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ボスと母親の話を書いたら、今度はトリッシュと母親の話も書かなくては。
というわけでトリッシュとトリッシュの母親の話です。
トリッシュの思うところ。

 

 

 

 

 素敵な人だったの、なんて、少女みたく顔を赤らめさせながら言う母に、はぁ、と生返事を返した。またはじまったな、と思う。私の母は、時折思い出したように、何年も前にいなくなった父の話をする。でも正直なところ、顔も見たことのない父の話をされても、私は戸惑うだけだ。どう考えたって、血が繋がってるということ意外は誰よりも他人なのだ。その男の腕に抱かれたこともなければ、顔も知らない。はたして、そんな男を父親と呼べるだろうか。まだ若かった母を孕ませた挙句、捨てた男。生きているのか、それとも死んでいるのかもわからないような男。
 母はまだ若かったというのに、誰よりも強く熱心に私を育ててくれた。そんな彼女を、私は誰よりも尊敬している。しかし、こうやって父の話をするのは、やめて欲しいと思う。
「すっごく綺麗な顔立ちをしててね、トリッシュと同じ髪の色をしてたわ」
 優しく髪を撫でられる。しかし彼女は今、私の髪を撫でているのではなく、記憶の中の男の髪を撫でているのだ。そんな時、なんとなくいらっとする。いつまでも帰ってこない男を追いかけている女々しい母にも、母を捨てた男にも。
「私に似ないで、この色の髪で本当に良かった」
「私は・・・母さんと同じ黒色がよかったけど」
 そうすれば、母は頻繁に父のことを思い出さずに済むのではないかと思う。
 会う人全てが、私の髪の色は綺麗だと褒める。そのたびに、母は嬉しそうな顔をする。しかし、私はこの髪の色が嫌いだった。知らない男と、目に見えないはずの繋がりを無理矢理見せられているようで。いっそのこと、全ての自分の痕跡を消してからいなくなればよかったものを。
 相手に不快を与えない程度にやんわりと私の髪を撫でている彼女の手を振り払ってから、今度は自分の髪を一房つまむ。本当に、鬱陶しい色だと思う。母が以前、父が髪を伸ばしていたと言っていたのを聞いてから、私は髪を伸ばしたことはない。少しでも父の面影を残しておきたくはなかった。なんて、そんな風に、どんな形であれ自分が父のことを気にしてしまっているのが余計に腹が立つ。髪をむしりとってしまいたい衝動に駆られたが、母の手前なのでやめておいた。
「トリッシュは、あの人のことが嫌いなの・・・?」
 私が苛々としている雰囲気を感じ取ったのか、どこか泣きそうな声で尋ねてくる。嫌い、なのだろうか。一度も会ったことのない人物が。いや、もしかしたら、会ったことがないからこそ嫌いなのかもしれない。会ってしまえば、なにかが吹っ切れるような気がした。会ったこともないのに、私の心をこんなにもかき乱すからこそ、腹が立つのだ。
「でも、母さんはまだ好きなんでしょう?その人のことが」
 母の言葉は否定せずに、逆に尋ね返す。すると、彼女はまた顔を赤らめさせた。まるっきり、恋をしている少女だ。
「そうね。私はまだあの人のことが好きなの。だから、あの人と血を分けたあなたを産んで、育てることができて、とても幸せよ。トリッシュ」
「・・・母さんには敵わないわ」
 彼女は、恋をしている少女であり、一人の母親なのだ。そんな女性に、産まれて数年しか経っていないような小娘が敵うはずがない。結局いつも、私は母の惚気話の聞き役になってしまう。
 母の口から語られる父というのは、どこからが事実で、どこからが脚色なのかがよくわからない。旅行中に運命的に出会って、恋に落ちて、数日間共に過ごした。かと思えば、すぐに戻るからと言ったきり姿を消して、その上彼の故郷が炎に包まれた。本当にそんな物語めいた出来事が起こるのだろうか。しかし、私が生まれているということは、どこかしらは事実なのだろう。母は父以外の男とは寝たことがないと言っているし、私から見ても彼女がそんな誰彼構わずに脚を開くような女には見えない。そんな話を娘にするのも、どうかとは思うのだが…。
「あの人、早く私の元へ戻ってこないかしら」
 呟くように、祈るように、母は言う。その言葉がどこまで本気なのか、私はいつも計りかねていた。本気で父が戻ってくると思っているのか、それともそう思いたいから、自分に言い聞かせているのか。気にはなったが、怖くて聞けなかった。きっとこの言葉は、最後の砦なのだ。父が存在ていると、生きているという希望を持ち続けることのできる言葉。
 いつまでも戻ってくることのない男を待ち続けている母が可哀想で、私は彼女を抱きしめる。少しでも、寂しさを埋めてあげることができればいい。でも、完全には埋まらないのだと知っている。母の寂しさを埋めることができるのは、父だけなのだ。あぁ、やっぱり、腹が立つ。とっとと戻ってきて、私の変わりに母さんを抱きしめてあげなさいよ、馬鹿。顔も知らない父に向かって、私は心の中で罵った。


 結局、母は父が戻ってくるのを一途に待ち続けながら、短い生涯を終えてしまった。彼女は最後まで、父に会いたいと言っていた。私は父を呪った。せめてきちんと別れを済ませていれば、母は父にこれほどまでに執着なんてしなかったのかもしれない。少しは傷付いたかもしれないけど、それでも別の男と結婚して、別の家庭を築いていたのかもしれない。少なくとも、これほど寂しい想いなんてしなくてよかったはずだ。
 やっぱり嫌いだ、と思う。母の人生を奪った男。私の心の平穏をかき乱す男。
 これから先、私は父に会うことはあるのだろうか。相手は、生きているのか死んでいるのかもわからない人間。しかし、もし生きているとしたら、出会わない確率は0ではない。この広い世界で、偶然に会うことがあるかもしれない。
 その時は絶対に、父さん、だなんて、呼んでやらない。いや、父親だなんて、認めない。だから相手も、私を娘だなんて認めなくていい。ただ一言、母の娘として、言ってやりたかった。どうして、母の元に戻ってこなかったのだと。どうして、できない約束などしたのだと。どうして、母の前に姿を現したのだと。それさえ言えれば、満足だ。
 ふと鏡が目に入り、私はしばらく自分の姿を見つめる。母が死ぬ少し前から、彼女は髪の色だけでなく、私の容姿も父に似てきたと喜んでいた。顔も知らない父を見つけるには、私が一番の手がかりだ。あと名前。母の口から何度か聞いていた名前があった。なんだったか…。
「・・・ディアボロ?」
 それが、父の名前だった。

 

END

 

 

トリッシュの母親の前ではボスは偽名を使ってたとかいったらダメです・・・。




こっそりこっそりリンクの方一件追加させていただきました。スタンド可愛いよ、マジ可愛いよ。
相変わらず無断ですみません。私はそろそろ本気でどうやったら冷静にコメントを残せるのかを考えた方がいいと思う。
チキンなんでコメントを残したくても残せません・・・。

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1月14日生まれの新潟県民。

ジョジョラーでケモナーでおっさん&おじいちゃんスキーでSHK国民。
最近はfkmt作品に手を出してます。
乙一作品と三原ミツカズ作品と藤田和日郎作品も好き。
節操なしの浮気性です。
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