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おっさんと人外を中心によろずっぽく。凄くフリーダム。
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ぎんぎつねの連載を望みつつまこ銀を。
銀可愛いよ、銀。
 

 

 


 無駄に長い、石で作られた階段を登りきると、そこには中型犬ほどの大きさの見慣れない生き物がお社の前で前脚と後ろ脚をだらんと横にだして寝そべっていた。ぐっすりと眠っているのか、遠目から見てる分にはこちらに気が付きそうもない。
 見たところ首輪もしていないようだし、野良犬だろうかと思いながら近づく。それでもなお起きない犬の前にしゃがみこみ、顔を覗き込んだ。左目の上の辺りに見慣れた傷跡を見つけ、私はようやくこの生き物が犬ではないと知る。いつも獣と人を掛け合わせたような姿をしているから気が付かなかった。この狐は銀太郎だ。きっとひがな一日やることもないため陽なたぼっこをしていたら寝入ってしまったのだろう。
「こんなお社の真ん前に寝て、誰かに踏まれたらどうするんだろうね」
 まぁ平日にはほとんど人の来ることのないような神社だから大丈夫なんだろうけど。そもそも神の使いである彼が踏まれる、なんてことがあるのだろうか。それは肉体がある、ということになる。
 私は手を伸ばして銀太郎の腹を撫でた。
「もこもこだー」
 思わず顔に笑みが浮かんでしまう。
 手の平からは確かに柔らかい毛皮の感触と、彼の少し高めな体温を感じた。ということはやはり銀太郎には肉体があるのだろうか。しかしこれはただたんに私が手触りだとか体温だとかを感じている、と思い込んでいるだけという可能性もある。なぜなら銀太郎の姿が見えない父は、私が銀太郎の体に父の手を触れさせてやってもなにも感じない。確かにそこには銀太郎がいるのに、父はそれが認識できないのだ。だとすれば、私が銀太郎に触れたりだとか体温を感じたりだとかいうのは、目で見た情報が直接脳に影響をもたらしている可能性が高い。
 なんて、そんなことを考えたところで結局はどうでもいいのだが。私にとって大事なのは、確かに銀太郎がこの世に存在しているということだ。
「銀、起きてー、ぎーん」
 腹を撫でたまま呼び掛ける。するとぴくぴくと大きな耳がわずかに動いた。しばらくそれを観察していると、やがてゆっくりと目蓋が開かれる。意思の強そうな瞳に私の姿が写りこんだ。
「おはよう、銀。よく眠れた?」
「まこと、お前学校は終わったのかよ」
「とっくにね。だから帰ってきたんじゃない。それよりも、動物としてこんなに誰かが近づいても起きない、っていうのはどうかと思うよ」
「なっ!神使である俺を動物扱いすんなよ!」
 体を起こしながらこちらを睨み付けてくる。しかしいつもの姿ではなく狐の姿で怒鳴られてもまったく恐くはない。むしろ可愛いと思う。といっても、普段の姿も十分に可愛いが。しかしそれを言うと銀太郎は(単なる照れ隠しなんだろうけど)怒ってしまうので、口には出さない。
「だって今は動物の姿してるじゃない」
 わしわしと頭を撫で回してやる。しかしそれも長くは続かなかった。急に銀太郎がいつもの獣と人を掛け合わせたような姿に戻ってしまい、私はしゃがんだ姿勢のまま彼を見上げる。
「もうちょっと撫でていたかったのに」
「お前、俺のことペットかなにかと勘違いしてるだろ」
「いえいえ、まさか神使サマに対してそんなことないですよ」
「白々しい」
 立ち上がりながら言う私に銀太郎は鼻を鳴らしながら言った。実際のところ、別にペットとまでは思っていないし、彼が神掛かり的な力を持っていて敬うべき存在だ、というのはわかっている。だがどうしても先程みたいに無防備に眠っていたりだとか、ミカンを人間のように美味しそうにほうばっているところだとかを見ると、なんとなく私達に近いような存在に思えてしまう。そしてなにより彼を見ていると和んでしまうのだ。銀太郎に威厳というものが足りないんじゃないかと思ったが、やはり言うと怒られてしまいそうなので私は代わりに質問をする。
「いつも天気がいいとお昼寝してるの?というか、私が学校に行ってる間ってなにしてるの?」
 私の言葉に、銀太郎は少し考えるように腕を組んだ。
「大抵は一人で寝てるかだな。たまにお前の親父が付けてるテレビ見てたり」
 神の使いがお昼寝。そしてテレビ。いったいどこの主婦だ。
「俺はこの神社の敷地から出ねぇし、お前以外に姿は見えねぇから暇でしょうがない」
 一度言葉を区切り、銀太郎は私の目を見た。そしてすぐに顔をそらしてしまう。毛皮があるからそんなことなんてわかるはずもないのだが、なんとなく私には銀太郎の顔が赤くなっているように見えた。
「だから、まことが学校から帰ってくるの結構楽しみにしてるんだぜ?」
 ……母さん、この日ほどあなたの血を引いているのに感謝したことはありません。銀太郎の姿が見える子に産んでくれてありがとう。
 私はもう何年も前に死んでしまった母に感謝しながら、銀太郎に抱きついてその豊満な胸の毛に顔をうずめた。
「なんでそんなに可愛いことを言うかな、もう!」
「可愛いって言うな!つーか抱きつくな!」
 銀太郎が私の体を引き離そうとしてくるので、私はますます強く彼に抱きついた。呼吸ができなくなるんじゃないかというくらい深く胸の毛に顔をうずめる。
 互いの服でへだてていても強く銀太郎の体温を感じた。照れているせいかそれはいつもよりも高く感じる。確かに今、銀太郎は私の腕の中にいるのだと実感した。それを幸福に思う。私はもう、何年も一緒にこの温もりと過ごしてきた。おかしな話だが、私は母に抱かれるよりもはるかに多く銀太郎に抱かれている。まだ幼い頃、母がいない寂しさで泣いていた私を抱きしめて安心させてくれたのは彼だ。私はいつも最後は泣き疲れて、銀太郎に抱かれたまま眠っていた。そんなことを思い出して、私はとたんに懐かしくなる。
「まこと、いい加減に・・・」
「銀太郎!」
 彼の言葉をさえぎって、私は抱きついたままうずめていた顔を上げた。いきなり私が大きな声を上げたため、彼は驚いたような顔をする。
「な、なんだよ」
「一緒にお昼寝しようよ、久しぶりにさ」
「はぁ?」
 私の言葉を予想していなかったのか、銀太郎は間抜けな声を上げた。
「駄目かな」
「駄目っつーか、さっきまで寝てたから眠くねぇし」
「じゃあ私だけ寝るから、その間そばにいてよ」
「なんで俺が・・・」
「ねぇ、お願い」
 なにか言おうとまた彼が口を開きかけたが、私と目が合ってそのまましばらく固まる。私のおねだり攻撃をくらうといい。そう思いながら、私はじっと銀太郎を見つめた。
 やがて銀太郎は私から顔をそらして口を開く。
「き、今日だけだからな」
「うん、ありがとう、銀」
 私はまた可愛いと言ってしまいそうになるのをこらえながら、笑顔で言った。
 抱きついていたのを解放してから、私は銀太郎の人間とは若干違う構造をした手を握る。やはりその手は暖かい。その温もりを感じながら、私は彼の手を引いた。
「家に行こう。お昼寝が終わったらミカンを食べようね」
「あぁ」
 ミカンに反応したのか、彼の大きな尻尾が左右にゆれる。そしてそれと同時に私の手を握り返してくるのが伝わった。

 

END




作者の落合さんってほかに漫画を描いてないんでしょうか。
なんかどこかで見たことのある絵柄なんですが・・・気のせいかね。

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まったく甘くないバレンタイン話です。
なんでジョジョを書かなかったんだろうと自分でも不思議に思いつつ久しぶりに神森。
神森は数ヶ月に一度書きたくなるから不思議です。

 


 目の前に黒っぽい色をした薄い長方形のものを突き出され、僕は一瞬また手帳か、と思った。しかしよく見るとそれはスーパーやコンビニなど、どこにでも売られているようなチョコだった。パッケージにはカカオ98%と書かれている。味や食感において悪名名高いチョコだ。僕自身は食べたことがないが、以前それを口にしていた母と妹を見て、一生食べないと誓ったものでもある。
 いったい何事かと、僕はそれを突き出している森野の方を見る。今日の彼女は、なぜか朝から機嫌が悪かった。放課後となった今でも、ずいぶんと機嫌が悪そうだ。
「あげるわ」
 僕の視線に気が付いた彼女は、ぶっきらぼうに言ってから無理やり僕の手を取ってそれを握らせた。どういう風の吹き回しだろうか。彼女が僕になにかをくれるなんて。カカオ98%のチョコを買ったはいいが、結局美味しくはなかったので僕にくれたということだろうか。しかし箱は封をしたままで、開けられた痕跡はない。
 そこまで考えて、僕は今日がなんの日だか気がつく。あまりにも自分に縁のない日だったので、忘れていた。今日はいわゆるバレンタインデーというやつだ。お菓子業界が肥えるためにある日。しかしそれにしても、いや、それだからこそ、やっぱり意味がわからない。彼女はそんななにかのイベントごとに便乗するようなタイプではないのだ。
「まさかきみが世間の流れに乗るとは思わなかった」
 純粋に感心をしたふうに言うと、彼女は心外だ、とでも言うふうに眉をわずかにひそめる。
「勘違いしないで。今朝、家を出る前に母に言われたのよ。ちゃんとあの男の子にチョコあげるのよ、って。そんなんじゃないって言ってるのに、なにか勘違いしてるみたいで困るわ」
「僕もカカオ98%とか困るから」
 一度だけ会ったことのある森野の母親を思い出す。彼女とは違い、ハツラツとした印象のある女の人だった。そしてなぜか、僕が森野の彼氏だと勘違いしている。
 しかしこれでやっと朝から森野の機嫌が悪い理由がわかった。おそらく朝にしつこく僕にチョコを渡すように言われたのだろう。明るい母親と、陰のある森野が言い合っている姿が目に浮かぶ。なんとも異様な光景だ。
 無理やり持たされたチョコを見れば、箱にコンビニのシールが貼ってあるままだった。この学校の前にあるコンビニでこれを一つだけ買ってから学校に来たのだろう。バレンタインフェアでどこか浮き足立っている店内で、いったいどんな顔をしてこんな凶悪なチョコを買ってきたのだろうか。パッケージをよく見れば、甘いものと一緒に食べてください、と書いてある。どうやって食べろと…?
「無理してくれなくてもよかったのに」
「無理なんかしてないわ。ただの八つ当たりよ」
「返品は?」
「不可」
 即答されてしまう。どう考えたって、一番の被害者は僕だ。森野に貰ってしまった以上、捨ててしまうわけにもいかない。そう思ってしまっている僕に、彼女は気が付いているのだろうか。まぁ、彼女に限ってそんなわけはないのだけれど。
「あなたにそれを渡したら、少しは気分がすっきりしたわ」
「・・・役に立てて光栄だよ、八つ当たりのね」
「学校を出たらコンビニに寄って甘いチョコを買っていきましょう。あなたにはもうあげないけど」
「はいはい・・・」
 このあと、なぜか彼女の買い物に付き合わされた僕は、時間を持て余して普通のチョコを買った。今日という日に男である僕が、しかも女性と一緒に店内に入ってきた僕が、一人でチョコを買っているのを見て、店員は不思議そうな顔をしていた。


 どこか疲れたような気分で家に帰ると、すでに帰宅していた妹がリビングで犬と遊んでいた。
「お帰り、兄さん。森野さんからチョコはもらえた?」
 なぜか森野が僕の彼女だと思っている妹は、どこかわくわくした様子で尋ねてくる。ちなみに彼女は、昨日から大量にチョコを手作りしていた。男ではなく、友達に渡すそうだ。
「もらえたよ。カカオ98%のやつをね」
 僕が言うと、妹は昔食べたそれの味を思い出したのか、苦虫を噛み潰したような顔をする。しかしすぐに気を取り直したように笑みを浮かべた。
「流石森野さんね。兄さんが甘いもの苦手なのを知ってるんだわ」
「世の中には限度というものがある。これはどう考えても悪意のある選択だろう」
「そんなこと言っちゃって、ホントは嬉しいんでしょ」
「まさか」
 自分で買ったチョコを彼女に投げる。確かに僕は甘いものが苦手だ。だからチョコなんて普段は食べない。
「僕が買ったチョコだ。あげるよ」
「まさかバレンタインデーに兄からチョコをもらえるとは思ってなかったわ」
 空中で箱をキャッチする。妹の手の中にあるそれを、犬が興味深そうに鼻を近づけて匂いをかいでいた。あなたは食べられないのよ、と妹が犬の鼻先を押し戻す。
「兄さん」
 なに、と妹の顔を見ると、彼女はにやりとどこか意地の悪そうな顔で笑った。
「どうせ普通に甘いチョコでも、森野さんからもらったものなら食べたんでしょう?」
「・・・・・・」
 妹の言葉に返事を返さない。二階にある自室に行くために、僕は彼女に背を向けた。
「ホワイトデーの時は、ちゃんとお礼しなきゃね」
 八つ当たりで渡してきたものにお礼とはどういうことだ。僕はそう思ったが、やはりなにも言わずにリビングをあとにする。
 結局、森野からもらったカカオ98%のチョコは、何日かかけてコーヒーに溶かしながら完食した。

 

END

 


なんか知らないけど勝手に神山君は若干シスコンが入ってると思ってます。

よく考えたら神山君と森野さんって両家族公認の仲なんですよね。森野さんのお母さんと桜は二人が付き合ってると思ってるみたいだし、森野さんのおじいちゃんにいたっては神山君が森野さんの婚約者かなんかだと思ってる。
あとは本人達次第ですね。


http://www.nicovideo.jp/watch/sm1291535
これ見て泣いた。真赤な誓いとうしとらのシンクロ率が異常すぎる。
いまアニメをリメイクして放送したら絶対にうけると思うんですけどね、もちろん全編やるの。

うしとら、ガンガン行きます。うしとらはホモにしたいのにホモにするのに抵抗があるから不思議だ。
イズナ、威吹、一鬼は遠野仲良し三人組だと思います。
うまくイズナがまとめてくれてそう。
やっぱり威吹が一番年下なんでしょうか。300歳ってことはかがり達より年下なわけだし。

 

 


 遠野に戻ってきてから、ずっと考えていた。潮という人間の言っていた『好き』とはなんだろうか。好きだから誰かを助ける。好きだから誰かを信じる。そんな感情は、カラス天狗である威吹にはわからない。あるのはただ長を守らなければいけないという使命感だけだ。
 求嵐に貶められそうになった時、救ってくれたのは潮だった。あの時確かに、威吹の中で初めてともいえる感情が生まれた。使命感からではなく、自分から潮を守りたいと。しかし結局、そう感じたのはあの時だけで、今考えればどうしてそんなふうに思ったのかはわからない。
「よう、威吹。なに思い詰めたような顔してんだよ」
 声をした方を見ると、明るい表情をしたイズナがふわふわと浮遊していた。威吹と違い、いつもどこか騒がしい妖。しかし威吹は、このまったく性格の正反対な妖に対して不快に思ったことはなかった。
「・・・いつも思うのだが、イズナは自分の考えていることが読めるのか?」
「はぁ?そんなわけないだろ。なにを藪から棒に」
 先程とは一変して、心底から不思議そうな顔をする。潮もそうだがイズナもまたころころと表情が変わる。種族上、人間の近くにいることが多いからなにかしらの影響を受けているのかもしれない。彼は人間が言っているのを覚えたのか、威吹の知らない外来語を使うこともある。
「自分を見て、思い詰めたような、と言っただろう。なぜ、それがわかった?」
 尋ねると、イズナはあぁあれか、と言いながら納得したような顔をする。そしてすぐにどこか意地の悪そうな表情で笑った。どうしてここでそんな表情をするのかがわからなくて、威吹は内心で不思議に思う。
「なぁ、今、どうしてオレがこんな顔をするのかわからない、って思ったろ?」
「・・・どうしてわかった」
「簡単だっての。お前、思ってることが顔に出るからな」
 言われて、再び驚いた。今まで逆のことは散々言われてきたが、そんなふうに言われたのは初めてだった。
 イズナがおかしそうに笑い声をあげる。どうやらまた、思ってることが顔に出たようだった。笑われることに対してじわじわと不快感が込み上げてくる。彼に対してそんなふうに思うのは初めてだった。
「そんな顔すんなって。笑ったのは謝るからよ」
 ぽふ、とふさふさな尻尾でクチバシを軽く叩かれる。しかし口で言いつつも、イズナの顔はまだ笑ったままだった。
「お前さ、自分で気が付いてないかもしれねぇけど、結構表情豊かなんだぜ?」
「なに・・・?」
「ぱっと見はすっげぇ無愛想そうに見えるけど、付き合ってみると全然そんなことないよ」
 イズナ自身、初めてまだ幼かった威吹を見た時は、なんて無愛想そうな妖だろうと思った。しかしよく観察していると、その考えが間違いだったということに気が付く。そこまで露骨に思っていることは顔に出ないが、それでもふと見ると機嫌が悪そうだったり、不思議そうだったり、そして小さく笑っている時すらある。妖は互いにあまり干渉しあわないし他の妖には興味を持たないから、普通は威吹のそんな些細な変化に気が付かない。だから彼自身も自分の変化に鈍いのかもしれない。
「オレさ、威吹の笑ってる顔好きだぜ。滅多に見れねぇけど」
「好き?」
「あ、言っとくけどラブじゃなくてライクの方な」
 どこか慌てたようにイズナは付け足したが、威吹は外来語がわからなかったため適当に相槌を打つ。それよりも、先程イズナに『好き』だと言われたことの方が重要だった。
 イズナもまた、自分のことを好きだと言う。それはどういう意味を持つ言葉なのだろうか。いや、意味ぐらいは知っている。しかしどうしてそんな感情が生まれるのだろう。好きとはどんな感情なのだろう。ここ数日、威吹はそればかりを考えていたが、答えを見つけることはできないでいた。
「好き、とはいったいどのような感情だ?蒼月潮にも言われたのだが、自分にはわからない」
 威吹の問いに、イズナは腕を組んで難しそうな顔をする。真剣に考えているのがはた目からでもわかった。
「んー・・・、こればっかりは感覚的なものだから、口で言うのは難しいな」
「感覚、か」
「そう、自然にそういうふうに思うものなんだよ」
「自分はそんなふうに思ったことはないが・・・」
 自然に、なんて言われると戸惑ってしまう。まるで自分が普通ではないみたいだ。
「誰か他人にじゃなくても、なんでもいいんだよ。威吹にも好きな食い物とかあるだろ?その『好き』を何十倍もすごくした感じ」
「これといって好きな食べ物はないが」
「じゃあ美味しい、って思うものは?なんかあるだろ」
 好きかどうかは別として、確かに美味しいと感じるものはある。威吹が頷くと、イズナはニコリと笑った。
「些細なことでも、今はそれさえ感じられてればいいと思うぜ。感情なんてあとからいくらでも付いてくるし、自分の気付かないうちに好きになってる、ってこともあるしな」
「そういうものなのか?」
「そうだって。それにもしかしたら、威吹が気が付いてないだけで、もう好きなものがあるかもしれない。お前、変なところで鈍いし」
「鈍くて悪かったな」
 むっとしたように言う威吹をからからとイズナが笑う。それを見ながら不快とはまた違う感情が威吹の中に生まれた。むずむずするような感じ。たぶんこれが、人間でいうところの『恥ずかしい』というものなのかもしれない。
「オレが思うに、さ」
 一仕切り笑ったイズナは、どこか真剣な声で言った。
「威吹がそんなふうに疑問に思ったりすること自体、進歩だと思うんだよ」
「と、いうと?」
「だって、今までの威吹なら絶対にそんなこと思わなかっただろ?」
 確かに、イズナの言うとおりかもしれない。潮という人間に出会わなければ、こんなふうに考えることもなかっただろう。
「ホント、すげぇやつだよな、うしおって。良い方向に物事や人間、妖まで変えちまう」
「そうだな・・・」
 威吹の小さな相槌を聞き逃さなかったイズナは、とても嬉しそうに笑う。やはり威吹はなぜ彼がそんな表情をするのかわからなかったが、嫌な感じはしなかった。
「さーて、笑うと腹が減るし、美味いもんでも食いにいくか」
「どこにだ?」
「雷信とかがりのとこだよ。雷信の作る料理は美味いんだぜ」
 イズナが威吹の肩に乗る。どうやら運んでもらう気らしい。
「あ、一鬼や長も誘うか」
「長はともかく、応じるだろうか、あの一鬼が」
「嫌よ嫌よも好きのうち、ってな。引っ張ってでも連れてくさ。メシは大人数で食った方が美味いしな」
「そうなのか?」
「そうだって。断言できるね」
 論理はよくわからないが、でもそれも悪くはない。威吹はそう思うと、一鬼達を誘いに行くために翼を大きく広げて飛び立った。

 

END

 

 

威吹の自分、ていう一人称が大変可愛らしいと思います。たまに私になるけど、それもまた可愛い。ていうか威吹自体が可愛いです。
原作をよく見ると威吹って結構表情豊かですよね。笑ってたり呆れてたり。どこまで可愛ければ気が済むんだ。
22巻でイズナを心配している威吹は至極。

雷信は主夫だと信じて疑っていません。5、6巻でうしおに料理を作ってたのは間違いなく雷信。


何度読んでもうしとら5巻は切ないです。
いつまでも三人でいてほしかった・・・。










 まだ私達が遠野へやってくるずっと前、十郎とかがりがうんと小さかった400年近くも前の話だ。その頃は人間達はまだほとんど私達が住みかにしていた山を荒らさず、時折荒らしたとしても少しこちらが手を出せばすぐに手を引いていた。今から考えれば、とても幸福だった。父母が残した古いが大きな屋敷があり、生い茂った草木があり、そしてなにより兄妹三人がそろっていた。
 春になったばかりの頃。冬の間、眠っていた生命力が一気に解放される。この時期のやわらかい日差しと、青い草木の匂いが好きだった。屋敷の縁側で一人で陽なたぼっこをしていると、別室で昼寝をしていたはずの十郎とかがりが近くに寄ってくる。
「勝手にどこかへいかないでよ」
 かがりと共に私を探していたらしい十郎は、眠た気な声で言った。
「あぁ、悪かったね」
 幼いためまだうまく人間の姿に化けられない彼らは、カマイタチの姿のまま四本の足で危なげに歩く。その姿は肉親という欲目で見なくても大変可愛らしいと思う。かがりを産んでから両親はすぐに亡くなってしまったし、歳もわりと離れているせいもあって、私は兄というよりも父親のように彼らを育てていた。十郎とかがりも、私をよくしたってくれている。そんな彼らを可愛がるなという方が無理だった。
 かがりが私の膝の上に乗り、十郎が肩によじ登ってくる。日の光とはまた違う心地良い温かさと、その重さを愛しいと思う。
「また大きくなったようだな」
 かがりの小さな背中を撫でながら呟くように言う。かがりの毛は、産毛のようにやわらかい。気持ちいいのか、彼女はすっと目を細めて私の膝に顎を置いた。
「そのうち、兄貴よりも立派になるよ」
「それは楽しみだな」
 自分も撫でてくれというように、鼻先を私の頬にすり寄せながら十郎が言った。もう片方の手で彼の頭を撫でてやる。
 まだ普通のイタチと変わらないぐらいの大きさしかない十郎達は、当然もう成体の私から見ればずいぶんと小さい。そんな十郎が私よりも立派になるというのは、嬉しいと思う反面、兄として少し寂しい気もする。それでも無事に成長してくれさえすれば、私は幸せなのだが。私を育ててくれた父と母も、こんなふうに思っていたのだろうか。まだ伴侶もいないというのに、めっきり父親のようになってしまったな、と思った。しかしそれも不快ではない。十郎とかがりのことを思えば、心地良くも感じる。
「十郎もかがりも母上似のようだから、線の細い体付きになるかもしれないな」
 嘘、と十郎が不満げな声を上げたので、私は小さく笑ってしまった。実際、私が十郎くらいの年齢の時は、彼よりももう少し体が大きかったような気がする。こればかりは遺伝なのでどうしようもない。
「父上と母上は、どんな方だったの?」
 ゆったりと顔を上げながら、やはりどこか眠た気な声でかがりが尋ねる。もう少しで眠りに落ちてしまいそうな様子だ。
「どちらも強くて、そしてやさしい方達だった」
 やさしく、そして時には厳しく私を育ててくれた。そんな両親を、私は誰よりも尊敬している。鎌の使い方も、山での生き方も、人間との付き合い方も、なにもかも教わった。今度は私が、十郎とかがりに同じことを教えていくのだろう。
 ふーん、と十郎が小さく呟く。彼の方を見れば、その瞳は遠くを見ているようだった。父母のことを考えているのだとすぐに気が付く。確かに十郎は、今よりももっと幼い頃に両親の腕に抱かれていたが、物心が付く前だったのでほとんど覚えていないのだろう。かがりにいたっては、まったく覚えていないに違いない。
「父上や母上がいないのは寂しいか?」
 どうしてもそう尋ねる声が小さくなってしまう。私がどんなに十郎とかがりを愛していても、結局は父親になれないということを知っていた。
 私の問いに、二人は一度視線を合わせる。そしてこちらを見ると、ふるふると首を左右に振った。
「そんなことないわ、雷信兄さん」
「まったく寂しくはない、ってのは嘘だけど、俺達には雷信兄貴がいるから」
 あぁ、私は…。
「兄貴のことが大好きなんだ」
「えぇ。私達を愛してくれる兄さんが、誰よりも」
 私は世界一、幸せな妖怪だ。
 真直ぐに向けられる言葉に、思わず視界がにじむ。私は声が震えそうになるのをなんとかこらえながら、ようやく、そうか、と声をしぼりだした。
 自分ばかりがこんなに幸せでいいのだろうかと考えてしまう。それほどまでに、私は今満たされている。
「ずっとこの山で静かに暮らせていけたらいいな」
「兄さん達と一緒にね」
「あぁ・・・」
 なにがあっても、たとえ今住んでいる土地を人間や他の妖怪から追われるようなことがあっても、いつまでも三人でいられたらいい。ただそれだけを、強く願った。
 しばらくすると二つの小さな寝息が聞こえてくる。二人とも眠ってしまったようだ。春の日差しは眠気を誘う。時折吹く穏やかな風が髪を揺らすのを感じながら、私は目蓋を閉じた。



 ゆるく目蓋を開けて、私はぼんやりとした頭でここはどこだっただろうかと考える。ここは私達が暮らしていた山ではない。そこまで考えて、私はやっと自分は今遠野で暮らしているのだということを思い出す。夢を見ていたのだ。まだ十郎が生きていた頃の、幸福な夢。
 頬に指を這わすと、指先がしっとりと濡れた。どうやら寝ながら泣いていたらしい。いい歳をして、と私は少し恥じた。春の日差しが濡れた頬と指先を照らす。
「起きたのね、兄さん」
 横を見ると、私と同じように屋敷の縁側に腰を掛けたかがりがいた。どうやらずっとそこにいたらしい彼女は、泣いている私の方を心配そうに見ている。
「夢を見ていたんだ」
「夢?」
「あぁ。まだ幼かった頃のかがりと、そして十郎がいた」
「十郎兄さんが・・・」
 哀しげにかがりが瞳を伏せる。だがすぐに私の方を見ると、急に人間の姿からカマイタチの姿に戻った。昔のように小さくはなく、人間の子供ほどの大きさだ。あの夢を見たあとなので、立派になったものだと感動してしまう。
 流石にこの大きさではもう膝に乗ってくるのは無理で、その変わり顎だけを私の膝に乗せてきた。体はぺたんと床に付ける。
「どうしたんだ、急に」
「たまには昔みたいに甘えてもいいでしょう、雷信兄さん」
 かがりの頭を撫でる。彼女の産毛のようにやわらかい毛は、今でも変わらない。膝から伝わる体温と重さを懐かしく思う。足りない肩の体温と重さを悲しく思う。私達の愛する十郎は、もうこの世にはいない。
「もう少ししたら、一緒に十郎の墓参りへ行こう」
「えぇ」
 声を震わせて涙を流しながら言う私に、かがりは静かに頷いた。



END








雷信兄さんは兄というよりも父親的な立場だったらいいな、という話。
雷信兄さんが大好きです。

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HN:
シノハ
性別:
女性
自己紹介:
1月14日生まれの新潟県民。

ジョジョラーでケモナーでおっさん&おじいちゃんスキーでSHK国民。
最近はfkmt作品に手を出してます。
乙一作品と三原ミツカズ作品と藤田和日郎作品も好き。
節操なしの浮気性です。
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