩くようになった。どうやら俺といる時が、一番安全なのだと学習したようだ。俺が風呂に入っている時は、イルーゾォやホルマジオと一緒にいた。彼らが次に安全ということらしい。
「なかなかに、猫の体というものは大変なようだな」
「大変なんて言葉で足りるものか!動くものを見ると勝手に体が反応するし、遊ばれるし・・・。それに、あの変態のせいで余計疲れる」
 いったいあの時、メローネになにをされたのかは、言いたくなさそうだったので聞いてない。ただ、あのディアボロがあそこまで声を上げるほどなので、よほどのことをされたのだろう。変態とは、怖いものだな。
「明日から、本格的にボスをその姿にしたスタンドの本体を探さなくてはいけないな」
「あぁ」
 手慰みに頭を撫でてやる。すると、気持ち良さそうにスッと目を細めた。無意識なのか、ごろごろと喉が鳴っている。黙っていれば、本当に可愛らしい猫だ。この場合、猫が可愛いのが世界の常識だからであって、別に彼が可愛いというわけではない。彼が可愛いというのならば、その人間は眼科へ行くのが賢明だろう。
 眠たそうにうとうととし始めたディアボロを見ながら、俺はふと好奇心にかられて指を彼の口の中に突っ込む。グッと苦しげに小さく呻いてから、相手はこちらを睨みつけてきた。それを無視しながら、口の中を指で探る。尖った歯と、長い舌があった。それは、猫特有のザラザラとしたブラシのようなものがついている。そういえば、彼も毛づくろいとかするのだろうか。プライドの高い彼だが、動くものを追いかけてしまう辺り、猫としての本能も持っている。もしかしたら、意外と気を抜いた瞬間に体を舐め始めるのかもしれない。
「舌、ちゃんとザラザラしているな」
 指を引き抜きながら呟くと、彼はこちらを見上げた。
「そうか?自分では気が付かなかったが」
 一度、座りなおしていわゆるお座りの姿勢になる。しばらくなにかを考えるように沈黙していたが、やがて笑うようにして目を細めた。立ち上がり、俺の脚の上に前足を乗せたかと思うと、先ほどの表情のままこちらを見上げる。ちらりと、赤い舌を覗かせた。それと一緒に、白い牙も覗く。
「朝は途中まですらも出来なかったからな。この舌で・・・舐めてやろうか?」
 どこを、なんて、聞かなくてもすぐに理解できる。風呂から上がってきたばかりなのに、と思いながら、もう一度その赤い舌を見た。そのザラザラとした表面を持つ舌で舐められれば、間違いなく今までにない快感を得ることだろう。しかし、ディアボロが人間だと頭では理解していても、今はその姿は猫だ。モラルだとか良心だとか、動物愛護精神だとかが、俺の心の中に生まれる。そして最終的に、獣姦と言う言葉。いくら暗殺者といえど、そこまで人の道を踏み外すこともないだろう。
「・・・遠慮しておく。誤って歯を立てられたら洒落にならん」
 事実、本当に洒落にならない。この歳でまだ不能になりたくはない。
 ディアボロがなにか言いたげに口を開こうとしたが、その前に俺は彼を両腕の中に抱きしめてしまう。そのまま、仰向けにベッドに沈みこんだ。猫の体温は高くて心地よい。
「相変わらず、お前は体温が低いな」
「ボスはいつもより、高いようだがな」
 ベッドに横になると、すぐにうとうととしてくる。昼間にあれだけ寝たというのに、十分に眠れそうだ。チームのメンバー全員が、俺は寝汚いという。別にいいではないか。いつまた、緊急に任務が入ってくるのかがわからない。寝れる時に、寝ておかなくてどうする。
 俺の腕の中で、ディアボロが大きく口を開けて欠伸をした。彼もまた、眠そうだ。相当、今日一日だけで疲れたのだろう。肉体的にも精神的にも。
「お休み、ボス。また明日」
「あぁ・・・」
 胸の上にディアボロを乗せてから、腕を伸ばして布団を手繰り寄せる。部屋の電気をつけたままだったが、また起き上がるのがめんどくさいのでそのままにしておいた。誰かが気が付いて、消しに来るだろう。そんなことをうつらうつらと考えているうちに、小さな寝息が胸元から聞こえてくる。それを聞きながら、俺もすぐに眠りについた。

 


END


6部最愛はジョンガリ・Aです。なにあの子、可愛い。三つ編み可愛い。ていうか軍人だけにいい体してますよね。大好き。
そんなわけでディオ×仔ジョンガリです。本当は大人ジョンガリ書きたかったけど、絡む人が見つかりませんでした。
いろいろ捏造注意。当社比でまともで優しいディオがいます。

 

 

 

 この頃はまだわずかにだが視力が残っていた。それでも普通の人間のように、はっきりとものを見分けることができなかった。いつもどこか、うっすらと視界が白くぼやけている。白内障になった原因は、まぁ多分だが、わかっている。まだ幼い頃、母に思い切り目を殴られたせいだろう。最初は右目。その数日後に、左目。俺を殴ったのは故意だが、拳が目に当たったのは故意ではなかった、と思う。
 母はいつもどこか苛々としていて、酒を浴びるように飲んでいた。もしくは知らない男に抱かれていた。父親は知らない。俺が物心付く前に、家から出て行った。それは当然の選択だったので、別に父を恨んだりはしなかった。ただほんの少し、自分も一緒に連れて行ってくれればよかったのにと思った。
 目が見えなくなってきていても、あまり不便と感じたことはなかった。音とか臭いとかに敏感で、風の流れを感じ取るのも得意だった。それさえわかれば普通に生活をすることができた。
 部屋の薄い壁の向こうから、耳障りな母の喘ぎ声が聞こえる。部屋の隅っこで耳をふさいでも、その声は聞こえた。
 今日、家に連れてきた男は、いったいどんな男なのか。興味もないくせに、他に考えることがないのでそんなことを考える。母は面食いだった。だが息子の俺から見ても美人だったから、男には不自由していないようだった。母が家に男を連れてくると安心する。昔の母は俺を殴ったりするだけだったが、最近では他の男と同じように扱うようになった。つまり、セックスを強要してくる。拒否をすると、やはり殴られた。どちらも嫌だったが、殴られるくらいならと俺は母を抱いた。母は美人だが、俺の下で喘いでいる時の母は酷く醜かった。
 急に、隣の部屋から母の声が聞こえなくなった。不思議に思って耳を覆っていた手をどけて、神経を集中させる。かすかに、血の臭いがした。
 立ち上がり、足音を立てないようにして隣の部屋へと向かう。男を連れ込んでいる最中に俺が母の部屋に入ると彼女は怒ったが、それ以上にこの血の臭いがなんなのかが気になった。
 扉の前に立つ。部屋の中には、人の気配が、確かに二つ。血の臭いは、更に濃くなった。ドアノブに手を掛け、ゆっくりと開ける。そして、目の間に広がっている光景を目の当たりにして、大きく目を見開いた。母が口を半開きにしながら、首筋から血を流していた。その血を、まるでワインでも飲むかのように、男が優雅にすすっている。確かに、血を飲んでいたのだ。こちらに背を向ける格好になっているため顔はよく見えない。しかし、喉仏を動かしているのと、血を嚥下している音が不規則に聞こえた。
 俺の気配に気が付いたのか、男がこちらを振り向く。その時はっきりと、彼の顔が見えた。そう、はっきりと見えたのだ。いつものように、霞掛かっているような視界ではない。この男だけは、顔の輪郭から美しい色をした金色の髪の一本一本まで、全てが見えるようだった。
 彼は俺を瞳に映すと、唇をつり上げて小さく笑う。そして、口元に垂れていた血を指先で拭った。
「この女の息子か?悪いな、餌にしてしまった」
 悪い、と言いつつ、心底からそう思っていないような声色だ。別に構わない、という意思を込めて、俺は首を左右に振る。非現実的な光景を目の当たりにしたが、俺は不思議と恐怖というものを感じなかった。ただ、この人のお陰でもう自分は母に殴られないし、嫌なことを強要されずに済むのだと安堵した。
 男は女に負けず劣らず、美しい顔立ちをしていた。どこか冷たい雰囲気を持っていたが、それすら彼の美貌を引き立てている。一瞬で、魅了されてしまった。おそらく俺は彼に今この場で死んで見せろといわれたら、なんのためらいもなく自ら命を絶っていただろう。それほどまでに、絶対的な存在に思えた。
 しかし彼が俺に言ったのは、死ねとかそんな類の言葉ではなく、もっと自分の傍によるようにという言葉だった。霞掛かってはいない、金色に輝く方へ俺は脚を向ける。彼がこちらに手を伸ばしていたので、俺も伸ばした。手に触れる。常人よりも、はるかに冷たいと感じた。
「・・・?」
 彼の手に気をとられていると、自分の胸に違和感を感じる。不思議に思って見ると、そこにはなにか矢のようなものが俺の胸に突き刺さっていた。矢自体はぼんやりとしか見えないが、それを持っている男の手は、やけにはっきりと見える。そんなことを思っていると、口から血を吐いたのがわかった。彼の美しい顔が近づいてきて、俺の口から垂れている血を舐める。その舌の感触を感じながら、俺は意識を失った。


 目を覚ますと、知らないベッドに寝かされていた。周りの景色から、自分がホテルの一室にいるのだということがわかる。しかも、ずいぶんと金のかかりそうな部屋だ。
 どうやら熱があるようで、頭がぼんやりとしている。あの矢に刺されたときの傷のせいだろうか。そう思って、胸に手をやる。ズボンははいていたが、服は着ていなかった。そしてなぜか、刺されたはずの傷跡があとかたもなくなくなっていた。あるとしたら、母に殴られてできた痣ぐらいだ。
 どうしてこの部屋に寝かされているのが知りたくて、起き上がりたかったのだが、体がだるくて起き上がれない。この熱は、怪我のせいではないのだろうか。時間の感覚がなくなっていて、自分がどれくらい寝ていたのかもわからない。唯一わかることは、この部屋以外にもまた別の部屋があって、そこに人が一人いるということ。人の気配と、その者のものであろう足音が聞こえる。それは、だんだんとこちらに近づいてきていた。
 扉が開く。入ってきたのは、あの時の男だった。目を開けている俺を見て、彼は更にこちらに近づいてくる。
 相変わらず、彼だけははっきりと見ることができた。美しい容姿と髪の色。いつまでも見つめていたかった。
「どうだ?スタンド使いになった気分は」
 ベッドサイドに腰掛けながら、彼がこちらの顔を覗きこんでいる。熱のせいで汗をかき、額に張り付いている前髪を指先で梳いてくれた。
「スタンド使い?」
 聞きなれない言葉に、俺は尋ね返す。
「矢で、胸を射抜かれただろう?あれは人の未知の力を引き出してくれるものだ」
「未知の力・・・」
「そう。ただ、誰もが誰も、そのスタンド能力を手に入れられるわけではない。お前は、選ばれたのだ。そうでなければ、今頃死んでいただろう」
 スタンドを見せてごらん、と彼は優しげな声色で言った。しかし、なにをどうしたらいいのかわからず、困惑する。彼を失望させたくはなかった。しかし、できないものはできない。俺が困っていると、彼は小さく笑った。しょうがないな、という感じだった。しかし、失望したような様子はない。
「まだ、精神状態が不安定なんだろう。スタンドというものは、精神力によって大きく左右されるからな。だがそのうち、なにかしらの生命エネルギーのビジョンが見えてくる。自分のスタンドがどんな能力なのかを理解したら、それを極めろ。そして、私の力になって欲しい」
「あなたの力に?」
 帝王になるのだと、彼は言った。自分は帝王になるから、それをサポートしてくれる部下が必要なのだと。部下を探すために、今は世界中を回っているらしい。俺の住んでいるアメリカに立ち寄ったのは、ほんの偶然だ。しかし必然でもある。運命はいつも、彼の良いように回っているらしい。
 信じられないような思いで、彼の話を聞いた。とてつもなく、スケールの大きな話だ。しかし彼ならば、それも可能ではないかと思える。彼の言葉には、聞く者を納得させるような説得力と凄味があった。そして、そんな彼に力になってくれと言われて、俺は心底から喜んだ。彼のために、生きられるのだ。
 一度、言葉を切った彼は、俺の肌に指を這わせる。その冷たい指先は、労わるようにして俺の体の痣の上を何度も撫でた。少しくすぐったいと感じながら、俺は口を開く。
「なんで、俺を矢で刺したんですか?」
 彼は考えるように、というよりも、言うか言うまいか悩んだようにしばらく沈黙した。
「・・・お前が私に手を差し出したとき、袖口から殴られたような痣が見えた」
「母にいつも、殴られてたんです」
「それにすぐに気が付いたからだ」
 母は俺にセックスを求めるようになってから、俺の顔を殴らなくなった。顔に酷い痣があったら、興醒めだからだろう。その代わり、いつも体のどこかに俺は痣を持っていた。
 痣が見えていなかったら、母と同じように俺の血も飲んでいたと彼は言う。
「俺も昔、父親に虐待されていた。だからお前まで、辛い思いをしなくてもいいんじゃないかと、思っただけだ」
 自分の下で働かせるつもりで、矢を刺したらしい。それは一か八かの賭けだったはずだ。先ほど、彼自身がスタンド使いには誰もがなれるわけじゃないと言っていたのだから。そして彼は賭けに勝ち、俺は生き残った。
「私はこれからエジプトへ行く。屋敷があるんだ。もうそこには、特に優秀なスタンド使いが私のために集まっている」
 お前はどうする、と彼は静かな声で言った。
「お前は私に絶対の忠誠を誓い、私のために生き、そして私のために、死ねるか?」
 再度、彼が俺の顔を覗きこむ。はっきりと、俺の瞳に彼の姿が映った。
 彼は俺の光だ。そう強く思う。俺の目は、近いうちにほとんど見えなくなるだろうということを確信していた。しかし彼ならきっと、暗闇の中でも俺を導く光となってくれるはずだ。それに初めて彼を見た時すでに、俺の心は彼に捕らわれていた。拒否をする理由なんて、どこにもない。
 俺はのろのろと腕を動かして、彼の手を取った。
「あなた様のお心のままに」
 身も心も、命さえも、あなた様に捧げましょう。
 恭しく彼の指先にキスをする。その冷たさは他のどんな人間の体温よりも俺を安心させた。

 


END

 

 

 

ジョンガリは元軍人だから、子供の頃から見えなかった、ってことはないんだろうけど・・・ね。
この頃のジョンガリは13歳とか12歳とかそのぐらいのはずです。この時すでにディオを心の支えにしてたってことは、相当悲惨な子供時代があったんだと思い、こんな話に。
この他にもホル・ホースとジョンガリは仲がよかったんじゃないかとか、ホル・ホースの勧めで軍隊に入って、ライフルとかの扱いを修行してる間にディオが死んだんじゃないかとか、いろいろ妄想してます。
6部の時点でホル・ホースがまだ生きてれば、きっと二人はまだ連絡を取り合ってたと思います。
で、プッチとはエジプトにいたときからの知り合い。表面上は普通だけど、実際は仲が悪かったと思います。主にディオをめぐって。

6部2巻で承太郎が徐倫にジョンガリの写真を渡した時、なぜ彼が半裸なのかが物凄く気になる。


高校生早人×吉良です。なんかもうパラレルでいいや、と思いました。
普通に吉良とか生きてます。
吉良受けと謳いつつカプっぽくはないです。ここから進展させていければいい・・・な。

 

 

 

 実父を殺した殺人鬼と一緒に住み始めて、数年が経った。その間、何事もなく僕と母が過ごせたことが奇跡のように思う。いや、よく考えたら必然か。あの男は、殺人の衝動を抑えきれない時があるくせに、普通の人間よりも平穏に暮らしたいと願っている奴だから。だから僕達に手を出して世間から騒がれるようなことがあっては困るのだろう。
 僕の家族は誰から見ても幸せそうに映るはずだ。しかしそれは表面上だけにすぎない。母はあの男と一緒にいられて本当に幸せそうだけど、僕と彼の関係はぎくしゃくしている。当然といえば当然なんだけど。相手は父の仮面をかぶった他人だし、父を殺した張本人だし。常にお互いにお互いを探りあいながら、この数年間生きてきた。そろそろそんな関係にも慣れてきた僕は、いつまでこんな関係が続くのだということも考えなくなった。むしろ、彼とのこの関係を楽しんでいる自分がいることも、事実だ。
 この春、僕は高校生になった。エスカレーター式の学校をそのまま進み、ぶどうヶ丘高校の生徒となった。
 いまだに屋根裏部屋で飼っている猫草にキャットフードを与える。数年も育ててやればこの生き物も人間に懐くようで、日に当てても僕とあの男には攻撃をしなくなった。それどころか、喉と思われる部分を撫でてくれと甘えてくることもたびたびある。こうやってみればなかなか可愛いので、猫好きの母さんにこの生き物の存在を明かせないのが残念だった。
 屋根裏部屋から降りてきながら、腕時計を確認する。これは、高校の入学祝にとあの男が僕にくれたものだ。まるで体の一部のように、僕の手首に馴染んでいる。
『あぁ、やはりよく似合っているな。そのまま切り落として、飾っておきたいぐらいだ』
 満足げにそう呟く彼の台詞を、僕はきっと一生忘れないだろう。本当に、頭のおかしい奴だと思う。
 あと5分ほどで午前7時となる。母はもう起きて、朝食の準備をしているはずだ。ここ数年で、母は飛躍的に料理の腕を上げた。嬉しいことは嬉しいのだが、あの男のためだと思うとどこか切ない。父に申し訳ない気がした。
 一度軽くノックをしてから、返事を待たずに父母の寝室へ入る。そこには、ちょうどネクタイをつけようとしている彼がいた。
「残念、起きてたんだ。寝首をかいてやろうと思ったのに」
「ストレイ・キャットはどうした?」
「ちゃんと餌をやってきたよ。最近、運動不足なんじゃないの?肌の艶が足りない気がする」
「そうか」
 僕の言葉をスルーされたが、別に僕自身も本気で言っているわけではないので気にしない。これは最早、挨拶のようなものだった。そして、僕が彼に対して殺す気があるのだと示すためでもある。
 彼の持っている趣味の悪い柄のネクタイを奪うようにして取り、首に撒きつける。なにも言われなかったので、ゆっくりとした動きでネクタイを結び始めた。手に彼の視線を感じる。手が綺麗なら、男でも女でも関係がないということは、ずいぶんと前から知っていた。きっと僕が彼の息子ということになっていなかったら、今頃殺されているのではないかと思う。
「昨夜は、ずいぶんと楽しそうだったね。今度は、どんな子から手を奪ってきたの?」
 僕が言うと、彼はわかるかわからないか程度に眉をあげた。そして苦虫を噛み潰したような顔をする。
「また隠し撮りか?カメラは全て破壊したと思っていたが」
「あんた最近、爪が伸びるスピードが速かったから、また仕掛けておいたんだよ」
 爪の伸びるスピードが異常に速い時、彼は殺人の衝動を抑えきれなくなるというのも、もうずいぶんと前から知っていることだった。
 玄関とこの寝室に、最低限の数の隠しカメラを仕掛けた。ちょうどその次の日の晩に、彼は懐に手を隠して会社から帰宅した。母が眠ってしまった後で、わずかな時間、その手と戯れていた。どんな風に、とは、ちょっと口からは言えないが。その後に、あの例の爆発の能力で手を跡形もなく消していた。これで、証拠隠滅になる。しかし僕がその光景を撮っていたから、あまり意味はないのだが。
「この前ので、人を殺したのは何人目だった?そろそろ裁かれる覚悟をしておいた方が、いいんじゃない?」
「誰が裁くんだ?法か?もしお前が撮り溜めているテープを警察に渡そうとするのなら、私はお前を殺すぞ。もちろん、事故死に見せかけてな」
「法じゃあ、無理だろうね。あんたのスタンドとかいう能力は、理解されないだろうから」
 言いながら、結んでいたネクタイをきつく締める。首を絞められて、彼は苦しそうに小さく息を漏らした。そんな彼を真正面から見据える。彼もまた、こちらを見返してきた。その顔に怯えはない。余裕げだ。そうだろう。彼にはスタンド能力があるのだから。どう考えたって、殺されるのは僕の方だ。でも。
「裁くのは法でもなく、他の誰でもない。僕だ」
 ネクタイを締め上げている僕の手を彼がつかむ。その上から、宝石を触るような手つきで自分の手を重ねた。彼は僕をみながら、おかしそうに唇を歪めて笑う。
「お前が、私を?馬鹿げてる。もし私を殺そうとするのなら、すぐにでも返り討ちにしてやろう。だが安心して欲しい。この美しい手だけは、腕時計をつけたまま綺麗に残しておいてやるから」
 詠うように言う彼に、僕は彼とまったく同じ笑みを向けた。歳を重ねるたびに、僕の顔は父に似てきている。笑い顔が一緒だと、母がよく言っていた。
「覚悟をしておくといいよ。僕はただたんに数年間、あんたとともに暮らしてきたわけじゃない。ずっと、観察してたんだ。僕はあんたの行動パターンを知っている。あんたが自分ですら気が付いていないような癖を知っている。あんたがどんな時に、一番気を緩めるのかを知っている・・・。僕の前で少しでも油断をしてみろ。その時、僕はあんたを殺すだろう」
 彼の笑みが引きつった。そして、小さくため息を付く。
「私の平穏な日々はどこに行ってしまったんだ・・・」
「殺人鬼に平穏なんて、まさか、でしょ?そんなもの、はじめからないよ」
 彼の手を振り解きながら、中途半端になっていたネクタイをちゃんと結んでやる。几帳面な彼のために、まっすぐに美しく。こうやってコミュニケーションの時間を増やすためだけに、ネクタイの結び方を覚えたのだと知ったら、彼はどんな顔をするだろうか。きっと、嫌そうな顔をするに違いない。それを思って、僕は気分がよくなった。
 結び終わると、ちょうど母が僕達を呼ぶ声が聞こえた。どうやら、朝食の用意ができたようだ。それに返事を返しながら、僕は彼の手を引く。
「朝ごはんができたみたいだよ、『父さん』」
「そうだな、『早人』」
「次の日曜日は、猫草を連れて一緒にピクニックにでもいかない?少しは日に当ててやったほうがいいと思うんだ」
「あぁ」
 そんな会話をしながらリビングまで行く。仲がいいのね、と母はにこにこと機嫌良さそうに言った。そんな彼女に、僕は意味深な笑みを向ける。
 僕達の腹の探りあいと、親子の演技はまだまだ続きそうだった。

 

END

 


ある意味仲のいい擬似親子。
需要・・・あるの?


荒木荘ネタです。もうやりたい放題。
吉良もボスも受けっ子なのでこの二人はカプにはならないなぁ、と思いました。
吉良受けが書きたいけど相手がみつかりません。荒木荘だとディエゴ辺りかな・・・。でもディエゴの性格がわからん。

 

 


 17時ぴったりに出社した吉良は時折、買い物をしてからアパートへと帰る。それは自分のためだけの買い物だったり、今夜の夕食はなににしようかと考えながら食材を買ったり。まるきり主夫だ。なぜ自分がこんなことをしなくてはいけないのだとよく思うが、そうでなければ食事を作る人間がドッピオしかいなくなってしまう。昼間は家事も彼に任せているため、食事まで作らせるというのは気がひける。
 あの引きこもり共が少しでも家事を手伝ってくれたらいいのに、と思いながら、今日はアパートに向かって真直ぐと足を向ける。しかし、あるものを見つけて目が止まった。そしてしばらく考えてから、その目に止まったものを買った。
「お帰りなさい、吉良さん。今日もお疲れ様でした」
 玄関を開けると、ドッピオが出迎えてくれた。それに挨拶を返しながら、ちょうどいい、と思う。
「いきなりで悪いんだが、ディアボロと変わってくれないか?」
「ボスですか?ちょっと待ってくださいね・・・」
 言ってから、ドッピオはズボンのポケットから携帯電話を取り出す。そして自分で発信音を言ったかと思うと、ディアボロと会話をし始めた。いつ見ても、シュールな絵だと思う。しかしこれは、今の人格がドッピオだからまだ可愛げがある。ディアボロの姿でやられると、殺意すら覚える時があった。
 電話を切ると、申し訳なさそうな顔でドッピオが吉良を見る。
「すみません。なんかボスが、『まだ私の時間じゃない』、とか言って、拒否してます」
 あの引きこもりが。うっすらと額に青筋を立てながら、先ほど買ってきて紙袋に入れられたそれをぐしゃりと握る。そして、落ち着け、と自分に言い聞かせた。怒るな。平穏に、ことを運ぶんだ。
「・・・残念だな。ディアボロに土産があるというのに」
「そういうことは先に言え」
 いきなり、少年の口から似つかわしくない低い声が聞こえたかと思うと、相手は上着を脱いだ。土産の一言であっさりと出てきたディアボロを目の当たりにして、吉良は今度こそはっきりと額に青筋を立てる。やっぱ腹立つ。人が昼間にさんざん働いているというのに、この引きこもりが偉そうにしやがって。一発ぐらい殴っても大丈夫だろう。むしろ、殴らせてくれ。
 そう思い、スタンドを発現させる。相手がなにか反応を示す前に、キラー・クイーンで彼の顔面を殴った。綺麗にヒットしたせいか、ディアボロの体は宙を舞い、そしてどさりと地面に落ちる。そのまま、動かなくなってしまった。
 まさかまた死んだのかと思いながら、レクイエムのせいで死にやすい体質(?)となっている彼に近づく。彼の横にしゃがむと、こちらに顔が見えるようにさせた。
「いきなりなにをするだァーッ!」
 ぼたぼたと鼻から血を流しながらディアボロが怒鳴る。珍しく、生きていた。普段はすぐに死ぬくせに。もう少し強く殴っても大丈夫だっただろうかと思いながら、吉良は胸ポケットからハンカチを取り出した。
「すまないな。急に、お前に対して腹が立って。それよりも土産だが・・・」
 乱雑にディアボロの鼻を拭ってやって、そのまま血がついたハンカチは彼に渡す。人の血が付いたハンカチなど、もう自分が使用する気にはなれなかった。
 紙袋の中に手を入れ、がさがさと漁る。ディアボロはそれを見ながら、上半身だけを起こした。
「会社の帰りに、いい物を見つけたんだ。お前はいつも寒そうな格好をしているから、どうかと思って」
 言いながら取り出したのは、薄い黄色の毛糸で編まれ、中央に下地よりも濃い黄色のアヒルが刺繍された腹巻だった。ちなみにくちばし部分は赤だ。
 それを見て、今度はディアボロがスタンドを発現させる。吉良に殴りかかろうとしたが、その前に相手のスタンドで拳を弾かれた。
「貴様!こんなもののために私は殴られたというのか!」
「こんなものとはなんだ。私はお前が寒いだろうと思って、わざわざ買ってきてやったんだぞ。貴様、腹巻の暖かさを知らんのか?」
「嘘だ!どうせアヒルさんが刺繍されてたから買ってきただけだろう。でも自分で使用するのが恥ずかしいから、私に着させる気なんだ」
 確信を突かれて、吉良は小さく舌打ちをする。頭だけはよく切れるから、本当に腹が立つ。しかしここは、アヒルを愛でるためになんとか彼をその気にさせなければいけなかった。
 一度息を吐き、自分を落ち着かせる。
「仮にそうだとしても、これは私の優しさだ。そんな寒そうな格好をして、風邪を引いたらどうする?」
「私に腹巻を勧める前に、カーズに勧めたらどうなんだ?褌一つで歩き回っているじゃないか」
「知っていると思うが、あいつは品性の欠片もないラッコ派だ。あいつにアヒルさんの腹巻をさせることは、全てのアヒルさんを侮辱したことになる」
「意味がわからん」
 急に力説され、ディアボロは鬱陶しげに言葉を返す。その反応に吉良は一度ムッとしたような顔をしたが、やがて気を取り直すように咳払いをした。
「まぁ、お前が風邪を引きたいというのなら私は止めはしないさ。しかし、ドッピオはどうなる?朝から晩までヒキニート達のために家事をしてくれているというのに、その上風邪まで引いてしまったら可哀想じゃないか」
「それは・・・」
 彼の言うことが正論なので、ディアボロは口ごもる。追い討ちとばかりに、吉良は紙袋からもう一つ腹巻を取り出した。柄は同じだが、サイズが最初に出されたものよりも若干小さめだ。
「ディアボロとドッピオではサイズが合わないと思って、この通り二つ買ってきてやった。お揃いだぞ?」
「くっ・・・しょうがない。いいか、ドッピオのためにしょうがなく、その恥ずかしいものを身に着けるんだからな」
 言いながら、ディアボロは吉良の手から奪うようにしてアヒルさん腹巻を取る。その後、結局なんだかんだでとても暖かいと、なにげにアヒルさん腹巻を重宝しているディアボロとドッピオがいた。

 


END

 

 

荒木荘の吉良はアヒルさん派。カーズ様はラッコちゃん派なんだそうです。
アヒルさん腹巻をしているボスとか超見たい。


はじめて書くSBRの小説が馬の話だとかどうかしてると思う。
ちなみに擬人化ではありませんので逆に注意。

 

 

 毎日のように走り続けているため、彼は酷く疲れているはずだった。それでも己の主人には悟られないように、彼は足を動かしていた。大丈夫だろうか、と思う。相手が若いならともかく、彼は初老といえる年齢で自分よりもはるかに体に負担をかけているはずだった。足に疲労がたまりすぎて、骨折したなんてことがあっては、洒落にならない。かといって、走らないわけにはいかない。ならば明日は少し彼を気遣って、少しペースを落として走るべきだろうか。
「そんな必要は、ない、よ」
 尋ねると、彼は穏やかだが有無を言わさぬ声色で言った。
 今夜は野宿だった。といっても、馬である俺達にはあまり関係のないことだが。ただ、先ほどまでジャイロが、たまにはふかふかなベッドで眠りたいとぼやいていた。そんなぼやきを聞きながら、俺達は地面に座りこんでいた。
「必要はない、って・・・ねぇ。おたく、自分の体のこと考えてんのか?」
 俺のよりも幾分か細い足を見ながら続けて尋ねる。今日だって、走ってる最中はとても辛そうだったじゃないか。俺ですら、多少なりとも辛いと感じた。ならば、彼はそれ以上に感じていることだろう。
 若さと体力が取り柄のような俺に言われて、ムキになっているとでもいうのだろうか。しかし、彼はそんな子供じみた性格はしていなかったはずだ。どちらかというば大人で、自分の身をわきまえている。必要のないところででしゃばるタイプではない。ならばなにが、彼をそんなにかたくなにさせているのだろうか。
「自分のことも、まぁ、それなりには、考えている。でもそれ以上に、マスターのことを、考えているんだ」
 視線をジョニィに向けながら、彼は言った。その瞳には、主人に対する敬愛が込められている。
 わからないな、と俺は小さく呟やいた。馬として、主人と一緒に走りたいというのはわかる。競争馬なら、レースに出て優勝したいとも願うだろう。しかしそれは、自分の体があってこそできることだ。怪我をしてしまっては、それらができなくなってしまう。馬として、それ以上に辛いことはないように思えた。俺達は走るために存在しているのだから。
 それにジョニィと彼は今参加しているレースのはじまる直前に出会った。俺とジャイロのように、産まれた時から一緒にいるというわけではない。出会って間もないような主人に、どうしてそこまで尽せるのだろうか。
「君は、まだ、若いからわからないだろう、けど・・・」
 ジョニィから視線を外し、彼は俺を見た。その瞳は、どこか寂しげだ。
「歳を取ると、ね、走る機会が、減るんだよ。私はまだ、たくさん走りたいのだけど、そうもいかないんだ」
 競争馬じゃなくて、種馬にされちゃったり、ね。そう彼は続けた。
 本人からちらっと聞いた話では、彼は本当はすでに競争馬を引退させられていたらしい。それに納得がいかなくて、人間に歯向かい続けていたから、暴れ馬だとかいじけた馬だとかいう烙印をおされて、色々な所に転々と売り回されていた。今の穏やかな性格の彼からは想像がつかない話だ。
「私は、今のマスターに、とても、感謝しているんだ」
「もう一度、走る機会を与えてくれて、か?」
 俺の言葉に、彼はうなずく。
「最初は、正直、またすぐに売られるのだと、思っていた。でもマスターは、何度、私に蹴られても、傷だらけになりながら、私に乗ってくれた。私を、選んでくれた」
 深く感動をしているような声色だった。
「私は、もう一度、走る喜びを教えてくれたマスターに、恩返しをしたいんだよ。できるかぎり、彼の思っているとおりに、走ってやりたいんだ」
「・・・・・・」
「だから、ペースを落とす、なんて、言わないで欲しい。私はただ、マスターの意志に従い、走るだけなのだから」
 強い意志を込めた瞳で見つめられる。意志の強さと、優しさを持った彼。結局のところ、俺はいつも彼に勝てないでいた。ここぞというところで、抜かれてしまう。体力もスピードも、彼より劣っているつもりはないのに。きっと、彼の意志よりも俺の意志が弱いからだろう。主人のためだとか、走ることへの執着だとか。彼よりも貪欲にならなくては、俺は彼を越えられない。
 やっぱり、俺はまだまだガキなんだな、と思った。今のところ、彼を越えられる気がしない。年季が全然違う、ということだろうか。歳の差だけは、どう頑張ったって埋まりはしない。
「・・・わかった。もう言わない」
 彼の意志を、俺は曲げることはできない。
「だが、体だけは本当に大事にしろよ。あんたが壊れて困るのは、ジョニィだからな」
「うん、わかってる」
 本当にわかっているのか、はなはだ疑問だったが、俺はそれ以上なにも言わなかった。言っても、無駄なのだ。この頑固もののオジンは。
 パチパチと、焚き火の燃える音が聞こえる。火の番は、今はジャイロがしていた。暇なのか、時折なにやら俺達に話しかけてくる。おたくら、仲が良さそうだな。ジャイロはそう言った。寄り添い合うようにして会話していたから、そう見えたのだろうか。実際に仲が良いのだと言ってやりたかったが、言葉を返したところで人間に俺達の言葉が通じるわけがないので、俺はちらりとジャイロを一別してから視線を元に戻す。俺を仲間はずれにするなよな。ジャイロは俺の態度に不満げに言った。知るか、そんなこと。せっかくの彼との時間を邪魔するな。
「明日もだいぶ、走るだろうから、もう寝なよ」
 もう少し、ゆっくり会話を楽しみたかったが、小さな子供を相手にするように、彼は言った。彼はよく、俺を子供扱いする。それにムッとしてしまう、俺も俺だが。
 たぶん、普段から俺が彼を年寄り扱いするから、その腹癒せなのだと思う。まぁ、お互い様だろうか。
「子供扱いすんなよ」
「だって、私から見たら、君はまだまだ、子供だもの」
 楽しげに言う。歳の差というのは、本当に鬱陶しい。むしろ憎い。俺は彼と同じ立場でありたいのに。
「あぁ、それとも、子供には、添い寝をしてあげなきゃ、ダメ、かな?」
「じゃあ、そうしてくれ」
 俺がうなずくと、彼は冗談で言ったつもりだったのか、驚いたような顔をした。それを見て、少しは気分がよくなる。まぁ歳下なら歳下として、彼に甘えられるからいいか、とか、単純に思ったりした。
「おやすみ、ヴァルキリー。明日も、頑張ろうね」
「あんたは無茶をしすぎるなよ、スロー・ダンサー」
 彼の方に体を寄せながら、俺は瞳を閉じて眠りについた。

 

END

 

 


馬可愛いよ、馬。
そのうちホット・パンツのとかディエゴの馬とかも書きはじめるんだと思います。
スロー・ダンサーは総受け。


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1月14日生まれの新潟県民。

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