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はじめて書くSBRの小説が馬の話だとかどうかしてると思う。
ちなみに擬人化ではありませんので逆に注意。

 

 

 毎日のように走り続けているため、彼は酷く疲れているはずだった。それでも己の主人には悟られないように、彼は足を動かしていた。大丈夫だろうか、と思う。相手が若いならともかく、彼は初老といえる年齢で自分よりもはるかに体に負担をかけているはずだった。足に疲労がたまりすぎて、骨折したなんてことがあっては、洒落にならない。かといって、走らないわけにはいかない。ならば明日は少し彼を気遣って、少しペースを落として走るべきだろうか。
「そんな必要は、ない、よ」
 尋ねると、彼は穏やかだが有無を言わさぬ声色で言った。
 今夜は野宿だった。といっても、馬である俺達にはあまり関係のないことだが。ただ、先ほどまでジャイロが、たまにはふかふかなベッドで眠りたいとぼやいていた。そんなぼやきを聞きながら、俺達は地面に座りこんでいた。
「必要はない、って・・・ねぇ。おたく、自分の体のこと考えてんのか?」
 俺のよりも幾分か細い足を見ながら続けて尋ねる。今日だって、走ってる最中はとても辛そうだったじゃないか。俺ですら、多少なりとも辛いと感じた。ならば、彼はそれ以上に感じていることだろう。
 若さと体力が取り柄のような俺に言われて、ムキになっているとでもいうのだろうか。しかし、彼はそんな子供じみた性格はしていなかったはずだ。どちらかというば大人で、自分の身をわきまえている。必要のないところででしゃばるタイプではない。ならばなにが、彼をそんなにかたくなにさせているのだろうか。
「自分のことも、まぁ、それなりには、考えている。でもそれ以上に、マスターのことを、考えているんだ」
 視線をジョニィに向けながら、彼は言った。その瞳には、主人に対する敬愛が込められている。
 わからないな、と俺は小さく呟やいた。馬として、主人と一緒に走りたいというのはわかる。競争馬なら、レースに出て優勝したいとも願うだろう。しかしそれは、自分の体があってこそできることだ。怪我をしてしまっては、それらができなくなってしまう。馬として、それ以上に辛いことはないように思えた。俺達は走るために存在しているのだから。
 それにジョニィと彼は今参加しているレースのはじまる直前に出会った。俺とジャイロのように、産まれた時から一緒にいるというわけではない。出会って間もないような主人に、どうしてそこまで尽せるのだろうか。
「君は、まだ、若いからわからないだろう、けど・・・」
 ジョニィから視線を外し、彼は俺を見た。その瞳は、どこか寂しげだ。
「歳を取ると、ね、走る機会が、減るんだよ。私はまだ、たくさん走りたいのだけど、そうもいかないんだ」
 競争馬じゃなくて、種馬にされちゃったり、ね。そう彼は続けた。
 本人からちらっと聞いた話では、彼は本当はすでに競争馬を引退させられていたらしい。それに納得がいかなくて、人間に歯向かい続けていたから、暴れ馬だとかいじけた馬だとかいう烙印をおされて、色々な所に転々と売り回されていた。今の穏やかな性格の彼からは想像がつかない話だ。
「私は、今のマスターに、とても、感謝しているんだ」
「もう一度、走る機会を与えてくれて、か?」
 俺の言葉に、彼はうなずく。
「最初は、正直、またすぐに売られるのだと、思っていた。でもマスターは、何度、私に蹴られても、傷だらけになりながら、私に乗ってくれた。私を、選んでくれた」
 深く感動をしているような声色だった。
「私は、もう一度、走る喜びを教えてくれたマスターに、恩返しをしたいんだよ。できるかぎり、彼の思っているとおりに、走ってやりたいんだ」
「・・・・・・」
「だから、ペースを落とす、なんて、言わないで欲しい。私はただ、マスターの意志に従い、走るだけなのだから」
 強い意志を込めた瞳で見つめられる。意志の強さと、優しさを持った彼。結局のところ、俺はいつも彼に勝てないでいた。ここぞというところで、抜かれてしまう。体力もスピードも、彼より劣っているつもりはないのに。きっと、彼の意志よりも俺の意志が弱いからだろう。主人のためだとか、走ることへの執着だとか。彼よりも貪欲にならなくては、俺は彼を越えられない。
 やっぱり、俺はまだまだガキなんだな、と思った。今のところ、彼を越えられる気がしない。年季が全然違う、ということだろうか。歳の差だけは、どう頑張ったって埋まりはしない。
「・・・わかった。もう言わない」
 彼の意志を、俺は曲げることはできない。
「だが、体だけは本当に大事にしろよ。あんたが壊れて困るのは、ジョニィだからな」
「うん、わかってる」
 本当にわかっているのか、はなはだ疑問だったが、俺はそれ以上なにも言わなかった。言っても、無駄なのだ。この頑固もののオジンは。
 パチパチと、焚き火の燃える音が聞こえる。火の番は、今はジャイロがしていた。暇なのか、時折なにやら俺達に話しかけてくる。おたくら、仲が良さそうだな。ジャイロはそう言った。寄り添い合うようにして会話していたから、そう見えたのだろうか。実際に仲が良いのだと言ってやりたかったが、言葉を返したところで人間に俺達の言葉が通じるわけがないので、俺はちらりとジャイロを一別してから視線を元に戻す。俺を仲間はずれにするなよな。ジャイロは俺の態度に不満げに言った。知るか、そんなこと。せっかくの彼との時間を邪魔するな。
「明日もだいぶ、走るだろうから、もう寝なよ」
 もう少し、ゆっくり会話を楽しみたかったが、小さな子供を相手にするように、彼は言った。彼はよく、俺を子供扱いする。それにムッとしてしまう、俺も俺だが。
 たぶん、普段から俺が彼を年寄り扱いするから、その腹癒せなのだと思う。まぁ、お互い様だろうか。
「子供扱いすんなよ」
「だって、私から見たら、君はまだまだ、子供だもの」
 楽しげに言う。歳の差というのは、本当に鬱陶しい。むしろ憎い。俺は彼と同じ立場でありたいのに。
「あぁ、それとも、子供には、添い寝をしてあげなきゃ、ダメ、かな?」
「じゃあ、そうしてくれ」
 俺がうなずくと、彼は冗談で言ったつもりだったのか、驚いたような顔をした。それを見て、少しは気分がよくなる。まぁ歳下なら歳下として、彼に甘えられるからいいか、とか、単純に思ったりした。
「おやすみ、ヴァルキリー。明日も、頑張ろうね」
「あんたは無茶をしすぎるなよ、スロー・ダンサー」
 彼の方に体を寄せながら、俺は瞳を閉じて眠りについた。

 

END

 

 


馬可愛いよ、馬。
そのうちホット・パンツのとかディエゴの馬とかも書きはじめるんだと思います。
スロー・ダンサーは総受け。

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1月14日生まれの新潟県民。

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