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おっさんと人外を中心によろずっぽく。凄くフリーダム。
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シルバーウィークなことだしツクシ×ヤナギです。
この二人はマツヤナよりも明るく健康的なカップル。でもやっぱりなんかヤナギが暗い。
マツバはヤナギに敬語だけど、ツクシはタメ口だったら萌える。

設定はいろいろポケスペから取ってます。けどポケスペ読んでなくて大丈夫だと思います。

 

 

 

 扉を開けると冷気が頬を撫で、僕は震えながらコートの前をかき合わせた。室外よりも室内の方が凍えるほど寒いというのは、なんだか変な感じだ。しかしもう慣れた。それくらい、僕はここに頻繁に通っている。
 すでに顔見知りとなってしまったトレーナー達に挨拶をしながら、僕は建物の奥へ奥へと進んだ。そのたびに、カン、カン、となにか叩くような高い音が近づいてくる。だんだんと明瞭に聞こえてくるその音に、僕は頬が自然と緩みそうになるのをこらえながら最後の扉を開けた。
 真先に目に入ったのは、立派なラプラスだった。といっても、本物ではない。氷彫って作った氷像だ。どこか愛嬌のある顔をしたラプラスは、ヤナギさんが丹精込めて彫り上げたものだ。
「相変わらず凄いね、ヤナギさん」
 氷に覆われたこの部屋では、声が凄く反響する。僕の声に氷を彫っていたヤナギさんはこちらを見て、やっと僕の存在に気が付いたという顔をした。
「ツクシか。きみも相変わらず、なんの連絡もなしに来るのだな。電話の一つでもよこせば、なにかもてなしの用意ができたものを」
「ごめんね。急に会いたくなったから、来ちゃった」
 本当は、わざと連絡をしないで来るんだけど。いきなり押しかけても僕を追い返さないで、相手をしてくれるのが嬉しいから。
 僕はヤナギさんに近づく。彼の傍らにいたジュゴンが、僕に挨拶をするように一つ鳴いた。それに応えてから、僕はラプラスをマジマジと見る。それはとても精巧にできた氷像だった。目の前で本物のように動き出しても、きっと僕は驚かないだろう。
「かっこいいね。生きてるみたいだ」
「……本当に生きていればよかったのだが」
「え?」
 よく聞き取れなくて、僕は聞き返した。しかし彼はなんでもない、とゆるく首を振ってしまう。なんだろう、と思いながらも、僕はそれ以上は尋ねなかった。それよりも、この氷像に心を奪われる。
「これは誰かに依頼されて作ったものなの?」
「いや、私個人で作ったものだ。この間大きな仕事が終わったばかりでね。息抜きに作っていた」
 ヤナギさんはこういった氷像を売って生計を立てている。ジョウトだけではなく、全国に彼の作る氷像のファンがいるらしい。かくいう僕もその一人で、家には彼に作ってもらった作品が幾つかある。彼はあまり外には出ないので、他の人が受注したり配達をしたりしていた。
 僕達はしばらく無言でそのラプラスを眺めた。僕はただただ感心しながら、ヤナギさんはなにかを考えるような顔をしながら。するとその変化のなさに飽きたのか、ジュゴンが氷の上を滑って遊びはじめた。とても気持ち良さそうだ。流石氷ポケモン。僕のポケモンをこんなところで出したら、寒さで冬眠してしまうんじゃないかと思う。
「室内にこんな氷の部屋を作っちゃうなんて凄いよね。ここは一年中冬だ」
 彼はラプラスから視線を外して僕を見た。心外そうな顔をしている。
「そう言うきみのところのジムは森だろう。室内に土を敷いて、木を植えて、室温を保って……どちらが外かわかりはしない」
「ヤナギさんのとこもそうだって」
 彼の言葉に、僕は思わず笑ってしまった。
 僕もヤナギさんも、ポケモン達が戦いやすいように、過ごしやすいように、ジムを丸ごと自然の状態に近くしている。おかげで僕の虫ポケモン達は元気いっぱいだ。ポケモンが元気に動き回る姿というのは、見ていてとても気持ちがいい。もちろん、ジムの維持費は大変なことになっているが。そこはまぁ、ポケモン協会に援助してもらったり、僕なら遺跡調査の仕事をしたり、ヤナギさんなら氷像を売ったりでなんとかなっている。
「やっぱり環境がいいと、ポケモンも元気だよね」
「そうだな」
 相槌を打つものの、彼の表情がわずかに曇った。どこか悲しそうにも見える。彼は時々、こんな顔をする。どうにかしたくてもどうにもならなくて、でも諦めきれないような顔だ。
 どうしたのかと、僕は彼の服の裾を引いた。
「……こうやって偽りの自然を維持するために、本当の自然を破壊しているのだと、思ったことはないか」
 その言葉の意味がわからず、僕はわずかに首をかしげる。
「どういうこと?」
「科学が進歩して、こんな室内に氷を置けるようになった。しかしそれを維持するために、自然界にある氷が融けはじめている」
 同様に、僕のジム内の森を維持するために、本当の森が破壊されている、と彼は言った。それは今世間が耳にタコができるくらい言っている、地球温暖化という奴だ。
「この地球のもっとも北にある、永が融けはじめている。そのため、そこに住む多くのポケモンが住処を追われ、死んでいるんだ……」
「…………」
「森も同じだ。人間が増え、人間が住むために森を開き元々住んでいたポケモンを追い払っている。そうしなくとも、地球が暖かくなりすぎて水が干上がり、木々や草花が枯れている」
 ヤナギさんは一旦言葉を区切り、ジュゴンを呼んだ。彼は寄ってきたジュゴンの頭を愛しげに撫でる。
「おかしい話だとは思わないか、ツクシ。自分と、自分のポケモンのために、多くの野生のポケモンを迫害しているんだ。彼らにも住処があり、生活があったのに、我々の勝手で無きものにしている……」
 この場に相応しい言葉が思いつかず、僕は沈黙を返した。
 きっと彼の言葉は、誰もがわかってる。わかってるけど、考えないようにしていることだ。見て見ぬ振りをすることができるのは、人間の一番の利点であり、そして愚かなところだ。これではいけないとやっと問題と向き合った所で、いつも遅すぎる。人間の勝手でこれまでに絶滅してきたポケモンが、どれほどいることだろう。
 ヤナギさんはジュゴンの頭を撫でたまま、再び氷像を見た。その視線を追って、僕も氷像を見る。立派な、でも愛嬌のあるラプラス。まるで本当に生きているかのような……。
「このラプラスは、元々は私のポケモンだった」
 その言葉に、考えが読まれた気がして僕はドキッとした。
「それってどういう……」
「まだ私が若い頃、可愛がっていたラプラスを氷原で遊ばせていた。そこは絶対に氷が融けることがないと言われていた。だが地球の温度が上がってきていたために、氷りは脆くなっていた」
「まさか……」
 僕の脳裏に氷の上を悠々と滑るラプラスの姿が浮かぶ。だがその先には、氷が脆くなった場所が……
「私のラプラスのいる真下の氷が割れて、そのままラプラスは氷海に飲み込まれていったよ……。私は、なにもしてやることができなかった……」
 ヤナギさんは目を伏せ、眉間に皺を寄せる。その時の光景を思い出して、苦しんでいるようだった。きっと彼は、なにもできなかった自分を悔いて、責めている。彼が悪いわけじゃないのだ。だが同時に、この地球に住む誰もが悪い。地球の全てを消費し、奪い、破壊していく僕達人間が。
 彼は眉間の皺を伸ばすように指で押してから、僕を見た。朝一番に見る降り積もった雪のように、まっさらで澄んだ目をしている。きっとその瞳は触れれば冷たい。なぜか僕はそう思った。
「私達はあとどれくらい、ポケモンと触れ合えるのだろうな」
 暗に、彼は将来ポケモンが絶滅するだろうと言っていた。僕には否定ができない。実際、年々ポケモンの数が減ってきているのは事実だった。この広い地球に、個体数が残り1000匹にも満たないという種族がざらにいるという現実。人間は何十億といるというのに。
 だから彼は、ポケモンの氷像を彫るのだろう。全てがいなくなっても、せめて形だけでも残すために。
 散々僕達によってボロボロにされた地球は、あと何年保つのか。僕達はポケモンの減少を食い止めることができるのか。それはきっと、近い将来わかるだろう。
「私は自分が年寄りでよかったと思っているよ。少なくとも私が生きているうちは、お前達が滅んでいくのを見なくてすむからな……」
 ジュゴンを見ながら彼は言った。クーン、とジュゴンが主人を見上げて悲しそうに鳴く。
 僕が彼くらいの歳になった時、この地球は、そしてポケモンはどうなっているだろうか。まだ草原や森は残っているだろうか。虫ポケモン達は、今のように元気に飛び回っているだろうか。
 悪い予感しかしない先のことを考えるのは憂鬱で、僕は一旦思考するのをやめた。あぁ、またこれも人間の悪いところだ。自分の都合の悪いものからは、目を逸らす。
「いっそのこと、ポケモン達がみな手を組んで、人間を滅ぼしにこないかと思っているよ。そうすれば、彼らは絶滅しないですむかもしれないからな」
 本当にそう望んでいるのだろう。彼の言葉には、熱がこもっていた。
 彼は人間ではなく、ポケモン達の味方なのだ。ポケモンのためなら、簡単に人間を切り捨てられるだろう。でもそれをしないのは、そんなことをしても無駄だとわかっているからだ。もう地球の崩壊は止められない。
 ポケモンを愛しながら、その姿を彫り、人工的に作られた氷に囲まれてひっそりと生きる彼。彼はポケモンの味方だが、ポケモンにはなにもしてやれない。そんな彼が僕は好きだ。彼がポケモンの味方なら、僕は彼の味方だ。そして彼と同様に、僕はヤナギさんになにもしてあげられない。それが酷く歯痒い。
 僕は奥歯を噛みしめてから、ヤナギさんの手を握った。急に僕が強く手を握るものだから、彼は驚いたような顔をしてこちらを見る。
「ヤナギさん、外に出よう」
「突然なんだ……」
「ウバメの森に行こう。そこはまだ、ほとんど人間の手が加えられていない本物の自然だ。それを見に行こうよ」
 まだ僕達が生きているうちに。まだポケモン達が生きているうちに。まだウバメの森がそこにあるうちに。
 こんな人工物に囲まれていないで、自分の目で本物を見に行こう。きっと近い将来、見たくても見れなくなるのだから。だから今しかできないことをしなければ。
 僕の勢いに、ヤナギさんは少したじろいだ。
「今からか?」
「今だからだよ。さぁ、早く外に出て。デリバードに運んでもらうんだ」
 僕はここに来た時同様、ストライクに運んでもらう。
 僕が手を引いても、彼は外に出るのをためらっているようだった。それは人間社会を拒絶しているようにも見えた。しかし外に出なくては、自然が見れない。
 無理に引っ張ろうかと思ったら、急にヤナギさんの体が動いた。不思議に思って見ると、ジュゴンが後ろから彼の体を押していた。僕の意図を察したのか、それともあまり外へ出ない主人を気遣ったのかはわからない。しかしジュゴンもヤナギさんが外に出ることを望んでいる。彼のために、だ。
「ほら、ジュゴンも森に行きたいってさ」
「……しょうがないな」
 そう言いつつも、嫌がってはいない声色だった。それが嬉しくて、僕は笑った。ジュゴンも嬉しそうに鳴いた。
 ポケモンは人間が悲しんでいる時は一緒に悲しんでくれるし、喜んでいるときは一緒に喜んでくれる。そんな生き物を、どうして人間は簡単に滅ぼせるのだろうと、この時僕は不思議に思った。
 この後僕達は、すぐにウバメの森に行って二人で森を散策した。いつも氷りに囲まれている時とは違い、血色のいい彼を見るのは新鮮だった。なにより楽しそうにしている彼を見れたのがよかった。
 僕は彼と楽しく過ごしたこの森が、いや、彼の愛した地球とポケモンがいつまでも残っていればいいと、心の底から思うのだ。


END

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自己紹介:
1月14日生まれの新潟県民。

ジョジョラーでケモナーでおっさん&おじいちゃんスキーでSHK国民。
最近はfkmt作品に手を出してます。
乙一作品と三原ミツカズ作品と藤田和日郎作品も好き。
節操なしの浮気性です。
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