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陽気なギャングの日常と襲撃を読み終えて、テンションが上がってきたので。
久遠君と響野さんと慎一君です。慎一→響野らしいです。
なんでこの三人が連れ立って歩いてるんだとか、あまり深く考えちゃ駄目だと思います。あと、慎一君がちょっと変な子です。響野さんはノンケ、つーか愛妻家。久遠君は動物と成瀬さん愛してる。
住宅地を三人で歩いていると、慎一は塀の上に丸くてもこもこしたそれを見つけて、横にいる響野の服の裾を引っ張った。
「響野さん、見てよ。猫がいる」
響野と久遠が同時にそこを見ると、確かに三毛猫が塀の上でうずくまっていた。視線に気が付いたのか、猫は伏せていた目を開けてわずらわしそうに男達を見る。
「本当だ。おい、久遠。お前の大好きな猫がいるぞ」
揶揄するように言う響野に、久遠はなにを言っているんだとばかりにわざとらしく息をついた。
「勘違いしないでよね、響野さん。僕は猫が好きなんじゃなくて、地球に存在する全ての動物を愛してるんだよ」
「あぁ、そう」
大体ね、猫好きとか犬好きとか、僕には意味がわからないんだよ。猫も犬も、みんな平等に愛せばいいじゃない。同じ動物なんだからさ。
以下淡々と動物の素晴らしさについて、その愛しい動物を人間がどう虐げているかを語り始める久遠に、響野はまた始まった、と内心でため息をつきながらなおざりに対応する。彼は自分が語り始めた時、まさに周囲がこんな対応なのだが、他人の振り見て我が振りを直せない人間なので、そんなことは知らない。
「人間はちょっと……いや、大分増えすぎだよね。なにさ、60億以上とか。そんなに増えるから、住む場所も畑も足りなくて、海を埋め立てたり森林を切り開かなきゃいけないんだよ。動物を見てごらんよ。ちゃんと適度に死んで個体数を保ってる。減りもしないし、増えもしないのが一番なんだよ。人間も見習うべきだね。そうすれば、動物の住処を奪わずに生きていけるのに。あーあ、明日になったら地球全体の人口が半分くらいに減ってないかな」
「久遠さんは、たまに過激なことを言うね」
「過激じゃないよ。地球に必要なことだ」
「本当に人口が半分になるなら、間違いなく久遠はいなくなってるな」
「それは間違いなく間違ってるね。どうして僕ほど動物を愛してる、いい人間が死ぬのさ。むしろ響野さんでしょ。銀行強盗してたり、不味いコーヒーを淹れ続けたりばっかりして、響野さんは地球になにか貢献してんの?」
「いい人間ほど早死にするものだ」
「なら、二人とも長生きするね」
そんな会話をしながら、三人は三毛猫に近づく。慎一は恐る恐る猫に手を伸ばした。猫は相変わらず無愛想にわずらわしそうな顔はしているが、逃げる気配はなかった。どうやら人間に慣れているらしい。かわいー、と久遠も手を伸ばして猫を撫でた。整った彼の顔が緩む。
猫の体を撫で回している二人を見て、これだと抱けそうだな、と響野がひとりごちた。そして両腕を伸ばし、猫のわきの下に手を入れる。グッと力を入れて、その体を持ち上げた。
「猫というのは、どうしてこんなに胴体が長いんだろうな。邪魔じゃないのか」
びよーんと、猫の体が伸びる。いや、実際には伸びてはいないのだろうが、丸まっていた姿から考えると伸びたように見える。宙でゆらゆらと猫の体を揺らして遊んでいると、久遠が声をあげた。
「ちょっと!響野さんなにやってんのさ!」
そこには揶揄するような響きはなく、真剣そのものだった。ともすれば怒号にも聞こえる。普段温厚な青年の豹変に、響野と慎一は目を丸くして彼を見た。
「な、なんだ?」
「犬猫をそんな持ち方したら駄目じゃないか!持つ時はちゃんとお尻も支えてあげるんだよ!」
言い終わるか終わらないかのうちに、久遠は響野から猫をひったくる。響野のようにわきの下に手を入れるのではなく、両腕でそのしなやかな体を包むように抱いた。
「そんな持ち方するとね、腰に負担がかかるんだよ。椎間板ヘルニアとかになっちゃうんだから。僕は響野さんがヘルニアになろうと知ったこっちゃないけど、動物がなるのは許さないから!」
キッと相手を睨みながら、久遠はまくし立てた。
「す、すまない……」
あまりの青年の剣幕に、響野は思わず謝ってしまう。その謝罪を聞いているのかいないのか、久遠は猫を抱いたまま自分の世界に入ってしまった。猫をまさに猫可愛がりしている。
そんな彼の姿を見ながら、響野は改めて思った。自分はそんな、怒鳴られるようなことをしたのか、と。猫を抱いただけなのに、あんなふうに本気で怒られると流石にちょっとへこんでしまう。
「響野さん」
そんな響野の服の裾を、慎一は再び引っ張った。響野は少年を見る。すると、彼は落ち込まないでと、母親いわく「もてる」顔で笑顔を見せた。
「そんなに抱っこしたいなら、僕を抱っこするといいよ」
「は?」
一瞬、理解が遅れる。
「大丈夫。僕、そう簡単には椎間板ヘルニアにはならないと思うんだ」
「いや、私は別になにかを抱きたいわけではなく……」
「いいから、遠慮しないで」
さぁ、と慎一は期待に満ちた顔で両腕を広げた。思わず、響野は一歩退く。しかしそこには久遠がいるので、それ以上さがれない。
前門のいい顔をした慎一。後門の猫を抱いている久遠。
響野はなんでも友人に頼っているようで癪だが、それでも言わずにはいられなかった。
「成瀬、私はどうしたらいいんだ……」
前進も後退もできずにいる中、響野は「ここにロマンはない」と呟いた。
END
この場に成瀬さんがいたら、涼しい顔で「慎一君を抱いてやればいいだろう」って言うよ。もちろんいやらしい意味ではなく。
日常と襲撃を読んでますます響野さんが愛しくなりました。
無駄に自信たっぷりで、でもそれが空回って、本当に演説以外いいところがなくて、なにげにみんなの弄られキャラな響野さんかわゆす。
本編から10年後設定。捏造しまくり。本当に二人が大好きなだけだから、読んでも怒らないでくだしあ。
10年もすると子供は見違えるほど成長する。つい先日まで幼子だと思っていた女の子が、この間単身でローマに引っ越してきた。挙げ句、意中の相手を目当てに、日々通っていたリストランテにシェフ見習いとして就職した。思い立ったらすぐに実行する、この行動力は昔から変わらない。むしろ、彼女は体が大きくなったということ以外、ほとんど変わっていない。色素の薄い髪も、猫のような瞳も、お喋りでませた性格も。そして、ジジが大好きだということも、高校を卒業した今でも、彼と『ごっこ遊び』をすることも。
「チャオ、ジジ。早速だけど、明日のは私と遊んでくださらない?」
リストランテ『カゼッタ・デッロルソ』でジジと顔を会わせるやいなや、マッダレーナな一番にそう開口した。明日は、リストランテは定休日だ。
「また『ごっこ遊び』か?」
ジジの問いに、彼女は肯定するように笑みを浮かべる。10年前と変わった、数少ないところだった。昔は、こんな色気のある笑い方はしなかった。
「そうよ。明日は、『恋人ごっこ』をしましょう」
映画のチケットがあるの、と彼女は紙切れを2枚ひらひらとなびかせた。この発言に、なんとなしに話を聞いていたクラウディオが驚いたような顔をする。ルチアーノは眉間に皺を寄せた。しかし他の従業員達は、面白そうな顔をする。
10年前も、マッダレーナのようにただ一人を目当てにシェフ見習いになった女の子がいた。ただ、そんな彼女とマッダレーナの違うところは、相手への積極性だ。
「……わかった」
しばらく思案するように黙っていたジジは、やがて小さく言った。すると今度は、マッダレーナは嬉しそうな、子供っぽい笑顔を見せる。
「約束よ」
待ち合わせ場所を確認すると、彼女は念を押すように言って、仕事の準備に取りかかった。
翌日。
ジジが約束よりも早く待ち合わせ場所を訪れると、すでにマッダレーナはそこにいた。いったいいつからそこにいたのだろう、とジジは思う。
声をかけずに遠くから彼女を観察した。妙にそわそわとしていて、何度も時計を確認している。
不意に彼女が視線に気が付いたように、腕時計から顔をあげてこちらを見た。途端に安堵したような表情になる。
ジジはマッダレーナに近寄った。
「すまない、遅れて」
「本当よ。セニョリータを待たせるなんて、ダメね」
「昼は奢ろう」
「そのつもりよ」
口を開けば、いつもの彼女だった。先ほどまではあんなにそわそわとして、不安そうだったのに。どうやら本当にジジが来てくれるかどうか、心配していたらしかった。
「さぁ、行きましょう」
自然な動作で、マッダレーナがジジの腕に自分の腕を絡める。ジジはしばらくそれを見つめて、『恋人ごっこ』か、と納得した。
並んで歩きながら映画館に向かう。その道中、彼女はよく喋った。ジジが相槌を打つだけでも、ダムから水が流れるように止め処なく、その形のいい唇から言葉が発せられる。
マッダレーナが持っていた映画のチケットは、最近話題の恋愛映画だった。並んで椅子に座ると、彼女が今度は指を絡めてくる。それを握り返すと、彼女は驚いたようにジジを見た。そして、暗がりの中で笑う。
「いいわね。雰囲気がある」
満足そうに言った。
映画の内容がまったく頭に入らないまま、ジジはどうして自分がこんなにもマッダレーナに懐かれているのだろうと考える。はじめて声をかけられた時から、彼女はずっとジジ、ジジと言って傍に寄ってきた。
ジジは自分が面白い人間ではないと自覚している。それに10年前より皺も増えたし、更に目も悪くなった。反面、マッダレーナは年々美しくなっていく。年寄りにかまうよりも、同年代の男を相手にした方がいいのではないだろうか。
ジジは彼女にこんなに懐かれる理由がわからなかった。だが、彼女と一緒にいるのは嫌ではない。
「映画、ちゃんと見てなかったでしょう」
上映が終わると、彼女はそう言った。頷くと、あなたらしいわ、と肩をすくめる。怒っている様子も、呆れている様子もなかった。予想していたことなのだろう。
マッダレーナはジジに高望みをしない。ジジがどういう人間なのかをよく理解している。だから彼女と一緒にいても、自然体でいられるから楽だった。
「次はお昼ね。近くにリストランテがあるの。そこで食べましょう」
「あぁ」
当然のように腕を絡めてくるマッダレーナを、ジジはエスコートした。
入ったリストランテは、店の雰囲気こそいいが、フリオやテオのおかげで舌が肥えているせいで、味はあまり満足できるものではなかった。
「これなら、まだ私が作った方が美味しいわ」
「それは、どうだろうか」
「言ったわね」
軽く睨みつけてくる彼女を、ジジは無言で流した。実際、まだまだ修行中な彼女の手料理は、この店のものと50歩100歩だった。逆に言えば、料理をはじめたばかりでこの店で出されるものと同等のレベルなのだから、彼女には才能があるのかもしれない。しかし、『カゼッタ・デッロルソ』で出すにはまだまだだ。
ジジが会計を済ませ、二人は街中に出る。当てもなくローマ市街を見て回った。面白そうな店を見つけては、マッダレーナがジジを引き連れて入って行く。彼女と店を回るのは楽しく、ジジは自分でも驚くほど早く時間が過ぎていくのを感じた。
18時を示す鐘が鳴る。その時には、二人は最初の待ち合わせ場所に戻ってきていた。
「今日は楽しかった?」
目を合わせながら尋ねてくるマッダレーナに、ジジは頷く。
「楽しかった」
ふふ、とマッダレーナが笑った。
「上出来ね。『恋人同士』なら、そう言うべきだわ」
どうやら彼女は『恋人ごっこ』の最中だから、ジジがこう答えたと思ったらしい。実際は、本当に楽しんでいたというのに。どうしたらそれが伝わるものか、とジジは思案する。
すると、マッダレーナの美しい顔が近付いてきた。
「…………」
互いの唇が触れ合う。それだけで、すぐに彼女は離れていった。
「やっぱり、デートの締めはこれね」
己の唇を指先でなぞりながら、彼女は満足そうに言った。
「私も今日は楽しかったわ。チャオ、明日またカゼッタで」
手を軽く振って、マッダレーナがきびすを返す。ジジはとっさに腕を伸ばすと、彼女の手首を掴んだ。驚いたような表情で振り返る。しかし驚いているのは、ジジも同じだった。完全に、無意識だった。
どうしようかと考えて、ジジは昨日の彼女の言葉を思い出す。
「明日は、『恋人ごっこ』をしましょう」
今日はまだ、終わっていなかった。自分達は、まだ『恋人同士』だ。
「家まで送ろう」
今はこの台詞が一番相応しいと思った。
マッダレーナが、今日一番の笑顔を見せる。
「なら、家に寄っていって。夕食をご馳走するわ」
絶対、美味しいって言わせてあげるんだから、と彼女は意気込んだ。
「一度、カゼッタに寄って欲しい」
「なに、忘れ物?」
「いや、ただワインを取りに行くだけだ」
「勝手に持ち出しちゃっていいの?」
「あぁ」
本当にいいんだろうか、とマッダレーナは思ったが、ソムリエの彼が言うのだからいいのだろう、と結論付ける。
二人は寄り添い合いながら、暗くなりかけているローマの街を歩いた。
翌日、店の一番上等のワインがワインセラーから消えているのに気が付いて、ロレンツォが困ったような顔をするのだが、それはまた別の話。
END
ちなみにまだ二人は付き合ってないよ。
マッダレーナはとっととちゃんと告白すべき。
moira最盛期にクロセカですよ。割と本気で、ゲフェパシが好きなんだ・・・。
たまには普通にイチャイチャしてるものを書こうと思ったのですが・・・あれ?
バカップルと可哀想なアルベルジュしかいません。
気まずい。物凄く、気まずい。
ゲーフェンバウアーと並ぶようにしてベッドの縁に座りながらそう思った。怖くて前が見れない。その代わりに、俺はゲーフェンバウアーを見る。彼は今にも噛みつきそうな顔をして前を、前方にいるアーベルジュを睨んでいた。本当、どうすればいいんだ、この状況。
「とりあえず・・・座ってくれ」
「いや、その・・・」
立たせておくのもなんなので、椅子を勧める。横であからさまにゲーフェンバウアーが不満そうな顔をしたが、黙殺した。
アーベルジュはしばらくどうするべきか考えていたようだったが、結局椅子に座る。そしてまた、沈黙が訪れた。
事の起こりは数分前、いつものようにゲーフェンバウアーが俺に会いに来ていた。真夜中だったし、会うのも久しぶりだったので油断していた。彼と抱き合いながら口付けをしていたところに、ローザからの伝言があるというアーベルジュがやってきたのだ。
まだ服を脱いでいなかったから良かったとか、そういう問題ではない。男同士でそういうことをしているというのがばれたのも、この際どうでもいい。目の前の問題の前では小さなことだ。問題は、アーベルジュにゲーフェンバウアーを見られたということ。これで相手がトリストラム辺りだったらどれだけよかっただろう。そう思わずにはいられない。
アーベルジュは当然ゲーフェンバウアーが今はフランドルに身を寄せていることを知っている。そしてここはさほど大きくはないが、俺が個人で所有している屋敷。つまりブリタニア。敵国同士の軍人が、真夜中に密会しているのだ。普通なら、ただでは済まされない。
「いつからだ」
小さく消え入りそうな声で、アーベルジュは尋ねてきた。それはいつから密会しているかという意味なのか、それともゲーフェンバウアーと俺がいつからこんな関係なのかという意味なのか。
なんかもう考えるのも億劫になっていると、ゲーフェンバウアーが口を開いた。
「この戦争が始まる前から・・・貴様に祖国を滅ぼされるずっと前からだ、死神アルベルジュ」
棘が含まれているどころか、ナイフでずたずたに引き裂くような台詞。これでもかというぐらい敵意が含まれている。
アーベルジュが憎いのもわかるし、邪魔をされて苛ついているのもわかるが、もうちょっとソフトに言ってやってくれ。ただでさえデバガメをして罪悪感にさいなまれているのに、そんなことを言われたらアーベルジュは更に萎縮してしまうぞ。
会ってみるまではどんな冷血漢かと思っていたが、以外にもアーベルジュは超がつくほどの真面目で情の深い男だった。そんな性格だから、今まで自分で滅ぼしてきた国や人間に酷く罪の意識を感じている。戦場に立てば確かに死神と呼ぶにふさわしい男だが、それ以外ではただの苦労人だ。今回、デバガメをしたところも見ると、運もだいぶ悪いと見える。
「その・・・すまない」
可哀想なくらい萎縮してしまっている。座らせないで、さっさと帰してやればよかった。
「いいって。そんなに小さくなるなよ、お前が悪いんじゃないんだから。ゲーフェンバウアーも、あんまり攻撃してやるな」
追い討ちをかけようとゲーフェンバウアーが再び口を開きかけたので、その前に俺が割って入る。すると今度は俺がゲーフェンバウアーに睨まれてしまった。もともと猫のように釣り目気味なのに、更に釣り上がっている。俺がアーベルジュをかばったのも面白くないのだろう。
本当、猫のような男だと思う。気まぐれだし、神出鬼没だし、ツンツンしてると思えば時折凄く甘えてくるし、あまり他人には懐かないし。なんとなく猫が怒って毛を膨らませているように見えて、こんな状況だというのにおかしくなった。笑いを噛み殺しながら、なだめるように彼の黒い猫っ毛を撫でてやる。
「そうむくれるなよ。男前が台無しだぞ」
「別に、むくれてなんかいない」
ふいとそっぽを向いてしまったが、構わず撫で続ける。
「アーベルジュ、こいつになにか言われてもあんまり気にするなよ。もともとキツイ性格の奴だから」
初めて会った時も、普通に会話ができるようになるまでずいぶんと時間がかかった。他人に対する警戒心が人一倍強いうえに、人見知りだからしょうがないといえばしょうがないのだが。この性格ではフランドルでも苦労をしているだろう。猫というよりは野良猫だ。一度気を許してくれれば、良い奴とはいえないがそれほど悪い奴でもないのだが。
いい加減、ブリタニアに亡命して俺のところにくればいいのに。いつもそう思うが、ゲーフェンバウアーは何度誘ってもそうしようとはしない。どうのような思惑で彼が首を縦にふらないのか、俺にはわからなかった。
大人しく撫でられているゲーフェンバウアーから視線を外し、アーベルジュの方を見る。彼はわずかに驚いたような表情をしてこちらを見ていた。
「どうした?」
「いや・・・。ただ、お前と一緒だとゲーフェンバウアーもずいぶんと雰囲気が柔らかいと思ってな。借りてきた猫のようだ」
猫、という単語に、思わず噴き出しかける。だが二人の手前、なんとか自制した。そうか、やはり他の人間の目から見てもゲーフェンバウアーは猫に見えるのか。
「私がフランドルにいた頃は、触ろうとしただけでも怪我をしそうなほどとげとげしい雰囲気だった」
それはおそらく、異国にいるせいでいつも以上に神経質になっていたせいだろう。
「まぁ付き合いも長いしな。最初からこんなだったわけじゃない」
「本当に、戦場が始まる前からの付き合いなんだな」
「あぁ、神に誓って」
俺達はどちらの国のスパイでもない。ただ個人的に、危険をおかしてでも会いたいから、こうやって会っているだけだ。
「だから虫のいい話かもしれないが、今夜のことは見なかったことにしてほし・・・って、ゲーフェンバウアー、なにをしてるんだ」
人が真面目に話をしているというのに、ゲーフェンバウアーは頭を撫でていた俺の手首をとると指先に軽く噛みついてきた。それから口に含んで、舌を絡めてくる。ぴったりと密着をしてくると、もう片方の手を俺の服の中に入れて直接素肌に触れてきた。
「パーシファル、いつまでその死神にかまっている」
「そんなことを言っても、まだアーベルジュがいるんだぞ」
「知るか、あいつが勝手に来たんだ」
なんとから体からゲーフェンバウアーを引き剥がそうとするが、相手もまた強情だった。普段から聞き分けのいい男ではないが、今日は殊更だ。少しかまってやらなかっただけで拗ねるなんて。
チラリとアーベルジュを盗み見る。唖然としたような表情をしていた。俺と目が合った途端、顔を赤くする。彼にはずいぶんと刺激が強かったらしい。
俺の指に飽きたのか、口から離すと今度は首筋に口付けをしてきた。跡を残すように、きつく吸い付いてくる。いつもならこんな見えるところには付けないというのに。
「っ・・・!ゲーフェンバウアー、いい加減に・・・」
しろ、と続ける前に、ガタンと音を立ててアーベルジュが椅子から立ち上がった。それと同時に、俺はゲーフェンバウアーにベッドに押し倒されてしまう。
「な、長居をしてしまってすまない」
顔を赤くしたまま早口で言うと、部屋を出て行こうとする。
「ま、待ってくれ、アーベルジュ・・・!」
「心配をせずとも、このことは忘れる」
言ってから、出ていってしまった。忘れたい、というのが本音なんだろうな、と思う。なんだか悪いことをしてしまった。
「やっといなくなったか」
俺を押し倒した態勢のまま、ゲーフェンバウアーはフンと鼻を鳴らす。いくらアーベルジュを追い返すためとはいえ、やり過ぎなのではないだろうか。結局、ローザからの伝言も聞いていない。
「やり過ぎだろ。仲良くなるのは無理でも、もっとフレンドリーになれないのか」
「あいつと仲良くなってどうする」
「アーベルジュだけじゃなくて、フランドルとかでもさ。友達くらい作れよ」
「いらん。俺には貴様さえいれば十分だ」
惜し気もなくそう言われ、不覚にもドキッとしてしまった。自分の考えが見すかされているのではないかと思う。口では友達を作れと言っておきながらも、本当に作ったら作ったでその相手に酷く嫉妬をするということを。
こんな時にだけ、そんな台詞を言うのはずるい。ほだされてしまうではないか。こういう時、俺はゲーフェンバウアーに強く出れなくなってしまう。
「ずるいよな、お前は」
「なにがだ」
「亭主関白で」
「・・・意味がわからん」
実際ずいぶんと、亭主関白だと思うが。もしくは俺が甘やかしているだけか。
「もう黙っていろ」
言ってから口付けをされる。そのまま器用に俺の服を脱がしてきた。
ゲーフェンバウアーの好きなようにさせながら、彼がフランドルに戻ったらアーベルジュに今日のお詫びと、黙っていてくれることへのお礼、あとはローザからの伝言を聞きに行かなければいけないな、と思った。
END
当ブログでは素直クールなゲーフェンバウアーを推薦しております。
私の中でパーシファルは家族と離れて暮らしてます。親とそりが合わないので。屋敷には孤児だった双子の女の子がメイドとして仕えてます。パーシファルは身元引き受け人。関係はかなり良好。主人と従者というよりも仲の良い兄妹という感じ。ゲーフェンバウアーが来ている時はいろいろ察してあげられるいい子達です。
じゃあなんで今回、アルベルジュを屋敷にあげちゃったかといえば、アルベルジュがすぐに用事は住むからってあがりこんじゃったから。双子もまさか主人が男とイチャついてますなんて言えない。
そんなどうでもいい裏設定。
私の中でSH内で唯一のホモがゲフェパシなんです。あとはみんなノーマルかコンビか女の子攻めなんです。
まぁ男性キャラが極端に少ないせいもありますが。
陛下×じまんぐもいいと思うけど、そこは越えてはいけない一線だと思っているので自重してます。
エルとアビスを書きたいけど書けない・・・。
からサー読破したよ記念。でもほんとはアル涼が書きたかっただけ。
二人で仲良くしてればいいじゃない・・・!
エレオノール様の元へ行く途中で、涼子という娘とすれ違った。そのまま通り過ぎるはずだったのだが、彼女に手を握られてしまう。まさかそんなことをされるとは思っていなかったので、私はわずかに驚いて娘を見た。すると彼女は、少し申し訳なさそうな顔をした。
「あの・・・あの時は助けてくれてありがとう。ごめんね、怪我をさせちゃって」
あの時、というのは、モン・サン・ミッシェルのことだろう。あれは別に彼女を助けたわけではなく、エレオノール様の命令に従っただけだ。それに、怪我というのも違う気がする。
ブリゲッラの手によって、私の体はずいぶんとボロボロになった。それを大方エレオノール様に直していただいたが、それでもまだ完全ではない。
「私のせいで怪我をさせちゃったんだから、私が直してあげられればいいんだけど・・・」
この娘と話すことはないはずだった。だから早く手を振りほどけばいい。しかしそうしようと思っても、私の体は動かなかった。体が重く、まるで歯車が錆付いているようだ。なぜだろうか。こんな力の弱い人間の手など、簡単に振りほどけるはずなのに。
私自身が、この娘の手を振りほどくのを拒んでいるから?
ふとそんな考えが浮かんで、すぐに否定する。拒んだところでどうなる。そんなこと、なんの益にもならないというのに。
私がどうすることもできずに佇んでいると、彼女はそうだ、と呟くようにして言う。
「私はアルレッキーノの体は直せないけど、髪を結いな直してあげることはできるよ」
いきなりなにを言うのか。別にそんなこと、してもらわなくてもいいのに。
「ずっと帽子かぶってると髪の毛ほつれるでしょ。結い直してあげるからついてきて」
そう言って手を引かれた。私にはこの娘にかまっている暇はないというのに。それでも私の体はなお重く、自分の思うようには動かない。
「娘、私は別に・・・」
そんなことをしてもらわなくてもいい、と言う前に、私を引っ張って前を歩いていた彼女が振り返った。少し眉根を寄せて、頬を膨らませる。
「あのねー、私にはちゃんと『涼子』って名前があるの。娘娘って失礼じゃない」
これは、怒っているのだろうか。それでもあまり怒気は感じなかった。名前を呼んでもらいたいという感情も、よくわからない。娘と呼ぶのと名前で呼ぶのと、どうちがうのだろうか。人間の感情は、私には複雑すぎる。
でもなぜか、呼ばなくてはいけないと感じた。おかしい。エレオノール様やフランシーヌ様に命令をされているわけじゃないのに。
「リョーコだよ、リョーコ」
「りょ、リョーコ?」
その瞬間、彼女は口端をつり上げ、すっと猫のように目を細めた。一拍遅れて、彼女が笑ったのだと理解する。どうしてこのタイミングで笑うのか、私にはわからなかった。笑わせようとしていたわけではない。ただ名前を呼んだだけで、彼女は笑った。私が膨大な年月をかけてもフランシーヌ様にして差し上げられなかったことを、彼女にはたったこれだけでできてしまった。それを不思議に思う。
彼女に手を引かれてやってきたのは、彼女が寝室として使っている部屋だった。椅子に座らされて待っていると、櫛を手にしたリョーコが背後に立つ。帽子を取られ、髪を縛っていたゴムも解かれた。櫛が髪を梳く。
「やっぱりいいなー、綺麗な金髪。憧れちゃう。アルレッキーノを見てから、一度はこうやって髪を梳かしてみたかったんだよね」
今にも歌い出しそうなほどリョーコはご機嫌だった。実際、小さく鼻歌を歌っている。
「これはリョーコが私になにかをしたいのではなく、リョーコが私にしたかったのではないのか?」
「えへへ、ほんとはそうなんだけどねー」
時折髪に指を絡めながら、丁重に梳いていく。以前にも、誰かにこうやって髪を梳いてもらったことがあったのを思い出した。他でもない、フランシーヌ様がわざわざしてくださったのだ。私の髪を優しく梳いて、結ってくださった。
何十年ぶりだろうか。こんなふうに、誰かに髪を触られるのは。フランシーヌ様以外に触られているというのに、不思議と不快には思わなかった。もっと違う、別のなにか。浮遊感にも似たような感覚。おそらく人間はこういうのを、心地良いと呼ぶのだろう。
「髪が長いといじりがいがあっていいよね。また今度結ってあげてもいい?」
再びゴムで私の髪を結いながら、リョーコは尋ねてきた。振り返り、彼女を見る。期待に満ちた表情だった。
「自分の髪があるだろう」
「でも短いからいじりがいがないんだよね」
「伸ばせばいい」
「うんでも・・・ほら、私が長くしたって、似合わないから」
自分の髪を抓みながら、リョーコは困ったような顔で言った。ころころと表情を変える人間だ、と思った。
「なぜそう思う。似合うのだから、伸ばせばいいだろう」
「ちょっと、思ってもないのにそんなこと言わないでよ。見たことないくせに」
リョーコはまた頬を膨らませた。確かに私は髪を伸ばしたリョーコを知らない。しかしだからこそ、見たいと思う。そしてそんなことを思う自分に、酷く驚いた。
「・・・すまない、適当に言って」
「別にいいよ。それに冗談でも似合うって言われたの初めてだったから、嬉しかったし」
私はリョーコの手から櫛を取った。そして立ち上がり、私が座っていた椅子に今度は彼女を座らせる。リョーコの背後に立ち、先ほど私にしてくれたのと同じように櫛で髪を梳いた。できるだけ優しくできるように、頭の中で先ほどの彼女の手つきを反すうする。
私の行動が予想外だったのか、最初は体を強張らせていたリョーコだったが、やがて緊張を解くようにして息をはいた。なにを言うでもなく、私のさせたいようにさせてくれる。
柔らかい髪だった。リョーコは私の髪を綺麗だと言っていたが、彼女の方がずっと美しいと思う。それはきっと、リョーコが生きているからなのだろう。人工的に作られた私のものとはまったく違う髪。
「リョーコ」
「うん?」
一旦手を止め、私は名前を呼ぶ。すると彼女は振り返った。
「髪が長かろうが短かろうが、私はリョーコの髪を梳こう。どんな長さであれ、この髪が美しいということに変わりはないのだから」
私の言葉にリョーコは驚いたように目を見開く。だが次の瞬間には、再び笑っていた。それも先ほどよりも、ずっときらきらとした笑みだった。
「うん、ありがとう。アルレッキーノ」
リョーコは様々な表情を見せる。なにより、私に笑顔を見せてくれる。
フランシーヌ様、私はあなたを笑わせることはついにできませんでしたが、この少女を笑わせることはできるのです。それもこちらが笑わせようと意図しているわけではないのに、こんなに綺麗な笑みを見せてくれるのです。そんな時、胸の歯車が不規則に軋むのです。この感情をなんと表せばいいのでしょう。リョーコの言葉を借りるなら、『嬉しい』と言うのかもしれません。フランシーヌ様、あなたに作り出されてから、こんな気持ちになるのは初めてです。
「先ほど、また私の髪を結ってもいいかと尋ねたな」
また笑って欲しい。私に笑いかけて欲しい。
「頼んでもいいのか?」
「もちろんだよ。だからアルレッキーノもまた、私の髪を梳いてね」
「あぁ、約束しよう」
きっとリョーコの傍にいれば、私の知らない感情をまだまだ教えてくれるだろう。それならば、私は嬉しい。
END
アルレッキーノの髪の色がわかりませんでした。とりあえず金髪で。
コロンビーヌと勝も書いてみたいなー、とか。パンタローネも。
勝はいろんなおにゃのことフラグ立てまくってるのに最終的に誰ともくっつかないとか・・・!
せめてリーゼかコロンビーヌとくっついてほしかったよ。
しかもへーまもリーゼとフラグ立てたのに最終的にはリョーコとかね。もうシノハさん吃驚だよ。アル涼涙目だよ。
改造屋達もいいけど、なんだかんだで一話目とSが一番好きです。
任務の帰りにいつも立ち寄る公園があった。なにか用があるわけではないが、習慣みたいなものだった。その公園でいつからか、少年と青年の中間ほどの年頃の男性を見かけるようになった。彼がドールだと知ったのは、つい最近のことだ。
「名前は?」
「ありません」
「デフォルトの名前くらいあるんじゃ・・・」
「本当に、ないんです」
おかしなドールだった。呼ばれる時に不便ではないかと尋ねたら、自分はたった一人の人間に仕えていて、その主人と二人暮らしだからいいのだと、にこりともせずに言っていた。ずいぶんと旧式のドールで、表情や感情というものがまったく作れないらしかった。
そんな彼なのに、一緒にいるとなんとなく安心できて、姿を見つけるといつも話かけていた。
「主人は好き?」
「はい」
ある日そう質問すると、彼はやはりいつもの調子で答えた。彼はいつもこの公園にいるが、主人の傍にいなくてもいいのだろうか。
「あなたは、違うのですか?」
問い返され、僕は一瞬思考が鈍ったのを感じた。どうなのだろうか。考えたこともなかった。僕の主人はSG社の人達ということになるのだろう。好きだとか嫌いだとか、そんなことを考えたこともなかった。
普段は機能を停止させていて、必要な時にだけ起こされ、ドールをスクラップにしてこいと命令される。その関係に疑問を感じたことはなかった。しかし満足を感じたりもしなかった。どんなにドールを破壊し褒められても、僕は人間でいうところの心を動かすことはない。ドールとしてそれが当然だと思っていた。
「よく・・・わからない」
「そうですか」
会話はここで止まると思っていた。彼はあまりお喋りではない。しかし違っていた。彼は小さく、でも、と続けた。
「あなたなら必ずわかるでしょう。主人を愛することが、どういうことかを」
慈しむように頭を撫でられる。きっと僕に兄がいたら、彼のような感じなのだろうと思った。
それからほどなくして、僕の環境は大きく変わった。SG社が不祥事を起こし、経営が危うくなったせいで本来ならば商品ではない僕まで安い金で売り出されるようになった。そして新しく僕の主人になったのは、いつか僕が助けた女性だった。
彼女は優しかった。僕をドールとしてではなく、亡くなった子供と同じように扱ってくれた。だからその分、僕が敬語を使ったり、彼女に敬称を付けて呼んでしまうと、酷く寂しそうな顔をした。
そんな顔をされると、どうしたらいいのかわからなくなってしまう。僕は彼女にそんな顔をして欲しいわけではない。ただ、笑っていて欲しかった。優しく僕の新しい名前を呼んで、その腕に抱いて欲しかった。そこまで考えて、SG社にいた頃はそんなことなんて一度も考えたことがなかったのにと、自分で驚いた。
彼女と生活をはじめて一ヶ月ほど経ったある日、僕はふと思い付いてあの公園に足を運んだ。
「お久しぶりです」
彼は相変わらず、この公園にいた。そしてやっぱり、主人の姿は見えない。まさか公園に捨てられてしまったドールなんじゃないかと思ってしまう。
「悩み事ですか?」
僕の心配をよそに、彼はそう尋ねてきた。顔に思っていたことが出ていたのだろうか。人間じゃあるまい。
しかし言われてはじめて気が付く。僕は悩んでいたのだ。言われたことを忠実に遂行していればよかったあの頃なら、こんなふうに悩むこともなかったのだろう。
「主人が変わったんだ」
「それになにか不満でも?」
首を左右に振る。僕を大切にしてくれる彼女に、不満なんてあるはずがない。あるとすれば、それは僕自身にだ。
「僕は主人が望むようなドールにはなれない」
「えぇ」
「執事タイプのドールじゃないんだ。家事すらできない」
知っているのは、ドールの壊し方だけ。命令を遂行することだけ。しかし彼女は僕に命令をしない。だから時折、戸惑ってしまう。なにをしたらいいのか、わからなくなってしまう。こんな時、自分はただの鉄の塊なのだと思い知らされてしまう。
「僕は主人のためになにかをしてあげたいのに、なにもできない。でもこんな僕でも、彼女は相変わらず優しいから、ここが苦しくなる」
胸に手をあてた。彼女に笑いかけられるたびに嬉しくなるはずなのに、反面とても苦しくなる。いっそ穴をあけた方が楽になるのではないかと思った。
彼は不意に、うつ向いている僕の手を握った。驚いて顔をあげると、口を開く。
「大丈夫」
凛とした声で、はっきりとそう言った。
「大丈夫です。主人と一緒にいられる時間は、たくさんあります。家事はいくらでも覚えられる。わからないことがあったら、主人に聞きなさい。きっと喜んで教えてくれるでしょう」
どうしてそんな感情の込められた声で喋れるのだろうと思った。いつもはもっと、無機質な声をしているというのに。その上、まるで彼女のことを知っているような口調だ。
僕が唖然としていると、彼が真っ直ぐと目を合わせて来た。澄んだガラス玉のような、全てを見透かしているような瞳だった。
「私達は主人のためなら、なんでもできる」
言われて、ハッとした。そうだ、彼の言う通りだ。もう命令をされてそれに従っているだけでは駄目なのだ。自分から行動を起こさなくてはいけない。誰のためでもない。愛する主人のために。
以前、彼の言っていたことを思い出す。主人を愛するということは、こういうことか。
そのことを教えてくれた彼にお礼が言いたくて、僕は口を開きかける。しかしその前に、別の声が聞こえた。
「ちょっと、ドール!いつまで私を待たせる気よ」
声のした方を見る。そこには、可愛らしいが気の強そうな顔立ちをした女の子がいた。
「申し訳ありません、カヤ様。もうそちらへ参ります」
彼が恭しく言う。どうやらこの少女が彼の主人らしい。そういうば、主人と二人で暮らしていると言っていたっけ。
「あの人が主人?」
尋ねると、彼が僕を振り返った。そして再び驚く。笑っていた。目を細め、口端をわずかにつり上げて、とても愛しげに。
「はい。あの方が私のお仕えしている主人です。そして私の・・・――」
「ドール、早くしなさい!」
最後の言葉が彼の主人の声によってかきけされてしまう。彼はもう一度謝ると、主人の元に歩きだした。並ぶと、彼女は自然な様子で彼の腕に自分の腕を絡める。そして二人同時に僕を振り返った。
「さようなら、私の兄弟」
彼はそう言うと、主人と一緒にフッと消えてしまった。まるでなにかの手品のようだった。
空を見上げる。雲一つない、綺麗な空だった。彼らはあそこへ行ってしまったんだな、と漠然と感じた。
僕は確かに聞いたのだ。彼が最後に、『私の妻』と言ったのを。
「葉介・・・!」
名前を呼ばれる。振り返ると、そこには慌てた様子でこちらに駆け寄ってくる僕の主人がいた。そういえば、なにも告げずに家を出てきたんだった。
「もう、どこに行ってたの!勝手にいなくなったりしたら駄目じゃない」
抱きしめられる。温かい。
「ごめんね、母さん。今度からは気をつけるよ」
自然と、そんな言葉が出た。彼女は一瞬驚いたような顔をする。だけどすぐに、泣き笑いのような表情になった。
「うん・・・うん。わかってくれればいいの。さぁ、一緒にお家に帰ろう」
手を繋ぎ、並んで歩き出す。もう僕の心は苦しくない。
「ねぇ、今度僕に料理を教えてくれる?」
「なら、帰ったら一緒に夕食の支度をしようね」
僕は人間にはなれないが、人間のパートナーになることはできる。そのことを教えてくれた彼の姿は、もう二度と見ることはなかった。
END
未来の15歳ネス+擬人化ギーグです。
私はギーグに夢を持ち過ぎてると思う。突っ込んだら負けです。
ギーグとネスの脳内設定は過去ログを参考に。
なにをするあてもなく、オネットの街中に遊びに来ていたネスは、ふと街の地図が描かれている看板の前で立ち尽くしている人を発見した。全体的に髪が長く、前髪が顔を覆ってしまっているため表情も性別もわからない。ただ、青い色をした肌はやたらと目に付いた。
声をかけた方がいいのだろうか、とネスは考える。途方に暮れたように看板を眺めるその姿は、迷子そのものだ。ずいぶんと困っているのだろうというのが傍目から見てもよくわかる。
しかし大抵、肌の色が青ざめている人は(あの人の場合本当に青いが)、声をかけると襲いかかってくる。ネスもそれを体験済みだ。
どうしようか、と思い、ネスは改めて相手を見る。まるでこの世に独りだけ取り残されてしまったような雰囲気だ。基本的に困っている人を見ると放っておけない性格のネスは、助けてあげたくなってしまう。
ポケットの中を探った。そこには家を出る前に入れてきたヨーヨーが入っている。
もし襲ってきたらこれでなんとかしよう。
そう思い、ネスは声をかけることにした。
「どうしたの?」
ビクッと、大げさなくらい相手の肩が跳ね上がった。長い黒髪を揺らしながら、こちらを見る。
「ソノ・・・エエト」
いきなり声をかけられたからなのか、ずいぶんと慌てているようだった。小さく紡ぎ出されるその声は、若い男性のものだがずいぶんと頼りない。
「迷子?」
「ア・・・ハイ。ほてるノ場所ガワカラナクテ・・・」
イントネーションが微妙に違う。外国の人だろうか。このオネットに観光で来たのか、それとも仕事で来たのかはわからないが、どちらにしても珍しいことだ。
「よかったらホテルまで案内しようか?どうせこの近くだし」
「エ?」
緊張したように彼がネスを見る。思わず、苦笑してしまった。
「そんな身構えなくても、別にとって食べたりはしないよ」
言ってから、ネスは歩き出した。20歩ほど歩いてから彼が自分についてきていないことに気が付いて、振り返る。そして手招きをした。ハッとしたように彼は肩を揺らすと、小走りに近付いてくる。
なんか飼い主に駆け寄る仔猫とか仔犬みたいだ。
ネスがそう思いながら待っていると、あと数歩でこちらに着くというところで彼の体が大きく揺らいだ。倒れる、と思った瞬間には、もうネスは動いている。数歩踏み出し、倒れてくる彼の体を抱きしめるようにして支えた。ネスよりも身長は高いはずなのに、ずいぶんと華奢で軽い体だった。
近くだと前髪の間から彼の目が見えた。綺麗な金色の瞳が、驚いたように揺れている。ネスもまた、表情には出さないものの、予想以上に冷たすぎる彼の体温に驚いた。
「大丈夫?」
「ス、スミマセン・・・!マダ、コノ体ニ慣レテイナクテ・・・」
「え、体?」
「ア、イエ・・・ナンデモ、ナイデス」
彼の体を放すと、ネスは相手の冷たい手を握った。わずかに緊張をしたように手をこわばらせる彼に、ネスは安心させるように笑いかける。
「これなら転びそうになっても大丈夫だよね」
言ってから、二人は並んで歩き出した。
ネスが自己紹介をすると、彼はギーグと名乗った。最初は話しかけてもどもるばかりだったが、緊張が解けてきたのかしだいに普通に喋るようになってきた。しかし相変わらず、イントネーションが微妙に違っていて、ネスはやはり外国から来た人なのだろうと思った。
「ギーグって凄く低体温だよね。寒くない?」
「ソウ・・・デスカ?私ハコレガ、普通ナノデスガ。ネスサンガ、高スギルノデハ?」
彼の言葉に、ネスはぷぅと頬を膨らませてみせる。
「なに?それってぼくが子供体温だ、って言いたいの?」
「ソ、ソンナコトハ・・・」
ネスの機嫌を損ねたと思って慌てるギーグに、思わず噴きだしてしまう。そして、嘘だよ、と笑いながら言った。
そうこうしているうちに目的地にたどり着き、二人は一度ホテルの前で立ち止まる。
「ネスサン、ココマデ案内ヲシテイタダイテ、アリガトウゴザイマシタ」
腰を折りながら丁重に礼を言われる。少し親切にしただけなのにここまでかしこまられて、ネスはなんだか気恥ずかしくなってしまった。それほど大したことはしていない。ここまで丁重に礼をされると、不思議な気分になる。
「そんなかしこまらなくていいって。ぼくだって好きでやったんだから」
なんだか、ギーグという人は放っておけないのだ。ネスよりも歳上だろうに、どこか雰囲気が不安定で支えてあげたくなってしまう。独りにしておいたら壊れてしまうのではないかというほど、不安定で繊細な印象を与える人物だった。
「それより、一人でチェックインできる?」
ホテルにたどり着くまでに気が付いたことの一つに、ギーグは物凄く人見知りだということがある。ネスが顔見知りの人に挨拶をするたびに、彼は緊張をしたようにこちらの手を強く握りしめてきた。
この問いにギーグが困ったような顔をしたので、ネスは無言で彼の手を引いた。彼の代わりに部屋を取り、チェックインをする。それからまた手を引いて、部屋まで案内をしてあげた。
部屋に着くと、やはり彼は丁重に礼を言ってくる。それに応えてから、ネスは部屋を見渡した。なかなか良い部屋だ。お金持ちだな、と感心する。しかしよく見ればギーグは手ぶらだ。荷物らしいものを持っていない。
「ねぇ、荷物はどうしたの?まさかどこかに置いて来ちゃったんじゃ・・・」
「荷物?」
ギーグは一度小首を傾げ、すぐに納得をしたような顔をする。
「地球デ生活ヲスルニハ、必要ナモノガアルノデスネ。ソレナラ、コノ街デ買オウト思イマス」
「ならぼくもついて行くよ。街の案内もできるし、それに見せたい場所があるんだ」
そうと決まれば、とネスは彼の手を引いた。
「イ、イインデスカ?ソコマデシテイタダイテ・・・」
「別に予定があるわけじゃないし、乗りかかった船だから気にしないで。きみが迷惑なら別だけど・・・」
「ソ、ソンナコトアリマセン!ゼヒ、オ願イシマス」
こうしてネスは再びギーグを外へつれだした。街の案内をしながら、生活必需品を買ってゆく。やはり人見知りの気があるようだが、それでも楽しそうでネスはなによりだった。
どうやら見るもの全てが珍しいらしく、なにかを見つけてはこれはなにかと質問をしてくる。その表情は子供のようで、興奮のせいか頬が赤く染まっていた。これほど楽しんでもらえると、ネスとしても案内のしがいがある。
昼食は一旦ホテルに戻り、ピザを注文して二人で食べた。ギーグは溶けたチーズが伸びるのを見ていたく感動をしているようだった。
午前中のうちに必要なものは全て買ってしまったので、午後からはオネットの観光がメインとなる。オネットには観光らしい観光をできるところはないが、それでもギーグは楽しんでいたようなので、ネスは安心する。
「ソウイエバ、ネスサンノ見セタイ場所ッテドコナンデスカ?」
日が傾きはじめた頃、オネットの西にある雑木林を並んで歩いていると、思い出したようにギーグは尋ねた。
「それは・・・」
ネスが言いかけたところで、どこからか低い唸り声が聞こえた。二人同時にそちらに目を向けると、そこには野良犬が鼻に皺を寄せて牙を剥き出しにしながらこちらを睨んでいた。テリトリーに入ってしまったのだろうか。時折いるのだ。やたらと人間に襲ってくる動物というのが。
まずい、っと思った瞬間、犬はより近くにいた方のギーグに襲い掛かった。
「ギーグ、危ない・・・!」
慌ててネスが彼を突き飛ばす。ギーグは尻餅をつき、そしてネスは彼の代わりに犬に左手を噛み付かれた。ネスはすぐにそれを振り払うが、噛まれたところからは皮膚が裂けてだらだらと血が流れ出す。犬はまたいつでもこちらに飛びかかれるように、姿勢を低くしていた。
「ネスサン!」
自分をかばって怪我をしてしまったネスを見て、ギーグは上ずった声を上げる。そして、犬を睨んだ。
「コノ犬・・・!」
長い前髪のしたで、金色だった彼の瞳の色が赤く染まった。風もないのに、ギーグの髪がゆらゆらと蠢き始める。不穏なものを察して、犬は彼を見た。そして怯える。動物の本能なのか、自分が今とてつもなく強大なものを敵に回してしまったと理解したらしい。
犬は金縛りにあったかのように動かなくなる。ギーグはそれに手を伸ばしかけた。だがその瞬間、犬の鼻先に丸い物体がぶつかる。キャン、と悲痛そうな声を上げた。その衝撃で体が動くようになったのか、犬は一目散に駆け出して逃げてゆく。
ギーグがネスの方を見ると、ネスは右手にヨーヨーを持っていた。それで攻撃をしたらしい。
「突き飛ばしちゃってごめんね。怪我はない?」
ヨーヨーをポケットにしまい、ネスは未だに尻餅をついたままの彼に手を伸ばす。手首を取ると、引っ張り起こした。
「ワタシハ大丈夫デス。ソレヨリモネスサンガ・・・」
「ぼくも大丈夫だよ。ほら」
ネスはギーグの前に左手を差し出す。先ほどまでは血が流れていたはずなのに、すでに止まっていた。というよりも、血の跡だけで傷跡が綺麗に消えている。どういうことだ、とギーグは首をかしげた。
「ぼくはちょっとした超能力を使えるから、簡単な傷なら治せるんだ。だから、あれぐらいは平気なんだよ」
ギーグはネスの左手を取り、まじまじと見る。指先で皮膚にこびり付いた血をこすった。その下には、やはり傷跡は残されていない。人間にもこんな不思議なことができる者がいるのかと、ギーグは感心した。
そんな彼をネスはじっと見つめた。彼の顔は相変わらず前髪で隠れているせいでよく見えない。
「ド、ドウシタンデスカ?」
無言で見つめてくるネスに、ギーグはどぎまぎしながら尋ねる。傷は治ったとはいえ、やはり自分のせいで怪我をさせてしまったことを怒っているのだろうか、と考えた。
「その前髪、邪魔じゃないかなぁ、と思ってさ」
言いながら、背負っているリュックサックをおろし、なにかを探し始めた。そして目的の物を取り出す。
「午前中に行った雑貨屋で、これ買ってきたんだけど・・・」
出てきたのは女の子が使うような、赤いヘアピンだった。腕を伸ばし、ギーグの前髪を留める。その頃には彼の目の色は元に金色に戻っていたので、ネスはギーグの正体を疑うことはなかった。
ようやくまともに見れた彼の顔は、ネスが思っていたよりも整った顔立ちをしていた。
「よかった、凄く似合ってるよ」
言われて、ギーグは軽くヘアピンに手で触れた。
「それあげるよ。よかったら使ってね」
「エ・・・?」
「ギーグにプレゼントする、ってことだよ」
その言葉に、嬉しさのせいか彼はうっすらと顔を赤くした。
「ア、アリガトウゴザイマス・・・!」
あまりにも彼が嬉しそうな顔をするものだから、ネスはこちらまで嬉しくなって笑った。まさかヘアピンだけでここまで喜ばれるとは思っていなかった。もっと他のものをプレゼントしたらいったいどんな反応をしてくれるのだろう、と思ってしまう。
「視界もよくなったことだし、それに時間だし、行こうか」
「時間?」
歩き出すネスの背中を追いかけながら、ギーグは問う。
「この先にクチバシ岬ってところがあってね、海が一望できるんだよ。そこを見せたかったんだ」
「海、知ッテマス。青インデスヨネ。一度近クデ見テミタカッタンデス」
はしゃぐギーグに、ネスはこれからの彼の反応を想像して可笑しくなった。
しばらく木々ばかりが続いていたが、やがて視界が開く。さえぎるものがなにもないそこは、広大な海を一望することができた。
「凄イ・・・」
ただ一言、ギーグが感嘆の言葉をもらす。彼の予想に反して、海は青い色をしていなかった。その代わり、海に飲み込まれるようにして沈んでゆく夕陽の光を浴びて、オレンジ色に染まっている。空も海と同じ色をしていた。太陽によって染め上げられたそれらは、想像していたものよりもずっと美しい光景だった。
二人は無言で沈む夕陽と、徐々に闇に染まっていく海と空を眺めていた。やがて完全に太陽が沈みきる前に、ネスが口を開く。
「これを見せたかったんだ。ぼくがオネットで、一番好きな場所と光景を」
ギーグはネスの方を見た。感動と興奮が混ざり合ったような表情をしていた。今にも涙さえ流しそうだ。
「地球ニハ、私ノ知ラナイモノガ沢山アルノデスネ。コノ地ヘ来テヨカッタデス。ネスサンニモ出会エテ、本当ニ嬉シイ・・・」
深く感動したような、わずかに震える声で言った。
ネスとギーグは元来た道をたどって歩く。完全に太陽が沈んで真暗になる前に、雑木林を抜けなければいけない。足元が暗くて危ないからと、ネスは再び彼の手をしっかりと握った。ギーグもまた、それを握り返しながら歩く。どちらも無言だった。先ほど見た光景を胸の中で思い返している。
雑木林を抜ける頃には太陽はすでに沈みきっていた。しかし街の灯りのおかげで、歩くのに不便はない。そのままネスはギーグをホテルまで送る。
「今日ハ、本当ニアリガトウゴザイマシタ。トテモ楽シカッタデス」
「ぼくもギーグが素直に楽しんだり喜んだりしてくれるから、楽しかったよ」
ギーグは小さくうつむいた。暗がりにいるせいではっきりとはわからないが、顔を赤くしているようだった。なにか言いたいことがあるのか、小さく口を開いたり閉じたりしている。彼の意図を察して、ネスは先に口を開いた。
「なに?」
「アノ・・・私ハシバラクココニ滞在ヲスル予定ナノデ・・・モシヨカッタラ、マタ・・・会ッテイタダケマスカ?」
顔を小さく上げて、うかがうようにしてネスを見た。断られたらどうしよう、という顔をしている。そんな彼の不安を打ち消すように、ネスは笑った。
「もちろんだよ。じゃあまた明日ね」
「明日・・・」
手を振ってから駆け出すネスに、ギーグも慌てて振り返す。
明日、とは、明日も会ってくれるということだろうか。
背を向けて走るネスの背中を見送りながらそう思い、ギーグは小さく口元をほころばせた。
END
そんな感じの捏造出会い話。まだほぼ10割自我が残っているので情緒は安定しているようです。これからだんだんと自我が崩壊していくんだと思います。
なんか雰囲気が物凄くホモホモしい。ネス←ギーグでもいい感じです。
私はギーグをなんだか物凄く可愛い生き物と勘違いしてます。
KAITO兄さんの歌うSMILES and TEARSが好きです。お勧め。
http://www.nicovideo.jp/watch/nm3554678
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1161710
そんなわけで、私の妄想に則ったネス+ギーグ話です。全て妄想なんで本気にしてはいけません。妄想についてはhttp://nandemonai000.blog.shinobi.jp/Entry/263/から。
私の中では1のギーグ≠2のギーグなんですが、実際はどうなんでしょうね。
「ネスサン・・・」
名前を呼ばれる。苦しげで、そして酷く酷く悲しげな声だった。
「ネスサン・・・ネスサン」
すがるようにぼくの名前を呼ぶ。
「ネスサンネスサンネスサンネスサン・・・」
ぼくはこの声を知らない。知らない、はずなんだ。でもどうしてか、聞いたことのあるような気がした。いったいどこで?
思い出そうとする。思い出そうとすればするほど、この声を知っているのだという確信が深まってくる。そう、確かにぼくは知っているのだ。今のように、何度も名前を呼ばれた。あの時も小さな子供がぼくにすがるような、弱々しいものだったが、でもこんなふうに苦しげではなかった。
もう喉元まで思い出しかけている。しかし確信は深まるものの、肝心の記憶が呼び起こされない。ぼくの心の世界、マジカントでもこの声の主、ギーグには会わなかった。それは忘れているということ。心の中に深く残っている声のはずなのに、覚えていない。もどかしい。
「ネスサン・・・クルシイ・・・タスケテ」
どうしてそんなに苦しそうなのか。どうしてぼくに助けを求めるのか。きみはぼくを殺すつもりなんだろう?なのにどうして…。
ポーラの祈りによってダメージを受けるのが苦しい?自我が崩壊してしまっているのが苦しい?それとも、ぼくを殺そうとするのが苦しい?
このどれも答えではないのかもしれない。この全てが答えなのかもしれない。もしくは、自分でも気が付かないうちに、無意識に繰り返しているだけなのかもしれない。先ほどからうわごとのようにぼくの名前を呼び続けているように。
あまりにも苦しそうに助けを求められて、胸が苦しくなった。お願いだから、そんなふうにぼくに助けを求めないで。助けたくなってしまう。手を差し伸べてあげたくなってしまう。でも、できないんだ。もうここまで来てしまったから、お互い引き返せない。どちらかが滅びなければいけない。先にそうなるように仕向けたのは、ギーグ、きみだろう?それなのに、なんで今更…。だから、お願いだから、そんな声でぼくに助けを求めないで。
「ネスサンネスサン・・・ドウシテ・・・アノトキミタイニ・・・テヲニギッテクレナイノ?」
そう言われて、なにかを思い出したような気がした。でもまだはっきりとしない。ただ頭の中に、ある場面が一瞬だけ浮かんだ。子供の手と、青い色をした誰かの手。それが、手をぎゅっと握り合っていた。
なんだかわけのわからない衝動に突き動かされて、ぼくはポーラの肩を掴んだ。驚いた様子でポーラと、そして祈っている彼女を守るためにギーグと対峙していたジェフとプーがぼくを見る。
「ネス、どうしたんだ?」
ジェフがぼくに問う。そんなの、ぼくが聞きたい。ただあまりにもギーグが苦しげだから、これ以上酷いことをしてはいけないと思ったのだ。ぼくが彼を守ってあげなくては、と思った。
なんでもないよ、と告げて、ぼくはポーラの肩を離す。すると彼女はまた気持ちを込めて祈りはじめた。
そうだ、よく考えるんだ、ぼく。なにも酷いことをされているのは、ギーグだけではない。ギーグだって、いろいろな人を苦しめている。ぼくらの地球を、そして未来を侵略しようとしている。そのせいで苦しんだ人達が数え切れないほどいるはずだ。これは身から出た錆。同情をしてはいけない。
でも、と思う。でもギーグが苦しんでいる時に、傍にいてあげられる人がいない。他の人達は、誰かが傍にいて、温かい手でこちらの手を握ってくれる人がいるだろう。心配ないから。大丈夫だから。私が傍にいるから。そうやって、母のように慈しんでくれる人がいるだろう。
だけどギーグは?ギーグが苦しんでいる時に、誰が彼の傍にいるの?彼は一人だ。部下はいても、信頼している者はいない。たぶん、ぼく以外に。
「おいネス、どこにいくんだ!」
ジェフの声を無視して、ぼくはふらふらと足を踏み出した。まるで夢遊病者のような足取りで、ギーグの傍に近づく。
知っている、知っている。ぼくはギーグを知っている。出会っている、どこかで。過去じゃない。だからマジカントにギーグはいなかった。過去に出会っていないのならば、未来だ。きっと未来のぼくが、ギーグと出会っている。自由に時間を行き来することのできるギーグだ。ありえない話ではない。
先ほど一瞬だけぼくの頭に浮かんだ光景は、きっと未来の光景なのだろう。未来のぼくとギーグなのだ。いったいどういう経緯で、あんなふうに手を握り合ったのかはわからない。しかしはっきりとわかるのは、そこには敵意も殺意もなかったということ。
「ネスサン・・・クルシイ・・・テヲ・・・」
両手を差し出す。真黒な闇が手を握るように、ぼくの両手を包み込んだ。冷たい。生きているものとは思えないほど、冷たい手。ぼくはこの体温を知っている。
急に悲しくなって、ぼくは涙を流した。断片的に、ぼくの中にぼくの知らない光景が流れ込んでくる。これはギーグの記憶だ。髪の長い、青い肌をした男の人と、野球帽をかぶった15歳前後の少年。ギーグと、未来のぼくなのだろう。
「アァ・・・ネスサン・・・アタタカイネスサン・・・ワタシノ・・・トモダチ」
次々とギーグの記憶がぼくの中に流れ込んでくる。それに比例して、ぼくの涙も大量に溢れてきた。
ぼくとギーグが一緒にいる。一緒に会話をしている。一緒に街を歩いている。一緒にヨーヨーで遊んでいる。一緒に図書館で本を読んでいる。一緒に眠っている。一緒にママの手作りハンバーグを食べている。そして、手を繋いでいた。まるで、本当に仲の良い友達のように…。
きっと、そうなのだ。未来のぼく達は、友達なのだ。やはりどういう経緯で友達になったのかはわからない。でも、確かにお互いに信頼し合っているのがわかる。
「ネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサンネスサン」
壊れたテープレコーダーのように、ギーグはぼくの名前を呼び続ける。そしてぼくの涙も流れ続けた。
どうしてぼくときみは、倒さなければいけない敵同士としてこの場に立っているんだろうね。きみの記憶の中のぼく達は、こんなにも仲良しなのに。どこできみは道を誤ってしまったの?それとも、最初から決まっていたことなの?ちえのリンゴに未来を予言されなかったら、ぼく達はずっと友達のままでいられたのだろうか。
自身の力が大きくなりすぎて、自我を保っていられなくなったきみ。きっと地球を侵略したいというその欲望は、自我の崩壊からきたんだろう。そして、まだ今よりも自我が残っている時に出会ったのが、ぼくだったんだね。自我が完全に崩壊してもぼくのことを覚えているくらい、ぼくのことが好きだったんだね。
今やっと、なぜ最初からきみが自身でぼくの命を狙いにこなかったのかがわかったよ。直接手を下したくなかったんだ。だから次々と部下を送り込んできた。でもごめんね、それはぼくを心と体とともに強くすることしかできなかった。
ぼく達は未来で出会わなければよかったのだろうか。そうすれば、互いに悲しまずにすんだのだろうか。でもぼくは、幸せそうな未来のぼくときみを否定することができない。
「ネスサン・・・クルシイ・・・カナシイ・・・タスケテ」
ぼくの両手を包み込んでいた闇がうごめく。闇がぼくの腕を登ってきた。ぼくの体を包み込もうとしている。背後で名前を呼ばれた。仲間がぼくの心配をしている。
わかってる。ぼくたちのどちらかが滅びなければいけないのは。そして、滅びるのはギーグ、きみの方だ。
ポーラの祈りのせいで苦しいだろう?ぼくを殺さなければと思って、悲しいだろう?だから助けてくれとぼくに言うのだろう?大丈夫、今楽にしてあげるよ。息も絶え絶えに喘いでいるきみを、せめてぼくが…。
「さよならだよ、ギーグ」
ぼくはありったけの念動波を、直接ギーグに流し込んだ。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!」
絶叫が上がる。闇がのたうつ。それはだんだんと縮んでいった。
涙が止まらない。死ぬ、ぼくの親友が死ぬ。ぼくの手によって、死ぬ。
「ネスサン・・・ネスサン・・・アリガトウ」
最後に一言そう言うと、ギーグは消滅した。
これで未来は変わるだろう。ぼくとギーグが将来、出会うことはなくなった。それでも、きみがぼくに残してくれた記憶は忘れない。ぼくはいつまでも、ぼくときみが親友同士だったということを忘れないだろう。
END
未来で出会ってるネスと擬人化ギーグを書いてみたいわけですが、でもそこまで行くともうMOTHER2関係なくね?という感じになってくるわけで。
そしてこの二人はホモじゃないです。あくまでも友達です。
そんなわけでゲフェパシ前提のレイ+ゲフェです。
いろいろ突っ込んでたら負けかなぁ、と思います。ネタをネタとして楽しめる方のみお読みください。
戦が今日になってようやく終わりを迎えた。今回は比較的小さな戦だったので、あまり疲労は感じない。しかし時間が時間だったため、フランドルに戻るのは翌日の朝ということになった。
宿営地で仲間の軍人達が酒を片手に勝利を喜びあっている。俺も程よく酔いが回って、良い気分になっていた。しかし不意に宿営地から逃げるようにして遠ざかっていく黒い影を見つけて、頭が冴えてくる。こんな時間に出歩くとは、なんの用だろうか。それとも、捕虜が逃げ出したのか。俺は確かめるために、一人で黒い影を追った。
「おい、なにをしている」
軍で使用している馬の手綱に手を掛けていたその人物に声をかけた。相手は一瞬動きを止める。闇に紛れるようにして真黒なローブを着ていた。おまけに目深にフードをかぶっているものだから顔がわからない。やはり捕虜が逃げ出そうとしていたのだろうか。しかしそれにしては、俺に声をかけられても相手は動揺など微塵もしていなかった。
「レイヨンか・・・。いいのか?大好きなアルヴァレス将軍の傍にいなくて」
皮肉を孕んだ声には、聞き覚えがあった。男はフードを脱ぐ。月明かりの下にその顔が明らかになった。そこにいたのは、やはりゲーフェンバウアーだった。
いつもどこか人を遠ざけるような、ギスギスとした雰囲気を発している男。プロイツェンの捕虜ということも手伝って、あまり彼に関わろうとする人間はいなかった。関わろうとしても、無視をされるか手酷く拒絶される。なので軍の中では彼を良く思ってない奴が多かった。
たぶんゲーフェンバウアーは極度の人見知りなんだろうな、と思う。接してみれば、少し冷たいところはあるが案外普通の男だった。アルヴァレス将軍を嫌っている、ということを除けば。
「そういうお前こそ、馬になんか乗ってどこに行こうとしてたんだよ。明日にはフランドルに戻るんだぞ」
「そう騒ぐな。夜明けになるころには戻ってくる。誰も逃げようなんてしないさ」
自嘲するように唇を歪める。そんなふうに言われると、彼の出身国のことを思わずにはいられない。
プロイツェン。アルヴァレス将軍が率いる軍隊が殲滅させた国。俺はその頃、将軍の軍隊にはいなかったが、かなり徹底的に国を滅ぼしたと聞く。その時の捕虜が、このゲーフェンバウアー。おそらく彼が将軍を嫌っているのも、そのことがあったせいだろう。ならばなぜ、他の国に亡命もせずにわざわざこのフランドルにいるのだろうか。彼の考えは俺にはわからない。
「この国の近くに知り合いでもいるのか?」
「まぁ、な」
いくらそれほど疲労の残らない戦だったとはいえ、そんな今すぐにでも会いたいという相手は誰だろうか。というよりも、ゲーフェンバウアーにそんな相手がいるということ自体が驚きだった。
「なんだ、女か?」
純粋な好奇心と、そしてからかいを含めて尋ねてみる。すると、ゲーフェンバウアーはわずかに表情を和らげて笑った。いつものような誰かを小馬鹿にするような笑い方ではなく、相手を心底から想っている笑みだった。彼の無表情と、不機嫌そうな表情と、相手を小馬鹿にするような表情以外を見るのは初めてだったので、俺は驚いてしまう。
「少し違うが・・・そんなところだ」
そう言う頃には、いつものなにを考えているのかわからない無表情に戻っていた。あまりのギャップに、まさか俺は夢でも見ていたのではないかと思ってしまう。
ゲーフェンバウアーが会いに行くという人物は、いったいどんな人なのだろうか。彼にあんな表情をさせるほど親しい人間。野暮なのは承知で、聞きたくなってしまう。
「その人、どんな奴なんだ?」
俺の問いに、彼はわずかな間口を閉ざした。言うかどうか迷っているのだろう。ややあって、再び口を開く。
「そんな貴様の思っているような奴ではない。ただのセックスフレンドだ」
「セッ・・・?!」
顔が引きつったのが自分でもわかる。そんな俺を見て、ゲーフェンバウアーはおかしげに唇を歪めて笑った。
まさか彼にそんな相手がいるとは思っていなかった。しかし、本当にただのセックスフレンドだろうかと思う。ただ体だけの関係の相手が、ゲーフェンバウアーにあんな表情をさせられるとは思えない。口ではああ言っておきながらも、おそらく彼にとっては大切な人間なのだろう。
「ゲーフェンバウアーの方からわざわざ行くんだから、よっぽどいい女なんだろうな」
「女?」
俺の言葉に、ゲーフェンバウアーは怪訝そうにそう呟いた後、なにがおかしいのか喉を鳴らして笑い始める。本当におかしそうに笑うので、俺はなにか間違ったことを言ってしまっただろうかと思った。
ひとしきり笑っていた彼は、やがて真実を口にする。
「俺が会いに行くのは女なんかじゃない。パーシファルという名のブリタニア軍人・・・男だ」
彼の告白に、再び俺は驚く。それは先ほどの比などではない。いったいどこから突っ込めばいいのだ。男で、しかもセックスフレンドって、つまりゲーフェンバウアーはそういう人間なのか。いや、それはまだいい。そんなの人の自由だ。問題は、相手の男がブリタニアの軍人だということだ。
ゲーフェンバウアーもわかっていないわけではないだろう。フランドルとブリタニアが、今どのような状況なのかを。文字通り一触即発、いつ戦が始まってもおかしくはない状況だ。そんな国の軍人に会いに行くなど、正気の沙汰ではない。まさか、フランドルの情報を漏らしているのではないだろうか。もともとゲーフェンバウアーはフランドルの人間ではないどころか、フランドルに恨みを持っていてもおかしくはない立場にいる。考えられない話ではない。
俺は思わず、ゲーフェンバウアーの胸元に掴みかかった。
「貴様っ・・・まさかブリタニアのスパイなんじゃないだろうな!」
俺の瞳をゲーフェンバウアーが冷めた瞳で覗いてくる。いや、よく見れば冷めてなんかいない。その瞳の億には、たぎるほどの苛つきや怒り、そして憎しみがあった。それがどろどろに混ぜ合わされて、こんな冷めたように見えるのだ。
どうやったらそんな目ができるのだと、ぞっとしてしまう。
「貴様の思う通りに解釈をするといい。だが一つ言わせてもらえば、勝手に戦争を始めたのはこのフランドルだ。俺達は戦争が始まる前から、互いの国を行き来していた。今まで通りのことをしていてなにが悪い?このくだらない戦争のために会えなくなるなど、馬鹿馬鹿しいではないか・・・!」
胸元を掴んでいる俺の手を振り払いながら、噛みつくようにして言う。その瞳は獰猛な獣のようだ。彼がこんなにも感情をむき出しにして声を荒げたのは、俺の知る限りでは初めてだった。
戦争がくだらないなんて、軍人にあるまじき言葉だ。というよりも、言ってはいけない。どんなに戦争がくだらなく、そして虚しいものとはわかっていても、俺達軍人は上からの命令は絶対だ。俺達は国を、そして人間を侵略し、時には滅ぼして金をもらっている。それをくだらないというのは、滅ぼしてきた国や人間を否定してるようなものだ。
でもきっと、ゲーフェンバウアーは本当にそれらのものをくだらないと思っているのだろう。彼が会いに行くという男の前では、なにもかもが霞むのだろう。祖国を滅ぼされた彼には、もうその男しか残っていないのだから。
「どうする?」
一言尋ねられ、俺は思考をゲーフェンバウアーに戻す。簡潔すぎて、質問の意味がわからなかった。そんな俺に、彼はもう一度、どうする、と尋ねる。
「俺がブリタニアの軍人に会いに行っているというのを、報告するか?アルベルジュに」
最後の一言は低く低く、しかしはっきりとした声で言う。そこにあらん限りの憎悪が込められているのに気が付いて、俺は背に冷たいものが走ったのを感じた。
「俺は・・・」
彼の目を見ていられなくて、俺は顔を背ける。そしてどうするべきか考えた。普通に考えれば、報告すべきだ。まさかゲーフェンバウアーがブリタニアのスパイとは思わないが、それでも少しでも不安の種は解消しておくべきだ。
だが、できない、と思った。俺にはそんなことできない。戦友や家族、そして祖国を失ったゲーフェンバウアーの大切なものを、これ以上奪うことはできなかった。
「俺は、言わない。黙ってる・・・」
その言葉が予想外だったのか、ゲーフェンバウアーはわずかに驚いたような顔をした。だがすぐに、あの人を小馬鹿にするような笑みを浮かべる。
「甘いな、レイヨン。軍人として、あまりにも甘い。人のことを庇っているようじゃ、そのうち足元を掬われるぞ」
言いながら、彼は馬に跨った。俺を見下ろしながら、言葉を続ける。
「せいぜい、地獄を見ないよう用心するんだな」
せっかく彼のためを思って黙っていると言ったのに、ゲーフェンバウアーのあまりの言いように思わずムッとしてしまった。
「そういうお前はどうなんだよ」
戦争はどんどん過激になってきている。そのうち必ず、フランドルとブリタニアの間で戦が始まるだろう。そうすれば、いつまでもこうやってこっそりと国境を越えることなんてできなくなるだろうし、その前に軍人同士が密会をしているというのがどちらかの国にばれたら大事だ。重い罰が待っている。最悪、死刑だろう。
「俺か?」
目に見えて、ゲーフェンバウアーの顔色が真青になってゆく。無意識なのか、体が小刻みに震えていた。それを抑えるように、彼は自分の肩を抱く。
「地獄ならもう、貴様の敬愛するアルベルジュに見せられた」
あの時以上の地獄など、存在しない。
震える声で、ゲーフェンバウアーが言った。その震えは恐怖からなのか、それとも怒りからなのか、俺には判断することができなかった。
俺が言葉を失っていると、彼は馬の腹を蹴った。疾風のように馬は駆け出し、闇に紛れて姿は見えなくなる。俺はいつまでも、その場に唖然と立ち尽くした。
その後、アルヴァレス将軍はブリタニアに亡命し、そしてゲーフェンバウアーに殺された。思えば、彼はそのためだけにフランドルに残っていたのではないかと思う。ずっとアルヴァレス将軍を殺す機会をうかがっていたのだ。
そしてそのゲーフェンバウアーも、パーシファルに殺された。ゲーフェンバウアーはなにを思って、愛する男に殺されたのだろう。そしてパーシファルはなにを思って、愛する男を殺したのだろう。当然、そんなことは知る由もない。
ただ思うのは、アルヴァレス将軍もゲーフェンバウアーもパーシファルも、他に道がなかったのだろうか。ゲーフェンバウアーの言った通り、俺は確かに一度地獄を見た。だが今はこうやって、愛しい星を残った腕に抱いている。人を斬ったことのない腕で。
彼らもまた、どこかに愛しい者をその腕に抱きしめられる道があったのではないだろうか。それなのに、どうしてこんなに悲惨な結果になってしまったのだろう。道を選べないほど、ゲーフェンバウアーのアルヴァレス将軍に対する憎しみが強かったのだろうか。今となっては、想像することしかできない。
せめて、と思う。せめて長きに渡る戦争を生き残った者達に幸多からんことを、と。これ以上、彼らのような人間が増えないで欲しい。俺は空に一際輝く星を見上げながら、強くそう願った。
END
すみませんリヴリーです。擬人化です。うちのムシチョウと私のアイドル、オオムシチョウ様です。
うちのムシチョウは♂でプラテリなし。白に近い灰色の体。擬人化すると見た目は20代半ばだけど実際は40代半ばという不思議ちゃん。ちなみにサブです。
メインはヴォルグです。ただいま目に悪いピンク色に色変え中。
いろいろマイ設定がひしめいてますが、さらっと流すように読んでやってください。ただムシチョウへの愛が爆発しただけのものなので。ムシチョウ可愛いよ、マジで可愛いよ。
明らかに他の部屋とは雰囲気の違う場所だった。壁や敷かれているタイルのせいで、部屋全体に赤みがかっている。そのタイルの割れ目からは、やはりどこか赤みがかった草花が生えてきていた。
天井からは数多くのフラスコがぶら下がっている。その中には赤紫色の液体と、まだまだ未熟な生命が入れられている。この部屋を訪れた男も、何十年も前はこのフラスコの中に入れられていた。
部屋の隅にある巨大な天蓋付きベッドに近づく。そこには一人の初老の男が眠っていた。いつも頭に頂いている王冠は、流石に今はかぶっていない。
彼は一日の大半の時間を睡眠に費やしている。眠るのが好きなのか、それとももうそうしないと体がもたないのかは、長い付き合いだったが未だに男は図りかねていた。
規則的な寝息を立てている老人に、男は手を伸ばす。しかしその手が相手に触れることはなかった。瞬間、布団の下からふさふさとした毛で覆われた、太く長い尻尾が伸びてきて、男の手首をとらえた。
「眠っている者を襲うように教えた覚えはないけど」
からかいを含んだ声だった。見れば老人は楽しげに目を細め、男を見上げている。起きていたらしい。いったいいつから起きていたのだろうか。
「人聞きの悪いことを言うな。それに、俺はお前から何一つ教わった覚えはない」
「あれ、そうだっけ」
くすくすと喉を鳴らして笑う。とたんに、実際の年齢よりも幼く見えた。というよりも、そもそも男は彼の正確な年齢を知らない。そして名前も知らない。ただずっと前からこの城に住んでいて、錬金術でムシチョウを生み出している。この世界の全てのムシチョウ種は彼によって生み出されていた。もちろん男も例外ではない。
GLL城にある火ノ間。通称オオムシチョウノ間。そして彼が、オオムシチョウと呼ばれている全てのムシチョウの父であり王。もう何百年も姿を変えずに、そこに在り続けているのではないかという噂もあった。それだけ、謎の多いリヴリーだ。
「それで?眠っていた僕をわざわざ起こすほどの用事って、なにかな」
男の手を解放してやり、老人は上半身だけを起こす。やはり目を細めたまま、男を見た。その目は好奇心に輝いている。
「子供が父親に会いに来るのに理由がいるのか?」
言いながら唇を歪め、人の悪そうな笑みを浮かべた。昔はあんなに可愛かったのに、今じゃこんなにすれちゃって、と老人は内心で思う。
男はベッドの縁に膝を乗せると、片手をついて体を支えた。そしてもう片方の腕を伸ばし、老人の顎をとる。ゆっくりと、顔を近づけていった。しかし老人は動じない。男のこの手の行動には慣れている。
「意中のお子様には手を出さないのに、僕になんかにちょっかいを出してていいのかい?」
もう少しで互いの唇が触れ合うというところで、男の動きがぴたりと止まる。目を丸くして、驚いたような顔をしていた。いつでもどこか余裕のある雰囲気を持っているため、男がこんな表情をするのは珍しい。思わず、老人の笑みが深くなる。
「なんて言ったっけ?君の好きなお子様。確か黒バナナピールの・・・」
「ちょっと待て」
いつもより早口に男が制止をかける。体を離し、探るような目で相手を見た。流石にもうあからさまに驚いたような表情はしていないが、微妙に顔が引きつっている。
「俺はそんな話などしたことはないはずだが?」
「僕のところにくる物好きは君だけじゃない、ってことだよ」
男の脳裏に、二人の女性が浮かぶ。男が居候している島の二大権力者。まさか彼女達が話したのか。女三人寄ればかしましいというが、彼女らは一人でも騒がしい。二人揃えばさぞかし煩いことだろう。
「意中のお子様は振り向いてくれないのに、ムシクイの双子ちゃんにはモテモテなんだって?」
おかしくておかしくて仕方がない、という様子で老人が言う。男は思わず奥歯を噛みしめた。
あの女、余計なことを…。
内心で蜘蛛女とヴォルグ女に呪詛を吐く。一番知られたくない相手に、自分の弱みを握られてしまった。普段からこの老人には敵わないでいたというのに。
「ちょっかい出すだけじゃなくて、ちゃんと好きだ、って伝えてあげたら?」
「煩い。ちょっと黙ってろ」
次から次へと精神攻撃を繰り出す老人を黙らせるため、男は改めて相手に顔を近づける。今度こそ、口付けをするはずだった。
「甘いよ、ジャリっ子」
老人の尻尾が伸びてきて、男の額を軽く小突く。その瞬間、ふっと男の体が変化した。人間の姿から、体が長い毛で覆われた元のムシチョウの姿へ戻ってしまう。
「なっ・・・?」
予想外の出来事に、男は声を上げる。普通のリヴリーとは違うとは思っていたが、まさかこんなこともできるとは思っていなかった。
男が目を白黒させていると、老人はチャイムの魔法を使う。すると次の瞬間には、この城で老人に仕えているミニリヴリー達が大勢現れた。なぜみんながみんな幼児の姿をしているのかは、GLL城七大不思議の一つだ。
「およびですかぁ、きんぐ」
一人が間延びした口調で言うと、他のミニリヴリー達も同じ台詞を同じ声で、口調で、繰り返す。
「お客様がお帰りだよ。玄関まで運んでおあげ」
「いえす、きんぐ」
ミニリヴリー達がみんなで元の姿に戻った男を持ち上げる。見かけによらず豪腕だ。頭上で支えながら、ミニリヴリー達は玄関に男を運ぶべく歩き出した。
「え、ちょっと待て・・・待て!」
慌てて男が老人を見る。しかし老人はベッドの上で笑いながら、ゆるゆるとこちらに手を振っているだけだった。
「城の外に出たらまた人型に戻るから安心して。でも一歩でもこの城に入ったら、またその姿になるよ」
男が大人やモンスターにはともかく、小さな子供には手を上げないということを知っている。というよりも、普段接しないので接し方がわからないだけなのだが。ともかく、男がミニリヴリー達を傷つけることはない。だから、たぶんあのまま運ばれていくのだろう。
GLL城は一般のリヴリーに開放している。入り組んだ場所にあるこの火ノ間まで来る者は少なくとも、普段からかなりの数のリヴリーが城を出入りしていた。そして男は目立つのを嫌い、普段はあまり出歩かない。子供に運ばれているムシチョウというのはさぞかし目立つだろうなぁ、と老人は笑った。これだけこの城に来たのを後悔させておけば、しばらくはちょっかいを出しに来ないだろう。
「今度、彼女達が遊びに来たらお礼を言わなくちゃね」
面白いものを見せてもらえたから。
喉を鳴らして笑いながら立ち上がり、ベッドサイドの丸テーブルに置いていた王冠をかぶる。そして、遊んだことだしそろそろ仕事をしようと、新たな命を生み出すべく天井からぶら下げられているフラスコに近づいた。
END
オオムシチョウは私のアイドルです。いつかリヴでオオムシチョウが目覚めるイベントとかやって欲しい。
リヴはリアルにいたら絶対可愛いだろ、っていうの多いですよね。もふもふっ子が多くて幸せです。
プリミティブシリーズが好きです。もうみんな可愛すぎる。Pパキケがもふっもふで好きです。普通のパキケはあんまり好きじゃないけどPパキケは大好きなんだ・・・!
Pパキケ×Pブラドを倍プッシュ。
Pムシチョウは出るんでしょうか。楽しみにしてるんですが。Pシリーズの特徴はなんといっても野性味ある体ともふもふ。
ムシチョウが今以上にかっこよくなってもふもふになるわけだ。物凄く楽しみです。
全てを理解したわけじゃあないので、それが許せない方は読まない方がいいかと。
自分の中にあるモヤモヤをなんとかしたかったんです。
深く暗い闇の中、一人の男が椅子に座ってうなだれている。両手で顔を覆い、孤独と絶望から逃げ出そうとしている。しかし私は知っているの。全てを投げ出してこの状況から逃れたいと願いながらも、最終的に全てを身に受け、更に絶望を繰り返すのは彼自身が望んだことなのだと。
私は何度、その光景を見てきただろう。何度、彼が狂っていくのを見てきただろう。私はこんなことを望んではいなかった。彼を救うために私は彼に肉体と知性を与えたはずなのだ。しかし結界、彼を苦しめることになっている。それが酷く苦しい。
「友よ・・・」
彼と同じ声、同じ姿で呼びかける。元来、私には特定の姿というものがない。だから今は彼の姿を借りている。
私の声に彼はぴくりとも反応を示さない。しかし届いているということは知っている。たとえ何万kmと離れていても、私達は会話ができる。私は彼で、彼は私だから。しかしいつまで経っても、『本当の』彼には言葉が届かない。
「エドモン・ダンテス」
私は彼の前に膝を付き、もう一度呼んだ。顔を覆っている手を取り、彼を見上げる。
泣きそうな顔をしていた。泣く手前の、それでも涙を流すのを懸命にこらえている子供のよう。しかし彼は心の中ではいつも泣いている。それを思うと私は悲しい。
彼を抱きしめたい衝動にかられる。強く腕に抱いて、なにをそんなに苦しみ、悲しむ必要があるのだと言ってやりたい。自分の心と体を剃り減らしてまで復讐に興じる意味がどこにある。どうして己の中で消化できないほどの憎しみを抱えている。そんなのは辛いだけだろう。悲しいだけだろう。
そんなものは早く捨て去ってしまえばいい。全てを忘れて、新しい人生を、誰もが羨む輝かしい人生を歩めばいい。彼にはそれだけの容姿、金、知恵、そして時間がある。私が与えられるものは全て与えた。あと私にできることは、彼の過去を捨てて封印することだけだ。そしてそれが一番大事なことなのに、なぜ受け入れない。なぜ私を拒む。
「私の名を呼べ、エドモン」
抱きしめるかわりに、その手を強く握った。冷たい、人間のものではない体温。誰も彼を温めることはできない。元々体温という概念のない私も冷やされていくようだった。
「私を受け入れろ。私と一つになれば、苦しみから解放される」
彼はもう十分すぎるほど苦しんだ。だから救われなければならない。
「私の名を呼べ。私を求めろ。私はお前のためなら、なんでもしてやれる」
哀願するように私は言葉をつむいだ。
私の愛するエドモン。どうしてこれ以上、お前がただ苦しんでいるのを見ていられるだろうか。自分の無力さに、何度嘆いただろうか。こんな不毛なことはもう、お互い終わりにしよう。だから言ってほしい。私の名を呼んでほしい。ただ一言、巖窟王、と。
私の言葉に、彼は小さく寂しげに微笑んだ。そして握っている私の手を振りほどくと、今度は私の顎をとらえる。ゆっくりと彼の顔が近づいてきた。そのまま私が言葉をつむぐのをさえぎるように、口付けをしてくる。
……やはり私を拒むのだな、エドモン。
「友よ、私は復讐の鬼だ。たとえ神ですら、私の歩みは止めることはできない」
言ってから、彼は立ち上がる。私の横を通り過ぎて、この暗い部屋から出ていってしまった。
いったい何百、何千、復讐を繰り返せばお前の魂は安らぐのだ。それほどまでに、お前の心は闇に覆われているのか。ならば、いいだろう。お前が狂ったように復讐を繰り返すのなら、私は何度教えられても理解できない子供のようにお前を待ち続けよう。お前の名前を呼び続けよう。私の名前をたった一度でも呼んでくれるのなら、何万回でも、何憶回でも呼ぼう。だから覚えいてほしい。世界中の人間がお前のことを忘れてしまっても、私はお前を、エドモン・ダンテスを決して忘れはしないことを。
お前は孤独なのではなく、私がいつも傍にいるのだということに気が付いてくれたら、私は幸せだ。
END
巖窟王って伯爵のお母さんですよね。
今の伯爵を作ったのは巖窟王だし。
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ジョジョラーでケモナーでおっさん&おじいちゃんスキーでSHK国民。
最近はfkmt作品に手を出してます。
乙一作品と三原ミツカズ作品と藤田和日郎作品も好き。
節操なしの浮気性です。