おっさんと人外を中心によろずっぽく。凄くフリーダム。
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何度読んでもうしとら5巻は切ないです。
いつまでも三人でいてほしかった・・・。
まだ私達が遠野へやってくるずっと前、十郎とかがりがうんと小さかった400年近くも前の話だ。その頃は人間達はまだほとんど私達が住みかにしていた山を荒らさず、時折荒らしたとしても少しこちらが手を出せばすぐに手を引いていた。今から考えれば、とても幸福だった。父母が残した古いが大きな屋敷があり、生い茂った草木があり、そしてなにより兄妹三人がそろっていた。
春になったばかりの頃。冬の間、眠っていた生命力が一気に解放される。この時期のやわらかい日差しと、青い草木の匂いが好きだった。屋敷の縁側で一人で陽なたぼっこをしていると、別室で昼寝をしていたはずの十郎とかがりが近くに寄ってくる。
「勝手にどこかへいかないでよ」
かがりと共に私を探していたらしい十郎は、眠た気な声で言った。
「あぁ、悪かったね」
幼いためまだうまく人間の姿に化けられない彼らは、カマイタチの姿のまま四本の足で危なげに歩く。その姿は肉親という欲目で見なくても大変可愛らしいと思う。かがりを産んでから両親はすぐに亡くなってしまったし、歳もわりと離れているせいもあって、私は兄というよりも父親のように彼らを育てていた。十郎とかがりも、私をよくしたってくれている。そんな彼らを可愛がるなという方が無理だった。
かがりが私の膝の上に乗り、十郎が肩によじ登ってくる。日の光とはまた違う心地良い温かさと、その重さを愛しいと思う。
「また大きくなったようだな」
かがりの小さな背中を撫でながら呟くように言う。かがりの毛は、産毛のようにやわらかい。気持ちいいのか、彼女はすっと目を細めて私の膝に顎を置いた。
「そのうち、兄貴よりも立派になるよ」
「それは楽しみだな」
自分も撫でてくれというように、鼻先を私の頬にすり寄せながら十郎が言った。もう片方の手で彼の頭を撫でてやる。
まだ普通のイタチと変わらないぐらいの大きさしかない十郎達は、当然もう成体の私から見ればずいぶんと小さい。そんな十郎が私よりも立派になるというのは、嬉しいと思う反面、兄として少し寂しい気もする。それでも無事に成長してくれさえすれば、私は幸せなのだが。私を育ててくれた父と母も、こんなふうに思っていたのだろうか。まだ伴侶もいないというのに、めっきり父親のようになってしまったな、と思った。しかしそれも不快ではない。十郎とかがりのことを思えば、心地良くも感じる。
「十郎もかがりも母上似のようだから、線の細い体付きになるかもしれないな」
嘘、と十郎が不満げな声を上げたので、私は小さく笑ってしまった。実際、私が十郎くらいの年齢の時は、彼よりももう少し体が大きかったような気がする。こればかりは遺伝なのでどうしようもない。
「父上と母上は、どんな方だったの?」
ゆったりと顔を上げながら、やはりどこか眠た気な声でかがりが尋ねる。もう少しで眠りに落ちてしまいそうな様子だ。
「どちらも強くて、そしてやさしい方達だった」
やさしく、そして時には厳しく私を育ててくれた。そんな両親を、私は誰よりも尊敬している。鎌の使い方も、山での生き方も、人間との付き合い方も、なにもかも教わった。今度は私が、十郎とかがりに同じことを教えていくのだろう。
ふーん、と十郎が小さく呟く。彼の方を見れば、その瞳は遠くを見ているようだった。父母のことを考えているのだとすぐに気が付く。確かに十郎は、今よりももっと幼い頃に両親の腕に抱かれていたが、物心が付く前だったのでほとんど覚えていないのだろう。かがりにいたっては、まったく覚えていないに違いない。
「父上や母上がいないのは寂しいか?」
どうしてもそう尋ねる声が小さくなってしまう。私がどんなに十郎とかがりを愛していても、結局は父親になれないということを知っていた。
私の問いに、二人は一度視線を合わせる。そしてこちらを見ると、ふるふると首を左右に振った。
「そんなことないわ、雷信兄さん」
「まったく寂しくはない、ってのは嘘だけど、俺達には雷信兄貴がいるから」
あぁ、私は…。
「兄貴のことが大好きなんだ」
「えぇ。私達を愛してくれる兄さんが、誰よりも」
私は世界一、幸せな妖怪だ。
真直ぐに向けられる言葉に、思わず視界がにじむ。私は声が震えそうになるのをなんとかこらえながら、ようやく、そうか、と声をしぼりだした。
自分ばかりがこんなに幸せでいいのだろうかと考えてしまう。それほどまでに、私は今満たされている。
「ずっとこの山で静かに暮らせていけたらいいな」
「兄さん達と一緒にね」
「あぁ・・・」
なにがあっても、たとえ今住んでいる土地を人間や他の妖怪から追われるようなことがあっても、いつまでも三人でいられたらいい。ただそれだけを、強く願った。
しばらくすると二つの小さな寝息が聞こえてくる。二人とも眠ってしまったようだ。春の日差しは眠気を誘う。時折吹く穏やかな風が髪を揺らすのを感じながら、私は目蓋を閉じた。
ゆるく目蓋を開けて、私はぼんやりとした頭でここはどこだっただろうかと考える。ここは私達が暮らしていた山ではない。そこまで考えて、私はやっと自分は今遠野で暮らしているのだということを思い出す。夢を見ていたのだ。まだ十郎が生きていた頃の、幸福な夢。
頬に指を這わすと、指先がしっとりと濡れた。どうやら寝ながら泣いていたらしい。いい歳をして、と私は少し恥じた。春の日差しが濡れた頬と指先を照らす。
「起きたのね、兄さん」
横を見ると、私と同じように屋敷の縁側に腰を掛けたかがりがいた。どうやらずっとそこにいたらしい彼女は、泣いている私の方を心配そうに見ている。
「夢を見ていたんだ」
「夢?」
「あぁ。まだ幼かった頃のかがりと、そして十郎がいた」
「十郎兄さんが・・・」
哀しげにかがりが瞳を伏せる。だがすぐに私の方を見ると、急に人間の姿からカマイタチの姿に戻った。昔のように小さくはなく、人間の子供ほどの大きさだ。あの夢を見たあとなので、立派になったものだと感動してしまう。
流石にこの大きさではもう膝に乗ってくるのは無理で、その変わり顎だけを私の膝に乗せてきた。体はぺたんと床に付ける。
「どうしたんだ、急に」
「たまには昔みたいに甘えてもいいでしょう、雷信兄さん」
かがりの頭を撫でる。彼女の産毛のようにやわらかい毛は、今でも変わらない。膝から伝わる体温と重さを懐かしく思う。足りない肩の体温と重さを悲しく思う。私達の愛する十郎は、もうこの世にはいない。
「もう少ししたら、一緒に十郎の墓参りへ行こう」
「えぇ」
声を震わせて涙を流しながら言う私に、かがりは静かに頷いた。
END
雷信兄さんは兄というよりも父親的な立場だったらいいな、という話。
雷信兄さんが大好きです。
いつまでも三人でいてほしかった・・・。
まだ私達が遠野へやってくるずっと前、十郎とかがりがうんと小さかった400年近くも前の話だ。その頃は人間達はまだほとんど私達が住みかにしていた山を荒らさず、時折荒らしたとしても少しこちらが手を出せばすぐに手を引いていた。今から考えれば、とても幸福だった。父母が残した古いが大きな屋敷があり、生い茂った草木があり、そしてなにより兄妹三人がそろっていた。
春になったばかりの頃。冬の間、眠っていた生命力が一気に解放される。この時期のやわらかい日差しと、青い草木の匂いが好きだった。屋敷の縁側で一人で陽なたぼっこをしていると、別室で昼寝をしていたはずの十郎とかがりが近くに寄ってくる。
「勝手にどこかへいかないでよ」
かがりと共に私を探していたらしい十郎は、眠た気な声で言った。
「あぁ、悪かったね」
幼いためまだうまく人間の姿に化けられない彼らは、カマイタチの姿のまま四本の足で危なげに歩く。その姿は肉親という欲目で見なくても大変可愛らしいと思う。かがりを産んでから両親はすぐに亡くなってしまったし、歳もわりと離れているせいもあって、私は兄というよりも父親のように彼らを育てていた。十郎とかがりも、私をよくしたってくれている。そんな彼らを可愛がるなという方が無理だった。
かがりが私の膝の上に乗り、十郎が肩によじ登ってくる。日の光とはまた違う心地良い温かさと、その重さを愛しいと思う。
「また大きくなったようだな」
かがりの小さな背中を撫でながら呟くように言う。かがりの毛は、産毛のようにやわらかい。気持ちいいのか、彼女はすっと目を細めて私の膝に顎を置いた。
「そのうち、兄貴よりも立派になるよ」
「それは楽しみだな」
自分も撫でてくれというように、鼻先を私の頬にすり寄せながら十郎が言った。もう片方の手で彼の頭を撫でてやる。
まだ普通のイタチと変わらないぐらいの大きさしかない十郎達は、当然もう成体の私から見ればずいぶんと小さい。そんな十郎が私よりも立派になるというのは、嬉しいと思う反面、兄として少し寂しい気もする。それでも無事に成長してくれさえすれば、私は幸せなのだが。私を育ててくれた父と母も、こんなふうに思っていたのだろうか。まだ伴侶もいないというのに、めっきり父親のようになってしまったな、と思った。しかしそれも不快ではない。十郎とかがりのことを思えば、心地良くも感じる。
「十郎もかがりも母上似のようだから、線の細い体付きになるかもしれないな」
嘘、と十郎が不満げな声を上げたので、私は小さく笑ってしまった。実際、私が十郎くらいの年齢の時は、彼よりももう少し体が大きかったような気がする。こればかりは遺伝なのでどうしようもない。
「父上と母上は、どんな方だったの?」
ゆったりと顔を上げながら、やはりどこか眠た気な声でかがりが尋ねる。もう少しで眠りに落ちてしまいそうな様子だ。
「どちらも強くて、そしてやさしい方達だった」
やさしく、そして時には厳しく私を育ててくれた。そんな両親を、私は誰よりも尊敬している。鎌の使い方も、山での生き方も、人間との付き合い方も、なにもかも教わった。今度は私が、十郎とかがりに同じことを教えていくのだろう。
ふーん、と十郎が小さく呟く。彼の方を見れば、その瞳は遠くを見ているようだった。父母のことを考えているのだとすぐに気が付く。確かに十郎は、今よりももっと幼い頃に両親の腕に抱かれていたが、物心が付く前だったのでほとんど覚えていないのだろう。かがりにいたっては、まったく覚えていないに違いない。
「父上や母上がいないのは寂しいか?」
どうしてもそう尋ねる声が小さくなってしまう。私がどんなに十郎とかがりを愛していても、結局は父親になれないということを知っていた。
私の問いに、二人は一度視線を合わせる。そしてこちらを見ると、ふるふると首を左右に振った。
「そんなことないわ、雷信兄さん」
「まったく寂しくはない、ってのは嘘だけど、俺達には雷信兄貴がいるから」
あぁ、私は…。
「兄貴のことが大好きなんだ」
「えぇ。私達を愛してくれる兄さんが、誰よりも」
私は世界一、幸せな妖怪だ。
真直ぐに向けられる言葉に、思わず視界がにじむ。私は声が震えそうになるのをなんとかこらえながら、ようやく、そうか、と声をしぼりだした。
自分ばかりがこんなに幸せでいいのだろうかと考えてしまう。それほどまでに、私は今満たされている。
「ずっとこの山で静かに暮らせていけたらいいな」
「兄さん達と一緒にね」
「あぁ・・・」
なにがあっても、たとえ今住んでいる土地を人間や他の妖怪から追われるようなことがあっても、いつまでも三人でいられたらいい。ただそれだけを、強く願った。
しばらくすると二つの小さな寝息が聞こえてくる。二人とも眠ってしまったようだ。春の日差しは眠気を誘う。時折吹く穏やかな風が髪を揺らすのを感じながら、私は目蓋を閉じた。
ゆるく目蓋を開けて、私はぼんやりとした頭でここはどこだっただろうかと考える。ここは私達が暮らしていた山ではない。そこまで考えて、私はやっと自分は今遠野で暮らしているのだということを思い出す。夢を見ていたのだ。まだ十郎が生きていた頃の、幸福な夢。
頬に指を這わすと、指先がしっとりと濡れた。どうやら寝ながら泣いていたらしい。いい歳をして、と私は少し恥じた。春の日差しが濡れた頬と指先を照らす。
「起きたのね、兄さん」
横を見ると、私と同じように屋敷の縁側に腰を掛けたかがりがいた。どうやらずっとそこにいたらしい彼女は、泣いている私の方を心配そうに見ている。
「夢を見ていたんだ」
「夢?」
「あぁ。まだ幼かった頃のかがりと、そして十郎がいた」
「十郎兄さんが・・・」
哀しげにかがりが瞳を伏せる。だがすぐに私の方を見ると、急に人間の姿からカマイタチの姿に戻った。昔のように小さくはなく、人間の子供ほどの大きさだ。あの夢を見たあとなので、立派になったものだと感動してしまう。
流石にこの大きさではもう膝に乗ってくるのは無理で、その変わり顎だけを私の膝に乗せてきた。体はぺたんと床に付ける。
「どうしたんだ、急に」
「たまには昔みたいに甘えてもいいでしょう、雷信兄さん」
かがりの頭を撫でる。彼女の産毛のようにやわらかい毛は、今でも変わらない。膝から伝わる体温と重さを懐かしく思う。足りない肩の体温と重さを悲しく思う。私達の愛する十郎は、もうこの世にはいない。
「もう少ししたら、一緒に十郎の墓参りへ行こう」
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自己紹介:
1月14日生まれの新潟県民。
ジョジョラーでケモナーでおっさん&おじいちゃんスキーでSHK国民。
最近はfkmt作品に手を出してます。
乙一作品と三原ミツカズ作品と藤田和日郎作品も好き。
節操なしの浮気性です。
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