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やっぱり書いちゃった。
fkmtサイト様を回ってたら我慢できなくなりました。
神域と、あと市川先生に心を込めて追悼を。
ゆらりと横に人が座ったのに気が付いた。目は見えないが、誰なのかなんてすぐにわかる。昔と大きく変わった、しかし間違えようのない人物。
「ずいぶんとこっちに来るのがはえぇじゃねぇか」
相手がゆるりと笑ったのがわかった。笑ってる場合じゃないだろう、と内心でツッコミを入れるが、ここに来てしまったらもうどうしようもない。追い返すこともできないし、たとえ追い返せてもまた戻ってくるだろう。彼はそういう男だ。
「早く市川さんに会いたくなってな、来ちまった」
「バーカ。向こうでたくさん泣いてる奴が見えねぇのか。こんな老いぼれを追ってきやがって」
相変わらず目は見えない。しかしわかるのだ。大勢の人間が、彼のために泣いている。彼のために涙を流し、死なないでくれと説得をしていた。しかしはじめから全てを決めていた彼の意思は、揺らぐことはなかった。
もっと生きていたかったはずだ。最期に見せた涙が全てを物語っている。彼ならもっと生きて、他の人間には歩めないような数奇でいて、それでも素晴らしい人生が歩めたはず。
神域と呼ばれた男は、それでも結局はやはりただの人間だったのだ。誰もがそれを思い知らされた。この世にはたくさんの天才と呼ばれる人間がいるのだろう。しかし、神なんていないのだ。
しかしだからこそ、この男は人間だったからこそ、このような人生が送れたのだろう。10代はじめにして麻雀を覚え、その頭角を現し、いろいろな人間と良くも悪くも付き合いをし、そしてたくさんの友に囲まれ、見送られた。人間だったからこそ、歩めた人生。
「ひろゆきの奴、まだ泣いてやがんな」
「そう思うんなら戻ってやれよ」
不意に煙草の臭いがした。手を差し出すと、彼は気が付いてそのまま自分が吸っていたものをこちらの口に入れてくる。そしてまた、新しい煙草を自分のために出した。
彼が煙草を吸い始めたのはいつだったか。教えたのは自分だ。まだ子供の頃に俺が吸っていたのを見て、生意気にも吸いたいなんて言いやがるなら、少し吸わせてやった。初めて吸った時はむせていたくせに、今ではこんなにきついものを吸っている。たったそれだけのことにも、年月の流れを感じた。
「あんただって、戻ってきてくれなかっただろ。最初はどうしてって思ったけど、今ならわかる。いいんだよ、これで」
あのような形で死ぬのは無念ではあったが、しかし自分の生に満足をしたからいいのだと、彼はいつもの調子で言った。そりゃ満足もするだろう。好きなことをして生き、最期にはたくさんの友に見送られたのだから。
戻ってきて欲しいというのは、生き残ったもののエゴだ。死者を追ってどうする。死んでしまえば終わりだが、生きている者はまだ歩みを止めてはいけない。歩いて歩いて、自分の生を全うしなければいけない。死者に構うのは、葬式の時と命日の時だけでいい。
「あんたも自分の生に満足したのか」
「そうだな。てめぇともさんざ遊んだしな」
「ククク・・・確かに、遊んだな」
麻雀をしたり、一緒に飯を食ってみたり、なにをするわけでもなく一緒にいてみたり、なにをとち狂ったのか体を重ねてみたり。これだけすれば、もう十分だろう。だからもうよかった。彼とは十分、時を過ごした。彼は自分だけに関わっていてはいい人材ではなかった。だから他の者に譲ったのだ。
「ほんと、驚いたぜ。あんた、殺しても死ななそうなのにな」
「それはこっちの台詞だ、バカ」
誰が彼のあのような死を予測しただろうか。おそらく、本人ですら予想していなかったはずだ。彼は頭もよく勘も鋭いが、これだけは予期できなかった。死とはそんなものだ。
「どうだったよ、あれから」
「そうだなぁ・・・」
紫煙を一つ大きくはく。そして彼は俺が死んでからの人生を語り始めた。ずっと見ていたので、知らないわけではなかったが、それでも彼の口から直接聞くのは見るのとはまた違う。
相変わらず、普通の人間ではありえないような生き方である。ほとんど賭け事だけで生きてきた。その周りでは、常に多くの人間の影があった。彼を尊敬する者。彼を軽蔑する者。彼を憎む者。彼を愛する者。ありとあらゆる人間が、彼の傍にいた。上等じゃねぇか。
「普通の人間じゃあ、まずありえねぇ生き方だ」
「そうだな」
「人を死に追いやったり、逆に殺されかけたり」
「そんなこともあったな」
「最期には自分が誰だかわからなくなる前に自殺しやがる」
「あぁ」
「馬鹿げてる」
「でも、狂気の沙汰ほど面白い、だろ?」
よく、わかってるじゃねぇか。思わず、口端がつりあがった。
「まったく、いい人生だったじゃねぇか。てめぇにしては上出来だよ、赤木しげる」
「知ってるよ、そんなこと」
そう言うわりに、本当に嬉しそうに、彼が無邪気に笑った気がした。
END
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