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森銀書くって言ってたけど、それはまた今度で。
今回は越境じゃなくて普通にアカ市。
なんかアカ鷲はアンソロまで出るのに対してアカ市が増えないのが心底悔しくて・・・。結構このブログにアカ市のワードで検索して来られる方がいるので、それほど需要がないわけじゃないはずなのに。
縁側で点字の本を読んでいると、玄関から誰かが入ってくる気配がした。しかし普通の人間とは違い、やけにその気配は薄い。というか、浮ついている。酷く不安定。こんな気配の人間を、市川は一人しかしらない。そして家主に黙って入ってくる者も。
煩わしいのが来たと小さくため息を吐く。しかしそれだけだ。不法侵入者に声はかけない。かけたところで、どうにもならない。あの夜から、この不法侵入者はほとんど毎日家にやってくる。まるで自分の家だと言いたげに堂々と、そして図々しく。
「市川さん」
背後に立たれる。それと同時に、その歳にしては低めで落ち着いた、というよりも、どこか感情が欠落したような印象を受ける声がした。
赤木しげるはその場に座ると、市川の読んでいる本を後ろから覗き込んだ。知識のない者にはなにが書いてあるのかさっぱりとわからない、点の羅列。しかし少年はその一つ一つの点がしっかりと意味を持っていることを知っている。まるで暗号だ。
腕を伸ばし、指先で凹凸に触れる。市川は読書の邪魔をされて一瞬動きを止めたが、やはり彼を黙殺した。自分に意識を向けられるよりは、本に意識が向いていた方が大人しくていい。
なぜこの少年が、毎日のようにこのようにしてやってくるのかはわからない。また、それを聞こうとも思わなかった。一晩一緒にいただけで十分に理解した。彼は普通の人間とは感性がまったく違う。常に斜め上どころか、まったく別の次元の考え方をしている。そんな鬼っ子にまっとうな説明を求めたところで、理解できるはずがない。理解できないのなら、最初から聞くこともない。
「市川さん」
もう一度、あの声で名前を呼ばれる。しかし先ほどの無機質な声色ではなく、小さな感情が込められていた。普段大人びているくせに、こんな時にだけ覗く歳相応の感情。つまり、構って欲しいという独占欲にも似たもの。
もう点字に飽きたのか、それともある程度解読してしまったのか。どちらにしても、すでに彼の中に点字のことなどこれっぽっちもなく、全ての感心は市川に向けられていた。
少年のことはわからない。しかしただ一つわかるとすれば、彼がどういうわけか自分をとても気に入っているということだ。決して自惚れではない。紛れもない事実。
そうでなければ、どうしてこんな歳若い少年が、歳を経た男に触れてくるだろうか。子供特有の熱っぽくはりのある肌で、すでに枯れかけた肌に触れてくるだろう。
指先で凹凸を追っていると熱い少年の手が重なる。読むのを邪魔しているというよりも、ただたんに市川が他のものに気を取られているのが面白くないだけだろう。ずいぶんとストレートにその子供っぽい感情が触れた肌から伝わって、思わず苦笑した。無機物にまで嫉妬するなんて。
少しぐらいは彼の相手をしてやっても良いと思うところまで、市川の機嫌は良くなる。
「邪魔をすんなよ」
「ヤだね」
背中に額を押し付けながら言う。必然的に、市川のボリュームのある白く長い髪に顔をうずめる形となった。最近気が付いたが、どうやら彼は市川の髪を弄るのが好きらしい。暇さえあれば、指先で髪を梳いたりしている。別にそれは不快でもないので、好きなようにさせているが。
手を重ねたまま、もう片方の手を後ろから市川の腰に回して抱きついてくる。今日はまた一段と甘えてくるな、と思った。そういえば最近は少年が訪ねてきてもほとんど相手をしていなかった。そのせいだろうか。
「いい歳して恥ずかしくねぇのか?」
「好きな相手に抱きつくのに年齢制限があるのなんて、初耳だな」
減らず口を叩く。年寄りを捕まえておいて好きな相手だなんて、よくそんな惜し気もなく言えたものだ。そんな台詞はもっと歳の近い女にでも言ってやればいいものを。そう思いつつも、市川は自分の機嫌が先ほどよりも良くなっているのに気が付いていた。
まぁたまには鬼っ子の相手をしてやってもバチは当たらないだろう。なにせ鬼とはいえ、やはりまだ子供だ。そんな子供を構ってやるのも、大人の務めだろう。
「アカギ、茶ぁ持ってこい」
「なんで」
「別に遊んで欲しくねぇなら、持ってこなくてもいいけどな」
背後でわずかに驚いたような気配を感じる。だがしばらく間があって、少年は無言で立ち上がった。慣れた足取りで離れていく。台所に行ったのだろう。今の彼なら目を瞑っても辿り着けるはずだ。本当に、いつの間にこんなにこの家に慣れたのか。
しばらくして少年が戻ってくる。市川の横に座り、床の上になにかを置いた。お盆に乗せて運んできたらしい。
「急須とヤカンと、茶葉に湯飲み、茶菓子は持ってきた」
目の見えない市川のために少年が説明をしてくれる。
「淹れろ」
一言、命じる。しかし少年は動かない。
「淹れ方がわからない」
予想外の台詞に、思わず声を出して笑いそうになってしまう。やはり、わからない子供だ。感性や運、記憶力なんかは人並み外れているくせに、変なところで抜けている。
「なら覚えろ。お前なら簡単だ」
市川が手を出すと、少年はすぐに察して茶葉の入れられた缶を市川の手に触れさせた。この察しのよさが気持ちいい。麻雀の時などは、悪魔のように感じるが。
少年に手伝わせながら、市川は手際よく茶を用意する。目が見えなくてももう何度も繰り返していることなので、その手つきに危なげはない。喰い入るように少年が手元を見てくるが、それでも普段と変わらずに市川は茶を入れ終えた。澄んだ色の緑茶が湯気を立てる。
「覚えたか?」
「だいたいは」
「なら、次からお前が淹れろよ」
湯飲みに伸ばそうとしていた少年の手が、不意に止まる。うかがうようにして、市川を見た。相手は少年などお構いなしに、自分で淹れた茶を飲んでいる。
市川だって馬鹿ではない。そんなこと、雀卓をともにした少年が一番良く知っている。だから、先ほどの言葉にどんな意味が含まれているかぐらい、自分でも理解しているだろう。
許されたのだ、と少年は思った。『次』ということは、またこの家に来ていいということで、つまり彼の傍にいてもいいということだ。ただそれだけのことが嬉しくて、少年の口端がわずかにつり上がる。
「茶柱が立ってる」
「そりゃよかったな」
いつもと変わらない口調で市川は言う。きっと明日も明後日も、いつまでもこの調子なのだろう。いつまでも、二人はなにをするわけでもなく寄り添い合っている。
この日から、少年はちゃんと一言言ってから市川の家に上がるようになったらしい。
END
13アカギは一番まだ人間っぽくて書きやすく、そして書いていて楽しいです。
アカ市はほのぼの推薦です。なにをするわけでもないし会話をするわけでもないのに一緒に入るっていうのは、すごく信頼しあってる感じがして好きです。
ていうかもうほんとどんなアカ市でもいいから見たいです、飢えてます。誰かアカ市ください。
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