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おっさんと人外を中心によろずっぽく。凄くフリーダム。
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鮮緑様に捧げます。
神域×市川ですが、越境のようで越境じゃない感じになりました。
若干以前に書いた神域追悼話と繋がってる感じです。死んだ後もいちゃいちゃしたいんです。というわけでいちゃいちゃのターン!

 

 


 紫煙を大きく吐き出す。空気にとけていくそれを見ながら、死んでも煙草は吸えるのだな、と思った。これでは生きていた時と大差ない。
「俺は地獄に落ちると思ってたんだがな」
 独りごちる。別に反応を望んでいるわけではないと理解していたため、市川は言葉を返さなかった。
 間違っても天国になんて行けないと思っていた。ではここはどこなのだろうか。地獄ではないが、天国という感じでもない。なにもない大地と雲のない空。風が時折吹いて髪を揺らす。ここがあの世というものか。もしくはこの空間が一番赤木の望んだ死後の世界なのかもしれない。赤木が望んだから、この場に市川がいる。
「まぁあんたのいるところならどこでもいいんが」
 煙草を地面に落とし、靴の裏で消す。その気配がわかったのか市川がこちらを向いた。手を伸ばしてサングラスを取ってやると、見えていないはずの目でこちらを睨んでいる。行儀が悪い、と言いたいらしい。もう生きてるわけじゃないんだから、と赤木は喉を鳴らして笑った。
「相変わらずだな、市川さんも」
 言いながら抱きしめる。子供の頃とまったく変わらない抱き心地だった。強いて言えば、昔よりはこちらの腕が長くなったので余裕を持って抱けるようになったというところか。
「テメェは変わったな、いろいろと」
 体の大きさも、声も、雰囲気も、なにもかもがあの頃と違っていた。でも抱きしめてくる腕だけは相変わらず強く、熱い。
「男前になっただろ?」
「見えねぇよ」
 市川は確かめるように両手で赤木の顔に触れた。若い頃よりも肌にハリがなく、ところどろこ皺があるのがわかる。目元や口元の笑い皺。いい歳のとり方をした、と思った。姿は見えなくてもわかる。きっと赤木は子供の頃より、ずっといい男になった。
 両手を赤木の頬に添えたままこちらに引き寄せ、目元の笑い皺にキスをする。すると彼が笑ったのがわかった。より深く皺が刻まれる。そこに舌を這わせた。
「くすぐってぇよ」
 口ではそう言いながらも、市川の好きなようにさせる。
 赤木は片手で市川の髪を梳いた。歳の割には量も多く、艶々とした髪だ。するとわずかに彼が笑う。赤木は彼がなんと言いたいのかわかった。自分の髪をいじるのが好きなのは変わらないな、と言いたいのだろう。体は大人になってもその子供じみた手癖が変わってないのがおかしかったのかもしれない。
 だって好きなものはしょうがない。昔から子供心にこんなふうに無条件に市川に触らせてくれるのは自分だけだと理解していた。だから余計に彼に触れるのが好きだった。今も変わらずに好きなようにさせてくれるのが嬉しい。
「髪、ずっと切らなかったんだな」
「死んだのに切れるかよ」
「そりゃそうだ」
 喉を鳴らして笑ってから、今度はこちらから市川の目元にキスをした。それから顔中に。ずいぶんと久しぶりに会ったのだ。実に数十年ぶりだ。体中が市川を求めているのがわかる。ずっと会いたかった。やっと会えた。たとえ互いがもう死んでいたとしても、こうやって触れ合って相手の体温がわかるのがたまらない。
 彼の服の中に手を入れて優しく体を撫でる。骨の浮いた鎖骨に軽く噛み付いてやると、彼の体が小さく震えた。それでも気丈に口端を引いて笑みを見せる。
「もうガキじゃねぇんだから、がっつくんじゃねぇよ」
 よく言う、と思った。市川だって、求めているくせに。
「市川さんと違って俺はまだまだ現役だからな。この数十年で磨いたテク、見せてやろうか?」
「テメェはもう少しデリカシーを身に着けるべきだったな」
 他の人間で磨いたテクを見せてやろうなんて、よくも言えたものだ。
 市川の言わんとすることがわかり、赤木はおかしくなる。嫉妬をされてしまった、あの市川に。
「そりゃあすまねぇ。なんせ一人身が寂しかったもんでな」
 そんな軽口を叩き、ひとしきり笑う。それから赤木は真面目な顔をした。
「でもこれからは、もうあんただけだ」
 だからこれからはずっと一緒にいよう。昔のように離れ離れになって悲しい思いはしないように。
 それに応えるように市川が口付けをしてくる。赤木は目を伏せると、再び強く彼を抱きしめた。


END

 

 


シノハにはこれが限界でした。色事ってなんだ。
鮮緑様、こんなものでよければお持ち帰りください。

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やっぱり書いちゃった。
fkmtサイト様を回ってたら我慢できなくなりました。
神域と、あと市川先生に心を込めて追悼を。

 

 

 

 ゆらりと横に人が座ったのに気が付いた。目は見えないが、誰なのかなんてすぐにわかる。昔と大きく変わった、しかし間違えようのない人物。
「ずいぶんとこっちに来るのがはえぇじゃねぇか」
 相手がゆるりと笑ったのがわかった。笑ってる場合じゃないだろう、と内心でツッコミを入れるが、ここに来てしまったらもうどうしようもない。追い返すこともできないし、たとえ追い返せてもまた戻ってくるだろう。彼はそういう男だ。
「早く市川さんに会いたくなってな、来ちまった」
「バーカ。向こうでたくさん泣いてる奴が見えねぇのか。こんな老いぼれを追ってきやがって」
 相変わらず目は見えない。しかしわかるのだ。大勢の人間が、彼のために泣いている。彼のために涙を流し、死なないでくれと説得をしていた。しかしはじめから全てを決めていた彼の意思は、揺らぐことはなかった。
 もっと生きていたかったはずだ。最期に見せた涙が全てを物語っている。彼ならもっと生きて、他の人間には歩めないような数奇でいて、それでも素晴らしい人生が歩めたはず。
 神域と呼ばれた男は、それでも結局はやはりただの人間だったのだ。誰もがそれを思い知らされた。この世にはたくさんの天才と呼ばれる人間がいるのだろう。しかし、神なんていないのだ。
 しかしだからこそ、この男は人間だったからこそ、このような人生が送れたのだろう。10代はじめにして麻雀を覚え、その頭角を現し、いろいろな人間と良くも悪くも付き合いをし、そしてたくさんの友に囲まれ、見送られた。人間だったからこそ、歩めた人生。
「ひろゆきの奴、まだ泣いてやがんな」
「そう思うんなら戻ってやれよ」
 不意に煙草の臭いがした。手を差し出すと、彼は気が付いてそのまま自分が吸っていたものをこちらの口に入れてくる。そしてまた、新しい煙草を自分のために出した。
 彼が煙草を吸い始めたのはいつだったか。教えたのは自分だ。まだ子供の頃に俺が吸っていたのを見て、生意気にも吸いたいなんて言いやがるなら、少し吸わせてやった。初めて吸った時はむせていたくせに、今ではこんなにきついものを吸っている。たったそれだけのことにも、年月の流れを感じた。
「あんただって、戻ってきてくれなかっただろ。最初はどうしてって思ったけど、今ならわかる。いいんだよ、これで」
 あのような形で死ぬのは無念ではあったが、しかし自分の生に満足をしたからいいのだと、彼はいつもの調子で言った。そりゃ満足もするだろう。好きなことをして生き、最期にはたくさんの友に見送られたのだから。
 戻ってきて欲しいというのは、生き残ったもののエゴだ。死者を追ってどうする。死んでしまえば終わりだが、生きている者はまだ歩みを止めてはいけない。歩いて歩いて、自分の生を全うしなければいけない。死者に構うのは、葬式の時と命日の時だけでいい。
「あんたも自分の生に満足したのか」
「そうだな。てめぇともさんざ遊んだしな」
「ククク・・・確かに、遊んだな」
 麻雀をしたり、一緒に飯を食ってみたり、なにをするわけでもなく一緒にいてみたり、なにをとち狂ったのか体を重ねてみたり。これだけすれば、もう十分だろう。だからもうよかった。彼とは十分、時を過ごした。彼は自分だけに関わっていてはいい人材ではなかった。だから他の者に譲ったのだ。
「ほんと、驚いたぜ。あんた、殺しても死ななそうなのにな」
「それはこっちの台詞だ、バカ」
 誰が彼のあのような死を予測しただろうか。おそらく、本人ですら予想していなかったはずだ。彼は頭もよく勘も鋭いが、これだけは予期できなかった。死とはそんなものだ。
「どうだったよ、あれから」
「そうだなぁ・・・」
 紫煙を一つ大きくはく。そして彼は俺が死んでからの人生を語り始めた。ずっと見ていたので、知らないわけではなかったが、それでも彼の口から直接聞くのは見るのとはまた違う。
 相変わらず、普通の人間ではありえないような生き方である。ほとんど賭け事だけで生きてきた。その周りでは、常に多くの人間の影があった。彼を尊敬する者。彼を軽蔑する者。彼を憎む者。彼を愛する者。ありとあらゆる人間が、彼の傍にいた。上等じゃねぇか。
「普通の人間じゃあ、まずありえねぇ生き方だ」
「そうだな」
「人を死に追いやったり、逆に殺されかけたり」
「そんなこともあったな」
「最期には自分が誰だかわからなくなる前に自殺しやがる」
「あぁ」
「馬鹿げてる」
「でも、狂気の沙汰ほど面白い、だろ?」
 よく、わかってるじゃねぇか。思わず、口端がつりあがった。
「まったく、いい人生だったじゃねぇか。てめぇにしては上出来だよ、赤木しげる」
「知ってるよ、そんなこと」
 そう言うわりに、本当に嬉しそうに、彼が無邪気に笑った気がした。

 

END


森銀書くって言ってたけど、それはまた今度で。
今回は越境じゃなくて普通にアカ市。
なんかアカ鷲はアンソロまで出るのに対してアカ市が増えないのが心底悔しくて・・・。結構このブログにアカ市のワードで検索して来られる方がいるので、それほど需要がないわけじゃないはずなのに。

 

 

 


 縁側で点字の本を読んでいると、玄関から誰かが入ってくる気配がした。しかし普通の人間とは違い、やけにその気配は薄い。というか、浮ついている。酷く不安定。こんな気配の人間を、市川は一人しかしらない。そして家主に黙って入ってくる者も。
 煩わしいのが来たと小さくため息を吐く。しかしそれだけだ。不法侵入者に声はかけない。かけたところで、どうにもならない。あの夜から、この不法侵入者はほとんど毎日家にやってくる。まるで自分の家だと言いたげに堂々と、そして図々しく。
「市川さん」
 背後に立たれる。それと同時に、その歳にしては低めで落ち着いた、というよりも、どこか感情が欠落したような印象を受ける声がした。
 赤木しげるはその場に座ると、市川の読んでいる本を後ろから覗き込んだ。知識のない者にはなにが書いてあるのかさっぱりとわからない、点の羅列。しかし少年はその一つ一つの点がしっかりと意味を持っていることを知っている。まるで暗号だ。
 腕を伸ばし、指先で凹凸に触れる。市川は読書の邪魔をされて一瞬動きを止めたが、やはり彼を黙殺した。自分に意識を向けられるよりは、本に意識が向いていた方が大人しくていい。
 なぜこの少年が、毎日のようにこのようにしてやってくるのかはわからない。また、それを聞こうとも思わなかった。一晩一緒にいただけで十分に理解した。彼は普通の人間とは感性がまったく違う。常に斜め上どころか、まったく別の次元の考え方をしている。そんな鬼っ子にまっとうな説明を求めたところで、理解できるはずがない。理解できないのなら、最初から聞くこともない。
「市川さん」
 もう一度、あの声で名前を呼ばれる。しかし先ほどの無機質な声色ではなく、小さな感情が込められていた。普段大人びているくせに、こんな時にだけ覗く歳相応の感情。つまり、構って欲しいという独占欲にも似たもの。
 もう点字に飽きたのか、それともある程度解読してしまったのか。どちらにしても、すでに彼の中に点字のことなどこれっぽっちもなく、全ての感心は市川に向けられていた。
 少年のことはわからない。しかしただ一つわかるとすれば、彼がどういうわけか自分をとても気に入っているということだ。決して自惚れではない。紛れもない事実。
 そうでなければ、どうしてこんな歳若い少年が、歳を経た男に触れてくるだろうか。子供特有の熱っぽくはりのある肌で、すでに枯れかけた肌に触れてくるだろう。
 指先で凹凸を追っていると熱い少年の手が重なる。読むのを邪魔しているというよりも、ただたんに市川が他のものに気を取られているのが面白くないだけだろう。ずいぶんとストレートにその子供っぽい感情が触れた肌から伝わって、思わず苦笑した。無機物にまで嫉妬するなんて。
 少しぐらいは彼の相手をしてやっても良いと思うところまで、市川の機嫌は良くなる。
「邪魔をすんなよ」
「ヤだね」
 背中に額を押し付けながら言う。必然的に、市川のボリュームのある白く長い髪に顔をうずめる形となった。最近気が付いたが、どうやら彼は市川の髪を弄るのが好きらしい。暇さえあれば、指先で髪を梳いたりしている。別にそれは不快でもないので、好きなようにさせているが。
 手を重ねたまま、もう片方の手を後ろから市川の腰に回して抱きついてくる。今日はまた一段と甘えてくるな、と思った。そういえば最近は少年が訪ねてきてもほとんど相手をしていなかった。そのせいだろうか。
「いい歳して恥ずかしくねぇのか?」
「好きな相手に抱きつくのに年齢制限があるのなんて、初耳だな」
 減らず口を叩く。年寄りを捕まえておいて好きな相手だなんて、よくそんな惜し気もなく言えたものだ。そんな台詞はもっと歳の近い女にでも言ってやればいいものを。そう思いつつも、市川は自分の機嫌が先ほどよりも良くなっているのに気が付いていた。
 まぁたまには鬼っ子の相手をしてやってもバチは当たらないだろう。なにせ鬼とはいえ、やはりまだ子供だ。そんな子供を構ってやるのも、大人の務めだろう。
「アカギ、茶ぁ持ってこい」
「なんで」
「別に遊んで欲しくねぇなら、持ってこなくてもいいけどな」
 背後でわずかに驚いたような気配を感じる。だがしばらく間があって、少年は無言で立ち上がった。慣れた足取りで離れていく。台所に行ったのだろう。今の彼なら目を瞑っても辿り着けるはずだ。本当に、いつの間にこんなにこの家に慣れたのか。
 しばらくして少年が戻ってくる。市川の横に座り、床の上になにかを置いた。お盆に乗せて運んできたらしい。
「急須とヤカンと、茶葉に湯飲み、茶菓子は持ってきた」
 目の見えない市川のために少年が説明をしてくれる。
「淹れろ」
 一言、命じる。しかし少年は動かない。
「淹れ方がわからない」
 予想外の台詞に、思わず声を出して笑いそうになってしまう。やはり、わからない子供だ。感性や運、記憶力なんかは人並み外れているくせに、変なところで抜けている。
「なら覚えろ。お前なら簡単だ」
 市川が手を出すと、少年はすぐに察して茶葉の入れられた缶を市川の手に触れさせた。この察しのよさが気持ちいい。麻雀の時などは、悪魔のように感じるが。
 少年に手伝わせながら、市川は手際よく茶を用意する。目が見えなくてももう何度も繰り返していることなので、その手つきに危なげはない。喰い入るように少年が手元を見てくるが、それでも普段と変わらずに市川は茶を入れ終えた。澄んだ色の緑茶が湯気を立てる。
「覚えたか?」
「だいたいは」
「なら、次からお前が淹れろよ」
 湯飲みに伸ばそうとしていた少年の手が、不意に止まる。うかがうようにして、市川を見た。相手は少年などお構いなしに、自分で淹れた茶を飲んでいる。
 市川だって馬鹿ではない。そんなこと、雀卓をともにした少年が一番良く知っている。だから、先ほどの言葉にどんな意味が含まれているかぐらい、自分でも理解しているだろう。
 許されたのだ、と少年は思った。『次』ということは、またこの家に来ていいということで、つまり彼の傍にいてもいいということだ。ただそれだけのことが嬉しくて、少年の口端がわずかにつり上がる。
「茶柱が立ってる」
「そりゃよかったな」
 いつもと変わらない口調で市川は言う。きっと明日も明後日も、いつまでもこの調子なのだろう。いつまでも、二人はなにをするわけでもなく寄り添い合っている。
 この日から、少年はちゃんと一言言ってから市川の家に上がるようになったらしい。


END

 

 

 

13アカギは一番まだ人間っぽくて書きやすく、そして書いていて楽しいです。
アカ市はほのぼの推薦です。なにをするわけでもないし会話をするわけでもないのに一緒に入るっていうのは、すごく信頼しあってる感じがして好きです。
ていうかもうほんとどんなアカ市でもいいから見たいです、飢えてます。誰かアカ市ください。
 


前回のアカギ(19)×猫な鷲巣様の続きです。
ワシズが鷲になっているので注意。











 パタンと、静かに扉が閉められる。部屋の窓からちょうど死角になるところで様子を観察していたワシズは、小さく息を吐いた。もちろんその姿は人間のものではない。青年の予想した通り鳥の…鷲の姿をしていた。黒っぽい色をしたそれは、鋭い鉤爪の生えた足で太い木の枝をしっかりと掴んでいる。体もずいぶんと大きい。翼を広げれば、2メートルを超えるだろう。
 どうしたものか、とワシズは思った。朝起きてみたらもうすでに動物の姿になっていて、どうしてこうなったのか、そしてこれからどうするか、鷲巣と話し合っていた時に突然の青年の来訪。本当は鷲巣も連れて外に出たかったのだが、鳥が獲物を運ぶようにして足で掴んでプライドの高い老王を運んでもいいのかと一瞬ためらってしまった。そうしている間にも足音は部屋に近付いて来ていて、結局鷲巣にお前だけでも早く逃げろと目で訴えられ、今この場にいる。
 しかし青年と老王のやり取りを見ていた限りでは、やはり無理にでも外に連れ出してやった方がよかったのではないかと思う。もし自分があの場にいたかと思うと、寒気がした。あの悪魔になにをされたかわかったものではない。
 ワシズは羽を膨らませ、一つ体を震わせた。
「動くな」
「・・・!」
 突然、首に生暖かい息遣いを感じた。徐々になにかとがったものが皮膚に喰い込んでいく。視線だけを動かし、見れば自分の首に噛みついている銀色の狐がいた。
 どうして狐がこんな木の上に、と思う前に、ワシズはその声にハッとする。
「お前、赤木か?」
 少し間があって、狐もとい、神域はワシズから口を放した。その様子はどこか不満げだ。
「驚かないんだな」
 つまらない、というニュアンスがその言葉に含まれている。ワシズにしてみれば、自分も彼と同じような境遇にあるのでそれどころではない。
 解放され、ワシズは改めて神域を見た。先ほどの青年の口ぶりから、彼もなにかしらの動物になっているであろうとは思っていたが、狐とは似合いすぎてて笑えない。なんて、人のことを言えないのに思ってしまう。
「いつからそこにいたんだ」
「うちの坊が鷲巣の部屋に入ってくる、少し前ぐらいだな」
 鷲巣邸に遊びに来たらちょうど青年がいたので、様子見に雑木林の方に回ったら大きな鳥を見つけた。そして今にいたっているらしい。
 神域の存在に気がつかなかった。余程集中して部屋の様子を見ていたらしい。もしくは体が動物になったせいで動揺し、精神に隙ができたか。いや、それ以前に猫ならともかく狐の姿で木に登ってくるとかどれだけ器用なんだ。半ば呆れたような目で神域を見ながら、ワシズは思った。どこまでも予想外の行動をとる男だ。
「俺に首輪をはめようなんて、10年早い。選んだ首輪のセンスは誉めてやるがな」
 買った物が無駄にならなくてよかった、と神域は先ほどの光景を思い出しながら喉を鳴らす。
 そんなことは知らんとばかりに、ワシズは神域の言葉を無視して口を開く。
「それよりも早く俺達の姿を元に戻せ。仕事にならんだろうが」
 猛禽類特有の鋭い瞳で神域を睨みながら言う。まともな神経の人間ならその目で見られただけで、自分がこの鷲に喰い殺される姿が脳裏に浮かんだことだろう。
 ワシズの言葉に、神域はわずかに首をかしげる。俺達というのはもちろんワシズと鷲巣のことだ。その言葉はあからさまに、お前が自分達をこんな姿にしたのだろう、と言っている。
「動物になったのは俺が原因だってのか?」
「貴様以外の誰にこんなことができるというんだっ!」
「いくらなんでも俺だってできねぇよ」
 人のことを一体なんだと思っているんだ。
 内心で神域はツッコミを入れる。神域というだけで、神ではないのだから。
 神域の言葉に納得がいかないのか、ワシズはまだジトリとこちらを睨んでいる。下手なことを言ったら、その肉をついばむために発達した嘴をなんのためらいもなく瞳に突っ込み、眼球をえぐってきそうだ。彼ならやる。絶対に。
 果たして戦闘能力というのは、狐と鷲、どちらが高いのだろうか。ふとそんなことを思う。
「俺だってどうしてこんな姿になったのかなんて知らねぇさ。朝起きたらすでに狐だったんだからな」
 尻尾を一つ振りながら、やれやれという感じで神域が言った。
 まぁこの姿を楽しんではいるが。
 その言葉は呑み込む。言ってしまえば、更に疑われかねない。狐の姿になったのは別にいいのだが、なんの根拠もなく疑われるのは面白くなかった。
 胡散臭げなワシズの視線を無視しながら、神域は口を開く。
「それよりも鷲巣を追わなくていいのか?」
「ふん、言われなくともこれから行く」
 やはり老王が心配なのだろう。ワシズは飛ぶ意思を示すように、小さく翼を羽ばたかせる。
 なにせ相手は青年だ。トップクラスで超危険人物である。こっそり後を追って、青年の隙をついて鷲巣を回収しなければいけない。最早プライドとかそんなことを言っていられない状況だ。
 こんな街中に鷲というのも違和感があるが、空高くを飛んでいれば鳶に見えなくもないだろう。
 飛び立とうとするワシズを見て、神域が喉を鳴らして笑う。どこか楽しげだ。普段のワシズだったら、この場での彼の笑いに不審なものを感じとったかもしれない。しかしそれどころではないワシズは、ついに気がつかなかった。
「貴様はどうするんだ?」
 付いて来て自分達を観察するつもりだと思ったワシズは、牽制するように軽く睨んだ。確かに彼等に付いて行きたいのは山々だ。さぞかし面白いことになるだろう。だが、わざわざ悪魔の懐に飛び込むこともない。
「期待にそえられないで悪いが、これから行くところがあるんでな」
 これは本当だ。この狐の姿を見せていない人物が、まだ幾人かいる。
「悪趣味だ」
 神域の意図を感じ取ったワシズは、吐き捨てるように言う。そして大きく翼を広げると飛び立った。
 見る見る空に昇ってゆく一羽の鷲を見ながら、神域はもう一度喉を鳴らす。
「鼻が鈍ったな、ワシズ」
 笑いを噛み殺しながら言う。青年はワシズが近くにいるということに、もちろん気がついた。そして鷲巣の後を追ってくるということも、当然予想しているだだろう。遠くへは行かずに、まだこの屋敷の近辺で待ち伏せしているはずだ。自分の傍へ来るようにと、おそらくは鷲巣を使って脅されるのだろう。それを思うと、おかしくてしょうがない。
 別にそのことを教えてやってもよかったのだが、わざわざ青年の楽しみを取ることもないし、今回の騒動で真先に自分を疑ってきたので止めた。存分に、青年にいじられるといい。
 本当はその光景を自分の目で見たいのだが、先ほども言ったとおり今日はまだ行くところがある。今、鷲巣のように青年に捕まるわけにはいかない。流石に神域がこの場にいることまで、青年は予想していないだろう。
 よって、青年達がこの近辺からいなくなるまで、神域はしばらく木の上で待機する。機嫌良さそうに尻尾を左右に緩く揺らしながら。
 悔しげなワシズの怒号が聞こえるまで、あと数分。


END












掛け算にならなかったのが残念です。
ワシズは鷲巣様に頭が上がらないと萌え。

次はたぶん銀さんと犬な森田です。
この二人はどっちかが擬獣化しても、両方一緒に擬獣化しても美味しいけど、今回は森田で。

やっとアカ鷲が書けました。
やっぱり鷲巣様が猫になってます。注意!

 

 

 

 

 とある場所に寄った帰り、青年はある予感がして、その予感が当たっているのかを確かめるために鷲巣邸へと足を運んだ。
 青年の姿を見て、白服達がわずかに顔を引きつらせる。家には上げたくない、という雰囲気をみんながみんな出していた。いつも歓迎されているわけではないが、ここまで拒絶されることも珍しい。そう思いつつ、そんなことにはまったく気にも留めず、青年は手に先ほどここに来る前に買ってきた、茶色い紙袋に入れられたそれを片腕に抱えながら勝手知ったる鷲巣邸へ上がりこんだ。
 鷲巣の私室は、二階の一番日の当たる部屋。その隣がワシズの部屋。しかしだいたいワシズは鷲巣の私室に来て一緒に仕事をしているので、青年は鷲巣邸に来るとまず真っ先に鷲巣の私室へ足を運んでいた。
 そして今日も、ノックもなしに遠慮なく扉を開ける。
「・・・!」
 いつも鷲巣が仕事をする時に使っているデスクの上に、一匹の白い猫が乗っていた。そのデスクのすぐ後ろに設置されている窓は開け放たれており、白いカーテンが風ではためいている。その窓から見える光景は、いつだって背の高い木々が幾つも植えられた雑木林だ。いつもと同じ光景のはずだった。その白い猫がいること以外は。
 猫は驚いたように大きなアーモンド形の目を更に大きくさせて、赤い瞳でいきなり入ってきた青年を凝視した。だがやがて青年が一歩部屋の中へ入りこんで来たので、慌ててデスクから下り、ベッドの下へ逃げ込もうとする。しかし易々とそんなことをさせてくれる青年でもない。下に下りたところで、青年の大きな手で床に敷かれた絨毯に体を押さえつけられてしまった。
 威嚇するように、猫がふー、と唸り声をあげながら青年を見上げる。それを見て、青年は喉を鳴らして笑った。
「まさかと思って来てみたら、本当にあんたも動物になってたとはな、鷲巣巌」
「黙れっ・・・!」
 白い猫、もとい鷲巣は、あっけなく正体を見破られ、その小さな体からどうやって出すのだと思うほどの怒鳴り声をあげた。容赦とか遠慮とかという言葉を知らない青年が、思い切り体を床に押し付けているので苦しい。
「放さんか、無礼者!」
「なぁ、ワシズの方はどうした?あっちもなにかしらの動物になってると思ってたんだが」
 鷲巣の声が聞こえていないかのようにさらりと彼の言葉を無視しながら、青年は部屋を見渡す。この部屋にはもう他の生き物の気配はしない。だがワシズが自分の部屋にこもっているとも考えられない。ワシズが動物になっても人間のままでも、鷲巣がこうなってしまった以上、どうしてそうなってしまったのか二人で話し合うはずだ。
 俺が来たのを察知して逃げたか。
 青年は開け放たれた窓を見ながらそう考える。しかしここは二階だ。いくらなにかしらの動物になったとはいえ、この高さから飛び降りては無事では済まされない。鷲巣がこの部屋に残っていたのがいい証拠だ。おそらく飛び降りたくても飛び降りられなかったのだろう。ならばワシズは鳥かなにかになったのだろうか。飛んでどこかに逃げたのか。
 いや、それはないな。
 青年はそう結論付ける。他の者ならともかく、鷲巣を置いて彼が逃げるとは考えづらい。自分自身は見捨てない。近くでこちらの様子をうかがっているはずだ。
 青年は窓の外を見る。そして、ふっ、と口端をつり上げた。
「あ、あ奴のことなど知るかっ!」
「・・・そうか。残念」
 ひとまず、ここは鷲巣の言葉に納得したふりをしておく。姿を見せないワシズよりも、今は自分の手の下でもがいている鷲巣でどう遊ぶかが重要だった。
 青年は鷲巣を押さえつけたまま、持っていた荷物を床に置く。その中に手を突っ込んでなにやら探っていた。嫌な予感しかしない鷲巣は、キーキー喚きながらもしっかりと目で青年の動きを追う。
「お、あったあった」
 取り出したのは、黒い皮で作られたやたらと高級そうな首輪とリード。つまり青年が鷲巣邸を訪れる前に寄った場所というのが、ペットショップなわけで。
「な、なにを・・・!」
 ここまで来たらなにをされるかなんてわかっている。しかし叫ばずにはいられない。
「本当はじじいのために買ったんだが、鷲巣にやるよ」
「馬鹿、やめろ!そんなものをわしにはめるなんて・・・!」
 鷲巣が必死に青年の手の下から抜け出そうとする。興奮しきって毛は膨らみ、目じりに涙が浮かんでいた。それでも青年は楽しげに、鷲巣を片手で抑えながらもう片方の手で器用に首輪をその首にはめていく。
「ぐっ・・・!」
 首が絞まるぐらい、きつくきつくはめられた。犬用の首輪だったため、猫の首には少し大きかったのが幸いした。これでもし猫用の小さなものだったら、この悪魔は容赦なく更にきつく絞めてきただろう。そして苦しみもがいている鷲巣を見て喜んでいたはずだ。
「やっぱりちょっとサイズがでかいな。後でまた新しいのを買ってやろう」
 首輪とリードを繋ぎながら青年が言う。そして、立ち上がった。
「せっかくの晴天だ。散歩に行くか、鷲巣」
 悪魔はそう宣言し、思い切りリードを引っ張った。更に首が絞まり、呼吸が上手くできない。しかし鷲巣は満身の力を込めて絨毯に爪を立て、抵抗した。
「誰が貴様に連れられて歩くかぁぁぁ!!」
 猫の姿になったというだけでも屈辱だったのに、その上この世で一番嫌いな男から首輪をはめられ、すでに鷲巣の自尊心はボロボロだった。しかしだからこそ、ここだけは譲れない。これ以上惨めな気持ちにはなりたくなかった。
 しばらく青年と鷲巣の攻防が続く。だがもちろん青年の方は遊んでいるだけだ。人間の力の前では、小さな猫の力など微々たるもの。猫は本気を出せば人間を殺せるというが、鷲巣が口でなんだかんだ言いつつ自分を殺さないということをよく知っていた。万人の前では鷲巣は文句なく殺す側の人間だろうが、青年の前では所詮殺される側だった。鷲巣も気が付いていない心の奥底に、青年への恐怖があるから手を出せない。いかに王であれど、悪魔には敵わない。
「知ってるか、鷲巣」
 十分に無意味な鷲巣の抵抗を楽しんだ青年は、不意に今思い出した、というふうに口を開く。
「あ゛ぁ?!」
「猫はアワビを喰うと耳が落ちるそうだ」
 そう言われた瞬間、鷲巣の体がびくりと揺れる。そして、恐る恐る青年を見上げた。笑っている。悪魔が、笑っている。
「試してみるか?」
 猫がアワビを食べると耳が落ちるというのは、ただの迷信ではない。ちゃんとした科学的根拠がある。今この姿で青年に無理やりにアワビを食べさせられたら…。
 そう思い、鷲巣はゾッとした。彼なら確実に、嬉々としてアワビを食べさせようとしてくるだろう。プライドを取るか、耳を取るか。
「・・・・・・」
 意識して、鷲巣は絨毯に立てていた爪を引っ込めるとゆっくりと前足を前に出した。怒りで体が震える。そんな鷲巣を見下ろしながら、やはり青年は機嫌良さそうにしていた。
「それじゃあ行くか」
 ククク、と青年が喉を鳴らす。
 結局この日、鷲巣は半ば引きずられるようにしながら青年に一日歩き回らせられていた。


END

 

 

 


鬼っ子から鬼になるんじゃなくて、悪魔に昇格するところがアカギのすごいところだよなぁ、って思います。
13はいじめっ子。19はドS。二人の一番の違いはたぶんそこです。神域はそのどっちも兼ね備えてると思います。

次回は引き続き狐な神域と鷲なワシズ・・・かな。

ところで家猫って自分のおっぱいを吸う癖がついちゃう子がいるそうですよ。いるそうですよ、鷲巣様っ!(やめろ)
 


とりあえず天をあらかた買い揃えるまで赤木×沢田は、保留っ!
なので今回は前回の獣ネタを引っ張ってアカギ(13)×お狐な市川で。13が徹底的に市川先生で遊んでます。深夜のテンションは怖いと思いました。
当ブログでは常に擬獣化ネタを募集しております。

 

 

 

 どういうわけか狐になってしまった神域を南郷に見せに行った時、彼はこちらの予想通りにとてもいい反応を示してくれた。それに気をよくした神域は、その後少年を置いて一人でふらりとどこかに行ってしまった。おそらくあらゆる知人友人に今の自分の姿を見せに行ったのだろう。
 銀色の狐が街中を歩いていて誰かに捕まらないかと少年は一瞬考えたが、神域もそこまで間抜けではない。そこらへんは要領よく立ち回るのだろう。
 あらかた南郷を神域とともに弄り倒し、おまけに朝食もご馳走になり、満足した神域はどこかへ行ってしまった。そうなると少年の弄る人物がいなくなってしまう。このまま家に帰るのもつまらなくて、少年の足は自然と市川の家へ向かった。何事にも冷静な彼は、神域が狐になったという話をしてもそれほど驚いてはくれないだろうが、それでもどんな反応をするのか興味があった。
「そう思ってきてみたら、なんかあんたも可愛いことになってんね」
 自然と少年の口端がつりあがる。目が見えていないはずのそれは、それでも雰囲気で察したのか少年を睨みつけてきた。
 目の前には、真白な狐。神域よりも若干毛が長く、そして量も多いような気がする。抱きついたらさぞかし気持ちのいいことだろう。
「市川さんも狐になってたとはね」
「も、とはなんだ。それよりも狐だったのか?」
 目が見えないせいで、自分が今どうなってるのかがわからないのだろう。それでも体の変化は感じているはずだ。苛々したように幾度も尻尾がたしたしと床を叩いている。無意識なのか気が付いている様子がない。そんな市川に、少年は事細かに、かつ楽しそうに今の彼の状況を教えてやった。
「・・・不可解な」
 少年の言葉を聞いて、信じられない、というふうに市川が呟く。長い毛に指を絡めながら、少年は喉を鳴らして笑った。
「まぁ生きていればこんなこと、一度や二度は起こるさ。実際、今朝はじじいも狐になってたしな」
「そんなこと、一度でもあってたまるか」
 市川はもともと合理的にものを考える人間だ。今のこの状況が受け入れられないのはしょうがない。というか、簡単に受け入れてしまっている少年の方こそ異常なのだが。
 いつまでも床を叩いている尻尾を少年が掴みあげる。そうされてようやく自分が無意識に尻尾を動かしていたことに気が付いたのか、市川は不機嫌そうに目を細めた。だがやがて、苛々していてもしょうがないと感じたのか、深く息を吐いて自分を落ち着けようとする。そして改めて少年の方を向いた。
「とりあえず触るのはやめろ」
「なんで?気持ちよくない?」
 だからこそやめて欲しいのだと、言うに言えない。言ってしまえば、徹底的に触ってくるだろう。
 狐になってしまったからなのか、顎の下や頭を撫でられると性的快感とは違った気持ちよさが体を駆け巡る。もっと撫でてと口走ってしまいそうになるのを恐れて、市川は少年から離れようとした。
 しかしここは鬼の子。市川の考え、そして動きを読むと胴体にがっちりと腕を回し、抱き寄せて膝の上に乗せてしまう。そして首もとのふさふさな毛に顔をうずめた。そんな子供じみた行動をしてくるとは思ってはいなかったので、市川はぎょっとする。
「ふさふさで、俺は気持ちいいけど」
「アカギっ・・・!」
 やめろ、と市川は少年に抱かれながらもがく。しかし細い腕に見合わずその力は強く、びくともしない。
「ねぇ、市川さんは気持ちよくない?」
「よくない」
「そう?おかしいなぁ」
 言いながら少年は顔を上げる。その口元は相変わらず機嫌よさげにつりあがっていた。もちろん少年は、市川が今どんな心理状態なのかをわかってやっている。
「じゃあこれならどう?」
「・・・!」
 軽く耳に噛みつかれ、市川はぴんと尻尾を立てる。背中にぞくぞくとしたものが走った。先ほどまでのものとは違う、もっとはっきりとした快感だった。
 相手の些細な変化を感じ取り、少年は喉を鳴らす。その笑いがどういう意味なのかわかっているから、市川は悔しげに歯を喰いしばった。
 体中を撫でられながら、幾度も幾度も耳を甘噛みされた。いくらやめろといっても、少年は聞き耳を持たない。ここまで来ると、どうすれば彼が自分を解放してくれるのかそろそろ勘付いてしまう。本当に嫌なことだが、こちらが気持ちがいいと認めるまで放さないつもりだろう。
 なんだってガキにこんな辱めを受けなければいけないのか、と市川は見えない目で少年を睨んだ。すると目元にキスをされてしまう。それにすら敏感に反応して、思わず声を上げそうになってしまった。悔しさと、声を上げないようにとで、更に強く歯を喰いしばる。
「そんなに力を入れると、歯が欠けちゃうよ」
「煩い」
 頑なな市川に、少年はしょうがないな、と肩をすくめた。そしていきなり腕に力を込めて市川の体を抱きなおすと、そのまま立ち上がる。
「まぁ今日はこれでいいや。それよりもあんた、狐の姿になって、一人暮らしで、しかも盲目って、なにかと大変だろ?」
 そんなことを口で言いつつ、少年が簡単に諦めないということを市川はよく知っている。そしてこの会話の流れ。嫌な予感しかしない。
「・・・なにが言いたい?」
「わかってんだろ。人間の姿に戻るまで、俺の家で世話をしてやる、って言ってるんだ」
 やっぱりそうきたか。
 少年の家に行くということは、神域と青年もいるということだ。あの三人になにをされるかわかったものではない。ただたんに触られるだけでは済まないだろう。彼らの家に行くということは、地獄に行くということに等しい。
「いい、黒崎を呼ぶ」
「なに?今日、黒崎さんがこの家に来る用事でもあんの?それとも電話で呼ぶ?その姿で」
 ククク、と鬼の子が笑う。完全にこの状況を楽しんでいた。
「そんなわけだから、四の五の言わずにうちへ来いよ。今度こそ、気持ちよくしてやるから」
 最後の方は声を低くして言われる。本気で市川は少年の腕の中で暴れた。しかしやはり見た目を裏切って、その腕はびくともしない。
 こうして、市川は不幸にも少年に地獄へお持ち帰りされてしまった。


END

 

 

 

狐の耳は性感帯ですか、そうですか。市川先生は赤木家で三人からもふもふ地獄に合うんだと思います。
だから余裕のある市川先生ってなんだ。
いや、本当に余裕のある市川先生は好きなんです。でも書けないだけです。

今度こそ次はアカ鷲かもしれない。アカギ(19)×猫鷲巣様で(地獄の淵が見えるまで擬獣化を引っ張る)
鷲な鷲巣様はいつか。


神域が狐になってますのでいろいろな意味で注意。
もう開き直っているので反省も後悔もしてない。そして落ちも特にないです。

 

 

 


 三人の中で一番早起きのはずの神域がいつまで経っても起きてこないので、少年と青年は神域の自室に足を運んだ。そしてベッドの上でうずくまって寝ているものを見て、珍しく驚いたようにわずかに目を見開く。
 銀色に近い毛色をした、中型犬より少し大きめのもふもふとした動物がいる。この顔立ちは犬ではない。ならば狐か、もふもふだし。そんなわけのわからない考えが、若者二人の間に駆け巡った。
 青年達の視線に気が付いたのか、気持ち良さそうに寝息を立てていた狐の大きな耳がぴくぴくと揺れる。そしてゆっくりと瞼が開いた。くりくりとした黒い瞳が可愛らしい。狐は数度瞬きをすると、頭を上げて顎が外れるのではないかと思うほど大きく口を開けて欠伸をする。そしてベッドの上でお座りをすると、黙ってこちらを見ている少年と青年を見上げた。
「朝から揃ってどうした」
 二人に電流走る。狐が人の言葉を喋ったとかそれ以前に、その声は確かにいつも聞きなれている神域の声だった。
 つまりこの狐が神域か。少年と青年は同時に納得をする。まぁ生きていれば、こんなこと一度や二度起こるだろう。そんな驚くほどのことでもない。ましてやパラレルワールドなのだ。自分達が一緒に住んでいるように、なにが起きたってまったくおかしくはない。
 二人の強靭な精神は、あっさりとこの状況を受け入れた。基本的に賭け事以外では行き当たりばったりで生きているので、あまり細かいことは気にしないのだ。
「なんか可愛い姿になってんじゃん」
 ベッドサイドに腰掛けながら、未だに自分がどうなっているのか気が付いていないであろう神域に少年が言う。そこでようやく神域は、自分の体を見渡した。鏡がないので顔は見えていないだろうが、毛皮や前足、尻尾は目に入っただろう。驚きなのかどうなのかは知らないが、すっと目が細められる。ぱた、と尻尾が一度動いた。おそらく自分で試しに動かしてみたのだろう。
 しばらくして、神域は横に座っている少年と、立ったまま自分を見下ろしている青年を交互に見た。
「なんか動物になってるな」
「見た限りでは狐だな」
 冷静に自己分析をした神域に、いつの間にか取り出したのか煙草の紫煙を吐き出しながら、はやり青年が冷静に返した。非現実的な物事を前にして誰一人として動揺などしていない。根本的に普通の人間とは精神の図太さが違うのだろう。
「煙草」
 とりあえず、とばかりに神域が自分にも煙草をくれと催促をする。青年は一本箱から出すと、それを神域の口元に持っていった。そして一瞬、逡巡する。
「狐に煙草って大丈夫なのか」
「つーかその口で吸えんの?」
 少年が神域の顎の下を撫でながら尋ねる。もう片方の手はちゃっかり神域の前足を取って肉球をふにふにしていた。
 相手の好きなようにさせながら、神域は首をかしげる。そしてもう一度青年を見上げた。
「駄目か?」
「いや、だからその口じゃ吸えないだろ」
 少年のツッコミに、神域の耳が垂れた。人間の時と違って、その耳は感情がストレートに出るらしい。またまた二人に電流走る。なんだ、この生き物。人間の時も十分可愛らしいが、この姿もこれはこれで可愛らしい。本当ならどうやって人間の姿に戻すか考えるところだが、もう自然の成り行きに任せてこのままでいいんじゃないかと思うほどだった。だいたいいきなり狐の姿になったのだ。だったらまた、いきなり人間の姿に戻ったりするのだろう。楽観的に少年と青年はそう考える。
「煙だけでも口移ししてやろうか?」
 喉を鳴らしながら青年が言う。口元が笑っていた。少年がかばうように神域の首に腕を回してその体を抱き寄せ、青年を睨む。神域はふん、と鼻を鳴らすと、面白くなさそうにそっぽを向いた。
「別にいい」
 声が完全に拗ねている。青年はもう一度喉を鳴らした。神域とは反対にご機嫌だ。これ以上ないほど、ご機嫌だ。
「遠慮すんなって」
 神域の顎をとると、とがった口先を上に向かせる。腰をかがめて、その黒い鼻先にキスをした。不満そうに少年が声をあげ、神域は毛を膨らませる。
 神域は前足で青年の顔を退けようとした。しかしその前にその手を取られてしまい、今度は手の甲にキスを落とされてしまう。
「変態」
「最高の褒め言葉だ。なんならもっと他の場所にもキスしてやろうか?」
 その言葉を聞いた瞬間、少年が重そうに神域の体を抱き上げた。そして立ち上がり、部屋から出て行く。この一匹と一人を一緒に置いてはいけない、とでも思ったのだろう。青年の場合、やると言ったら本当にやるのだ。神域がなにをされるのかわかったものではない。
「重いだろ、自分で歩ける」
「いいから」
 家を出る。青年が追ってくる気配はなかった。
 少年は神域を抱きかかえたまま歩き出す。はっきりいって、銀色の狐を抱いている少年という図は大変に目立った。だがやはり、図太い神経を持っているので一人と一匹は気にしないし気にならない。
「どこへ行く?」
「とりあえず南郷さんの家」
「いい選択だ」
 彼らが知っている人物の中でも、特に普通の人間並みの感性と神経を持っているのが南郷だ。狐に姿を変えた神域を見れば、さぞかし面白い反応をしてくれることだろう。それを思って、神域と少年は喉を鳴らして笑う。
「ついでに朝飯も馳走になるか」
「南郷さんの手料理久しぶりだな」
 勝手なことを言いながら、自由人達は南郷の自宅へと向かった。

 

END

 

 

 

変態!!変態!!変態!!変態!!(AA略)

それはそうとアニメで19が南郷さんと再会した時に言った「あらら」って言葉が凄く可愛らしいと思います。なんか凄く嬉しそうに言ってますよね。


アカギ(13)と市川先生で短い話。
余裕のある市川先生ってなんだ、と思いました。書きたいのに書けないよ・・・。

 

 

 

 

 思わず、ため息が出た。このまま相手を放置しててもいいが、それだとなにをしてくるのかわからないので、というか大体わかるけどそれは遠慮して欲しいため、市川は渋々に口を開く。
「なにをしている?」
「んー・・・マウントポジション?」
 以前まったく同じ台詞を、少年とまったく同じ顔をした人物から聞いた気がする。あの時は普通にソファに押し倒されたわけだが、今は自宅の玄関だ。玄関を開けて早々に、少年に押し倒され腹の上に馬乗りになられた。少年がいると知っていたら、扉は開けなかったというのに。
「お前はなんだ?盛りのついたケダモノか?」
「そういうことするために押し倒したんじゃないって」
 心外だ、とでも言いたげに少年が言った。
「じゃあなんだ」
「とりあえず体の自由を奪っておかないと、俺の話を聞く前に追い立てようとしてくると思って」
「聞いてやるからどけ」
 少年はいったい自分のことをなんだと思っているんだ。市川はそう思った。普段、そんなに冷たくしているつもりはないが。確かにセクハラが煩わしすぎて多少冷たくなることもあるが、それは自業自得というものだろう。
 案外すんなりと少年は腹の上からどいた。なんだかんだで、三人いるアカギのなかで一番素直なのは彼だったりする。そういう意味では、少年が一番可愛いとも言えなくもない。が、それは三人を比べて、なので、一般常識的に考えるとそうでもないのだが。
「それで、話ってなんだ」
 市川は上体を起こしながら、少年に尋ねる。
「何日か市川さんの家に泊めてくれない?」
「帰れ」
 ぴしゃりと市川は切り捨てた。なんで鬼の子を家に置かなくてはいけないのだ。貧乏神を家に置くより厄介だ。
「頼むって。じじいがハワイに行っちゃっていつ帰ってくるのかわからないんだよ」
「いい歳して一人寝ができねぇのか?」
「一人寝はともかく、俺も19も家事は一切できない」
 そうだった、こいつらは生活力が皆無だった。
 市川は今更そんなことを思い出す。でもだからといって、金さえ渡しておけばとりあえずは生きていけそうな感じはするが。神域もそう思って、青年と少年に金を渡しているはずだ。ようは、少年は市川の家に泊まりたいだけなのだろう。
「なぁ、いいだろ。じじいが帰ってくるまででいいから」
 どこか甘えるような声で少年が言う。神域が帰ってくるまで、という言葉が、なんとなくひっかかった。
「アカギ、わしを誰かの代わりにしようとはするなよ?」
 別に深い意味があって言ったわけではない。ただ単純に、そう思ったから言っただけだ。しかし言われた少年の方はこの言葉が予想外だったのか、面食らったような顔をした。
「なんだよ、代わりって」
 問われて、市川はようやく自分はなんて間抜けなことを言ったのだと思った。これではまるで神域に嫉妬をしているようではないか。
「なんで誰かを代わりにする必要があるんだ?じじいはじじいで、市川さんは市川さんだろ。あんたらの代わりになる人間なんて、この世にはいない」
 なんという殺し文句だ。ここまでなんのためらいもなく言われると、逆に感心してしまう。なにをそんなじじい二人に熱心になっているのだ。
 市川は深い深いため息を吐く。どうしてこの子供には甘くなってしまうのだろうと思いながら。
「買出しに行くか・・・」
「え?」
「なにが喰いたいのか言ってみろ」
「それって泊まっていいってこと?」
 とたんに、少年の雰囲気が和らぐ。彼が今どんな表情をしているのか見れないのを少し残念に思いながら、市川は頷いた。


END

 

 

 

19は鷲巣邸に押しかけてます。
次回はその話・・・か?
 


アカアカで短い話。19はどう動かして良いのか悩みます。

 

 

 

 


 入院をしていた青年が、本日退院した。ヤクザに日本刀で肩をやられて、本当ならまだ入院をしていなければいけないはずだったのだが、無理やり退院して来たのだ。
 青年は家に帰るなりドッカとソファを占領し、煙草を取り出す。早く退院したがった理由は様々あるが、好きな時に煙草を吸えない、というのが一番こたえたらしい。ニコ中だ、と神域から火をもらっている青年を見ながら少年が言った。
「安岡さんには後でお礼にいかねぇとな」
 自分も煙草を燻ぶらせながら神域が言う。自分はその現場にいなかったが、安岡がいなければ青年は死んでいたと聞かされていた。ふぐ刺しでも差し入れに行こうかと考える。
「死んじゃえばよかったのに」
 そんな物騒なことを言うのは少年。まだ長い煙草を灰皿に押し付けた青年は、常人ならばすくみ上がるような視線で少年を睨んだ。
「ヤクザにイカサマされて、金を持っていかれて、よくのうのうと生きてられるな」
「・・・俺は別に安岡さんに助けてくれとは言ってないぜ?」
「でも結果、生きてる」
 また喧嘩を売って、と神域は内心でため息を吐く。本当に、なにがそんなに互いに気に入らないのかがわからない。
 少年と青年との間に火花が散る。いつ殴り合いが始まってもおかしくないような雰囲気だ。病み上がりなのに元気なことだ、と神域は思った。青年はまだ完全に日本刀でやられた傷は治ってはいない。今日は少年が優勢かもしれない。殴り合いが始まる前に喧嘩を止められれば、一番楽なのだが。
「なんなら今ここで、殺してやろうか」
「生意気言うな。俺が死ぬのはお前が死んだ後だ」
 一触即発だ。ふぅー、と長いため息とともに神域は口から紫煙を吐き出す。そして青年と同じように灰皿に煙草を押し付けた。
「13も19も、俺の前で殺すだのなんだのって言うなよ」
 神域の悠長な言葉に、二人は射るような視線を向けた。邪魔をするな、と目が訴えている。今日こそは本気で決着をつけるつもりらしい。
「お前らがどっちかでも死んだら、俺が寂しいだろうが」
 ニッ、と口の端を持ち上げながら神域が言った。予想外な言葉に、少年と青年はしばし固まった。神域の真意を図ろうとする。しかしそこはやはり神域。本気なのかどうなのか、二人ですら図れない。
「・・・嘘」
 ようやく少年が、それだけを漏らす。
「嘘じゃねぇさ。こう見えて寂しがりやだからな」
 クク、と喉を鳴らしながら神域が言う。
 いや、それこそ嘘だろう。
 と、少年と青年は同時に思った。口に出してまでは言わなかったが。
「だから喧嘩もほどほどにな」
 神域がこの場から立ち去ろうとする。それを少年が呼び止めた。
「どこに行くんだよ」
「安岡さんのところだ。一応、俺はお前らの保護者ってことになってるから、19のお礼にな」
「俺も行く」
 青年に興味をなくしたように、少年は雰囲気を和らげると神域に近づいて彼の腕に自分の腕を絡めた。
「19はどうする?」
 神域が青年を誘おうとしたので、少年は一瞬ムッとした顔をしたが、結局はなにも言わない。
「・・・さっきので煙草がきれたから、そのついでだ」
 立ち上がり、少年とは反対側の神域の隣につく。素直ではないが、それでもついてきた青年に、神域はもう一度喉を鳴らして笑った。
「なら久しぶりに三人で行くか」
 いつも以上に、機嫌が良さそうな声だった。なんだかんだで、青年が退院したのが素直に嬉しいのだろう。少年と青年はそれに気が付いて、神域のためにもたまには一時休戦でいいか、と思った。


END

 

 

 


孫達はおじいちゃん大好きだけど、おじいちゃんも孫達が大好きなんです。

ところでアンサイクロペディアを久しぶりに見たらアカギと天の項目が凄いことになってますね。アカギと鷲巣様の愛され方は異常。
後々、アカ鷲も書きたいんですが、どう考えても19と鷲巣様がタイプ的にどっちも動かすのが苦手すぎる。
森銀も書いていきたいです。
とりあえず文庫版銀金1巻を読んで、銀さんが森田に一目惚れして、そんな銀さんに森田が惚れた、っていうのは理解できました。
 


前回の神域×市川の続きです。
残念なくらい下品です。
あ、特にアカギの年齢表記がない時のアカ市は13ですので。
13と19だったらどう考えても19の方が恐ろしくて扱いづらいイメージ。









 青年に負わされた怪我の手当てを自分でした少年は、そろそろ部屋を出てもいいだろうとリビングに向かった。そして驚く。神域も市川も裸だった。片方はソファに座って満足そうに煙草を吸っているし、もう片方はうつ伏せになってソファの上でぐったりとしている。
 ジトリと、少年は神域を睨んだ。
「なにしてんだよ、じじい」
「察しろ」
 からかうように返された。察するもなにも見たままなのだが、どういうつもりだという意味の言葉だったため、神域の回答は不満だ。
「アカギ」
 神域に不満を言いかけた少年だったが、市川に名前を呼ばれてそちらを見る。ずいぶんとかすれた声をしていた。
「水」
 たった一言、そう告げられる。もってこい、ということなのだろう。少年はキッチンに向かうため、踵を返そうとした。
「13」
 だが神域に呼ばれ、いったん足を止めて彼の方を見る。若干、自分は機嫌が悪いのだ、という雰囲気を滲ませながら。
「なに」
「そう怒るんじゃねぇよ。あとで相手してやるから」
 なんの、なんて聞かなくても彼の表情でわかる。ひどく色っぽい顔をしていた。珍しく向こうからストレートに誘ってきて、少年はわずかに目を丸くする。しかしすぐににやりと笑った。その頃にはすでに先ほどの不機嫌そうな雰囲気が消えている。
「忘れんなよ」
 言ってから、少年は市川のために水を取りにリビングから姿を消した。
「ずいぶんと扱い慣れてるな」
 やりとりを聞いていた市川は呆れ半分、感心半分に言う。あの鬼の子をいとも容易く動かしている。
 神域は喉を鳴らして笑った。
「ガキだからな。19よりはずっと扱いやすい」
 本人達にそんなことは言えないが、と続けながら神域は短くなった煙草を近くの灰皿に押し付けた。
 それから立ち上がり、床に散乱している下着とズボンだけを取りはく。気配でそれがわかって、市川は体を起こしながら神域がいるであろう方向に目を向けた。
「どこへ行く?」
「19の様子を見てくる。あいつの場合、怪我の手当てなんざしねぇでそのままにしてる可能性があるからな」
 めんどくせぇ奴だ、と神域は小さなため息混じりに言った。だがどこか満更でもなさそうで。
「ガキどもを甘やかしすぎなんじゃねぇのか?」
「いいだろ、普段大人に甘えないような奴らなんだから」
 甘えて来たときぐらい好きにさせてやったっていいだろう。
 言ってから、神域はリビングを出て行った。
 しばらくすると、水の入れられたガラスのコップを持った少年が戻って来た。市川の隣に腰をかけ、それを相手に手渡しながら口を開く。
「じじいは?」
「もう一人のガキのところに行ったよ」
 水を一気に飲み干してから市川は答える。するとあから様に相手が不機嫌になったのがわかった。普段こんなにわかりやすい子供だっただろうかと、市川は不思議に思う。もしくは相手が神域だからだろうか。
「嫌ならまた喧嘩をふっかけにでも行くか?」
 からかうつもりで尋ねた。だが相手の回答は、予想していたものとまったく別のものだった。
「・・・いい、今は市川さんがいるから」
 面食らってしまった。てっきり青年のところに行ってしまうかと思ったのに。
「ねぇ、それよりも包帯巻き直してくれない?利腕だと上手く巻けなくて」
 そういうば神域が血塗れになるほど喧嘩をしていたと言っていたのを思い出す。流石にそれは言い過ぎなのだろうけど、それでもそれなりに怪我をしたのだろう。
 市川は手に持っていたコップをソファの前のガラスでできたテーブルに置いた。それから無言で少年の声のする方に両手を伸ばす。ぺた、と頬に触れた。両手で少年の頬を包むようにする。湿布が貼ってあるのがわかった。それから、額に絆創膏。湿布の上から軽く頬をつねると、痛むのか少年が小さくうめき声をあげた。しかし制止はかけられない。
 市川は怪我の具合いを確かめるようにぺたぺたと少年の体に触れながら、目的の包帯のところにまでたどり着いた。全体的に大怪我というほどではないが、小さな怪我でもない。おそらく青年も同じ程度の怪我を負っているのだろう。
「若いからって無茶するんじゃねぇよ」
 包帯を巻き直してやりながら、小さく呟いた。ふと口を出た言葉だったが、自分でも意図せず相手を責めているような口調になってしまい、市川はしまった、と思った。この言葉で、きっと目の前にいる少年はつけ上がる。
「なに、市川さん俺のこと心配してくれてんの?」
 わずかに少年が喉を震わせるのを感じる。きっと今は憎たらしい笑みを浮かべているはずだ。
 この状況はやばいと感じる。なんたって市川は今、全裸だ。残念ながら少年の辞書に我慢という言葉があるとは思えない。これなら少年が水を持ってくる前に着替えておけばよかった。今更ながら後悔する。きっと神域はこうなることを予測して席を外したに違いない。少年のお守りを押し付けたのだ。保護者なら少年と青年の面倒をまとめて見ろ、と市川は内心で神域を罵倒する。
「なぁ、市川さん。じじいはどうだった?俺よりも上手かったか?」
 包帯を巻いていた手を取られて、指先に口付けをされる。触れる吐息が熱い。もうすでに少年は興奮している。
 どうしたものか。そう市川は思った。まさか少年とは比べものにならないほど、それこそ気絶しそうなほどよかったなんて言えない。というか2回続けてやられてたら確実に気絶をしていた。それぐらい、神域はすごかった。
 黙ったままの市川に、少年はムッとしたような顔をする。
「黙ってるってことは、上手かったってことなのか?」
 流石は鬼の子、察しがよろしい。しかしこればかりは経験がものをいうので、年若い彼では神域に敵わないのはしょうがない。
「じゃあ・・・さ」
 手を取られたまま、余った方の手で胸を押された。再びソファに押し倒される。少年が覆い被さってくる気配がした。
「じじいがどんなふうにしたのか教えてくれよ。俺、その通りにやるからさ」
 やっぱりそうきたか、と市川は冷や汗をかきながら思う。確かにテクニックは神域の方が上だが、少年には溢れるほどの若さがある。その激しさに市川はいつもついていけない。だってもういい歳だし。
「アカギ・・・!おいアカギ!」
 市川は声を張り上げる。しかしそれは目の前の少年に向けてではない。この状況を作り上げた張本人である神域の方だ。もはや少年を止められるのは絶対的な発言力を持つ神域しかいない。
 だがいつまで経っても、神域が青年の部屋から戻ってくることはなかった。少年が楽しげに喉を鳴らす。
「じじいはたぶん、19の相手をしてるから来ねぇよ。あいつ、気が立つと性欲の塊になるから」
 ケダモノだよな、と少年は笑う。しかし市川にしてみればどっちもどっちだ。
 ただれてる、と市川は思った。少年も青年も神域も、みんなただれてる。流石は同一人物。
「市川さん、俺達も楽しもうぜ?」
 甘えるような声色で少年が言う。こういう時だけ、歳相応な顔を見せる。直接見えているわけではないが、なんとなく彼が今どんな表情をしているのかわかってしまうのだ。この声色と顔に市川は弱い。そして少年もそれをよく理解している。
 市川は先ほどの神域の言葉を思い出す。甘えて来たときぐらい好きにさせてやったっていいだろう、と。その気持ちはよくわかる。こんなふうに少年が子供の顔を見せる相手は多くないことを知っているから。だからこそ、一度心を許した相手には煩わしいくらいすり寄ってくる。それを知っていて、少年を突き放せない自分が腹立たしい。
 深くため息をついた。結局市川は、いつだってこの少年を受け入れてしまうのだ。
「・・・わしの年齢のことも考えて盛れよ?」
「善処はするよ」
 嬉しそうに目を細め、少年が市川に顔を近づける。そのまま深く口付けをした。
 少年と舌を絡めながら、彼と青年とどっちの相手が楽なのだろうと考える。いろいろ考えて、(最初のうちだけとはいえ)まだこうやって考える余裕があるということは、少年相手の方が楽なのだろうと思い、市川は彼もまた子供を放っておけない神域に同情した。



END











だから本編に添って書く気が微塵もな(ry)
だってパラレルじゃなきゃみんなが絡めないじゃない!(開き直った)
私の中ではアカギ達三人は同居してて、たまに色んな人を家に拉致って・・・げふげふ。招いてる感じ。
アカギと天の世界観が時間軸を無視して一緒になってるんです。
これならみんな仲良くできるねッ!

次こそは余裕のある市川先生を書きたいです。

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自己紹介:
1月14日生まれの新潟県民。

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最近はfkmt作品に手を出してます。
乙一作品と三原ミツカズ作品と藤田和日郎作品も好き。
節操なしの浮気性です。
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