おっさんと人外を中心によろずっぽく。凄くフリーダム。
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うしとらのキリオと九印です。
九印は従者として純粋にキリオを愛していたんだと思います。なのであくまでもカプではなくコンビです。
ずっとずっと、ただひたすらに待ち続けてきた。それこそ私が産み出される前から、ただ一人の人間を、ただ一人の主人を待ち続けていた。
産み出される前から植え付けられていた忠誠心が私に囁くのだ。はやく主人に会わせろ、と。主人のいない従者になんの意味がある。尽くす者もいない忠誠心になんの意味がある。
培養液の中にいる人間の形をしたものを毎日眺めながら、私はまだ見ぬ主人を想像した。男なのか女なのか、どんな性格なのか、どんなものが好きなのか、そして嫌いなのか、それすらもわからない。だが焦りはしなかった。私は従者。主人が産まれたら、私は死ぬまでその人間と共にいる。主人のことを知る時間はたくさんあるはずだ。そして私はどんな性格の主人でも心から愛することができるだろう。
「だからはやく産まれてきておくれ、我が主」
培養液の中で眠っているものを見つめながら、忠誠心と愛しさを持て余して私は呟く。自分で思っていた以上にその声は切実で、私は驚いた。
「ずいぶんと熱心ね」
突然背後から声が聞こえて、私は振り向く。いつの間にそこにいたのか、髪の長い人間の女がいた。だが果たして、彼女は本当に人間なのだろうか。私はいつも疑問に思う。いくら他のものに気を取られていたとはいえ、人間が私に気が付かれずに背後に立つなどできるのだろうか。これでも私はホムンクルスの最高傑作で、いずれ産まれてくるであろう主人を守るものだ。戦闘能力も誰かの気配を感じ取るのも、他のホムンクルスよりずっと優れている。
本当に、この女は人間なのだろうか。
「今回はきっと、成功するわ」
ねっとりとどこか耳にまとわりつくような声で女は言った。私は女のこの声と喋り方が好きではなかった。というよりも、得体の知れない人間だから、喋り方すら鼻につく、といった表現の方が正しいのかもしれない。彼女は私の主人を産み出そうと手を貸してくれているはずなのに、どうしてか私は彼女が将来、主人の障害になるような気がしてならない。それはおそらく、女の持つ独特の雰囲気のせいだろう。女と一緒にいると、私の知らない感情がざわざわと沸き上がってくる。
「なぜ、そう言える?」
私は女と顔を合わせながらさりげなく後ろに下がり、培養液の入れられたガラスケースにピタリと背中を付けて彼女から培養液の中のものを見えないようにした。女の視界に私の主人になるかもしれない人間を映したくなかった。それすらも嫌悪するほど、私は彼女が苦手だ。ここまでくるともはや、嫌いだといってしまった方がいいのかもしれない。
「今回はね、人間の赤ん坊を使って創っているの」
私の行動の意図に気が付いていないのか、それとも気が付いたうえで無視をしているのかは知らないが、彼女は意に介したふうはなく、いつもの薄幸そうな笑みを顔に浮かべていた。
「その子が産まれたら、ちゃんと守ってあげてちょうだいね」
「私はそのために存在している」
私の言葉に、女は口が裂けるのではないかというほど唇と、そして目じりをつり上げて笑った。楽しくて楽しくてしょうがない、という感じの笑みだった。
「そうねぇ、そうだったわねぇ」
それを見て私は背筋を震わせる。この時初めて、私が今まで女に抱いていた感情に気が付いた。これは恐怖だ。ホムンクルスである私が、人間の女一人に恐怖を抱いている。信じられない思いで、私は女を凝視した。女は常闇を思わせるような陰鬱な目をこちらに向けながら、いつまでもくつくつと喉を鳴らして笑っていた。
女の言っていた通り、確かに今回は成功の兆しが見えているようだった。日々順調に培養液の中で人間は大きくなってゆき、赤子には見えなくなった。おそらく人間でいうところの10歳程度だろう。色素の薄い髪を液体の中で漂わせながら、膝を抱えて目をつむっていた。
私は毎日のように彼を眺めながら、今か今かと主人の誕生を待った。この数日間、やけに時が経つのが遅く感じられた。自分でも呆れるほどそわそわして、そして浮かれていた。
ある日、私はいつものように彼を眺めていた。もういつこの培養液の中から出てきてもおかしくはない状況だと、あの女に聞かされていた。
はやく、と強く願った。はやく産まれてきて、その瞳に私の姿を映して欲しい、と。
そして、よくやくその時が来た。いつも閉じられているはずの彼の瞳がゆっくりと開かれる。その瞬間、培養液の入れられているガラスケースに小さなヒビが入った。ヒビは見る見るうちに広がっていき、中の液体が溢れ出てくる。やがて溢れてくる力に負けたのか、派手な音を立ててガラスが割れた。どしゃりと、濡れた音を立てて一人の少年が床に倒れる。彼はゆっくりとした動きで自らの力で体を起こし、ぼんやりとした瞳で辺りを見渡した。
「ここは・・・?」
自分の状況が飲み込めていないのか、彼は不思議そうに呟く。最後に、目の前に佇んでいる私をとらえた。大きくて綺麗な色をした瞳だった。
その瞬間、私の中で一つの感情が溢れてくる。それはとどまることを知らず、私の胸を満たした。いったい幾ばく、私はこの時を待っていただろう。多くの失敗作を見ては嘆いてきた。だが私はようやく、この世でただ一人の主人に出会うことができた。この小さな少年が、ただただ愛しくてしょうがなかった。
「はじめまして、我が主」
私は内心の心の揺れをなんとか押し隠しながら、ようやくそれだけを言った。
「きみは、だれ?」
私の姿を瞳に焼き付けるようにこちらを熱心に見つめながら主人が尋ねる。
「私はの名は九印」
「くいん?」
「そう。私はあなたの従者であり、護衛であり、家族であり、友人であり・・・私が死ぬまでずっと傍にいて、あなたを愛する者だ」
彼はしばらく私の言葉をゆっくりと頭の中に入れるように黙っていた。やがて、ふわりと微笑む。
「そっか。これからよろしくね、ぼくのクイン」
その瞬間、私は愛しさをこらえきれなくなりその体を抱きしめた。
ようやく産まれてきた小さな主人よ。私はあなたを決して裏切ることはないだろう。私が生きている限り、あなたがこの世で独りになることはないだろう。世界がどんなに酷い仕打をしてあなた見捨てても、私はあなたの傍を離れない。だから憶えていて欲しい。あなたには私がいるということを。私があなたを誰よりも愛しているということを。そうしてくれるのなら、私は誰よりも幸福だ。
END
まさか最後の最後にクインが死ぬとは思ってませんでした。
きっと作者の意図としてはキリオにはもうまゆこがいるから大丈夫、ってことなんだろうけど・・・。
切ないなぁ。
九印は従者として純粋にキリオを愛していたんだと思います。なのであくまでもカプではなくコンビです。
ずっとずっと、ただひたすらに待ち続けてきた。それこそ私が産み出される前から、ただ一人の人間を、ただ一人の主人を待ち続けていた。
産み出される前から植え付けられていた忠誠心が私に囁くのだ。はやく主人に会わせろ、と。主人のいない従者になんの意味がある。尽くす者もいない忠誠心になんの意味がある。
培養液の中にいる人間の形をしたものを毎日眺めながら、私はまだ見ぬ主人を想像した。男なのか女なのか、どんな性格なのか、どんなものが好きなのか、そして嫌いなのか、それすらもわからない。だが焦りはしなかった。私は従者。主人が産まれたら、私は死ぬまでその人間と共にいる。主人のことを知る時間はたくさんあるはずだ。そして私はどんな性格の主人でも心から愛することができるだろう。
「だからはやく産まれてきておくれ、我が主」
培養液の中で眠っているものを見つめながら、忠誠心と愛しさを持て余して私は呟く。自分で思っていた以上にその声は切実で、私は驚いた。
「ずいぶんと熱心ね」
突然背後から声が聞こえて、私は振り向く。いつの間にそこにいたのか、髪の長い人間の女がいた。だが果たして、彼女は本当に人間なのだろうか。私はいつも疑問に思う。いくら他のものに気を取られていたとはいえ、人間が私に気が付かれずに背後に立つなどできるのだろうか。これでも私はホムンクルスの最高傑作で、いずれ産まれてくるであろう主人を守るものだ。戦闘能力も誰かの気配を感じ取るのも、他のホムンクルスよりずっと優れている。
本当に、この女は人間なのだろうか。
「今回はきっと、成功するわ」
ねっとりとどこか耳にまとわりつくような声で女は言った。私は女のこの声と喋り方が好きではなかった。というよりも、得体の知れない人間だから、喋り方すら鼻につく、といった表現の方が正しいのかもしれない。彼女は私の主人を産み出そうと手を貸してくれているはずなのに、どうしてか私は彼女が将来、主人の障害になるような気がしてならない。それはおそらく、女の持つ独特の雰囲気のせいだろう。女と一緒にいると、私の知らない感情がざわざわと沸き上がってくる。
「なぜ、そう言える?」
私は女と顔を合わせながらさりげなく後ろに下がり、培養液の入れられたガラスケースにピタリと背中を付けて彼女から培養液の中のものを見えないようにした。女の視界に私の主人になるかもしれない人間を映したくなかった。それすらも嫌悪するほど、私は彼女が苦手だ。ここまでくるともはや、嫌いだといってしまった方がいいのかもしれない。
「今回はね、人間の赤ん坊を使って創っているの」
私の行動の意図に気が付いていないのか、それとも気が付いたうえで無視をしているのかは知らないが、彼女は意に介したふうはなく、いつもの薄幸そうな笑みを顔に浮かべていた。
「その子が産まれたら、ちゃんと守ってあげてちょうだいね」
「私はそのために存在している」
私の言葉に、女は口が裂けるのではないかというほど唇と、そして目じりをつり上げて笑った。楽しくて楽しくてしょうがない、という感じの笑みだった。
「そうねぇ、そうだったわねぇ」
それを見て私は背筋を震わせる。この時初めて、私が今まで女に抱いていた感情に気が付いた。これは恐怖だ。ホムンクルスである私が、人間の女一人に恐怖を抱いている。信じられない思いで、私は女を凝視した。女は常闇を思わせるような陰鬱な目をこちらに向けながら、いつまでもくつくつと喉を鳴らして笑っていた。
女の言っていた通り、確かに今回は成功の兆しが見えているようだった。日々順調に培養液の中で人間は大きくなってゆき、赤子には見えなくなった。おそらく人間でいうところの10歳程度だろう。色素の薄い髪を液体の中で漂わせながら、膝を抱えて目をつむっていた。
私は毎日のように彼を眺めながら、今か今かと主人の誕生を待った。この数日間、やけに時が経つのが遅く感じられた。自分でも呆れるほどそわそわして、そして浮かれていた。
ある日、私はいつものように彼を眺めていた。もういつこの培養液の中から出てきてもおかしくはない状況だと、あの女に聞かされていた。
はやく、と強く願った。はやく産まれてきて、その瞳に私の姿を映して欲しい、と。
そして、よくやくその時が来た。いつも閉じられているはずの彼の瞳がゆっくりと開かれる。その瞬間、培養液の入れられているガラスケースに小さなヒビが入った。ヒビは見る見るうちに広がっていき、中の液体が溢れ出てくる。やがて溢れてくる力に負けたのか、派手な音を立ててガラスが割れた。どしゃりと、濡れた音を立てて一人の少年が床に倒れる。彼はゆっくりとした動きで自らの力で体を起こし、ぼんやりとした瞳で辺りを見渡した。
「ここは・・・?」
自分の状況が飲み込めていないのか、彼は不思議そうに呟く。最後に、目の前に佇んでいる私をとらえた。大きくて綺麗な色をした瞳だった。
その瞬間、私の中で一つの感情が溢れてくる。それはとどまることを知らず、私の胸を満たした。いったい幾ばく、私はこの時を待っていただろう。多くの失敗作を見ては嘆いてきた。だが私はようやく、この世でただ一人の主人に出会うことができた。この小さな少年が、ただただ愛しくてしょうがなかった。
「はじめまして、我が主」
私は内心の心の揺れをなんとか押し隠しながら、ようやくそれだけを言った。
「きみは、だれ?」
私の姿を瞳に焼き付けるようにこちらを熱心に見つめながら主人が尋ねる。
「私はの名は九印」
「くいん?」
「そう。私はあなたの従者であり、護衛であり、家族であり、友人であり・・・私が死ぬまでずっと傍にいて、あなたを愛する者だ」
彼はしばらく私の言葉をゆっくりと頭の中に入れるように黙っていた。やがて、ふわりと微笑む。
「そっか。これからよろしくね、ぼくのクイン」
その瞬間、私は愛しさをこらえきれなくなりその体を抱きしめた。
ようやく産まれてきた小さな主人よ。私はあなたを決して裏切ることはないだろう。私が生きている限り、あなたがこの世で独りになることはないだろう。世界がどんなに酷い仕打をしてあなた見捨てても、私はあなたの傍を離れない。だから憶えていて欲しい。あなたには私がいるということを。私があなたを誰よりも愛しているということを。そうしてくれるのなら、私は誰よりも幸福だ。
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自己紹介:
1月14日生まれの新潟県民。
ジョジョラーでケモナーでおっさん&おじいちゃんスキーでSHK国民。
最近はfkmt作品に手を出してます。
乙一作品と三原ミツカズ作品と藤田和日郎作品も好き。
節操なしの浮気性です。
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