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おっさんと人外を中心によろずっぽく。凄くフリーダム。
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ぎくしゃくしてる親子二人。
なんかボスが生きてます。

 

 

 金だけがかかる無駄に高級志向なレストランには、落ち着いた調べの音楽が流れていた。微かな声で囁きあうように会話をしている他の客達の声が、なんとなしに聞こえる。しかし向かい合って食事をしているというのに、私達は先ほどからお互いに一言も会話を交わしていなかった。空気が重い。頼むからなにか喋りなさいよ、と思うが、きっと相手の方もそう思っているはずだ。
 どうして彼と二人きりで食事をすることになってしまったのだろうか。それは他ならぬジョルノのお節介のせいだ。いや、嫌がらせだったのかもしれない。親子なんだから、たまには水入らずで食事でもどうですか、なんて、良い笑顔で言って。断ろうとしたら、もうすでにレストランは予約してあると言われてしまった。ボスとしては非常に優秀だが、部下を使って遊ぶのはやめて欲しい。きっとこのレストランのどこかに隠しカメラが仕掛けられていて、ジョルノは私達の行動を見て楽しんでいるはずだ。そうでなければ、ジョルノが善意だけで動くなんてありえない。
 そう思うと、眉間に皺が寄るのを感じた。ハッと、相手が息を呑むのを感じる。テーブルに並べられている料理から目を外し、彼の方を見れば驚いたような顔をしていた。いきなり私が不機嫌になったのを感じ取って、慌てたらしい。別に彼に対して怒っているというわけではないというのを示すために、無理やり眉間の皺を指先でほぐす。そして、できるだけ冷たくならないように気をつけながら、口を開いた。
「なにか、私に聞きたいこととか、言いたいことはないの?」
 いきなり言葉をふられ、やはり彼は驚いたような顔をした。本当に、これがネアポリス最大と謳われている組織のボスだった男だろうか。これでよく、部下達を動かせていたものだと思う。それとも全国の父親は、みんな娘に対してこんな感じなのだろうか。私の家庭は特殊だったのでわからないが、誰に聞いてみようもないので、結局わからないままだった。
「あいつは・・・お前の母親はどうしている?」
 しばらくの沈黙のあと尋ねられて、私は今度こそ彼に向けて眉間に皺を寄せてしまった。どうしよう、このままでは皺があとになってしまうかもしれない。
 私の顔色が変わったのを見て取ったのか、それとも母がどうなったのかを思い出したのか、彼はしまったという顔をした。それを見ながら、私はそんなことも忘れるぐらい緊張していたのだろうかと思ってしまう。
「母さんは海のよく見える丘の上の墓地に埋めたわ。母に言いたいこととか、懺悔したいことがあるのなら、場所を教えてあげるから行くといい」
 懺悔、と言う言葉をあからさまに強調して言う。母は最期まで彼を愛して、彼が帰ってくるのを待ちながら死んでいった。そう思うと、やはり彼を素直に父親として見れない。
「・・・ありがとう」
 私から母の墓参りの許しが出たせいか、安堵したような表情をする。それなのに素直に礼なんて言われてしまうと、こちらが戸惑ってしまった。妙にしんみりとした空気になり、先ほどよりも居心地が悪いと感じる。この状況を打ち破るには、どうしたらいいか。しばらく考えて、私は手に持っていたフォークをテーブルの上に置いた。まったく、なんでこの男のために私があれこれ考えなければいけないのか。
「そんななさけない顔しないでよ。私が虐めてるみたいじゃない」
 向かい合うようにして座っている彼に腕を伸ばし、その頬をつねる。思ったよりも、柔らかかった。十分にその柔らかさを堪能してからつねっていた指を離すと、その部分がうっすらと赤くなっている。元々ほとんど外を出歩かないような人だから彼の肌は女のように白く、その色が目立つ。あとが付きやすく消えにくい体質なのか、しばらくその赤は消えなかった。
「ワイン、飲むか?」
 つねられた頬をさすりながら、彼が尋ねてくる。なんでいきなりワインなのだろうか。しかもこの真昼間から。そう思ったが、すぐに答えが見つかった。
「私、お酒は飲まないの。でも娘と会話をするのにアルコールの力が必要なら、頼むといいわ」
 私の言葉に、彼は自分の考えが読まれてバツの悪そうな顔をする。しかし結局、近くにいたボーイを呼んでワインを注文していた。あぁ、ヘタレなのか。と私はそんな彼を見て思う。嫌味を言われながらも、結局アルコールに頼るなんて。
 やがて運ばれてきた、やたらと高そうなワインを彼は一人で傾けていた。ボトル一つ、全て空ける気だろうか。当然、彼が酒に強いのか、それとも弱いのかなんて知らない。でもこうやってボトルで注文するぐらいだから、きっと強いのだろう。
 酒のおかげか、少し饒舌になった彼とそれなりに会話をしながら、なんとか食事は続いた。内心で、ジョルノに対してざまあみろと笑う。どこから隠し撮りをしているのかは知らないが、面白いことなんて何一つ起きはしない。このまま、何事もなく終わらせてやる。しかしそう思った私が間違いだったと、このあとすぐに思い知らされた。
 ふと視線をワインボトルに向ければ、すでに空となっていた。驚いて、ワイングラスを見る。グラスの半分ほどまで、美しい赤紫色をした液体が注がれていた。ワインを注文してから、それほど時間が経過したようには思えてない。ワインなんて普段まったく飲まないため、どれくらいのペースで飲んでいくのが普通なのかは知らないが、明らかにこれは速いように思えた。よほどアルコールの力を借りなければ、私との会話は難しかったらしい。
 こんなペースで飲んでいて大丈夫だろうかと、私はワイングラスから視線を外して彼の方を見る。そこには、酔いのせいか顔をうっすらと赤くさせている彼がいた。目が合うと、唇の端をつり上げ、猫のように目を細めながら艶やかに笑う。思わず、父親相手にドキリとしてしまった。
「ちょ、ちょっと、そんなに飲んで大丈夫なの?」
「トリッシュ・・・」
 私の問いには答えず、彼はどこかぼんやりとした口調で私の名を呼んだ。何事かと思っていると、いきなり片手を彼の両手で包み込まれるようにしてとられる。
「一緒に暮らさないか?」
「は?」
 まったく予測していなかった言葉に、私は一瞬思考回路が止まる。一緒に暮らす?誰と、誰が?私と、彼が?眩暈を感じたが、なんとか気を確かに持って彼をもう一度見返す。先ほどと同じ笑みを浮かべているが、目が完全に据わっていた。そして気が付く。この人、完全に酔っている。たぶんたったこの一言を言うために、ボトルを全部空けたんだろうけど。
「私とお前に必要なのは、一緒にいる時間だ」
「待って・・・待って。とりあえず落ち着いて。こんなところでなんてことを言うのよ」
 私達のおかしな雰囲気に気が付いたのか、レストランにいた周りの客やボーイ達が好奇心を孕んだ目でこちらを見ているのがわかった。見てんじゃないわよ、見世物じゃないのよ。内心で毒付きながら、周りから見たら私と彼の関係はどう見えるのだろうと考える。果たして親子に見える人間が、どれくらいいるだろうか。しかしいたところで、一緒に暮らさないか、なんて台詞を聞かれた時点で瞬時に親子には見えなくなるだろう。どこの世界に、一緒に暮らそうだとか、必要なのは一緒にいる時間だとか、そんなプロポーズめいた言葉を娘に言う父親がいるだろうか。普通に考えて、私達は周りから見たら歳の離れたカップルに見えるだろう。…ふざけんな。
 遠くからジョルノが腹を抱えて笑っているような声が聞こえたような気がした。いや、たぶん気のせいではない。あいつ、確実にこのレストラン内にいる。レストラン側の全面協力のもと、私達の一挙一動を観察していたはずだ。自分のためならば努力を惜しまない男なのだ、ジョルノは。
「もう一度、関係をやり直そう」
 どこか甘い声で、彼が言う。言うなら言うでちゃんと『親子の』という言葉を付けなさいよ。周りに更に余計な誤解を与えるじゃない。
「ねぇ、わかったから。とりあえず一度黙って。あんたもこんなところで目立つのは不本意でしょう?」
 私の声が聞こえていないのか、彼は一向に口を閉じようとはしない。
「愛して、大切にするから・・・」
「黙れっつってんのよ!この酔っ払い!」
 これ以上、好奇心の目に晒されるのと、実の父親からのプロポーズめいた言葉を聞くのが耐えられなくなり、私は彼に右ストレートを放つ。綺麗に頬にヒットしたそれは、椅子ごと彼を吹っ飛ばしてしまった。……スパイス・ガールで殴っただろうか。私自身の拳で殴ったような…いや、スパイス・ガールで殴ったということにしておこう。そうでなければ、私みたいなか弱い細腕の女が大の男をこんな風に吹っ飛ばせるわけないのだから、うん。
 周りがざわついている。それを無視しながら、私は床に倒れている彼のもとまで歩いた。酔いが手伝ってか、完全に伸びてしまっている。決して、私の力が強かったわけではない。決して。
 こちらを見ている客やボーイ達を睨み、こっちを見るなという意思を示しながら、私は彼を引きずってレストランをあとにする。金を払ってはいないが、どうせジョルノが先払いしておいてくれていただろう。そういうことにしておく。
「お疲れ様でした、トリッシュ。なかなか楽しそうだったみたいで、なによりです」
 外に出て、まずはじめに聞いた声がこの男のもので、私は一気に気分が悪くなる。噛み付かんばかりに、私は素晴らしく良い笑顔で言葉を発しているジョルノを睨んだ。よく見れば彼の頬がうっすらと赤らんでいる。呼吸困難になるほど、腹を抱えて笑っていたらしい。その横で、亀を手に持ったミスタが顔をニヤニヤさせていた。そのツラにスパイス・ガールの拳を叩き込んでやりたい。ミスタが持っている亀の方から、連続的に笑い声が聞こえた。くそ、むかつく。ポルナレフ、テメェさっさとあの世へ行きやがれ、このくそが。いつまでもこの世にへばり付いてんじゃあねぇ。
「あなたと彼が一緒に住む際は、責任を持ってパッショーネが全面的にバックアップをします。ご安心ください」
 なにがご安心ください、だ。どうせバックアップの費用は、私に引きずられながら伸びている男の口座から引き落とされるんじゃない。
 結局、あれよあれよという間に事は運び、新築の家が出来上がった。やたらと金がかかっていそうなのが余計に腹が立つ。それでも家具などを新しい家に運び込んでいる際、彼がやたらと張り切っていたので、私はなにも言えなかった。ジョルノに遊ばれたのはむかつくが、まぁ一緒に住むぐらいは別にいいか。これで少しは、彼もアルコールの力を借りなくても私と普通に会話ができるようにはなるだろう。
 父親と一緒に住むことになったと母に報告するために、今度彼と一緒に墓参りに行こう。そう思った。

 

END

 

 

 

トリッシュとかスパイス・ガールの口の悪さが大好きです。

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シノハ
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女性
自己紹介:
1月14日生まれの新潟県民。

ジョジョラーでケモナーでおっさん&おじいちゃんスキーでSHK国民。
最近はfkmt作品に手を出してます。
乙一作品と三原ミツカズ作品と藤田和日郎作品も好き。
節操なしの浮気性です。
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