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おっさんと人外を中心によろずっぽく。凄くフリーダム。
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以前に書いたドッキリ食事会トリディア(…)の続きです。多分。
ジョルノとトリッシュは5部のSコンビ。・・・だと勝手に思ってます。

 

 


 トリッシュとディアボロが一緒に住み始めてから一ヶ月ほどが経った。最初はぎくしゃくしていた二人も、最近ではこの生活に慣れつつあるらしい。しかしそうなってくると面白くないのがジョルノだった。なにか面白いことが起こると期待して、わざわざ家まで建てたというのに、何事もなく日々がすぎていくなんて。
「つまらないです」
「別に私達はあんたを楽しませるために生きてるわけじゃないから」
 不満げに言うジョルノに対し、トリッシュは手元に広げている本から目を逸らさずに冷え冷えとした口調で言う。そもそも普通に生活するだけなのになにか面白いことが起こるとか、ありえないだろう。もしそんな頻繁になにかが起こるようならば、泣いて頼まれてもディアボロとは一緒には住まない。自分がいきなり一人暮らしをしたいと言い出したらあの男は本当に泣きそうだな、とトリッシュは本をめくりながら思った。彼と暮らすのに不満はないが、多少過保護すぎる気がする。他の家庭の父親が、どうなのかは知らないが。
「さっきからなにをそんな熱心に読んでるんですか?・・・ワイン?」
 ジョルノがトリッシュの手元を覗き込む。彼女が読んでいた本には、ワインについてなにやら事細かに書かれていた。意外、といえば意外だ。彼女は普段、酒など飲まない。というよりも、自分の気に入ったミネラルウォーター意外は積極的には飲もうとしない。どういう心境の変化かと、ジョルノはトリッシュを見る。彼の視線に気が付いたトリッシュは、一度本から目を上げると、小さくため息を付いた。
「・・・あの人、ワインが好きみたいだから、少し勉強をしてみようと思って」
 その言葉に、ジョルノはなるほど、という顔をする。
「ボスと仲が良いみたいで大変結構です。ホント、嫉妬する」
「せめて口に出して言うのは本音か建前かのどっちかにしてくれる?」
 やはり冷え冷えとした口調で言いながら、トリッシュは本を閉じた。この変人の相手をするのは疲れる。このぐらい変人でなければ、巨大な組織であるパッショーネのボスなんてやってられないのだろうが。ということは、以前のボスだったディアボロも変人なのだろうか。そう思って、トリッシュは自分の考えを否定できなかった。ボスという立場を維持するためだけに引きこもりになっていたのだ。十分、変人の域だろう。
 彼はしばらく前まではジョルノの能力によって永遠に死に続けていたが、組織に優秀な人材が欲しいというジョルノ自身の願いでまたパッショーネに戻ってきていた。というよりも、無理やり戻されていた。本人はジョルノの下で働くなど嫌だと散々渋っていたが、結局トリッシュに説得されたりジョルノに脅されたりして、今に至っている。
 もちろん、ほとんどの人間は以前のボスがまだ組織にいるなんて知らない。ディアボロの存在は隠されていて、彼もまたそれを望んでいる。デスクワークのような自宅で出来る仕事を押し付けているため、今も昔も引きこもりということに変わりはなかった。彼のスタンド能力が必要な任務がある時は、トリッシュとコンビを組ませているが、そんなこともほとんどない。
「ボスは家ではどんな感じですか?相変わらず、アルコールの力を借りないと娘とまともに会話ができないとか」
「流石にもうそれはないわね。普通に会話する程度は慣れたみたい。気を使われるとこっちも気を使っちゃうから助かるわ」
「あなたに気を使うなんていう神経があったんですか?初対面の男に服を脱がせて、それで手を拭いたあなたが」
「・・・そうね。とりあえずジョルノは人の振り見て我が振り直せ、という言葉を辞書で調べることをお勧めするわ」
「さぁ?なんのことでしょう」
 白々しい。トリッシュはジョルノを睨む。しかし相手は涼しい顔をしたままそれを流した。馬が合わないと思う、この男とは。以前ミスタから自分とジョルノは性格…というか、行動パターンが似ていると言われたことがあるが、それはタチの悪い冗談だとトリッシュは思っていた。実際はあながち冗談ともいえないのだが。
 ジョルノは自分がボスとなった今も、ディアボロのことをボスと呼んでいる。トリッシュは嫌がらせてそう呼んでいるのだと思っていたが、以前に本人自身が違うと否定していた。
『別に名前で呼んでもいいんです。でも、彼の名前ってなんか舌を噛みそうですよね。だから、ボスって呼んでるんですよ』
 イタリア人ってなんでこんなめんどくさい名前なんですかね、なんて、本当にそう思っているのか疑問に思うくらいいつもと変わらない口調で言っていた。それを聞いて、トリッシュは彼の本名はハルノという名前なのだと以前聞かされたのを思い出す。彼は半分日本人の血が入っているらしい。日本人の名前の方は舌を噛むことはなさそうだが、言いづらい。これが文化の違いかと、トリッシュは思った。ともかく彼の言い分は、ディアボロなんかのために万が一にでも舌を噛みたくない、ということなのだ。そんな理由だと、逆に嫌味でボスと呼んでいた方がまだましのような気がする。
「今日、家に帰る時にワインを買って帰ろうと思うんだけど、なにかお勧めとかはないの?」
「ボスのために買うんですか?」
 気を取り直して尋ねると、逆にジョルノが尋ね返してくる。なんとなく、面白くなさそうな顔だ。自分とディアボロが一緒に住むのを前面バックアップすると言ったのはどこの誰だと、トリッシュは内心で相手を罵った。自分に嫉妬するぐらいなら初めからあんなことをしなければよかったものを。以前にレストランで大衆の面前で恥をかいたことを思い出し、無意識にジョルノを睨んでしまう。それに気が付いて、トリッシュは一度目を閉じた。自分に落ち着くように言い聞かせる。ここで彼を責めてもしょうがない。
「家事とか家のことはすべて任せてるから、少しは労わってやってもいいでしょう?そうじゃなくてもただでさえあんたからたっぷり仕事を押し付けられてるのに」
 後半は嫌味っぽく言ってやる。本当ならジョルノが処理しなければいけない重要な書類の類も、ディアボロは押し付けられていた。本人は今まで自分がやっていたことなので、あまり苦に思ってはいないようだが。
「家事?あの人、料理とかも作ったりするんですか?」
 妙な所に食いついてきたジョルノを不審に思いながらも、トリッシュは頷く。元々人を寄せ付けずに一人で引きこもっていたため、自然とそんな家事をこなす能力が身についたのだろう。正直、彼の料理はそこら辺の店で出てくる料理よりも美味しい。
「僕のよく行くお店に、良いワインが置いてあるんです。そこでワインを買ったら、行きましょう」
「どこに?」
「もちろん、トリッシュの家にですけど」
 あまりにも自然に言われ、一瞬あぁそうか、と納得してしまいそうになった。一言だって、家に来いと誘ってはいないのに。
「ジョルノも来るの?」
「もちろんです」
「誘ってないけど」
「僕が勝手に行くだけなので、気を使わないでください。夕食をご馳走してくれるだけで結構です」
 なんて図々しい男だ。トリッシュはディアボロが料理を作ってくれるのだと言ったことを後悔した。よく考えれば、自由奔放でディアボロ大好きなジョルノがその話を聞いて黙っているはずがない。なんとかこの男を諦めさせる方法はないかと、トリッシュは頭を捻った。
「聞いて、ジョルノ。あの人は凄くあなたのことが嫌いなのよ。もう顔も見たくないと、いつものように言っているわ」
「ボスが僕のことを嫌いなのと、僕がトリッシュの家に行くのとに、なんの関係があるんですか?」
 心底不思議そうな顔で言われてしまう。この男にはなにを言っても駄目なのだ。トリッシュはそう思った。
 もう一度、今度は深いため息を吐く。自分にこの状況は回避できそうにない。トリッシュは心の中で自分の帰りを待っているであろう父に、ジョルノを家に連れて帰ってごめんと謝った。


「お帰り、とり・・・」
 出迎えてくれたディアボロは、最後まで言い終わる前に、玄関にいた人物を見て固まる。
「チャオ、ボス」
 ジョルノに挨拶を返さずに、数秒間固まっていたディアボロは、ぎこちなく視線を動かしてワインボトルを抱えているトリッシュを見た。
「トリッシュ、なんだ、コレは」
「たぶん、見ての通りだと思うわ」
 娘からそう返され、ディアボロはもう一度ジョルノを見る。そして、頷いた。
「わかった。塩を取ってくるからそこで待っていろ」
「えぇ。出来れば粗塩でお願い」
「粗塩か・・・うちにあっただろうか」
「もう、お二人とも冗談がきついですね」
 親子の会話を意に介した風もなく聞きながら、ジョルノは他人事のように言う。結局、このあと本当にディアボロが粗塩を持ってきてジョルノに投げつけていたが、彼はそれをすべてG・Eでテントウムシに変えていた。

 

END

 

 

主夫キャラが大好きです。料理とか出来る男の人って良いですよね。
ちなみに普通の塩より粗塩の方が魔よけに効果があるそうです。

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うちのスロー・ダンサーはジョニィが大好きだけど、ジョニィはどうなのかという話。
さり気無くジョニジャイも目指してみたけどただたんにジョニィがジャイロを虐めてるだけになりました。うちのジョニィは三大S主人公のうちの一人だからしょうがない(残りの二人はジョルノとジョナサン)

 

 

 

 頬に冷たいなにかが軽く押し当てられた。かと思えば生暖かい風が吹いたように感じる。ジョニィはしばらく瞳を閉じたまままどろんでいたが、長いことそれが続いて、ようやくうっすらと目を開けた。もうすでに見慣れてしまった緑色をした優しげな瞳と目が合う。頬に押し当てられていたのはどうやら彼の鼻先のようだ。
「おはよう、スロー・ダンサー」
 まだ半分眠っているようなゆるゆるとした口調で言うと、相手は挨拶を返すように長い舌を出して頬を舐めてきた。
「くすぐったいよ」
 そう言いつつも、自分に甘えてくる初老の馬に思わず頬が緩んだ。上半身を起こしながらS・Dの頬を撫でてやる。馬をあやしてやりながら辺りを見渡せば、すでにジャイロが起きて朝食の支度をしていた。一緒にレースをしているうえで、国が違うというのに互いの食の好みがそれほど違っていないというのは非常に助かる。
「ジャイロ、そこの泉まで顔を洗ってくる」
「俺には挨拶なしかよ」
 彼の言葉を無視しながら車椅子に乗り、すぐ傍にある泉まで向かう。するとなにも言っていないのにその横に寄り添うようにしてS・Dが付いてきた。
 車椅子を動かしながら、この辺りの水辺は今向かっている泉だけだから他の選手も近くにいるかもしれないな、とジョニィは思った。ディエゴにさえ出会わなければそんなことは別に気にすることもないのだが。どうもジャイロの馬とディエゴの馬は仲が悪いらしく、出会うといつもお互い興奮してしまっている。それは馬にとって無駄な体力を消費することになるので、極力ディエゴとは鉢合わせしないようにしていた。しかしジョニィの見る限りではS・DとS・Bは仲が良いように見える。というか、S・Dはレース中に出会ったどの馬とも相性が良いようだった。今まで多くの馬を見てきたが、そういう馬も珍しいな、とジョニィはS・Dの方を見ながら思った。
 結局、泉では誰とも会うことはなく、ジョニィはジャイロのいるところへ戻る。その頃には、すっかり朝食の準備は済んでいた。用意された朝食をジャイロと一緒にとる。馬達の方は少し離れたところで地面に自生している草を食んでいた。
「お前の馬、ずいぶんと懐いてるよな。毎朝起こしてくれるし。俺なんて四年も一緒にいるヴァルキリーからは一度も起こされたことなんてないってのに」
 横目でヴァルキリーの方を見ながら言う。しかし相手はまったく主人の言葉を無視して、S・Dとともに朝食をとっていた。その態度にジャイロは面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「あいつ絶対俺のこと主人だと思ってないぜ。敬いってものが見えない。せいぜい友達かなんかだと思ってやがる」
「まぁきみとヴァルキリーの関係はともかく、確かにスロー・ダンサーとはとてもこのレースの直前で出会ったとは思えないよ。まるで昔からずっと一緒に走ってきたみたいだ」
 一度S・Dの方に視線を向けた。こちらの会話を聞いているかのように、時折馬の耳が上下に動いている。
「ここまで懐かれると凄く可愛いよね。少なくともきみの何十倍かは可愛い」
「そもそも俺を引き合いに出すのが間違ってるだろ。お前は俺のことを動物かなんかだとでも思ってるてことか?」
「それは一概には否定できないな」
「いや、否定してくれ」
 朝から疲れたように大きなため息を吐く。ジョニィはそれを無視して黙々と食事を続けた。
「ところでよ、ジョニィはこのレースが終わったらどうするんだ?」
 食事の終わり頃になって、ふと思い出したようにジャイロが尋ねる。漠然とした質問に、ジョニィは少し眉をひそめて彼を見た。
「どうって、なにが?」
「スロー・ダンサーだよ。俺はこの国に来る時はヴァルキリーと一緒だったから、またあいつと一緒に帰るけど、お前はどうするんだ?」
「あぁ、そういうことか」
 納得したようにうなづいてから、ジョニィはS・Dに向かって手招きをする。それに気が付いたS・Dはすぐにこちらに近づいてきた。優しくその額を撫でてやりながらジョニィは口を開く。
「もちろん連れて帰るさ。これほど過酷なレースを一緒に走ってきたんだ、情なんていくらでも移る。故郷に戻って、しばらくゆっくり休んだらまたスロー・ダンサーと一緒に走りたいと思うよ。レースに出るかどうかはまだわからないけどね」
「そうか。馬にとってもその方がいいのかもな」
 大人しくジョニィに撫でられているS・Dを見ながらジャイロが言った。S・Dの表情は心なしか嬉しがっているように見える。
「スロー・ダンサーだけじゃなく、きみも一緒に連れて帰ってもいいんだけど」
「・・・冗談だろ」
「残念、本気なのに」
 本当に残念そうな顔をするジョニィに、ジャイロは顔を引きつらせた。それを見てジョニィは微かに唇をつり上げて笑う。
「さて、そろそろ出発しようか。この辺りには他の選手もいるかもしれないから、動き出すのは早い方がいいだろう?」
「・・・あぁ」
 また泉まで行き、使った食器などを洗う。そして荷物をまとめてそれぞれの馬に積んだ。最後にジョニィがS・Dに乗り込む。
「今日も頼むよ、スロー・ダンサー」
 その言葉に応えるように、S・Dは一つ大きくいなないた。

 

END

 

 

ジョニィとスロー・ダンサーはお互いのことを大切に思ってるけど、恋愛感情ではないといいです。


こんなマニアックな話を読んでくださっている方がいると知って嬉しいボス猫話の続きです。
過去の話はhttp://nandemonai000.b.to/jogio0/から。

みんなにホントのことを言いましょう。

 

 

 


 早朝からリゾットの部屋に暗殺チームのメンバーが全員集まった。彼らの視線は、見慣れないピンクの髪を持つ男に注がれている。人間の姿に戻ったディアボロは、服がないのでとりあえずシーツにくるまっていた。彼と一番身長が近いメローネが服を貸すと言ったのだが、体格が合わなくてきついのが嫌だとわがままを言う。十中八九、ただたんにメローネの服を着たくないだけだろうが。メローネの服を着るというのはある意味、バツゲームだ。
「で、そいつが昨日の猫、ってわけだな?」
「そいつじゃない。ディアボロだ」
 ディアボロの不機嫌そうな声を無視しながら、プロシュートはリゾットを見る。相手はようやく覚醒してきたようで、割とはっきりとした目でプロシュートを見返しながら頷いた。
「なんで初めからスタンド攻撃受けて猫の姿になったと言わなかったんだよ。最初に言ってたほうが、誤解がねぇだろ?」
 ホルマジオはみなが思っていることを代表して言う。一度だけ、リゾットとディアボロは顔を見合わせた。まさかこのピンクのおっさんがソルべやジェラートを殺したパッショーネのボスだなんて言えない。
「・・・プライドの高い人間なんだ。それなのに、猫になりました、なんて、言えるわけないだろう?むしろ不思議なのはメローネの方だ。いつからディアボロが人間だと気が付いていた?」
 話題を逸らそうと、矛先をメローネに向ける。すると、彼はなんでもないように微笑んだ。
「一目見た時から、なんとなくそんな感じがしてたんだ。リーダーの挙動もいつもと微妙に違かったしな。それに、男には敏感なんだよ、俺は」
 最後の一言を言わなければ、尊敬できたというのに。誰もがそう思った中、ギアッチョがゆらりとした動きでディアボロに近づいた。なんとなくその雰囲気が怒気をはらんでいるのに気が付いて、ディアボロは警戒する。
「テメェ、いったいどうしてくれんだよ」
「・・・なんのことだ?」
 意味がわからない、という風にディアボロが返すと、ギアッチョは相手の長い髪の毛を鷲づかみにした。彼が突然キレるのは日常茶飯事だが、流石に相手が相手なのでリゾットはわずかに息を呑む。
「貴様・・・!」
「昨日、誰のためにあれだけ猫用品買ってきたと思ってやがんだ?全部無駄になったじゃねぇか!」
「そんなことなど私が知るか!勝手に買ってきたのはお前らの方だろうが」
 離せ、と言うようにディアボロは自分の髪を鷲づかみにしているギアッチョの手首を強い力で握る。しかし怖いもの知らずの相手はひるまなかった。
「私が貴様らが買ってきた分の金を払ってやる。それでいいだろう」
「そんなこと言ってんじゃねぇよ。どうせあの金は全部プロシュートが出したんだからな」
 やっぱりか。そう思ったが、誰も口には出さない。ただ、黙って事の成り行きを見守る。
「昨日、俺がわざわざペットショップまで行った労力をどうしてくれんだ、っつってんだよ!『時は金なり』だと?金じゃあ時間は買えねぇだろうが!」
 微妙にことわざの意味を履き違えているギアッチョが、一瞬にしてスタンドを身にまとう。ここまで来てようやく、リゾットは彼を止めようと動き出した。今のディアボロがスタンドを発現させることができるのかどうかは知らないが、家の中で戦われては困る。そして互いに傷付けあうのは、もっと困る。
 まだ氷らせこそはしないが、抑えきれていない冷気で吐く息が白くなる。髪をつかまれたままディアボロが上目遣いにギアッチョを睨んだ。一瞬だけ彼の姿が二重に歪んだように見える。K・Cが発現し、本体と同じようにギアッチョの手首をつかんだ。
「よさないか」
 制するように少し声を鋭くしてリゾットが言う。しかし一触即発ともいえる状況の中で、彼の声は二人には届かなかった。
 ギアッチョの手首をつかんでいるK・Cの手が微かに氷で覆われる。スタンドのダメージに合わせて、本体であるディアボロの手も同じ場所が氷で覆われた。しかしディアボロは動じない。もう片方のK・Cの拳を強く握り締めた。相手が攻撃してくると見て、ギアッチョも更に強い冷気を放つ。
「よせ、と言っているだろう」
 二人が本格的に攻撃に入る前にリゾットはメタリカを発現させた。その瞬間、ディアボロとギアッチョは口から直径一センチほどの鉄の玉を大量に吐き出す。大きな音を立ててその鉄の玉は床に落ちた。
 敵を攻撃する時のように(メローネへのセクハラの制裁は別として)剃刀を鉄分で作ったわけではないので、吐き出したときに口の中を怪我をすることはないが、それでも大量の鉄分を消費することには変わりはない。急速に体の鉄分が足りなくなったディアボロとギアッチョはスタンドを解除すると荒い呼吸を繰り返した。しかしいくら息を吸っても体に酸素が回らない。立っていられなくなったギアッチョは、崩れるようにしてその場に膝を着いた。
「り・・・リゾット」
「流石に・・・やりすぎじゃねぇか?リーダー・・・」
 途切れ途切れにか細い声で二人が抗議する。しかしリゾットは、そんなことはない、といつもの調子で言った。
「お前達が本気で争ったら、こんなものじゃすまなかっただろう。少なくとも、どちらかが死んでた」
 さらりとそんなことを言ったが、実際どちらも強力なスタンド使いなので彼が止めなかったら本当にそうなっていたことだろう。
「リーダー、そろそろ鉄分を戻してやったら?このままだとどちらかどころか二人とも死にそうだけど」
 顔色どころか全身の肌の色を真青にさせている二人を見ながら、危機感のない声でメローネが言う。
 鉄分を戻してやってもいいが、元気になったらまた争ったりしないだろうかとリゾットは思った。ギアッチョは氷を扱うタイプのスタンド使いだというのに感情的だ。熱しやすく冷めにくい。鉄分を戻せばすぐにでもディアボロに食って掛かるだろう。ディアボロは引き際を心得ている人間だが、どうも昨日から猫になったり人間になったりを繰り返しているせいで精神的に不安定なのか感情的になりやすくなっている。
「ギアッチョ、鉄分を体に戻したらもうディアボロと争わないと誓えるか?」
「どうして俺がここで引かなきゃいけな・・・」
 キッとリゾットを睨んで口を開いたが、最後まで言い終える前に途中で視界の端になにかをとらえてギアッチョはそちらに目を向ける。リゾットもつられてそちらを見た。そこにはベッドの上でまた体を猫へと変えている最中のディアボロがいた。体が縮み、ピンク色の毛皮が生えてくる。初めてその変化を目の当たりにしたリゾット以外のメンバーは小さく息を呑んだ。いくらスタンドの影響と知っているとはいえ、やはり人間が猫の姿になるというのは驚いてしまう。
 ディアボロ本人は、もうすでに体が変化するのに慣れたのか、それとも反応を示すだけの力がないのか完全に猫になってしまうとシーツにくるまったままぐったりとベッドの上に体を横たえた。相変わらず体の鉄分が足りないせいで荒い呼吸を繰り返している。その姿はどう見ても人間の姿だった時より庇護欲をそそっていた。基本的に人間は自分よりも小さいものを見ると守りたくなるものなのだ。
 しばらくディアボロを見ていたリゾットは、もう一度視線をギアッチョに向ける。その視線に気が付いて、ギアッチョはこちらを見た。心なしか先ほどまで真青だったはずの頬が微かに赤くなっている。
「ギアッチョ」
「す、スタンド攻撃を受けてるんなら、しょうがねぇよな・・・」
 言ってから、顔を逸らす。どうやら怒気がそれたようだった。それどころか、猫の姿にときめいている。彼のスタンドの形状からも変わるとおり、ギアッチョはなんだかんだで猫好きだった。
 この調子ならディアボロが猫の姿のままなら個性の強い暗殺チームの中にいてもさほど大きな問題は起きないだろう。リゾットは半ば願いながら思う。
「まぁそういうわけだから、スタンドの本体を見つけるまでは仲良くしてやってくれ」
 ギアッチョとディアボロの体に鉄分を戻してやりながらリゾットは言った。

 

END

 

 

 

ギアッチョは私の中では暗チ最年少です。19ぐらい。だから多少子供っぽくてもいいと思うよ・・・!

兄貴がセレブってイメージがあるのは私だけでしょうか。
正直、暗チが普通に生活できるのは兄貴のポケットマネーのおかげだと思います。


久しぶりにthe bookの二人を。
琢馬と千帆が好きです。ほのぼのした琢千が理想的です。本編が本編だっただけに。

 

 

 


 放課後は教室まで迎えに行くから待っていてください、と言ったのは千帆の方だった。つまり、一緒に帰ろうということなのだろう。断る理由もないし、一応自分達は付き合っているということになっているのだから、琢馬はそれを承諾した。
 なにかを期待しているような顔でそれを告げられたのは昼休みの時で、琢馬は放課後はきちんと教室の自分の席に座りながら千帆が来るのを待っていた。普段なら授業が全て終わってしまうとすぐに下校してしまう彼が残っているのが珍しいのか、クラスメイトが何人か声をかけてくる。それを差し障りのない程度にあしらいながら、琢馬はブラウン色の本を開いて読んでいた。
 本を読んでいれば時間なんてあっという間にすぎ、気が付けばオレンジ色の夕日が窓から差し込んでいる。教室を見渡せば、生徒もほとんどいなくなっていた。遅い、と小さく呟く。なにをやっているのだ、千帆は。ブラウン色の本で彼女と交わした会話を確かめる。確かに彼女は、自分に教室で待っていろと言った。本にそう書いてある。
 彼女になにかあったのだろうか。急用ができて先に帰ってしまったとか、それとも約束自体を忘れてしまっているとか。しかし彼女の性格からいって、約束を忘れるということはありえないし、急用ができたといっても一言言いに来るだろう。わけがわからない。そう思いながら、琢馬はブラウン色の本を閉じた。その瞬間、机の前に人影が現れる。視線を上げると、そこには唇を引き結んでどこか怒っているような、泣きそうな顔をしている千帆がいた。
「遅いぞ、千帆」
「それはこっちの台詞です・・・!」
 怒られてしまった。いや、どう考えたってこっちの台詞だろう。そう思ったが、琢馬は彼女がどんな反応を示すか予想できなかったため口に出しては言わなかった。なんで自分が怒られているのかがわからない。怒るとしたら、ずいぶんと待たされたこちらの方なのに。
 わずかに残っていた生徒達が、何事かと視線を向けてくる。それを千帆に気づかれない程度に睨みつけた。見るんじゃない。見世物ではないのだから。琢馬と目が合った生徒は、慌てて視線を逸らした。それでもすぐにまた、こちらをうかがうようにして見る。
「なんで私の教室まで来てくれないんですか。私、ずっと待ってたんですからね」
 泣きそうな声で言われて、琢馬は視線を千帆に戻す。目じりに涙が溜まっていた。ますます意味がわからない。なぜ自分が彼女の教室にまで行く必要があったのか。迎えに来ると言ったのは、彼女の方ではなかったのか。
「昼間、お前の方がこちらの教室に来ると言わなかったか?」
 純粋に不思議に思って尋ねる。すると、千帆はキッと目じりをつり上げた。その拍子に、涙が一滴だけ頬をつたう。
「そんなの、嘘に決まってるじゃないですか!男性なら気を使って、女の子を迎えに来るとかしてくださいよ!」
 言ってから、こらえきれなくなったように千帆が泣き始めた。嗚咽を漏らしながら、細い肩を震わせている。気まずい雰囲気が、教室内を包んだ。この場に居合わせてしまった者全てが、なぜ自分はもっと早く帰らなかったのだろうと後悔していることだろう。
 千帆の泣き顔を見ながら、琢馬は今更になって自分が彼女に試されていたのだということに気が付いた。彼女は琢馬に自分を迎えに来て欲しかったのだ。なんで彼女がそんなことをしたのか、なんとなくわかるような気がする。たぶん、不安なのだろう。琢馬と千帆は付き合ってはいるが、その関係はほとんど付き合う前と変わってはいない。本当に琢馬が自分のことを好きなのか、確かめたいのだ。
 教室中の視線が琢馬に集まる。どの視線も、早くなんとかしてやれと訴えかけてきていた。琢馬はため息を吐きそうになるのをぐっとこらえる。ここでため息を吐いてしまえば、状況は悪化しかねない。
 出来ることならあまり目立ちたくはない。だからこの状況は琢馬にとっても不本意だ。かといって、千帆を怒るわけにもいかない。彼女は悪くないのだから。ただ、不安なだけなのだから。
「千帆」
 名前を呼ぶ。千帆は涙と鼻水とでぐちゃぐちゃになった顔をこちらに向けた。その顔があまりにも子供っぽくて、なにかいけないことをしているような気分になる。
 手を伸ばして彼女の後頭部に添えると、そのままこちらに引き寄せた。触れるだけのキスをする。その柔らかい唇は、涙と鼻水のせいで少ししょっぱかった。
 相変わらず緊張を孕んだ雰囲気のままで、キスをしたまま千帆の目を覗き込む。琢馬の行動があまりにも予想外すぎたのか、彼女はただただ驚いたように目を大きく見開いていた。
 琢馬が顔を離しても、彼女は引き寄せられた体勢のまま固まっていた。どこか頭のネジがショートしてしまったのではないかと思いながら、琢馬は立ち上がり、通学鞄を手に取る。そして千帆の手をつかんで軽く引いた。
「ほら、帰るぞ」
「え・・・あ、はい、はいはい」
「はい、は一回」
「はい!」
 まだどこかぎこちない感じの彼女を引きずるようにしながら教室を後にする。その直後、教室内から歓声が聞こえた。が、それも無視する。
 靴を履き替えさせて、学校の外へ出た。千帆の方を見れば、泣いていた先ほどとは打って変わってにこにこと機嫌良さそうに笑みを浮かべている。そんな顔もやはり子供っぽく見えて、本当に自分と一つしか歳が違わないのだろうかと思ってしまった。しかも足元を見れば靴を左右逆に履いている。なんとも間抜けな光景だ。いや、それ以前に気が付け。そこまでキスをされたのが衝撃的だったのだろうか。
「嬉しそうだな」
「えぇ、そりゃあもう。先輩って、いわゆるツンデレ、ってやつだったんですね。今まで気が付かなくてすみません」
「・・・それはないな」
 別にツンツンしているつもりもないし、デレデレしているつもりもないのだが。しかしそれ以上は否定しない。きっと否定したって、彼女は恥ずかしがらなくてもいいんですよ、と言うだけだろう。
 一度立ち止まって、彼女の前にしゃがみこむ。靴をきちんと左右正しく履かせてやった。それからポケットからハンカチを取り出してまだ涙と鼻水で汚れている顔を綺麗にしてやる。あまりにも甲斐甲斐しくて、琢馬はそんな自分に驚いてしまった。
「先輩、ハンカチ洗って返しますよ」
「当たり前だ」
 汚れたハンカチを手渡すと、千帆は鞄の中にしまう。そして、自然な動きで琢馬の手を握った。握った手をぶんぶんと振りながら、鼻歌を歌う。その様子は、人目を引いた。しかし琢馬はなにも言わずに、彼女の好きなようにさせてやる。千帆のどこか音程の外れた鼻歌を聴きながら、二人は手を繋いだまま一緒に歩き出した。

 

END

 

 


琢馬はツンデレじゃないです。ただ愛情表現に乏しかったり誰かを愛するのが苦手なだけです。


9巻表紙のスロー・ダンサーが可愛すぎたのと、4thステージラストがあまりにも熱かったので。
次こそはSBRの人間書く、次こそは・・・。

 

 

 鬱々とした黒くてドロドロとしたものが俺の頭の中を支配する。拭えないいらつきがつのり、興奮が隠せない。疲れているはずなのに、もう深夜と呼ばれる時間帯なのに一向に眠れそうもない。目を閉じると昼間の出来事がリアルに思い出される。雨の音と臭い、水分を多く含んだ泥を蹴る感触、濡れた蹄の音に荒い息遣い。そして走り去っていく馬達。筋肉が酷く疲労していることも忘れて、強い力で地面を蹴った。怒りがおさまらない。自分は完全に、あの時完敗してしまった。
 膝を地面に付け倒れてしまった時の主の叫び声が耳から離れない。彼は長いこと雨に打たれながら意味のない叫びをあげていた。俺が声を上げられない分も、怒りと屈辱を振り払うかのように叫んでいた。
 自分のものではない蹄の音が聞こえ、俺はそちらに意識を向ける。向こうの方から馬が近づいてきているようだった。人影は見えない。一頭だけだ。暗がりなのでそれが誰なのかが判断できず、俺は睨むようにしてそちらを見つめる。
「あぁ、やっぱり、起きてたみたい、だね」
 その柔らかい声色を聞いて、俺は耳を一つ上下させる。S・Dだった。いつもなら主であるジョニィと片時も離れたくないと思っているような彼が、一頭だけで馬小屋の柵を隔てて俺の前に立った。
「駄目じゃない、ちゃんと眠らないと。明日から、5thステージが始まるのに」
「ヴァルキリーはどうしてる」
 彼の言葉には答えずに、俺は問いかけた。昼間のことを思うと、どうしてもつっけんどんな言い方になってしまう。それに気が付いて、しまった、と思ったが、相手は気を悪くしたふうはなかった。ここらへんは彼の性格というよりも、大人だからなのかもしれない。きっと彼から見れば、俺は小さなことで腹を立てている子供でしかないのだ。
「ヴァルキリーなら、さっきまで興奮して、眠れなかったみたい、だけど、なんとか眠ったよ」
 やれやれ、という感じで彼は言った。どうやら今日の出来事はヴァルキリーにとっても思うところがあったらしい。おそらく時間をかけて、彼がなだめていたのだろう。それから俺のところへ来たのだ。俺もまた、眠れていないと思って。レースの上では俺達は敵同士だが、それでも気に掛けてくれているのだろうか。そう思うと、嬉しいと感じた。
「脚、ずいぶんと酷使したでしょう?走れなくなるぐらい、だもんね。でも、明日も走らなきゃいけないから、早くお休み」
 子供に言い聞かせるような口調だった。それが耳に心地良い。ヴァルキリーは以前、S・Dから子供扱いされるのは嫌だと言っていたが、俺はそのあたりの心理がよくわからなかった。あいつの心理なんて、わかりたくもないのだが。
「あんたはどうなんだ?あんただって、無茶をしたはずだ」
「きみほどじゃ、ないよ。少なくとも、私は明日からはまた、普通に走れる。でもきみは、そういうわけにはいかない、でしょう?」
 彼の言うとおりだった。走れないわけではない。しかし、全力で走ることはしばらく無理だろう。俺の主も5thステージ、6thステージは脚を休ませるためにゆっくりと走ると言っていた。俺にも主にも、選択の余地はない。順位は大幅に落ちることになるだろうが、リタイヤするよりはましだろう。
 それでも歯痒い気持ちになる。俺がたらたら走っている横で、他の馬達が駆け抜けていくのだ。そう思うと、このSBRレースが全て終わってから脚が壊れ、引退してもいいから常に全力で走っていたいという気持ちになる。誰かに負けるということが耐えられない。
「明日からしばらくは、ゆっくり、走るんだよ」
 俺の考えを読んだかのように、S・Dは言った。
「どうせ、脚を壊してもいいから、全力で走りたい、と思ってるんでしょう?」
 図星だったので、俺は言葉を返さない。
「シルバー・バレット、きみは、このSBRレースが終わるころ、大きく成長しているはず、だよ。肉体的にも、精神的にも。このレースで、多くの経験をしたはず、だからね。きみはまだまだ、強くなれる。それこそ、年老いた私が、足元にも及ばないくらいに、ね。前途あるきみが、自らの芽を摘んでは、いけない。SBRレースが終わってからも、活躍するきみの姿を、私に見せて欲しいんだ」
 真摯な態度だった。S・Dは本当に走ることが好きなんだな、と思う。
「だから、しばらくは我慢して、脚を休ませながら、走るんだよ。きみの実力なら、脚が回復してからでも、総合順位的には、十分に追いつけるから」
 ね、と最後はやはり子供に言い聞かせるようにして言った。
「・・・わかった、言うとおりにする」
「そう、よかった」
 安堵したように、息を吐いた。どうやら本当に俺のことを心配していてくれたらしい。優しい男だと思う。いつも誰かを気に掛けている。今のところ、その関心はジョニィに一番に向いているが、間違いなく彼が次に気に掛けているのはヴァルキリーだ。いつも一緒にいるせいもあるのだろうけど、それでもヴァルキリーが羨ましい。
「きみのその、猛るような闘争心は、羨ましくもあるんだけど、ね。脚を壊してしまったら、元も子もないから」
「・・・よく言う」
 まるで自分には闘争心がないみたいな言い方だ。実際はそんなことなんてないくせに。いつも穏やかな彼が、ゴール直前やここ一番という時に見せる気迫を俺は知っている。凛と前を見据え、ギリギリまで絞られた矢が放たれたかのように、真直ぐとしなやかに走る。下手に近づくと、その矢の切先で怪我をしてしまうんじゃないかと錯覚してしまうぐらい。そんな彼は、なによりも美しいと思う。普段の穏やかさと、時折見せるその鋭さに、どうしようもなく惹かれてしまう。
「話が長くなっちゃって、悪かったね。もう、眠れそうかい?」
 尋ねられて気が付く。もう俺の中にドロドロとした黒いものはなくなっていた。あるのはただ心地よい眠気だけだ。彼に丸め込まれてしまったのだろうか。それでも嫌な感じはしない。
「スロー・ダンサー」
「なに?シルバー・バレット」
「その・・・ありがとう」
 突然礼を言われ、彼は一瞬面食らったような顔をする。しかしすぐに、どういたしまして、と返した。
「やっぱり、きみは、ヴァルキリーと違って素直、だね。そういうところ、好きだよ」
「すっ・・・?!」
 さらりとそんなことを言われ、思わず固まってしまう。相手はそんな深い意味があって言ったわけじゃないのだろうけど、それでも普段から意識している彼に好きと言われ、急に心臓が激しく動き始める。落ち着け、俺。S・Dはそんな深い意味で言ったんじゃあない。もっと軽い気持ちで言ったんだ。落ち着け。
 ドギマギしている俺を、S・Dが不思議そうな目で見ている。だがふと遠くから物音が聞こえ、すぐにそちらに視線を向けた。釣られて俺も見ると、そこには車椅子に乗り、手にランプを持ったジョニィがいる。彼はS・Dの姿を見つけると、どこに行ってたんだ、と言った。どうやらS・Dは彼になにも知らせずに俺のところに来ていたらしい。
「じゃあね、シルバー・バレット。明日また、レースで」
「あぁ」
 蹄を鳴らしながらS・Dがジョニィの元へ歩いていく。その体を優しく撫でながら、勝手にどこかへ行っちゃ駄目じゃないか、とジョニィが安堵したように言った。どうやら、ずっとS・Dのことを探していたようだ。
「うん、ごめんね。マスター」
 人間には馬の言葉は通じないだろうに、彼は律儀に謝っている。その声が俺やヴァルキリーに向けるような声色ではなく、どこか甘えたような感じの声で、やっぱり彼の一番はジョニィなんだな、と思った。もしかしたら、俺の最大の恋敵はヴァルキリーではなくジョニィなのかもしれない。やっかいだ、人間相手だなんて。そんなことを考えながら、俺はいつしか深い眠りに付いた。

 

END

 

 


やはりスロー・ダンサーとヴァルキリー達の歳の差に萌えずにはいられません。スロー・ダンサー頑張れ、超頑張れ。
それにしてもSBRレースに出る馬はみんな胆が据わってますよね。普通に攻撃されてても動じなかったり、ワイヤーの上を走ったり。


せっかく猫の日なので久しぶりにボス猫話。過去のはhttp://nandemonai000.b.to/jogio0/の辺りから。
変態が生息しているのでいろんな意味で注意。一応メロディア表記にしてますが、リゾディアとメロリゾ表現もあります。

 

 

 

 リゾットを起こそうと彼の自室へ足を踏み入れてみれば、そこにはシングルサイズのベッドと、狭そうに身を寄せあって眠っている成人男性二人がいた。しかも片方は全裸だ。寒いのか、リゾットの方に体を寄せながら、ぐっすりと眠っている。訪問者がきたというのに、二人とも起きる気配がない。
「据え膳・・・て、やつかな」
 ポツリと小さく、それこそ吐息みたいな声で呟く。事実、こんな光景を見ればその言葉以外は浮かんでこなかった。メローネ好みの男が二人、目の前で無防備に眠っているのだ。この状況を他になんと形容できるだろうか。
 足音と気配を消しながら、ゆっくりとベッドの方へ近づく。寝顔を覗き込めば、男はずいぶんと整った顔をしていた。リゾットとはまた別のタイプの美人さんだ。どうも、自分の周りにはいい男が多いように思える。しかも様々な種類のだ。きっと日頃のおこないが良いせいだろう。なんて、みんなの前で言ったら怒られるんだろうけど。まぁそんな怒った顔も好きなのだが。思い出すと、笑いが込み上げてくる。なんとか喉で小さく笑うぐらいにとどめてから、もう一度、男の方を見た。
 その斑模様のある長い髪を指先で軽く梳く。やはり自分の考えは当たっていたのだと、その髪に触れながら思った。昨日、この家にやってきた猫の毛色と同じ色と模様をした髪。まぎれもなく、この男があの時の猫だ。名前はそう、ディアボロ。悪魔という名の美しい男。昔、本で悪魔は人を誘惑するために美しい容姿を持っている、というのを読んだことがある。あながち嘘ではないようだ。
 人間が猫に姿を変えたという事実を、簡単に受け止める。普通の人間なら非現実的なことであっても、この世にスタンドというものが存在するということを知っているから、ありえないことではないと断言できる。イルーゾォのように鏡の中を自由に行き来できたり、またメローネ自身のようにまったく新しい生命を造り出すスタンドもある。そう考えれば、人を猫に変えるという能力は可愛いもののように思えた。もちろん、猫になってしまった本人は、たまったものではないだろうが。
 大方、スタンド攻撃をされたディアボロを保護して、またはかくまうつもりでリゾットは彼をこの家につれてきたのだろう。そう考えると二人の関係がどういったものなのか、不躾にも考えてしまう。片やスタンド攻撃をされて相手に自分をかくまうようにと頼んだであろう方。片やそれを受け入れて、暗殺者の集まる家に招き入れた方。どう考えても、それはお互いにお互いをよく知っているからできることだ。そうでなければ、暗殺者は自らの家に他人を招待しないだろう。ましてや用心深いリゾットだ。ちょっとやそっとじゃ、人を家には招かない。むしろ、今までリゾットが家に誰かをつれてきたなどということはなかった。そう考えると、リゾットはディアボロに入れ込んでいるということになる。
「羨ましいな」
 どちらも。自分もその中に入れてほしいぐらいだ、とメローネは思う。
 でも今は、目の前に横たわっている据え膳をいただくことにする。据え膳食わぬは男の恥じ、という言葉があるのは、どこの国だったか。まったくもって、そのとおりだと思う。
 独特な色と模様のある髪をいじっていた指を動かして、まだまだぐっすりと眠っている彼の頬をなぞる。だんだんと指を下におろしていき、首筋、そして鎖骨を撫でた。
 リゾットはともかくとして、ここまでしてもディアボロは起きる気配がない。リゾットにつれられてやって来たぐらいだから、彼もギャング、そしてスタンド使いだと思っていたが、違うのだろうか。これではあまりにも無防備すぎる。
 慣れない猫の体になって、精神的に疲れたのかもしれない。その上、昨日は長いことプロシュート達に遊ばれていたという。肉体的にも精神的にも疲れたのだろう。チャンスだ、と思う。この分なら少しぐらいは触っても大丈夫そうだ。
 片足をベッドの上に乗せて体重を預ける。元々、シングルサイズなうえに、すでに成人男性を二人も乗せているので、ベッドは悲鳴をあげるように大きく軋んだ。
 ディアボロの腰に手をはわせながら、体をかがめて彼の鎖骨に舌をはわせる。男とは思えないほど、肌は滑らかだった。
 鎖骨や肩、首筋の肌触りを舌で堪能しながら、時折小さく歯をたてる。彼の皮膚は、柔らかくメローネの歯を押し戻した。十分に堪能をしてから一旦、彼から顔を遠ざける。ちらりと、ディアボロの様子をうかがった。眠ったまま、微かに眉をひそめている。しばらくそれを眺めていたが、やがて彼が起きないのを知るとメローネはもう一度ディアボロに顔を近付けた。
 ペロリと、相手の唇を舐める。そしてついばむように軽く口付けた。しばらく下唇と上唇の割れ目を舌でなぞっていたが、やがてぬるりと、なんのためらいもなくディアボロの口腔内に舌を入れる。
「んっ・・・」
 無意識なのか、ディアボロは小さく呻くような声をあげた。朝でまだ声帯を使っていなかったせいか、その声は少しかすれていた。ぞくぞくとメローネの体が震える。初めて聞くその声は、ひどく官能的な響きだった。
 彼の体中に手をはわせながら、もう片方の手でしっかりとディアボロの顎をつかむ。角度を変えながら、メローネは更に深く口付けた。いやいやをするように相手は顔を逸らそうとしたが、顎を掴まれているのでそれもできない。手加減せずにキスをされていたため、だんだんと呼吸が辛くなってきたディアボロは、うっすらと瞳を開けた。その瞬間、片目だけを隠しているメローネと目があって、すぐに覚醒したように大きく目を見開く。それに気が付いたメローネは、名残惜しげに下唇を食んでから、ゆっくりと顔を離していった。互いの唾液が糸を引き、やがてディアボロの裸の胸の上にしたたる。それを信じられないような顔で、ディアボロは見ていた。
「おはよう、でぃあぼ・・・」
「死ねッ!」
 メローネが言い終わる前に、ディアボロは上体を素早く起こしながら振り上げた右ストレートを彼の頬へ綺麗にヒットさせた。がくっと体が仰け反ったが、それでも彼の体はまだベッドの上にとどまった。毎日、チームのメンバーにセクハラをしてそのつど殴られている。彼は非常に打たれなれていた。
 口の中を切ったのか、口の端から一筋血が流れる。それを指先で拭ってから、メローネはそれを舐め取った。横目でディアボロを見て、にっと笑う。それを目撃したディアボロは、小さく顔を引きつらせた。
「リゾット・・・おい、リゾット!この変態をなんとかしろ!」
 これだけ騒いでも未だにぐっすりと眠っているリゾットの肩を揺らしながら、ディアボロが叫ぶ。寝苦しそうに小さく呻いてから、リゾットはうっすらと目を開けた。いつの間にか人間の姿に戻っていたディアボロが真先に目に入り、口の中でなにかを呟く。
「なに?なんて言った?」
 尋ね終わるか終わらないかの瞬間に、リゾットは腕を伸ばしてディアボロの肩を掴む。寝起きとは思えないほどの力に、ディアボロは一瞬面食らったような顔をした。
 何事かと、メローネは二人の様子を観察する。このままそっとしておけば、なにかいいものが見れるような気がした。
 そんな彼の考えを知ってか知らずか、リゾットは強い力でディアボロの体をまたベッドに沈める。ギシギシと耳障りなベッドの軋む音を聞きながら、彼は少しだけ体を起こしてディアボロを見下ろした。その目はまだ完全に覚醒していないのか虚ろげだ。
「リゾット?」
「・・・か?」
「なんだ?」
「犯しても、いいか?」
「・・・は?」
 相手の答えは聞かずに、リゾットはディアボロに口付けた。朝から腰の砕けるような深い口付けを二回もされ、そろそろ頭が混乱してくる。そもそも、リゾットは自分からこんなことをしてくる男だっただろうか。いつもいつも、こちらから誘わなければ触ってすらこないというのに。
 しかし普段は非常に淡白な方であるリゾットも、やはり男だった。昨日、あの風呂での出来事から相当我慢していたらしい。今朝になって、寝起きで理性が緩くなった時に裸のディアボロを見て、彼の中でなにかが切れたようだ。
「わお、これってもしかしてすごく美味しい状況?」
 顔が自然とにやけてくるのを抑えないまま、メローネは重なり合ってる二人を見て弾んだ声で言った。
 ディアボロはディアボロで、最初こそ驚いてはいたが、元々精力的なタイプの上に、珍しくリゾットが積極的なので、満更でもなさそうに相手の好きなようにさせている。
「リーダー、俺も混ぜてくれよ」
 言いながら、リゾットの肩に手を置いてねっとりと首筋から耳にかけてをねぶる。すると、彼は小さく声を上げて体を震わせた。それを見て一瞬だけディアボロがメローネを睨んだが、拒絶はしない。とりあえず、リゾットが居ればいいらしい。もしくは、ただたんに欲求不満なだけか。
 三人とも、朝からずいぶんと精力的だった。しかし朝というものは、どこの国でも時間が足りないものである。突然、部屋の扉が開いたかと思うと、プロシュートが姿を現した。
「メローネ。リゾットを起こすのにいつまでかかってんだよ。とっくに朝食の準備は・・・」
 本日の食事当番であった彼は、室内の様子を見て一瞬固まる。メローネがこのチームの誰かにセクハラをしているのは日常茶飯事だ。もう慣れた。だからこそ目が行くのは、見慣れないピンク色の髪を持った男。
「おい、リゾット、メローネ。誰だ?その男は」
 またしても邪魔が入り、ディアボロは額に青筋を立てる。しかしそれ以前に、もう彼が猫だということを隠しておけそうになかった。

 

 

END

 

 

そして次に続く。
あれ、猫がいない・・・?


ぎくしゃくしてる親子二人。
なんかボスが生きてます。

 

 

 金だけがかかる無駄に高級志向なレストランには、落ち着いた調べの音楽が流れていた。微かな声で囁きあうように会話をしている他の客達の声が、なんとなしに聞こえる。しかし向かい合って食事をしているというのに、私達は先ほどからお互いに一言も会話を交わしていなかった。空気が重い。頼むからなにか喋りなさいよ、と思うが、きっと相手の方もそう思っているはずだ。
 どうして彼と二人きりで食事をすることになってしまったのだろうか。それは他ならぬジョルノのお節介のせいだ。いや、嫌がらせだったのかもしれない。親子なんだから、たまには水入らずで食事でもどうですか、なんて、良い笑顔で言って。断ろうとしたら、もうすでにレストランは予約してあると言われてしまった。ボスとしては非常に優秀だが、部下を使って遊ぶのはやめて欲しい。きっとこのレストランのどこかに隠しカメラが仕掛けられていて、ジョルノは私達の行動を見て楽しんでいるはずだ。そうでなければ、ジョルノが善意だけで動くなんてありえない。
 そう思うと、眉間に皺が寄るのを感じた。ハッと、相手が息を呑むのを感じる。テーブルに並べられている料理から目を外し、彼の方を見れば驚いたような顔をしていた。いきなり私が不機嫌になったのを感じ取って、慌てたらしい。別に彼に対して怒っているというわけではないというのを示すために、無理やり眉間の皺を指先でほぐす。そして、できるだけ冷たくならないように気をつけながら、口を開いた。
「なにか、私に聞きたいこととか、言いたいことはないの?」
 いきなり言葉をふられ、やはり彼は驚いたような顔をした。本当に、これがネアポリス最大と謳われている組織のボスだった男だろうか。これでよく、部下達を動かせていたものだと思う。それとも全国の父親は、みんな娘に対してこんな感じなのだろうか。私の家庭は特殊だったのでわからないが、誰に聞いてみようもないので、結局わからないままだった。
「あいつは・・・お前の母親はどうしている?」
 しばらくの沈黙のあと尋ねられて、私は今度こそ彼に向けて眉間に皺を寄せてしまった。どうしよう、このままでは皺があとになってしまうかもしれない。
 私の顔色が変わったのを見て取ったのか、それとも母がどうなったのかを思い出したのか、彼はしまったという顔をした。それを見ながら、私はそんなことも忘れるぐらい緊張していたのだろうかと思ってしまう。
「母さんは海のよく見える丘の上の墓地に埋めたわ。母に言いたいこととか、懺悔したいことがあるのなら、場所を教えてあげるから行くといい」
 懺悔、と言う言葉をあからさまに強調して言う。母は最期まで彼を愛して、彼が帰ってくるのを待ちながら死んでいった。そう思うと、やはり彼を素直に父親として見れない。
「・・・ありがとう」
 私から母の墓参りの許しが出たせいか、安堵したような表情をする。それなのに素直に礼なんて言われてしまうと、こちらが戸惑ってしまった。妙にしんみりとした空気になり、先ほどよりも居心地が悪いと感じる。この状況を打ち破るには、どうしたらいいか。しばらく考えて、私は手に持っていたフォークをテーブルの上に置いた。まったく、なんでこの男のために私があれこれ考えなければいけないのか。
「そんななさけない顔しないでよ。私が虐めてるみたいじゃない」
 向かい合うようにして座っている彼に腕を伸ばし、その頬をつねる。思ったよりも、柔らかかった。十分にその柔らかさを堪能してからつねっていた指を離すと、その部分がうっすらと赤くなっている。元々ほとんど外を出歩かないような人だから彼の肌は女のように白く、その色が目立つ。あとが付きやすく消えにくい体質なのか、しばらくその赤は消えなかった。
「ワイン、飲むか?」
 つねられた頬をさすりながら、彼が尋ねてくる。なんでいきなりワインなのだろうか。しかもこの真昼間から。そう思ったが、すぐに答えが見つかった。
「私、お酒は飲まないの。でも娘と会話をするのにアルコールの力が必要なら、頼むといいわ」
 私の言葉に、彼は自分の考えが読まれてバツの悪そうな顔をする。しかし結局、近くにいたボーイを呼んでワインを注文していた。あぁ、ヘタレなのか。と私はそんな彼を見て思う。嫌味を言われながらも、結局アルコールに頼るなんて。
 やがて運ばれてきた、やたらと高そうなワインを彼は一人で傾けていた。ボトル一つ、全て空ける気だろうか。当然、彼が酒に強いのか、それとも弱いのかなんて知らない。でもこうやってボトルで注文するぐらいだから、きっと強いのだろう。
 酒のおかげか、少し饒舌になった彼とそれなりに会話をしながら、なんとか食事は続いた。内心で、ジョルノに対してざまあみろと笑う。どこから隠し撮りをしているのかは知らないが、面白いことなんて何一つ起きはしない。このまま、何事もなく終わらせてやる。しかしそう思った私が間違いだったと、このあとすぐに思い知らされた。
 ふと視線をワインボトルに向ければ、すでに空となっていた。驚いて、ワイングラスを見る。グラスの半分ほどまで、美しい赤紫色をした液体が注がれていた。ワインを注文してから、それほど時間が経過したようには思えてない。ワインなんて普段まったく飲まないため、どれくらいのペースで飲んでいくのが普通なのかは知らないが、明らかにこれは速いように思えた。よほどアルコールの力を借りなければ、私との会話は難しかったらしい。
 こんなペースで飲んでいて大丈夫だろうかと、私はワイングラスから視線を外して彼の方を見る。そこには、酔いのせいか顔をうっすらと赤くさせている彼がいた。目が合うと、唇の端をつり上げ、猫のように目を細めながら艶やかに笑う。思わず、父親相手にドキリとしてしまった。
「ちょ、ちょっと、そんなに飲んで大丈夫なの?」
「トリッシュ・・・」
 私の問いには答えず、彼はどこかぼんやりとした口調で私の名を呼んだ。何事かと思っていると、いきなり片手を彼の両手で包み込まれるようにしてとられる。
「一緒に暮らさないか?」
「は?」
 まったく予測していなかった言葉に、私は一瞬思考回路が止まる。一緒に暮らす?誰と、誰が?私と、彼が?眩暈を感じたが、なんとか気を確かに持って彼をもう一度見返す。先ほどと同じ笑みを浮かべているが、目が完全に据わっていた。そして気が付く。この人、完全に酔っている。たぶんたったこの一言を言うために、ボトルを全部空けたんだろうけど。
「私とお前に必要なのは、一緒にいる時間だ」
「待って・・・待って。とりあえず落ち着いて。こんなところでなんてことを言うのよ」
 私達のおかしな雰囲気に気が付いたのか、レストランにいた周りの客やボーイ達が好奇心を孕んだ目でこちらを見ているのがわかった。見てんじゃないわよ、見世物じゃないのよ。内心で毒付きながら、周りから見たら私と彼の関係はどう見えるのだろうと考える。果たして親子に見える人間が、どれくらいいるだろうか。しかしいたところで、一緒に暮らさないか、なんて台詞を聞かれた時点で瞬時に親子には見えなくなるだろう。どこの世界に、一緒に暮らそうだとか、必要なのは一緒にいる時間だとか、そんなプロポーズめいた言葉を娘に言う父親がいるだろうか。普通に考えて、私達は周りから見たら歳の離れたカップルに見えるだろう。…ふざけんな。
 遠くからジョルノが腹を抱えて笑っているような声が聞こえたような気がした。いや、たぶん気のせいではない。あいつ、確実にこのレストラン内にいる。レストラン側の全面協力のもと、私達の一挙一動を観察していたはずだ。自分のためならば努力を惜しまない男なのだ、ジョルノは。
「もう一度、関係をやり直そう」
 どこか甘い声で、彼が言う。言うなら言うでちゃんと『親子の』という言葉を付けなさいよ。周りに更に余計な誤解を与えるじゃない。
「ねぇ、わかったから。とりあえず一度黙って。あんたもこんなところで目立つのは不本意でしょう?」
 私の声が聞こえていないのか、彼は一向に口を閉じようとはしない。
「愛して、大切にするから・・・」
「黙れっつってんのよ!この酔っ払い!」
 これ以上、好奇心の目に晒されるのと、実の父親からのプロポーズめいた言葉を聞くのが耐えられなくなり、私は彼に右ストレートを放つ。綺麗に頬にヒットしたそれは、椅子ごと彼を吹っ飛ばしてしまった。……スパイス・ガールで殴っただろうか。私自身の拳で殴ったような…いや、スパイス・ガールで殴ったということにしておこう。そうでなければ、私みたいなか弱い細腕の女が大の男をこんな風に吹っ飛ばせるわけないのだから、うん。
 周りがざわついている。それを無視しながら、私は床に倒れている彼のもとまで歩いた。酔いが手伝ってか、完全に伸びてしまっている。決して、私の力が強かったわけではない。決して。
 こちらを見ている客やボーイ達を睨み、こっちを見るなという意思を示しながら、私は彼を引きずってレストランをあとにする。金を払ってはいないが、どうせジョルノが先払いしておいてくれていただろう。そういうことにしておく。
「お疲れ様でした、トリッシュ。なかなか楽しそうだったみたいで、なによりです」
 外に出て、まずはじめに聞いた声がこの男のもので、私は一気に気分が悪くなる。噛み付かんばかりに、私は素晴らしく良い笑顔で言葉を発しているジョルノを睨んだ。よく見れば彼の頬がうっすらと赤らんでいる。呼吸困難になるほど、腹を抱えて笑っていたらしい。その横で、亀を手に持ったミスタが顔をニヤニヤさせていた。そのツラにスパイス・ガールの拳を叩き込んでやりたい。ミスタが持っている亀の方から、連続的に笑い声が聞こえた。くそ、むかつく。ポルナレフ、テメェさっさとあの世へ行きやがれ、このくそが。いつまでもこの世にへばり付いてんじゃあねぇ。
「あなたと彼が一緒に住む際は、責任を持ってパッショーネが全面的にバックアップをします。ご安心ください」
 なにがご安心ください、だ。どうせバックアップの費用は、私に引きずられながら伸びている男の口座から引き落とされるんじゃない。
 結局、あれよあれよという間に事は運び、新築の家が出来上がった。やたらと金がかかっていそうなのが余計に腹が立つ。それでも家具などを新しい家に運び込んでいる際、彼がやたらと張り切っていたので、私はなにも言えなかった。ジョルノに遊ばれたのはむかつくが、まぁ一緒に住むぐらいは別にいいか。これで少しは、彼もアルコールの力を借りなくても私と普通に会話ができるようにはなるだろう。
 父親と一緒に住むことになったと母に報告するために、今度彼と一緒に墓参りに行こう。そう思った。

 

END

 

 

 

トリッシュとかスパイス・ガールの口の悪さが大好きです。


高校生早人×吉良です。
相変わらずなんだかんだで仲が良さそうな感じになりました。
全編通してシモネタなので注意。

 

 

 

 

 

 リビングのソファに座りながら、吉良がつまらなそうに新聞を広げている。その真横に早人が座り、リモコンを手に持ちながら先ほどからテレビのチャンネルを回し続けていた。しのぶは今、リビングにはいない。夕食がすんでしばらくしてからバスルームに行ってしまった。遠くからは水の流れる音が聞こえてくる。
 早人は小さく息を吐くと、たいして面白くもない番組しかやっていないテレビの電源を切った。リモコンをよく磨かれたテーブルの上に起き、横にいる吉良の方を見る。
「僕はさ、そこそこ女の子にはもてるんだ」
「・・・なんだ、いきなり」
 なんの脈絡もない言葉に、吉良は新聞から顔をあげて相手を見る。自分もよく言われるが、早人もまた、なにを考えているのかわからない性格と顔をしている。こちらがいぶかしんでいるのが伝わったのか、早人はまぁ聞いてよ、と続けた。
「一ヶ月ぐらい前に、同じクラスの女の子から告白されたんだ。いつもは断るんだけど、可愛かったしなんとなく付き合いはじめた」
 早人の通う高校はエスカレーター式で、中学校からの持ち上がり組がほとんどだが、きちんと受験を受けて遠くの中学校から入学してくる人間もいる。早人に告白をしてきた女もそうだった。彼女はS市に住んでいて、毎朝時間をかけてバスで登校している。
 控えめな正確で、可愛らしい顔立ちの娘だった。真っ白な肌に、染めていない黒く長い髪がよく似合っていた。
「でね、まぁ僕達もいい歳だから、やることはやるんだよ」
「赤飯を炊いて欲しいのなら、私じゃなくてしのぶに言うんだな」
 すでに新聞に視線を戻していた吉良はそっけなく言った。他人のシモ関係の話など、まったくといっていいほど興味がわかない。
「男に赤飯って、なんか違くない?ていうか、そうじゃなくてね」
 一度言葉を切ると、早人は先ほどよりも深い溜め息をつく。その表情はどこか悩ましげだ。彼の顔だけを見るのならば、女にもてるというのはわからないでもない。事実、川尻浩作の仮面をかぶった吉良は会社でもなにかと女子社員にもてる。元の顔の時と変わらないぐらいに。正直、そういうのはわずらわしくてしょうがないのだが。
 早人の母親であるしのぶもまた美人だ。その二人の血をひいているのだから、彼の顔がいいのは納得できる。ただ、性格の方はいいとは思えないが。
「できなかったんだよ・・・」
「ほう?」
「なんか全然、興奮できなくて、勃たなかったんだ」
 再び新聞から顔を上げて、吉良は薄く笑う。
「なるほど、それでこの前顔に痣を作っていたのか。女に恥をかかせたんだ。当然の仕打だな」
 彼の言っていることが全て事実なので、早人は言い返さない。
 彼女の自宅で事に及ぼうとしていた。今夜は両親がいないからと、誘ってきたのは彼女の方だった。控えめな性格だと思っていた彼女がぞくりとするような艶やかな笑みを浮かべて誘ってきたのは以外だったが、早人はあまり深くは考えずに誘いに応じた。
 早人のそれが反応しないと知った時の彼女の顔は、多分一生忘れないだろう。怒りや屈辱が入り混じった表情をしていた。早人は散々、口汚い言葉で罵られ、最後に拳で殴られた。女にしておくのは勿体無いぐらいの、いいパンチだった。結局そのあとにすぐに彼女の家から追い出され、あれから一言も口をきいていない。学校でも、無視され続けていた。別にそれほど好きだったわけではないのでいいのだが、それよりも彼女の控えめな性格というのが演技だったというのがショックだった。あとから聞いた話では、彼女は地元では有名な男好きだったらしい。女って怖い。そう思った。
「その歳で不能だなんて・・・不憫だな」
 心底から哀れんでいるような声色と表情で言われ、早人は慌てる。
「怖いこといわないで。その子の前で勃たなかっただけで、今はなんともないよ」
「女相手に反応しないとなると、ゲイか?それとも普通のプレイでは反応しない特殊な性癖なのか?」
「・・・冗談」
「まぁどんな性癖だろうと、世間に気を使って生活をしていれば穏やかな日々を送れるから、安心するんだな」
「あんたが言うと生々しいからやめて・・・」
 果たして自分は本当にそんな特殊な性癖なんてもっているのだろうか。本当の両親はいたって普通の趣向の持ち主だが――吉良に惚れているしのぶはどうかと思うが――ここ数年間、一緒に暮らしてきた男が男なだけに早人は気が気ではない。相手は殺人鬼なのだ。一緒にいる自分がなにかしらの影響を受けていても不思議ではない。まったくもって、不本意なことだが。
「試してみようか」
「なにをだ?」
「僕が本当に、そんな特殊な性癖をもっているのか」
 詳しく説明を求めるような目で、吉良は血の繋がっていない息子を見る。
「僕の、舐めてみてくれる?」
 さらりととんでもないことを言われ、吉良はめまいを感じた。どこを、なんて、そんなことは聞かない。聞きたくない。先ほどの会話の流れからなぜそこへ行ってしまうのか。いやそれよりも、なぜそこからはじめようとするのか。手を取ってきて欲しいと言われれば、いくらでも取ってきてやるが、こればかりはどうしようもない。
 まさか早人は頭が悪いのではないかと思う。もしくは頭がおかしいのだ。まず真っ先に性癖を調べるために、自分の実父と同じ顔をした男にフェラをさせようとする息子がどれくらいいるというのだ。
「ダメかな?いつもあんたが誰かから取ってきた手を舐めてるみたいにしてくれればいいんだけど」
「美しい手と貴様の薄汚いアレを一緒にするな」
「いや、薄汚いは酷くない?」
 あんたにもついてるものじゃん、と思ったが、半ば予想をしていた答えなので、早人はその言葉を呑みこむ。そして、お前の手ならいくらでも舐めてやるがな、という吉良の言葉は聞かなかったことにした。
「それで、どうするのさ。舐めてくれるの?」
「そのまま噛み千切ってもいいのなら舐めてやらんこともない」
「うわ、下品」
「どっちがだ」
 早人の言葉があまりにも心外だったため、吉良は軽く相手を睨む。すると、早人はなにかを考えるような真面目な表情になった。何事かと思っていると、突然彼の手が伸びてきて、指先で顎をつかまれる。もう片方の手は自分の体を支えるように吉良の腿の上に置かれた。
 ゆっくりと、早人の顔が近づいてくる。吉良の薄い唇に、早人の唇が重なった。互いに目を開いたまま、無表情に相手の瞳の中を覗き込む。なんの感情も、それぞれ浮かんでいないようだった。
 やがて早人は舌を出して吉良の唇を軽く舐めてから離れていく。片手を吉良の腿の上に乗せたまま、彼の顎をとらえていた方の指で自分の唇を撫でた。
「どうしよう・・・凄くドキドキする」
「・・・・・・」
 普段ほとんど顔色を変えない彼の顔が、興奮のためかわずかに赤らんでいた。
 吉良がなにも言わずに相手を眺めていると、突然早人が立ち上がる。慌てた様子でリビングから出ていってしまった。階段を駆け登る足音が聞こえたかと思うと、すぐにバタンと扉の閉まる音。どうやら自室に駆け込んだらしい。
 天井を見上げながら、吉良は今早人がしているであろうことを思って溜め息を吐く。先ほど彼が立ち上がる前に、彼のズボンの前が膨らんでいるのが目に入った。そうなってしまえば、やることなんて一つしかないだろう。手フェチの殺人鬼と、血が繋がっていないとはいえ父親に欲情する親子だなんて、まったく笑えない。どこで育て方を間違ったのだろうか。
「あら?早人はお部屋に戻っちゃったの?すぐにお風呂に入ってもらおうと思ったのに」
 声のした方を見ると、いつの間に風呂から上がったのか、パジャマ姿のしのぶがいた。愛猫を腕に抱きながら、リビングを見渡している。早人と吉良のキスを見た様子はなさそうだった。
「仕方ないわね。呼びにいかなくっちゃ」
「待て、今はまずい」
 早人の部屋に行くつもりでいるしのぶを見て、吉良は思わず口を開く。なにに対して興奮したのかはどうであれ、流石に同じ男として邪魔をするのは可哀想だった。
「まずい?あの子、部屋でなにかしているの?」
 心底から不思議そうに尋ねられて、言葉に詰まってしまう。まさか自分とキスをして興奮したから自慰をしている可能性がある、なんて言えない。どうするかしばらく考えてから、吉良は開きっぱなしだった新聞を几帳面にたたむと、テレビのリモコンと同じようにテーブルの上に乗せた。ソファから立ち上がる。
「風呂には私が先に入ろう」
「そう?それならそれでいいけど」
 彼女が自分の言葉を深く考えていないようで安心した。しのぶの脇を通り脱衣所へと向かう。
 早人が自分をオカズにしていない事を祈りながら、この日はいつも以上に歯と顔をよく洗った。

 


END

 

 

 

こんな親子がいたら嫌すぎる。
吉良は潔癖症なので絶対にくわえてくれなさそう。
吉良が照れている姿がまったく想像できないのですが、私の妄想力が足りないんでしょうか。なんか驚いたり怒ったりすることはあっても、照れなさそうな感じがします。


ジョルノとジョルノの母親の話です。この二人は仲良し親子、だといいなぁ。

 

 

 

 


 長かったようで、実はとても短い期間しか経ってはいなかったが、地元に帰ってくるととても懐かしいと感じた。それはたぶん、この数日間で体験したできごとの内容が濃すぎたせいだろう。自分達はあれだけ必死になって、それこそ生死の境をさ迷いながら戦っていたというのに、この街は欠伸がでるほど穏やかで、どこか笑えてしまう。
「ただいま。母さん、いる?」
 玄関のドアを開けながら、家に上がり込む。地元に帰ってきてから僕が真先に向かったのは、学校の寮ではなく実家だった。最近まったく家には帰っていなかったから、母に会うのはほぼ一ヶ月ぶりだ。
 バタバタと奥の方で騒がしい足音がきこえる。かと思えば、母が姿を現した。彼女は僕の姿を見て驚いたように大きく目を見開く。そして、こちらにむかって駆け出してきた。
「ハルノ!あなた、学校にも行かずにどこに行ってたのよ」
 広げられた彼女の腕の中に抱きしめられてしまう。正直、この反応は予測していなかったのでこちらも驚いてしまった。そこまで息子に対して愛のない母親ではなかったが、ここまでストレートに愛情表現をする母親でもなかったはずだ。
「寮に戻ってなかったって聞いて、私、本当に心配したんだからね」
 まさか、と言いそうになったが、僕を抱きしめながらこちらを見上げる彼女の目じりに涙が溜っているのを見て言葉を呑みこむ。代わりに、ごめん、と一つ謝った。
 予想外の反応ではあったが、とりあえず母が元気そうだったので安心した。真先に実家に帰って来たのは、母の安否を確かめるためだ。万が一、ボスが今回のことで母のことについて調べ、彼女に危害を加えていたらどうしようかと思っていた。だが、流石のボスもあの短い期間ではなにもできなかったようだ。
 僕が小さかった頃、母は僕をあまり構ってくれなかったが、それでも彼女のことは嫌いではない。彼女はただ、自分の時間を自分の好きなように使っていただけなのだ。僕も今は自分の好きなように時間を使っているから、これはお互い様だった。
 彼女は一人の母親である前に、ただの女だった。それに10代の時に僕を産んだから、まだまだ遊びたい盛りだったはずだ。だからしょうがないんだと思う。実際、今こうやって見ている母はまだ十分に若くて、幼い頃にあまり世話をしてもらえなかったというのも手伝って、彼女を相手にしていると母親というよりも歳の離れた女友達、という感じだ。
 ふと熱心な視線を感じて、僕は母の方に目を向ける。彼女は猫のように、じっとこちらを見ていた。
「なに?顔になにかついてる?」
 尋ねると、彼女は首を横に振りながら僕の体を解放した。そして、腕を伸ばして僕の頬を指先で一撫でする。
「ハルノ、なんか・・・、感じ変わった?昔から大人びた子だと思ってたけど、また一段と大人びたわね」
 そりゃあ、生死の境をさ迷っていれば精神的にも成長するし、そうなれば顔付きも変わるだろう。しかし彼女に本当のことを言うわけにもいかないため、適当に一ヶ月ぶりだからそう見えるんじゃないの、と言っておいた。すると母は、なにかに気がついたような顔をする。ニヤリと、意地が悪そうに笑った。
「わかった。ハルノ、彼女ができたんでしょ。あの人に似て、顔だけは良いから女の子にはもてるだろうし」
「とりあえず顔だけは良い、っていう言葉はそっくりそのままお返ししとく」
「やだ、褒めないでよ。照れるじゃない」
「嫌味で言ってるんだよ」
 照れたようにばしばしと僕の肩を叩いてくる彼女に、小さくため息をつく。僕は人を自分のペースに巻き込んでしまうのが得意だが、どうもこの人が相手だと自分のペースに巻き込めない。下手をすると、逆にこちらが彼女のペースに巻き込まれてしまう。変なところで、血の繋がりというものを感じた。
 あの人、というのは、おそらく僕の実父のことだろう。もしかしたら、母も父に対して嫌味を込めて顔だけは、なんて言ったのかもしれない。…なんて家族だ。顔は良いけど、性格がアレだなんて。いやきっと、僕はまだましだ。父のように、女遊びをしたあげく子供を認知しなかったということは、今のところないのだから。
「彼女を作るのはいいけど、ちゃんと避妊はするのよ」
 僕の考えていることを読んだように、母は急に真剣な表情と声色で言った。思わず、圧倒されてしまう。この言葉は、母親としてのものだったのか、それとも実体験に基づいた言葉だったのかは読み取れなかった。ただ、あまりにも彼女が真剣だったので、僕は無言で頷く。避妊もなにも、僕に彼女なんていないのだが。もしかしたら母は、数日間行方をくらませていたのは僕が女のところに入り浸っていたからだと思っているのかもしれない。そう思われるのは心外だったが、否定するとますます誤解されそうだったので、結局なにも言わないでおいた。
「あーあ、男ってみんな、私から離れていくのね。寂しくなっちゃうわ」
 どこか拗ねたような口調で母が呟く。男とは僕と実父のことだろうか。
「子供、作ろうかしら。今度は女の子。一緒にショッピングに行ったり、映画を見に行ったりするの」
 僕に意見を求めるような目で、母は尋ねる。もしかしたら、この言葉は僕に対するあてつけの意味もあったのかもしれない。僕にもうちょっと構ってくれと言ってるのだろうか。
「母さんだってまだ若いんだから、作ったら?ちゃんと育児ができるなら、ね」
 こちらもあてつけのように言ってやると、母は少しムッとしたように目じりをつり上げてこちらを睨んできた。しかしすぐに、悲しげな顔になる。少し、言い過ぎただろうか。なんて、僕は悪くないのに母に対してこう思ってしまうあたり、僕は彼女のペースに巻き込まれてしまっている。
「・・・映画、行こうか。これから」
 僕が呟くように言うと、母は先ほどとは打って変わって目を少女のようにキラキラとさせた。とても、15歳になる息子がいるとは思えない。まぁほとんど育児なんてしなかったので、母親特有のストレスなんて、彼女は感じていなかったのだろうけど。だから、若々しいままなのだ。
「デート?」
 母が尋ねる。デート、なのだろうか。母親と?それとこれとは違うような気がするが、とりあえず彼女の話に合わせておくことにした。
「まぁ・・・それでいいよ」
 僕が諦めたように言うと、母は嬉しそうな声を上げて僕の腕に自分の腕を絡めてきた。あ、なんか本当にデートするみたいだ。
「デートだったら男の方が女の子に奢ってあげるものよ、ハルノ」
「なにそれ、息子にたかるの?母さん」
「何日も無断外泊して母親を心配させたんだから、当然でしょ」
 理由はどうであれ、無断外泊をしてしまったのは事実なので、それ以上はなにも言えない。やっぱり女性の相手って面倒くさいな、と思いながら、それでも母に対して不快には思っていない自分がいて、それなら別にいいかと思った。

 


END

 

 

 

ジョルノとジョルノの母親は仲が悪くなければいいという願いをこめて。
この二人は親子というよりも、友達感覚だといいです。


今日国語の時間になまこという単語が出たんですよ。海にいるあれです。
先生が黒板になまこの絵を簡単に描いたんですが、どう見ても卑猥なものにしか見えません本当にありがとうございました。
超えだして笑いそうになったけど耐えました。あんなの授業中に反則だ!
授業終わってから写メで撮ろうと思ったけど、描いてすぐに消されたので駄目だった。ちくせう。


まぁ下ネタは置いておいて。多分はじめてまともに書いたトリディアです。
いつもお世話になっている某方に送りつけたもの。
よく新年早々こんな鬱々したものを送りつけたものだと思います。
ある意味トリッシュしか出てません。当社比でトリッシュがボス大好き。

 

 

 

 数日ぶりに帰ってきた我が家は、嵐でも通ったのかと思ってしまうほど荒らされていて、一瞬面食らってしまった。泥棒にでも入られたのかと思ったが、よく考えれば原因ははっきりとしている。私がペリーコロという老人にこの家から連れ出されてすぐに、パッショーネの暗殺チームが私の手がかりを求めて家捜しをしたのだ。
 母が写った写真の入った写真立てが床に落ちて壊れている。だが写真自体は盗まれてはいなかったので、私は安堵した。手を怪我しないように写真立てから写真を取り出すと、シワにならないよう気を付けながらポケットにしまった。
 背後から名前を呼ばれる。振り向くと父の遺体を抱えたスパイス・ガールがいた。私は戻って来たのだ。数日間の壮絶な戦いを経て、亡骸となってしまった父と共に、母との思い出が詰まった家へ。
 この家までジョルノが私達を車で送ってくれた。一週間後に、また迎えにくるという。天涯孤独の身となった私は、生活を保証してくれる代わりに、新たなボスが誕生したパッショーネに身を置くことを約束していた。
 父を母が使っていたベッドに寝かせる。死んでから一日も経っていないので、死後硬直はしているが遺体は綺麗なままだった。しかし一週間も待たないうちに腐敗し始めるだろう。ジョルノが与えてくれた一週間という猶予は、おそらくその間に遺体をなんとかしろということなのだ。
 ジョルノには感謝している。まさか父の遺体を私に譲ってくれるとは思っていなかった。その上、G・Eで殴られたことで体の破損した部分もまた、G・Eで創ってくれた。そうでなければ、彼の遺体は目も向けられないようなものとなっていたことだろう。
 ベッドサイドに腰を下ろすと、まだ張りのある父の頬を指先で撫でた。生前と変わらず、美しいままだ。もしかしたらまた動き出すのではないかと思わせるほどだ。しかしその不気味なほど冷たい肌は、死体のそれだった。
 輪郭の形を確かめるように、彼の顎に指を這わせる。飽きもせず、父の体を撫で続けた。初めての父親とのスキンシップが遺体とだなんて笑える。そもそも、潔癖症である私が死体に触っているということ自体驚きだ。どうして触れられるのだろうか。血が繋がっていたということ以外は、誰よりも他人だった男なのに。それほどまでに、血の繋がりというものは影響力があるのだろうか。それとももしかしたら、もっと別のなにかが存在しているのかもしれない。それは誰もが心のどこかに持っていて、プラスにもマイナスにも働く感情。それを与えることに幸せを感じる人間もいれば、貰うことに幸せを感じる人間もいる。私は貰う方だと思っていた。でもどうやら違うらしい。間違いなく今、私はもう目を覚ますことのない父に愛情をそそいでいる。笑いを通り越して滑稽だ。私のいだいている愛は、家族愛なんていう生易しいものを超えているのだから。それはおそらく娘が父親に一番いだいてはいけない類の感情だろう。だって、誰が想像できるだろうか。もうじき中学校を卒業する娘
のいる父親が、こんなに若くて美人だったなんて。そういう点では、私に罪はない。悪いのは今更になって私の前に姿を現した彼の方だ。
 体をかがめて彼の顔に自分の顔を近付ける。その唇に、触れるだけの軽いキスをしてみた。しかしやはりおとぎ話のように彼が目を覚ますわけもなく、私は自分の考えの幼稚さに苦笑した。
 それから数日間、私は父の遺体と共にこの家で過ごした。暗殺チームの者達に窓を割られたり家具を倒されたりして散々に荒らされてはいたが、なにかを盗まれたわけではないし、電気や水を止められたわけではないので、特に不便することなく生活できた。一人でできる範囲で家の片付けをしたり、父を埋めるための墓穴を庭に掘ったりして過ごした。暇な時は彼の髪を指先ですいてやりながら、私がまだ幼かった頃の話をした。あと、数週間前に母が死んでしまった時の話。
 母は風邪をこじらせて、それこそ呆気なく死んでしまった。あの時は何日間も泣いて過ごした。だからその二週間後に、父親に会わせてやるとペリーコロが私の元に現れた時は本気で驚いてしまった。そんなタイミングよく、事が運ぶものなのだろうか。結局、父も会ってからすぐ死んでしまったのだが。三週間前後の間に、それぞれまったく違う死因で両親を亡くす子供がどれくらいいるのだろうか。そんな事を考えてしまう。
 家に戻ってきてから五日が経った。驚いたことに、父の遺体は今なお綺麗なままだった。大部分をジョルノのスタンドで修繕したから、その影響かもしれない。本当に、畏怖の念をいだかせるほど強大な能力だ。
 もしかしたらずっとこのままの姿を保ったままなのではないかと思ってしまう。世界には何百年も腐敗の影響を受けずに生前の姿を保っている遺体があると聞いたことがある。しかしどちらにしろ、もう二日後にはジョルノが私を迎えにくるのだ。父の遺体をこのままにしておくわけにもいかない。
 私は決心すると、彼の遺体をバスルームに運んだ。服をすべて脱がせてから、冷たいシャワーの水を浴びせる。手にボディーソープをつけると、丹念にその体を洗った。体のいたるところに変色した血がこびりついていたが、指先でそこをこする。完全に脱力している彼の体は酷く洗いづらかったが、私は一時間以上をかけて彼の体や長い髪を洗った。
 体についた水滴をタオルで拭き取り、もう一度服を着させる。髪をドライヤーで乾かしてから、母の寝室に運び直した。仰向けに寝かせ、その顔に薄く化粧をほどこす。そこまでしてやると、もう死体になんて見えなかった。誰が見ても、眠っているようにしか見えないだろう。それに私は満足した。できることなら美しいままで土に埋めてやりたかった。
 彼の遺体はこの家の庭に埋めると決めていた。母と同じ墓に埋めるというのは、違う気がしたのだ。二人は結婚していたわけではないし、なにより父を私と母の思い出の場所に埋葬してやりたかった。
 あらかじめ掘っておいた穴に父を寝かせる。少し余裕を残して、彼の体は穴におさまった。ふと思い付いて、最初にこの家に戻ってきた日に回収し、それから肌身離さず持っていた母の写真を父の胸元に置く。
 シャベルを握り締める。先端には掘り起こしていた時についた土がついたままだった。今度は掘った土をかぶせるだけでいい。硬い土を掘り起こすよりも簡単な作業のはずだ。しかし私の手は動かない。シャベルを強く握り締めすぎて、指の皮膚が真っ白になっていた。
 今更になって、ぼろぼろと涙があふれだす。父が死んですぐには流さなかった涙が、私の頬をつたい地面に落ちた。このまま土をかぶせてしまうのが辛かった。母を火葬する時ですら、こんなに辛く感じなかったのに。母の時はまだ、きっと心のどこかに余裕があったのだ。彼女に火を付けたのは私ではなかったし、世界のどこかに父がいると思ってそれほど寂しくはなかった。だから二週間ほどで母の死から立ち直れたのだ。でも今は、父を埋めるのは自分で、そして今度こそ私は独りになってしまう。両親がいないというのは、どれほど孤独なことだろうか。まだ小さい頃、父親のいる家庭が羨ましかった。母がいてもまだ寂しいと感じた。それなのに、どうして両親がいないという孤独に耐えられるだろうか。どうして、やっと出会えた父に、一目見ただけで愛してしまった父に、土などかぶせられるだろうか。彼が最期まで娘を自分の手で殺せなかったように、私も父を埋葬することなどできない。
 シャベルを手から落とし、地面に膝をつく。両手で顔を覆いながら声を上げて泣いた。独りになるのは嫌だった。この世から自分と血をわけた者がいなくなるのが怖かった。泣きながら、こうなってしまった自分の運命を呪った。私はスタンド能力も父の遺した莫大な遺産もいらない。ただ、普通が欲しかった。毎日、両親と一緒に夕食をとるような、普通の家庭が欲しかった。誰もが持っているそんなありふれた光景が、欲しくてしかたがなかったのだ。私の願いはそれほどまでに高望みだっただろうか。もしこの世に神というものがいるのなら、平等というものを知らない神がいるのなら、私は声を張り上げて言ってやる。地獄に堕ちろ、と。
 私はもう一度シャベルをつかみ立ち上がる。そして、泣きながら愛しい父に土をかぶせた。
 翌日、私は一日中ベッドの中で泣いていた。泣きすぎて、なにが悲しくて泣いているのかわからなくなるほど泣いた。そして約束の七日目。私は家を出て花屋へ向かった。酷く目元を腫らしていたので店員に怪訝な顔をされたが、気にせずに目的の物を買った。
 買ったのは、花の種だった。名前はわからない。ただ、鮮やかな桃色の花が咲くものを選んだ。その種を、父を埋葬した場所の真上に植える。花など育てたことのない私に、当然種を植えるという行為も初めてで、勝手があまりわからなかった。種に土をかぶせるだけでいいものなのだろうか。疑問に思いながら、私は種を植えた場所に小さなジョウロで水をまいた。
 それが終わった頃、ジョルノが私を送ってくれた時と同じ車で私を迎えにきた。庭にうずくまって目元を腫らせている私を見てしばらく沈黙していたが、やがて、いいですか、と尋ねてくる。それはきっと、父親との別れはすんだかという意味合いが含まれていたのだろう。私は無言で頷いた。
 車の助手席に乗り込む。そして家の方を見た。次に私がこの家に戻ってくる頃には、父の養分を吸って美しく咲き誇っている桃色の花が見れることだろう。

 

END

 

 

 

最初は一つの部屋でトリッシュがジョルノの能力のせいで日に日に植物になっていくボスの死体と同居する、という感じの話になる予定でした。
でも内容があまりにもアレな上に短くなりそうだったので廃案に。
とりあえずボスをどうにかしたくてしょうがないです、愛ゆえに。


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1月14日生まれの新潟県民。

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乙一作品と三原ミツカズ作品と藤田和日郎作品も好き。
節操なしの浮気性です。
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