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9巻表紙のスロー・ダンサーが可愛すぎたのと、4thステージラストがあまりにも熱かったので。
次こそはSBRの人間書く、次こそは・・・。
鬱々とした黒くてドロドロとしたものが俺の頭の中を支配する。拭えないいらつきがつのり、興奮が隠せない。疲れているはずなのに、もう深夜と呼ばれる時間帯なのに一向に眠れそうもない。目を閉じると昼間の出来事がリアルに思い出される。雨の音と臭い、水分を多く含んだ泥を蹴る感触、濡れた蹄の音に荒い息遣い。そして走り去っていく馬達。筋肉が酷く疲労していることも忘れて、強い力で地面を蹴った。怒りがおさまらない。自分は完全に、あの時完敗してしまった。
膝を地面に付け倒れてしまった時の主の叫び声が耳から離れない。彼は長いこと雨に打たれながら意味のない叫びをあげていた。俺が声を上げられない分も、怒りと屈辱を振り払うかのように叫んでいた。
自分のものではない蹄の音が聞こえ、俺はそちらに意識を向ける。向こうの方から馬が近づいてきているようだった。人影は見えない。一頭だけだ。暗がりなのでそれが誰なのかが判断できず、俺は睨むようにしてそちらを見つめる。
「あぁ、やっぱり、起きてたみたい、だね」
その柔らかい声色を聞いて、俺は耳を一つ上下させる。S・Dだった。いつもなら主であるジョニィと片時も離れたくないと思っているような彼が、一頭だけで馬小屋の柵を隔てて俺の前に立った。
「駄目じゃない、ちゃんと眠らないと。明日から、5thステージが始まるのに」
「ヴァルキリーはどうしてる」
彼の言葉には答えずに、俺は問いかけた。昼間のことを思うと、どうしてもつっけんどんな言い方になってしまう。それに気が付いて、しまった、と思ったが、相手は気を悪くしたふうはなかった。ここらへんは彼の性格というよりも、大人だからなのかもしれない。きっと彼から見れば、俺は小さなことで腹を立てている子供でしかないのだ。
「ヴァルキリーなら、さっきまで興奮して、眠れなかったみたい、だけど、なんとか眠ったよ」
やれやれ、という感じで彼は言った。どうやら今日の出来事はヴァルキリーにとっても思うところがあったらしい。おそらく時間をかけて、彼がなだめていたのだろう。それから俺のところへ来たのだ。俺もまた、眠れていないと思って。レースの上では俺達は敵同士だが、それでも気に掛けてくれているのだろうか。そう思うと、嬉しいと感じた。
「脚、ずいぶんと酷使したでしょう?走れなくなるぐらい、だもんね。でも、明日も走らなきゃいけないから、早くお休み」
子供に言い聞かせるような口調だった。それが耳に心地良い。ヴァルキリーは以前、S・Dから子供扱いされるのは嫌だと言っていたが、俺はそのあたりの心理がよくわからなかった。あいつの心理なんて、わかりたくもないのだが。
「あんたはどうなんだ?あんただって、無茶をしたはずだ」
「きみほどじゃ、ないよ。少なくとも、私は明日からはまた、普通に走れる。でもきみは、そういうわけにはいかない、でしょう?」
彼の言うとおりだった。走れないわけではない。しかし、全力で走ることはしばらく無理だろう。俺の主も5thステージ、6thステージは脚を休ませるためにゆっくりと走ると言っていた。俺にも主にも、選択の余地はない。順位は大幅に落ちることになるだろうが、リタイヤするよりはましだろう。
それでも歯痒い気持ちになる。俺がたらたら走っている横で、他の馬達が駆け抜けていくのだ。そう思うと、このSBRレースが全て終わってから脚が壊れ、引退してもいいから常に全力で走っていたいという気持ちになる。誰かに負けるということが耐えられない。
「明日からしばらくは、ゆっくり、走るんだよ」
俺の考えを読んだかのように、S・Dは言った。
「どうせ、脚を壊してもいいから、全力で走りたい、と思ってるんでしょう?」
図星だったので、俺は言葉を返さない。
「シルバー・バレット、きみは、このSBRレースが終わるころ、大きく成長しているはず、だよ。肉体的にも、精神的にも。このレースで、多くの経験をしたはず、だからね。きみはまだまだ、強くなれる。それこそ、年老いた私が、足元にも及ばないくらいに、ね。前途あるきみが、自らの芽を摘んでは、いけない。SBRレースが終わってからも、活躍するきみの姿を、私に見せて欲しいんだ」
真摯な態度だった。S・Dは本当に走ることが好きなんだな、と思う。
「だから、しばらくは我慢して、脚を休ませながら、走るんだよ。きみの実力なら、脚が回復してからでも、総合順位的には、十分に追いつけるから」
ね、と最後はやはり子供に言い聞かせるようにして言った。
「・・・わかった、言うとおりにする」
「そう、よかった」
安堵したように、息を吐いた。どうやら本当に俺のことを心配していてくれたらしい。優しい男だと思う。いつも誰かを気に掛けている。今のところ、その関心はジョニィに一番に向いているが、間違いなく彼が次に気に掛けているのはヴァルキリーだ。いつも一緒にいるせいもあるのだろうけど、それでもヴァルキリーが羨ましい。
「きみのその、猛るような闘争心は、羨ましくもあるんだけど、ね。脚を壊してしまったら、元も子もないから」
「・・・よく言う」
まるで自分には闘争心がないみたいな言い方だ。実際はそんなことなんてないくせに。いつも穏やかな彼が、ゴール直前やここ一番という時に見せる気迫を俺は知っている。凛と前を見据え、ギリギリまで絞られた矢が放たれたかのように、真直ぐとしなやかに走る。下手に近づくと、その矢の切先で怪我をしてしまうんじゃないかと錯覚してしまうぐらい。そんな彼は、なによりも美しいと思う。普段の穏やかさと、時折見せるその鋭さに、どうしようもなく惹かれてしまう。
「話が長くなっちゃって、悪かったね。もう、眠れそうかい?」
尋ねられて気が付く。もう俺の中にドロドロとした黒いものはなくなっていた。あるのはただ心地よい眠気だけだ。彼に丸め込まれてしまったのだろうか。それでも嫌な感じはしない。
「スロー・ダンサー」
「なに?シルバー・バレット」
「その・・・ありがとう」
突然礼を言われ、彼は一瞬面食らったような顔をする。しかしすぐに、どういたしまして、と返した。
「やっぱり、きみは、ヴァルキリーと違って素直、だね。そういうところ、好きだよ」
「すっ・・・?!」
さらりとそんなことを言われ、思わず固まってしまう。相手はそんな深い意味があって言ったわけじゃないのだろうけど、それでも普段から意識している彼に好きと言われ、急に心臓が激しく動き始める。落ち着け、俺。S・Dはそんな深い意味で言ったんじゃあない。もっと軽い気持ちで言ったんだ。落ち着け。
ドギマギしている俺を、S・Dが不思議そうな目で見ている。だがふと遠くから物音が聞こえ、すぐにそちらに視線を向けた。釣られて俺も見ると、そこには車椅子に乗り、手にランプを持ったジョニィがいる。彼はS・Dの姿を見つけると、どこに行ってたんだ、と言った。どうやらS・Dは彼になにも知らせずに俺のところに来ていたらしい。
「じゃあね、シルバー・バレット。明日また、レースで」
「あぁ」
蹄を鳴らしながらS・Dがジョニィの元へ歩いていく。その体を優しく撫でながら、勝手にどこかへ行っちゃ駄目じゃないか、とジョニィが安堵したように言った。どうやら、ずっとS・Dのことを探していたようだ。
「うん、ごめんね。マスター」
人間には馬の言葉は通じないだろうに、彼は律儀に謝っている。その声が俺やヴァルキリーに向けるような声色ではなく、どこか甘えたような感じの声で、やっぱり彼の一番はジョニィなんだな、と思った。もしかしたら、俺の最大の恋敵はヴァルキリーではなくジョニィなのかもしれない。やっかいだ、人間相手だなんて。そんなことを考えながら、俺はいつしか深い眠りに付いた。
END
やはりスロー・ダンサーとヴァルキリー達の歳の差に萌えずにはいられません。スロー・ダンサー頑張れ、超頑張れ。
それにしてもSBRレースに出る馬はみんな胆が据わってますよね。普通に攻撃されてても動じなかったり、ワイヤーの上を走ったり。
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