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三原ミツカズのDOLLからSと一話目のNo.222の子を。
改造屋達もいいけど、なんだかんだで一話目とSが一番好きです。











 任務の帰りにいつも立ち寄る公園があった。なにか用があるわけではないが、習慣みたいなものだった。その公園でいつからか、少年と青年の中間ほどの年頃の男性を見かけるようになった。彼がドールだと知ったのは、つい最近のことだ。
「名前は?」
「ありません」
「デフォルトの名前くらいあるんじゃ・・・」
「本当に、ないんです」
 おかしなドールだった。呼ばれる時に不便ではないかと尋ねたら、自分はたった一人の人間に仕えていて、その主人と二人暮らしだからいいのだと、にこりともせずに言っていた。ずいぶんと旧式のドールで、表情や感情というものがまったく作れないらしかった。
 そんな彼なのに、一緒にいるとなんとなく安心できて、姿を見つけるといつも話かけていた。
「主人は好き?」
「はい」
 ある日そう質問すると、彼はやはりいつもの調子で答えた。彼はいつもこの公園にいるが、主人の傍にいなくてもいいのだろうか。
「あなたは、違うのですか?」
 問い返され、僕は一瞬思考が鈍ったのを感じた。どうなのだろうか。考えたこともなかった。僕の主人はSG社の人達ということになるのだろう。好きだとか嫌いだとか、そんなことを考えたこともなかった。
 普段は機能を停止させていて、必要な時にだけ起こされ、ドールをスクラップにしてこいと命令される。その関係に疑問を感じたことはなかった。しかし満足を感じたりもしなかった。どんなにドールを破壊し褒められても、僕は人間でいうところの心を動かすことはない。ドールとしてそれが当然だと思っていた。
「よく・・・わからない」
「そうですか」
 会話はここで止まると思っていた。彼はあまりお喋りではない。しかし違っていた。彼は小さく、でも、と続けた。
「あなたなら必ずわかるでしょう。主人を愛することが、どういうことかを」
 慈しむように頭を撫でられる。きっと僕に兄がいたら、彼のような感じなのだろうと思った。


 それからほどなくして、僕の環境は大きく変わった。SG社が不祥事を起こし、経営が危うくなったせいで本来ならば商品ではない僕まで安い金で売り出されるようになった。そして新しく僕の主人になったのは、いつか僕が助けた女性だった。
 彼女は優しかった。僕をドールとしてではなく、亡くなった子供と同じように扱ってくれた。だからその分、僕が敬語を使ったり、彼女に敬称を付けて呼んでしまうと、酷く寂しそうな顔をした。
 そんな顔をされると、どうしたらいいのかわからなくなってしまう。僕は彼女にそんな顔をして欲しいわけではない。ただ、笑っていて欲しかった。優しく僕の新しい名前を呼んで、その腕に抱いて欲しかった。そこまで考えて、SG社にいた頃はそんなことなんて一度も考えたことがなかったのにと、自分で驚いた。
 彼女と生活をはじめて一ヶ月ほど経ったある日、僕はふと思い付いてあの公園に足を運んだ。
「お久しぶりです」
 彼は相変わらず、この公園にいた。そしてやっぱり、主人の姿は見えない。まさか公園に捨てられてしまったドールなんじゃないかと思ってしまう。
「悩み事ですか?」
 僕の心配をよそに、彼はそう尋ねてきた。顔に思っていたことが出ていたのだろうか。人間じゃあるまい。
 しかし言われてはじめて気が付く。僕は悩んでいたのだ。言われたことを忠実に遂行していればよかったあの頃なら、こんなふうに悩むこともなかったのだろう。
「主人が変わったんだ」
「それになにか不満でも?」
 首を左右に振る。僕を大切にしてくれる彼女に、不満なんてあるはずがない。あるとすれば、それは僕自身にだ。
「僕は主人が望むようなドールにはなれない」
「えぇ」
「執事タイプのドールじゃないんだ。家事すらできない」
 知っているのは、ドールの壊し方だけ。命令を遂行することだけ。しかし彼女は僕に命令をしない。だから時折、戸惑ってしまう。なにをしたらいいのか、わからなくなってしまう。こんな時、自分はただの鉄の塊なのだと思い知らされてしまう。
「僕は主人のためになにかをしてあげたいのに、なにもできない。でもこんな僕でも、彼女は相変わらず優しいから、ここが苦しくなる」
 胸に手をあてた。彼女に笑いかけられるたびに嬉しくなるはずなのに、反面とても苦しくなる。いっそ穴をあけた方が楽になるのではないかと思った。
 彼は不意に、うつ向いている僕の手を握った。驚いて顔をあげると、口を開く。
「大丈夫」
 凛とした声で、はっきりとそう言った。
「大丈夫です。主人と一緒にいられる時間は、たくさんあります。家事はいくらでも覚えられる。わからないことがあったら、主人に聞きなさい。きっと喜んで教えてくれるでしょう」
 どうしてそんな感情の込められた声で喋れるのだろうと思った。いつもはもっと、無機質な声をしているというのに。その上、まるで彼女のことを知っているような口調だ。
 僕が唖然としていると、彼が真っ直ぐと目を合わせて来た。澄んだガラス玉のような、全てを見透かしているような瞳だった。
「私達は主人のためなら、なんでもできる」
 言われて、ハッとした。そうだ、彼の言う通りだ。もう命令をされてそれに従っているだけでは駄目なのだ。自分から行動を起こさなくてはいけない。誰のためでもない。愛する主人のために。
 以前、彼の言っていたことを思い出す。主人を愛するということは、こういうことか。
 そのことを教えてくれた彼にお礼が言いたくて、僕は口を開きかける。しかしその前に、別の声が聞こえた。
「ちょっと、ドール!いつまで私を待たせる気よ」
 声のした方を見る。そこには、可愛らしいが気の強そうな顔立ちをした女の子がいた。
「申し訳ありません、カヤ様。もうそちらへ参ります」
 彼が恭しく言う。どうやらこの少女が彼の主人らしい。そういうば、主人と二人で暮らしていると言っていたっけ。
「あの人が主人?」
 尋ねると、彼が僕を振り返った。そして再び驚く。笑っていた。目を細め、口端をわずかにつり上げて、とても愛しげに。
「はい。あの方が私のお仕えしている主人です。そして私の・・・――」
「ドール、早くしなさい!」
 最後の言葉が彼の主人の声によってかきけされてしまう。彼はもう一度謝ると、主人の元に歩きだした。並ぶと、彼女は自然な様子で彼の腕に自分の腕を絡める。そして二人同時に僕を振り返った。
「さようなら、私の兄弟」
 彼はそう言うと、主人と一緒にフッと消えてしまった。まるでなにかの手品のようだった。
 空を見上げる。雲一つない、綺麗な空だった。彼らはあそこへ行ってしまったんだな、と漠然と感じた。
 僕は確かに聞いたのだ。彼が最後に、『私の妻』と言ったのを。
「葉介・・・!」
 名前を呼ばれる。振り返ると、そこには慌てた様子でこちらに駆け寄ってくる僕の主人がいた。そういえば、なにも告げずに家を出てきたんだった。
「もう、どこに行ってたの!勝手にいなくなったりしたら駄目じゃない」
 抱きしめられる。温かい。
「ごめんね、母さん。今度からは気をつけるよ」
 自然と、そんな言葉が出た。彼女は一瞬驚いたような顔をする。だけどすぐに、泣き笑いのような表情になった。
「うん・・・うん。わかってくれればいいの。さぁ、一緒にお家に帰ろう」
 手を繋ぎ、並んで歩き出す。もう僕の心は苦しくない。
「ねぇ、今度僕に料理を教えてくれる?」
「なら、帰ったら一緒に夕食の支度をしようね」
 僕は人間にはなれないが、人間のパートナーになることはできる。そのことを教えてくれた彼の姿は、もう二度と見ることはなかった。


END
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プロフィール
HN:
シノハ
性別:
女性
自己紹介:
1月14日生まれの新潟県民。

ジョジョラーでケモナーでおっさん&おじいちゃんスキーでSHK国民。
最近はfkmt作品に手を出してます。
乙一作品と三原ミツカズ作品と藤田和日郎作品も好き。
節操なしの浮気性です。
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