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久しぶりにthe bookの二人を。
琢馬と千帆が好きです。ほのぼのした琢千が理想的です。本編が本編だっただけに。

 

 

 


 放課後は教室まで迎えに行くから待っていてください、と言ったのは千帆の方だった。つまり、一緒に帰ろうということなのだろう。断る理由もないし、一応自分達は付き合っているということになっているのだから、琢馬はそれを承諾した。
 なにかを期待しているような顔でそれを告げられたのは昼休みの時で、琢馬は放課後はきちんと教室の自分の席に座りながら千帆が来るのを待っていた。普段なら授業が全て終わってしまうとすぐに下校してしまう彼が残っているのが珍しいのか、クラスメイトが何人か声をかけてくる。それを差し障りのない程度にあしらいながら、琢馬はブラウン色の本を開いて読んでいた。
 本を読んでいれば時間なんてあっという間にすぎ、気が付けばオレンジ色の夕日が窓から差し込んでいる。教室を見渡せば、生徒もほとんどいなくなっていた。遅い、と小さく呟く。なにをやっているのだ、千帆は。ブラウン色の本で彼女と交わした会話を確かめる。確かに彼女は、自分に教室で待っていろと言った。本にそう書いてある。
 彼女になにかあったのだろうか。急用ができて先に帰ってしまったとか、それとも約束自体を忘れてしまっているとか。しかし彼女の性格からいって、約束を忘れるということはありえないし、急用ができたといっても一言言いに来るだろう。わけがわからない。そう思いながら、琢馬はブラウン色の本を閉じた。その瞬間、机の前に人影が現れる。視線を上げると、そこには唇を引き結んでどこか怒っているような、泣きそうな顔をしている千帆がいた。
「遅いぞ、千帆」
「それはこっちの台詞です・・・!」
 怒られてしまった。いや、どう考えたってこっちの台詞だろう。そう思ったが、琢馬は彼女がどんな反応を示すか予想できなかったため口に出しては言わなかった。なんで自分が怒られているのかがわからない。怒るとしたら、ずいぶんと待たされたこちらの方なのに。
 わずかに残っていた生徒達が、何事かと視線を向けてくる。それを千帆に気づかれない程度に睨みつけた。見るんじゃない。見世物ではないのだから。琢馬と目が合った生徒は、慌てて視線を逸らした。それでもすぐにまた、こちらをうかがうようにして見る。
「なんで私の教室まで来てくれないんですか。私、ずっと待ってたんですからね」
 泣きそうな声で言われて、琢馬は視線を千帆に戻す。目じりに涙が溜まっていた。ますます意味がわからない。なぜ自分が彼女の教室にまで行く必要があったのか。迎えに来ると言ったのは、彼女の方ではなかったのか。
「昼間、お前の方がこちらの教室に来ると言わなかったか?」
 純粋に不思議に思って尋ねる。すると、千帆はキッと目じりをつり上げた。その拍子に、涙が一滴だけ頬をつたう。
「そんなの、嘘に決まってるじゃないですか!男性なら気を使って、女の子を迎えに来るとかしてくださいよ!」
 言ってから、こらえきれなくなったように千帆が泣き始めた。嗚咽を漏らしながら、細い肩を震わせている。気まずい雰囲気が、教室内を包んだ。この場に居合わせてしまった者全てが、なぜ自分はもっと早く帰らなかったのだろうと後悔していることだろう。
 千帆の泣き顔を見ながら、琢馬は今更になって自分が彼女に試されていたのだということに気が付いた。彼女は琢馬に自分を迎えに来て欲しかったのだ。なんで彼女がそんなことをしたのか、なんとなくわかるような気がする。たぶん、不安なのだろう。琢馬と千帆は付き合ってはいるが、その関係はほとんど付き合う前と変わってはいない。本当に琢馬が自分のことを好きなのか、確かめたいのだ。
 教室中の視線が琢馬に集まる。どの視線も、早くなんとかしてやれと訴えかけてきていた。琢馬はため息を吐きそうになるのをぐっとこらえる。ここでため息を吐いてしまえば、状況は悪化しかねない。
 出来ることならあまり目立ちたくはない。だからこの状況は琢馬にとっても不本意だ。かといって、千帆を怒るわけにもいかない。彼女は悪くないのだから。ただ、不安なだけなのだから。
「千帆」
 名前を呼ぶ。千帆は涙と鼻水とでぐちゃぐちゃになった顔をこちらに向けた。その顔があまりにも子供っぽくて、なにかいけないことをしているような気分になる。
 手を伸ばして彼女の後頭部に添えると、そのままこちらに引き寄せた。触れるだけのキスをする。その柔らかい唇は、涙と鼻水のせいで少ししょっぱかった。
 相変わらず緊張を孕んだ雰囲気のままで、キスをしたまま千帆の目を覗き込む。琢馬の行動があまりにも予想外すぎたのか、彼女はただただ驚いたように目を大きく見開いていた。
 琢馬が顔を離しても、彼女は引き寄せられた体勢のまま固まっていた。どこか頭のネジがショートしてしまったのではないかと思いながら、琢馬は立ち上がり、通学鞄を手に取る。そして千帆の手をつかんで軽く引いた。
「ほら、帰るぞ」
「え・・・あ、はい、はいはい」
「はい、は一回」
「はい!」
 まだどこかぎこちない感じの彼女を引きずるようにしながら教室を後にする。その直後、教室内から歓声が聞こえた。が、それも無視する。
 靴を履き替えさせて、学校の外へ出た。千帆の方を見れば、泣いていた先ほどとは打って変わってにこにこと機嫌良さそうに笑みを浮かべている。そんな顔もやはり子供っぽく見えて、本当に自分と一つしか歳が違わないのだろうかと思ってしまった。しかも足元を見れば靴を左右逆に履いている。なんとも間抜けな光景だ。いや、それ以前に気が付け。そこまでキスをされたのが衝撃的だったのだろうか。
「嬉しそうだな」
「えぇ、そりゃあもう。先輩って、いわゆるツンデレ、ってやつだったんですね。今まで気が付かなくてすみません」
「・・・それはないな」
 別にツンツンしているつもりもないし、デレデレしているつもりもないのだが。しかしそれ以上は否定しない。きっと否定したって、彼女は恥ずかしがらなくてもいいんですよ、と言うだけだろう。
 一度立ち止まって、彼女の前にしゃがみこむ。靴をきちんと左右正しく履かせてやった。それからポケットからハンカチを取り出してまだ涙と鼻水で汚れている顔を綺麗にしてやる。あまりにも甲斐甲斐しくて、琢馬はそんな自分に驚いてしまった。
「先輩、ハンカチ洗って返しますよ」
「当たり前だ」
 汚れたハンカチを手渡すと、千帆は鞄の中にしまう。そして、自然な動きで琢馬の手を握った。握った手をぶんぶんと振りながら、鼻歌を歌う。その様子は、人目を引いた。しかし琢馬はなにも言わずに、彼女の好きなようにさせてやる。千帆のどこか音程の外れた鼻歌を聴きながら、二人は手を繋いだまま一緒に歩き出した。

 

END

 

 


琢馬はツンデレじゃないです。ただ愛情表現に乏しかったり誰かを愛するのが苦手なだけです。

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1月14日生まれの新潟県民。

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