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おっさんと人外を中心によろずっぽく。凄くフリーダム。
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作中に一切そんな表現はないけど一応リゾディアです。
そしてリゾットが猫なので苦手な方は注意。
ボス猫シリーズとは一切関係ありませんが、ボスが猫になるならリゾットもいいかな、と思って・・・。
ようするにパラレルです。

 

 


 パソコンのディスプレイに目を向けていると、ふと背後から誰かの視線を感じた。この部屋にいたのは男一人だけだったし、誰かを家に招いた記憶もない。それならまだしも誰かが部屋に侵入した気配も感じなかった。突然に視線だけがふってわいたような印象を受ける。
 ゆっくりと椅子を回転させて振り返った。しかし誰もいない。が、すぐに気が付いた。そのまま床に視線を落とせば、そこにはいつの間にか入ってきたのか薄汚れた灰色の猫がいた。男の一挙一動を見逃すまいというように、ジッと真赤な瞳で見つめている。
「どこから入った」
 まさか猫に人間の言葉がわかると思っていなかったし、別にそれほど知りたいとも思わなかったが、あまりにも猫の瞳が人間のように知性をたたえた色をしていたので、男は半信半疑で尋ねた。すると猫はフイと鼻先を動かす。その先を目で追うと、そこには開け放たれたままの窓があった。オレンジ色の空に、うっすらと青っぽい黒が見え隠れしている。もうすぐ夜がくる。
 一瞬男は猫が人の言葉を理解したのかと驚いたが、すぐに偶然だろうという結論に達した。なぜなら、ここは二階だ。いくら猫でも、窓から入ってくるのは無理だ。ならばやはり、一階のどこからか侵入してこの部屋にたどり着いたのだろう。
 男はそう思いながら、また椅子を回転させてパソコンと向き直った。放っておけばどこかへ行ってしまうだろう。男にとって、今は突然やってきた猫よりも、仕事を片付ける方が大切だった。


 あれから3時間ほど経って、作業が一段落した男はパソコンの電源を切ってから窓の外を見た。すっかり空は真黒になり、点々と星が出ている。立ち上がり、窓を閉めた。鍵までしっかりとかけてから振り返って部屋を見渡す。そして驚いた。出ていったとばかり思っていたあの薄汚れた灰色の猫は、まだこの部屋に居座っていた。しかもいつの間に移動したのか、我がもの顔で男のベッドを占領してうたた寝をしている。気持ちよさそうに、尻尾が時折動いていた。確実に汚れたであろうシーツのことを思って、げんなりする。
「帰らないのか、お前は」
 どう見ても野良猫らしい見てくれだが、それでも寝所にしている場所があるはずだ。そこに帰らないのかと問えば、猫はパチリと目を開ける。クァと口を大きく開きながらしなやかな体を伸ばした。それからベッドの上でお座りをして、男を見上げた。移動するような気配はない。男の口から小さくため息がもれた。
「私の家にいてもいいが、まずはその汚れた体をなんとかしろ」
 返事をするように、猫が一つ鳴く。男が部屋を出ると、猫はその後に続いた。
 やって来たのは浴室だった。男はシャワーで猫の体を濡らす。思っていたような抵抗はされなかった。猫はみな水が嫌いだと思っていた男は、いい子だ、と一つ猫の頭を撫でた。
 当然、ペット用のシャンプーなんて持っているわけがないので、普段自分が使っているボディソープで猫の体を洗ってやった。余程猫の皮膚が貧弱でない限り、炎症や湿疹を起こしたりすることはないだろう。
 体中をくまなく洗い、最後にシャワーでよく泡を洗い流す。全身から水を滴らせている猫の体を清潔なタオルで拭いてやった。その間、一切の抵抗らしい抵抗をされなかったので、案外動物を洗ってやるというのは楽なものだな、と男は思ったほどだ。
「私が出るまでそこを動くんじゃないぞ」
 まだ完全に乾ききってはいない猫を脱衣所に待たせ、今度は男がシャワーを浴びる。すりガラスの向こうでは、きちんとお座りをした猫が待っていた。それを見て、やはりこの猫は人間の言葉がわかるのではないかと思ってしまう。
 脱衣所に出ると、猫はこちらを見上げて鳴いた。男は自分の体を拭いてから、ズボンだけをはいてまだ湿っている猫を抱き上げる。片手にはドライヤーを持っていた。
 リビングに行き、ドライヤーのコードをコンセントにさしてからソファに座る。膝の上に猫を乗せ、ドライヤーを当てた。手梳を交えながら猫を乾かしていく。相変わらず猫は膝の上で大人しくしていた。
「なんだ、ずいぶんと見れるようになったじゃないか」
 満足そうに男が言う。完全に毛が乾ききった猫はあの薄汚れた灰色ではなく、美しい銀色をしていた。蛍光灯の下で毛の一本一本がキラキラと輝いている。赤という珍しい目の色をしているが、よく見れば美しい顔立ちをしていた。
 額を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。ゴロゴロと喉を低く鳴らしながら、自分から額を撫でている指に押し付けてくる。洗っても嫌がらなかったし、野良のくせにずいぶんと人なつっこい猫だと思った。もしかしたら以前は誰かに飼われていたのかもしれない。
 手遊びでもするみたいに飽きずにいつまでも撫でていると、猫が瞳を開いた。口を開き、男の指に噛みついてくる。思っていたよりもその力は強く、痛みが走った。噛まれた拍子に小さな傷を作ってしまったらしい。
 今まで大人しくしていたのに、いきなりどうしたのかと思い、男は怪訝そうな顔をした。猫はそれ以上指に牙を立ててくることはなかった。ただ、指をざらざらとした舌で舐めている。
「腹が減ったのか」
 名残惜しげに傷口を舐めると、猫は指を解放して肯定するように鳴いた。
 指を見れば血が滲んでいた。赤い雫が指をつたうのを、やはり赤い瞳でジッと猫は見つめていた。
 ペット用のシャンプーを持っていなかったのと同様、まさかキャットフードなんてものを持っているわけはなく、結局男は自分の食事の分から少しずつ猫に分け与えた。玉ねぎを与えなければ、まぁ死ぬことはないだろう。特に美味しそうに食べていたわけではないが、与えた分はきちんと全部食べたので、多少は気に入ってくれたのだと思う。食後に軽く温めて砂糖を少量だけ入れたミルクを出してやったら、毛を汚さずに器用に舌で掬って飲んでいた。
 いつまで経っても猫は家を出ていく気配はなかった。むしろ当たり前のようにくつろいでいる。まさかずっと居座るつもりだろうか。しかし猫という生き物は気まぐれだから、明日の朝にはいなくなっているかもしれない。男はそう思いながら、猫が寝転がったせいで汚れたシーツを取り換えた。汚れたそれを洗濯機の中に放りこんでからベッドの中に潜り込む。先ほどから男の後ろを付いて歩いていた猫も、昔からそうしていたように自然に潜り込んできた。
「・・・いい身分だな」
 呆れたように男が言う。しかしその表情は満更ではなさそうだった。猫にしては体温が低めなそれを抱きながら、男は瞼を閉じた。


 首筋に鋭い痛みを感じて男は目を覚ました。痛むところに手をあててどうなっているのかを確認しようとしたが、どういうわけか腕が動かない。それどころか、体中が動かなかった。仰向けのまま、ベッドに縫い留められているように感じる。金縛りだと思った。今まで30年以上生きてきてこんなことは初めてだったので、男はどうしたものかと考える。だがその思考をそらすように、自分の近くからピチャピチャと水気を含んだ音が聞こえていた。何事かと思い、男は視線だけを動かして自分の首元を見る。
「なっ・・・?」
 驚きで言葉が出なかった。月明かりに照らされてやけにはっきりと見えるあの猫が、首筋に顔をうずめていた。この水気を含んだ音と、首筋の痛み、そしてそこに顔をうずめている猫。先ほどのことがフラッシュバックした。急に指に噛みついてきて、傷口を舐めていた。まさか、と思う。まさかこの猫は自分の血を舐めているとでもいうのだろうか。男には見えないが、確かに首筋には噛まれたような傷ができていて、血を流し続けていた。
 男が絶句していると、気配を敏感に感じ取ったのか猫は顔をあげた。ミルクを舐めていた時のように、毛は一切汚れていない。
 赤と金の瞳が交差する。一つ、猫が舌舐めずりをしたかと思うと、わずかに目を細め、そして口の端をつり上げて人間のように笑った。
「気分はどうだ?といっても、いいはずはないがな」
 猫が、喋った。
「体は動かなくても口は動くだろう。なにか言ったらどうだ?」
「・・・これは夢か?」
 男の独白のような問いに、猫は喉をくつくつと鳴らして暗鬱に笑った。予想をしていた問いだったらしい。
「残念ながら現実だ。俺は今、確かにあんたの血をもらって飲んでいる」
「・・・あぁ、化け物なのか、お前は」
 強靭な精神力を持ち合わせていた男はそろそろ思考が追いついてきたようで、納得したように言った。なんて馬鹿なことをしたのだろうと思う。化け物を家に上げて、一緒に食事をしただなんて。なんとなく裏切られた気分になって、男はきつく猫を睨んだ。猫よりもずっと、獣のような光をたたえた瞳だった。
 普通の人間のように取り乱さずに、それどころかとって喰わんばかりに睨まれて、猫はわずかに驚いたような顔をする。今までどんな屈強な人間も、自分を見て脅えていたのに。すぐに驚きを内心に押し戻し、猫は持て余しているような尻尾を動かして男の頬を撫でた。
「人間の血肉を喰らって生きているものが化け物というのなら、俺はそうなんだろう」
 こうしている間にも、男の首からは血が流れ続けている。普段から白い男の肌が、更に蒼白くなっていた。
「たが、そういう意味ではあんただって俺と同類なんじゃないのか?」
「・・・なにを言っている」
「なんだ、違うのか?」
 おかしいな、と誰にでもなく言いながら猫はまた男の首筋に顔をうずめた。ざらざらとした舌で流れている血を舐めとる。忘れかけていた痛みがまた起こり、男は顔を歪めた。
 何度か喉を動かして嚥下してから猫は顔をあげる。その表情はひどく満足そうだった。
「あんた、直接的でも間接的でも、他人の命を奪って生きてないか?誰かの命を奪ってまで、生きたいとは思ってない?」
 いきなり確信を突かれて、男は息を呑む。確かに男の生き方は、他人からなにかを搾取していくようなものだった。それは物だったり金だったり、理性だったり、そして人生そのものだったり。
 男の反応で自分の考えが当たっていると知った猫は、また小さく笑った。
「そうだろうな。でなければ、あんたの血がこんなに美味いわけがない。何百年も生きているが、こんなのは初めてだ」
 こいつは今幾つだ、と男は思ったが、結局問わなかった。化け物なのだから、年齢なんて意味がないのだろう。
「同類だから、きっと『合う』んだろうな。馴染む、とでも言えばいいのか」
 俺の体の中には寄生しているものがいる、と猫は言った。イモムシのように細長いそれが無数にいて、そいつらが常に猫の血肉を奪っていっているらしい。だからそうさせないために、定期的に餌を与えないといけない。その餌が人間だった。
「ムシどもに寄生されてからもう400年になる。そいつらのせいで歳もとらなくなった」
 つまり最初は普通の猫だったとでも言いたいのだろうか。
「美味くもない人間を喰らわなきゃ生きていけないのは厄介だが、こいつらのおかげで俺は不思議な力を手に入れた。まぁギブアンドテイクだな。それに・・・」
 猫が身を乗り出して顔を近付けてくる。
「あんたみたいに美味い人間がいるというのもわかった」
 唇を舐められた。かすかに血の味がする。それが自分のものだと気が付いて、男は気分が悪くなった。
 400年間、人間を喰らって生きてきたという猫。そうまでして、生きたい理由はなんなのだろうか。
「どうしてそこまでして生きようとする?」
 本当に不思議に思って、男は尋ねた。すると猫は心底から不思議そうに男を見る。なにを言っているんだ、と言いたげな顔だった。だがすぐに考えるような仕草を見せて、そして薄く笑う。
「理由なんて単純だ。きっと、あんたと一緒」
「私と?」
「そう。結局のところ、死にたくないから生きるんだ」
 そうじゃなければ、どうして他の者の命を奪ってまで自分が生き残りたいと思うだろうか。シンプルで、一番強い本能があったからこそ、こんな生き方ができる。
「死にたくないから生きる、か。確かにそのとおりだな」
 おかしそうに、男は蒼白い顔で唇を歪めて笑った。猫の言っていることは、たぶん真実なのだろう。
「それで、貴様は私を殺すのか」
 またあの獣のような瞳で男は猫を睨んだ。動けず、目前に死が迫っているというのに、むしろ猫の方がとって喰われそうな雰囲気だった。
 それを見て、猫は背筋に冷たいものが走ったように感じた。恐怖ではない。やけにはっきりとした快感だった。こんな目で見られたのは初めてだった。人間はいつだって、猫に畏怖や絶望、そして嫌悪を孕んだ瞳を向けていた。しかしこの男は違う。
 気分が高揚した。まるで発情期を迎えたような感覚。こんな気分は400年ぶりだった。
 男をこのまま引き裂いて本能の赴くままに喰ってやりたい。しかし反面、もっとその金の瞳で自分を見て欲しいとも思う。どうしたものか、猫は考えた。
「・・・あんたは、まだ殺さない」
 ただ喰うだけならいつでもできる。そう結論付けた。
 意外そうに男の瞳が揺れる。だがまだどこか警戒をしているような雰囲気があった。
「一度に喰ってしまうのは勿体無い、だろう?幸い、血を少しもらう程度なら人間は死なない。しばらくは血だけをもらうことにする」
 猫は尻尾で男の首筋を撫でた。そこには猫が思い切り牙を立てて付けた傷がある。一際大きな痛みが二度あった。だがもうすでにベッドのシーツが真赤に染まるぐらい血を流していたので、感覚が鈍くなっていてあまり気にならない。
 猫がベッドから音も立てずに降りた。相変わらず、この猫のせいかは知らないが体が動かないので、男は視線を動かして姿を追うことしかできない。
 男の目の前で猫の姿に変化が訪れた。だんだんと、人間の姿に変わっていく。だがもうすでにそんなことでは男は驚かない。効率よく人間を誘き寄せるためならば、同じ人間の姿にだってなるだろう。
 猫は銀の髪と赤い目を持つ青年になった。確かにその姿なら、人を寄せ付けるのに具合いがよさそうだ。特に女。それほど、その顔は整っていた。
「化けるものだな」
 しばらく猫の顔を眺めていた男は言った。
「化け物だからな」
 楽しげに猫は返した。
 猫は窓の方に近付くと、鍵をといけて開け放った。一度男の方を振り向いて口を開く。
「また来る。その時はまた、ご馳走てくれよ」
 目を細めてゆるく笑うと、猫は窓から飛び下りた。この部屋は二階だというのに、なんのためらいもなく。男は死ねばいいのに、と思ったが、たぶんあの猫は二階の高さから飛び下りたぐらいでは死なないのだろう。そう思うと、舌打ちをしたくなった。
 猫の姿が見えなくなると、金縛りにあっていた男の体が動くようになる。上体だけを起こし、首筋に手をあてるともうすでに血が乾きかけていた。かなりの量が流れていたはずなのにと、傷口をよく指でなぞってみて男は気がつく。傷を塞ぐように、ホチキスのようなもので二つ留められていた。おそらく、猫が尻尾で撫でた時の痛みの正体がこれだろう。応急処置をしてやるからあとは自分でなんとかしろ、ということらしい。男は猫の言っていた不思議な力の片鱗を見た気がした。
 ベッドから立ち上がる。血を流しすぎたせいでめまいがした。しかしなんとか足を踏み出し、開け放たれたままの窓に近付くと外を覗き込んだ。当然、猫の姿はもうない。ただ蒼白い月が、同じく蒼白い男の顔を柔らかく照らす。
「またご馳走をしてくれ、だと?生意気な猫め」
 呟きながら、男は自分と同じように人間からあらゆるものを奪って生きている猫のことを思った。

 

END

 

 

なんかジョジョを知らない人が見たら創作だと間違われそうな内容ですね(…)
気が向いたらシリーズ化するかもしれません。したとしたらあんまり長くはならないと思いますが。

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節操なしの浮気性です。
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